軌跡
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これが実は夢で、起きたら戻ってるなんてこと を期待しながら、眠りについた。ただの布きれになった制服たちを、捨てることは出来ず、抱き締めたまま。懐かしい匂いが微かにしたことで、また涙が止まらなかった。
──自然に瞼が開く。……そんな都合のいいことは起こらなかった。残酷にも、昨日と全く同じ個室に私はいた。だよね、と思うと、自然に諦めが溢れてくる。
「そういえばじかん、」
鉄格子の中にいた時は、食事が運ばれてくる回数をカウントし、自分の血で正の字を書いていた。しかし今は全く分からない。朝なのか…昼なのか。
不運にも、窓は付いていない個室で。唯一の道と言えば、一つの扉だけだ。
「!」
コンコン、と扉の向こうから音がする。返事をする前に扉は勝手に開いた。
「•••起きたみたいね。おはよう、体は平気?」
「おはようございます•••、」
入ってきたのはヤムライハさんだった。体は平気かと尋ねられ、一瞬言葉に詰まった。痛くないわけじゃ、ないけど。それでも、肯定の意味を込めて、首を縦にコクコクと動かす。
「そう•••、朝食を持ってきたわ。全部、胃に流し込めるものだから•••」
ことり、と手に持っていたお盆をヤムライハさんが置いた。その食事には、お粥のようなものがあった。まるであの時の食事を思い出すような、そんなお粥が。儚げに「残すなら残してくれ」と言った彼を思い出した。
「••••••っ!、すみません、いまは、すこし、」
急に口の中が酸っぱさでみたされた。唾液がとめどなく溢れ出て、思わず口元を抑えた。
それを見たヤムライハさんは、悲しそうに目を伏せてしまった。どうして、そんな顔をするの•••?ヤムライハさんがいなければ、わたしはあの鉄格子から出ることはかなわなかっただろうに。
「そんな顔を、しないでください」
「え、?」
「ヤムライハさんの魔法のおかげなんです」
「っ、でも私たちはあなたにっ!!」
俯いていた顔を、ヤムライハさんはあげた。目が、赤くなっている。たしかに、理不尽だ、と。早く帰りたいと泣き叫びたかったわたしだが、今考えてみると、王様を守るためならしかたなかったと思うのだ。ジャーファルさんだって、シャルルカンさんだって•••。
「仕方なかったと、思うんです。•••、わたしは、侵入者に変わりはないですから」
「そんなこと•••!!」
「いいんです、だから、ヤムライハさんそんな顔しないでくださ」
い。と言い終わる前に、ふわりと何かに包まれた。ベッドがギシリと音をたてる。ぱちり、ぱちりと瞬を繰り返した。
「あなたはどうしてそこまでっ•••!」
ヤムライハさんだ。ベッドに座っていた私を上から抱きしめるように。目の前にはヤムライハさんの胸がある。どうやら、ヤムライハさんに、横向きのまま抱きしめられたようだ。近くでヤムライハさんの声がする。そしてその声は震えていた。
「やむ、らいはさん」
「•••なによ、」
「どうして、泣いてるのですか」
その質問に返答はなかった。その代わり、背中に回っている手の、わたしを抱きしめる腕の力が強まった。その腕はとても暖かくて•••、
「••••••あなたの名前、教えて」
すん、と鼻を鳴らしたヤムライハさん。抱きしめられたまま、あまりにも優しい声に、耳から伝わるヤムライハさんの鼓動に、生きてる実感がわいた。そして、あまりにも唐突にそれはやってきた。
「っ、わたしの、名前は、」
「ええ、」
グスリ、と鼻を流れてくるものを啜る。こらえようと唇を噛み締めるがために声が震えた。
「うた……です」
受け入れてもらえたような気分になった。人肌はとても暖かくて。バカみたいに泣いてしまった。
ーーーーその一件からヤムライハさんは、わたしがいるこの個室に顔を見せるようになった。
fin