軌跡
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「あの日のこと、ぜんぶ、?」
「えぇ•••私の魔法でね」
足に力が入らず、立てないことに絶望した。このまま、なにもわからないまま死ぬのはいやだと本能が叫ぶ。何も動かないし、喋らない王様とジャーファルさんに心底恐怖した。呆れてものも言えないのだろうか、歩けないわたしを、ゴミでも見るように見てるのだろうか•••と思うと涙が止まらなかった。
「まほ、う?」
そう返すと、ヤムライハと紹介された[まどうし]さんは肯定の代わりに、にこりと笑った。
「いくわよ•••“真実の水人形劇”」
しゃ、シャラール?なんとかと唱えた瞬間、どこからともなく水がふよふよと形を変形させた。それが徐々に人の形を作り、4体現れた。
「なに、これ•••!」
現れたのは、自分そっくりな水人形だった。わたしの他に、王様のような人形、ジャーファルさん、髪が赤く目つきが特徴的な人が現れた。このメンバーは、あの日出会った•••全ての始まりの瞬間に居合わせた人物だった。
「この魔法に嘘はつけないわよ。なにか言いたいことはある?」
「•••あ、」
ヤムライハさんの顔を見ると、罪人に最後の猶予を与える裁判官のような顔をしていた。一瞬にして、さぁっと体温がさがる。うそ、なんて。最初からついていない。もう出る言葉もない。された質問に対し、自分の最善の答えを言ってきた。それでも尋問者はため息をつくばかりだったのだ。
なんと言えば、わたしは生きて、ここをでられるの?
考えても、答えは一つしか思いつかなかった。追い詰められたように、呼吸が短くなる。カチカチ、と恐怖で歯がぶつかった。
「しに、たくない•••!」
「••••••そう」
細められた目に、希望はないのかなと。ぽろっと、まばたきもしてないのに涙が頬を伝う。
やがて、水人形劇は始まった。
「ッ、」
誰のかも分からない、唾液が飲み込む音がした。そして冷たい風がヒュゥと吹き抜ける。例の魔法とやらで見せられた水人形たちは一方的だった。それも、こちら側の──魔道士、ヤムライハはその理不尽さに思わず口元を抑えた。
彼女は何も嘘を言っていなかったのだ
──気が付いたらそこにいた。というのも、階段から落ちただけなのだというのも、全て。
軟禁状態にされ、精神的に追い詰められていく彼女が、そこには映し出されていた。ジャーファル人形が少女を捕らえた瞬間を演じていた時、ジャラリと音がした。
「ひっ……」
「!!」
「ぁ、や!ご、めなさ、ごめ、な、さ」
「ッいけない!!」
カタカタと震えながら、涙目になり後ずさりしていく彼女をみて、ヤムライハはとっさに魔法を使った。パニックに陥る寸前で彼女を眠らせる。その間も水人形は、徐々に進められていく
彼女のルフからは、混乱・苦痛・恐怖がひしひしと伝わってくるではないか。特に恐怖に至っては、水人形が見たことないくらいに暴れているのだ。その状態を目にしてから、終わるまで、その場にいた誰もが言葉を発せずにいた。
乾いた口からは、掠れた声しかもれない。それでもヤムライハは言いたいことがあった。
「……ごめんなさい、だなんて」
言わないでと、つぶやいた時にはもう動いているものも、口を開けるものもいなかった。嘘など言っていないのに、繰り返される脅迫。気がついたら、そこに現れた水人形をふっとばす、こちら側。あの威力を、なんの受け身もとっていない状態で食らうなんて、無傷なはずがない。ちらり、と膝に目をやる。赤黒く、傷口がすりむけ、少しえぐれている。
「(••••••これよりひどいキズを負ってるはずだわ)」
なんてことだ。理不尽な扱いを受けていたのは、この子の方じゃないか。
「っ以上です、」
「そうか、ご苦労だったなヤムライハ。辛いことをさせた」
「いえ•••」
「ジャーファル。交易に出ている2人を抜いて八人将を集めてくれ」
「•••御意」
最後の最後までジャーファルだけが渋い顔をしていた。少女が突然現れたのには、何者かに仕組まれていると疑っているのだ。もちろんシンドバットはそれに気が付いていたが、それよりも目の前の少女の世界のことが気になって、しかたなかった。ヤムライハは、ここまでひどいとは想像もしていなかったらしく、ショックを受けている。
そして、誰一人として、気を失ってたおれている少女を気にかける者はいなかった。この状況を一言で言うなら、「薄情」である。
fin