軌跡
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「え、正体不明の女の子?」
「そうだよ~!ヤムがいない間いろいろあったんだから!」
「ええ、少しは聞いたけど……。あなたは会ったことあるの?その間者と」
「それがまだ会ったことなくてさ~」
「••••••」
今回の出張先は、シンドリアから少し遠い場所だった。そのために帰省する際時間がかかってしまった。王より緊急の連絡を頂いたときは、「正体を調べてほしい侵入者が現れた」とだけ聞かされていた。
「ジャーファルさんもシャルルカンも疲れきった顔して戻ってくるんだよねぇ•••」
「••••••そうなの」
ピスティの話によると、侵入者はジャーファルさんの拷問にも、シャルルカンの拷問にも、何一つ情報を吐かなかったようだ。今までの経験上、ジャーファルさんの拷問を耐え抜いた間者はいない。少し睨みをきかせれば、イチコロだった。女となれば、もっと簡単にいっていた。
「(それでもなんの情報も得られないなんて•••)」
きっと百戦錬磨のすごく強い男なんだわ。──と、思っていたのだが、帰省してみれば•••、と冒頭に戻る。女の子なの•••?まさか王が女にたらしなのを知って•••!?なら、スパイとして潜りこませるつもりだろうか。
「••••••なるほどね、大体は分かったわ」
結界に引っかからず、唐突に現れた侵入者。見たことのない上質な布でできた民族衣装のようなものを身に纏っていた(ピスティが着て見せてくれた)。それに加えて、「ニホン」という聞いたことのない国からきたと言うそうだ。なんの目的もなしに、シンドリアの、しかも王室に侵入するわけがない。
「真実を見せる•••。私の得意分野だわ」
"ルフ″の前では、誰も嘘をつくことはできないのだから。
ふと、隣を歩いていたピスティがすっと身を低くし、両手を合わせた。どうやら目的地に着いたようだ。自分も身を低くする。するとガチャ、と扉が開いた。
「ヤムライハ、只今戻りました。お呼びでしょうか、王よ」
「わざわざすまないな。ピスティから話は聞いたな?俺たちではもう手がなくてな」
我らが王、シンドバットの下へ赴く。王の近くには、ジャーファルさんとシャルルカンがいた。確かに、2人の顔色は優れない。
「はい。この一件、私の“魔法”で解き明かしてみせます」
「ありがとう、頼りにしてるぞ。だが•••まずヤムライハに見てもらいたいことがある」
「見てもらいたいもの、とは?」
そう問いかけると、王はニコリと緩やかに笑った。
「彼女のルフを見てほしいんだ」
考えていることは、皆同じだった。
「やぁ、うたちゃん」
王が最初に例の少女のもとへと、扉を開ける。ひんやりとした、独房の空気が肌を撫でた。
ざわり、とざわめいたのは侵入者のルフだった。ふと、隣にいたジャーファルさんがこちらを向いた。
「•••どうかしましたか?」
「いえ、ルフが少しざわついて•••」
ルフたちは、一箇所に集まっていくのが見えた。きっとそこに、例の侵入者がいるのだろう。そして、ルフのこの動きは•••
「••••••恐怖、してるわ」
「•••そうですか」
そう告げると、隣にいるジャーファルさんのルフも少し揺れた。
「入ってきてくれ」
王の合図とともに、中へと入る。ジャーファルさんから入り、続いて私も侵入者のもとへと向かう。•••直接みなくてもわかる。この侵入者の•••少女の人柄が。
視界に少女が映った。少女はとても痩せていて、鎖で繋がれている姿はまるで奴隷のようだった。
「紹介しよう!彼女はヤムライハ。魔道士だ」
「ま、ど•••?」
戸惑いを見せた彼女に、ルフたちが語りかける。まどうしは、魔法を使う人種だと。しかし、彼女にはルフが見えていない様子だった。そこから見ると、彼女は普通の人間のようだ。
王が段取り通りに、彼女の足枷をとり、ジャーファルさんが用心棒として鉄格子の入り口を開けた。ここまでは、想定できたことだった。
「こらジャーファル。そんなに警戒してくれるなよ」
「失礼いたしました。••••••大人しく言うことを聞けば何も危害は加えません」
「(この子•••心からジャーファルさんを怖がっているわ。そして•••)」
ルフが、彼女を守るように寄り添っている。その光景に目を細めた。
かつて、スパイとして潜り込んできた侵入者が、こんなにも綺麗なルフをしていただろうか。生命の源であるルフに、こんなにも愛されれていただろうか。
そんなことを考えていると、少女が立ち上がろうとしていた。次の瞬間、ジャララッと独房に響き渡った。あまりにも大きな鎖の音に、目を見開く。
「あ、あれ•••」
「っ!」
少女の情けない声がもれる。どたり、と転倒したようだ。
「(な、何がおきたの•••?)」
唖然としている少女につられて、自分も唖然とする。よくみると、少女の足が小刻みに震えていた。
ああ、なるほど。
「(••••••力が、入らないのね)」
「す、すみま、せ、お、おかしい、な」
カクカクと震える足を、少女は立たせるためにずるずると引きずっていた。•••誰が見ても、立てる状態ではないとわかる。
「な•••で?す、すみませっ、ッ!」
ズシャリと再度、少女は体勢を崩した。少女は、何度も、何度も立ち上がろうとした。それでも•••立てなかった。あまりの悲惨さに、言葉を失う。それは王も、ジャーファルさんにも言えたことだった。こんなにも、追い詰めていただろうかと自問自答しているだろう。
ぽたっぽたっと、床にシミができる。少女のひざから、出血していたものだった。そして、立てないことに困惑したのか、とうとう涙をみせる。
「や、た、立てます、たてる、たてるからっ•••」
「っ!」
ここでルフが変化を見せる。ビィビィ、とざわめき、なにかを訴えてきた。
どうか、殺さないで
「••••••王よ」
この子は、本当に誰かの命令でここにきたのだろうか。こんなに脆く、弱い少女が誰かを手にかけれるようにはみえなかった。
「(こんなの弱いものいじめみたいね)」
固まって動けずにいるジャーファルさんに目配せをして、中へ入る。ガクガクと震える少女の前まで行き、手を伸ばした。
「大丈夫。怖がらなくてもいいわ」
「はーっ、は、はっ•••」
「あの日のこと、全部教えてあげる」
予定が少しずれてしまったが、急遽ここで使うことになる。ひざから滴っている血液を一滴をすくい、少女のルフヘ入れた。
これで下準備が揃った。さぁ、答え合わせといこうか。
fin