軌跡
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いやいやと、ずっと抵抗し続けるうたちゃんに気が付かなかった。それがなんでなのかを。言い換えれば墓穴を掘ってしまったのは自分たちだったのに。
「はぁ、もやもやするー!!」
両手を上に挙げて、たまらず声を上げる。声に驚いて後ろにいた鳥さんが「クァッ!?」と声を上げた。とっさに、謝りながら撫でてやると大人しくなった。
「折角、仲良くなれると思ったのになぁ」
お風呂場で見せられた、拒絶の色。なぜかは分からないが、ショックを受けた。
確かに、出会い方は最悪だったと思う。その場にいなかったから分からなかったけど、ジャーファルさんやシャルルカンの様子を見ていればなんとなくだけど、厄介ごとであるのは重々承知だった。
何度か話し合いもされたし、証拠品として押収した服装からもいい結果は得られなかったし。
だけどあの日初めてうたちゃんに会って、顔色の悪いヤムをみて、自分たちのしてしまったことに気が付いてしまった。無実の人を疑い、拷問にかけ、また、ここまで追い詰めてしまったのだと。泣き崩れたうたちゃんを見て痛感した。
「あれ、ヤムどこいくの?」
「あらピスティ」
だけどヤムが、嬉しそうに「少しずつだけど心を開いてくれたみたい!」と「あの子の部屋にいってくるわ」と足を運ぶのを見てたら、なんだかすこしもやっとして。いいなって、ずるいなって、思っちゃった。
だから、だからあの時。楽しそうにヤムが魔法の話をしてるときに入りたくなって、入って。拒絶されるかもって思ったけど、だけど普通に仲間に入れてくれて。──嬉しかった。
はぁとため息が漏れる。
「なんだ?ピスティがため息なんてらしくないじゃないか」
「王サマぁ……」
「ん!?」
サクリと音を立てながら声をかけてきたのはわれらが王シンドバットで。その姿を目に入れた瞬間に、なぜか急に視界が歪んだ。
そしてなぜか突然涙ぐむ部下の姿に王は戸惑いを隠せなかった。
********
「そうか、ピスティはあの子と仲良くなりたかったのか」
「多分年も近いし、ヤムばっかりずるいって思ってて、だから王さまが提案してくれたときすっごい嬉しかったし、」
「(……さすがに聞き耳するためとは言えないな)」
「でも……」
「拒絶されたんだな」
「……うん」
しゅんっとうなだれるピスティを、王は撫でた。不思議そうに見上げる部下に笑いかけて口を開いた──
「確かに、今回の件は俺たちに負荷がある。ならこうならどうだ?彼女が歩けるようになるのを俺たちがサポートするんだ」
「サポート?でもそんなことしたら、すぐ出て行っちゃうんじゃ……、」
「そこで、だ」
「……??」
「今のままではきっと彼女の中で俺たちの印象は変わらないだろう。だが一度この国を出るため、彼女に、全力で背中を押してみたらどうだ?拒絶されるかもしれないが、関わる手段としては問題ないはずだ」
「た、確かに……!!関わりを持とうとすることは、大事……!!」
「そうだピスティ!!夜な夜な一人で歩く練習をしているうたちゃんを部屋から連れ出して、こちらから関わりを持つ。なかなかにいい案じゃないか?」
「おっ、王さまぁぁあ!!ありがとう!わたしあの子と絶対仲良くなってみせる!!」
「はっはっは!いやなに、大したことではないよ」
「そうとなればさっそく!」
「え、?」
バヒュン、と風が王を襲う。パチパチと瞬きを繰り返した後、隣にいたはずのピスティの姿はどこにもなかった。
ぽかんとしたあと、王はくつりと笑った。
「ほんとにあなたって人は。まったく、…上手いですね」
ふとさした人影に王は動揺することなく、まるで最初からいたかのように話を始めた。
「何のことかな。さて、これで口実ができる。きっと、こちらで友人ができれば話やすくなると思わないか?最初からピスティを行かせてもよかったかもな」
「……ですね」
「ヤムライハにもまだ話していないようだ」
「……シン、本当にこのまま出国を許可するつもりですか」
「ああ」
「異論はありませんが……。彼女がそう簡単に動いてくれるとは思いません」
「いや、むしろ動かなくていいんだ」
「と、いいますと……」
サァサァと風が吹く中で、なにやら怪しげな会話をする二人とは別に、無邪気な足音が廊下に響いていた。
fin