凡人の遥かなる夢
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「豚の丸焼き70頭…!バケモンだ……」
「おかしい…、妙だぞ⁉明らかに奴の体積より食べた量の方が多い‼」
「いや、まじでそんなに悩まれても……」
「ちょっと食べてみたい……」
「……、気持ちはわかる」
うまい、うまいと豚を70頭も平らげた試験官。一人目はなんとか合格だ。ただ、その食べっぷりには驚いたが…。悩むクラピカと、ツッコミを入れるレオリオに交じって、ちょっとだけお腹がすいた。
だが、まだ二次試験を合格したわけではない。残るはもう一人、女性の方だ。
「二次試験後半、あたしのメニューは
"スシ"よ!」
「スシ……、?」
スシでいいのか、と思った瞬間だったが、その言葉を聞いた瞬間、受験生の間でざわざわと相談が始まった。
スシは、私の国の民族料理。これはついている。そんな中、二次試験の監督さんが、調理器具などを揃えている倉庫へ案内してくれた。
中には、台所、包丁、まな板、そしてゴハン……。スシに使う必要なものはすべて取り揃えられていた。
「にぎりずし……」
受験生たちが、与えられた器具を観察し、何をどう調理するのかを考えながら各々動き出す。
「ライスだけでつくるのかなー」
「道具とか見ると他にも何か使いそうだぜ」
「ニギリか…料理のカタチは想像がついてきたが肝心の食材がわからねーぜ」
「具体的なカタチは見たことがないが…文献を読んだことがある。確か、酢と調味料を混ぜた飯に新鮮な魚肉を加えた料理のはずだ」
「魚ァ⁉お前、ここは森ん中だぜ⁉」
レオリオの言葉に、受験生たちが一斉に走りだす。魚を求めて、川、池を探しに出てしまった。
食材が、魚だとわかった瞬間、皆が捕まえに走る。ゴンやキルア、全員が川に向かっていってしまった。
行き場を失ってしまった手を引っ込めて、一人森の中を進む。
「魚以外でも、スシのネタにはなるっていってたなぁ」
母が、よく言ってたのだ。
魚もおいしいけど、ご飯と合う、別のものもあるのよって。
私はあいにく、釣りをしたことがない。
だったらちょうど、つい先ほど狩りをした、絶好の食材があったではないか。
「(豚の、握りずしなんてどうかなぁ)」
「(おや…、一人だけ、別のところへ向かう受験生がいますな…)」
みんなが魚を釣っている間、私は一人、さっきの豚をもう一匹捕まえようと、森に向かった。倒し方は分かっている。
捕まえやすいはずだ。
とりあえず、丸焼きにして、皮をはいで、お肉にして、それをスシのネタにしよう。炙りカルビだ。幸い、火も持ち合わせている。表面をあぶって、とろとろの油と一緒に……ああ、だめだ。私も食べたくなってきてしまった。
「(ちょっと、楽しくなってきたかも)」
わくわく、と高鳴る胸に、足が早まる。さっきと同じ対象を狩るはずなのに、気持ちが全然違うことに、自分でも気が付かないほど、おいしいものを作れるかもしれない、という好奇心が勝っていた。
食材を手にした受験生が、調理場に戻ってきて、想像のままに料理をする。数名は戻って来ていて、自由にライスに魚を添えていく。
レオリオ、ゴン、クラピカも試験官に自作のスシをもっていって、却下された。
びちびちとまな板で跳ね上がる新鮮な魚は、色や形を見ても、おいしそうではなくて。だが、一人だけ、魚ではないものをまな板に載せている受験生がいた。
「シオ、それは……?」
「さっきの、豚」
「豚ぁ⁉スシってもんは、魚をくわえる料理じゃ」
「まてレオリオ。理由を聞いても?」
「私の祖国の民族料理なの、スシは。確かに、魚が正式なものだけど、母が食材は、ライスに合うものもある、と言ってたのを思い出して…」
「それをどうするんだ?」
「さばいて、焼肉にします」
「なるほど」
「祖国では豚肉は食されてなかったのですが、あの試験官の男性がおいしい
と言っているのであれば、味は確かなのかなと思って、食材にしてみます」
「へぇ。ねぇねぇシオ、それ、オレちょっと食べてみたいかも」
「私も。多めにつくろっか、」
「うん!」
四人も、一度手を止めて、シオが調理をする様子をうかがう。祖国の料理、ということはカタチを知っているからだ。
外でばらしてきたのだろう豚の四肢を、彼女は手際よく、骨に沿って刃を入れていく。ぱりぱりと、肉膜が外れていく音が聞こえるが、不思議なことに、生き物だったもの、という感覚ではなく、肉として、純粋な食材としてみえている。
流れるような作業に、周囲の受験生が見入った。
「手際がいいな」
「博識なクラピカさんにそう言ってもらえると、ちょっと照れる。」
「なっ……」
「なぁにいっちょ前に照れてんだよ!やめろ!」
少し長めに、薄切りに、ご飯を覆えるほどの長さで。薄切りに、何枚か肉を下ろし、できた枚数を、拳銃のような形のライターで、表面にしっかりと火を通す。
豚の油がまな板の上に落ち、非常にかぐわしい匂いが広まった。
しっかりと両面を焼き、まな板、包丁などをきれいに洗って、いざ握る段階に入る。
「一口サイズにライスを握って、わさびをつけて…」
「なるほど、カタチはそういうものなのだな」
「おっ、結構レオリオスペシャルいい線いってたな」
最後にカタチを整え、お皿に乗せる。力加減が非常に難しい料理だ。
「ちょっと、食べてみて欲しい」
「!いただきまーす……」
お試しで作った3貫の握りを、キルアを除く3人が口に運ぶ。ぱくっと口に含め、咀嚼をした。
「おいしい、けど、なんだろう、」
「ライスに熱が籠っていて、味があまり……。調味料とは合うと感じるが……」
「そうか、温度で味がこんなに変わるもんなんだな。これは確かに難しい課題だぜ……」
「そう、」
3人の、辛口コメントを聞いて、自分も食した。豚の油が口の中に広がり、確かに旨味は感じるが、酢飯と合わない。上の肉の熱さが米に伝わり、生暖かい味になってしまっている。
これは、絶対に熱を冷ましてからの方が、おいしくなるだろう。それか、肉を乗せてすぐに食してもらうか……。
「あんた、なかなかいい線してるわね」
「!」
「あたしにも食べさせなさいよ。あんたのスシ」
試験官が、自ら動いた。ということで、他の受験生は一気に動きをとめ、こちらの動きを伺ってきた。
「は、はい」
緊張しながら、先ほどの下ろした残りの肉を調理する。その間、面接官はだまってその動きを観察していた。
一連の流れを周りも観察し、その中にはハンゾーも見ていた。
「よろしくお願いします」
「ふーん、それらしいカタチはしてるわね。どれ」
「(メンチが動いちゃった……。これは、どうなっちゃうんだろう)」
緊張の瞬間だった。
今まで、だれもこの試験監督に一口もスシを食べさせることができなかった。
だが、今、ようやく、一口目を、食べたのだ。
ぱくりと口に入れ、咀嚼をし、飲み込む。
「うーん。食材選びも、いい線いってるけど。合格は出さない。肉が冷めてせっかくの旨味が相殺されてる」
「そうなんですね……」
「筋に沿って肉を切る、切り方も問題はなかったわ。温度がネックね。やり直し。もう一度やってみて」
「はい!」
ぽかん、とする他の受験者。なぜなら、ここはハンター試験を受けているはずなのに、なんだか料理の師匠と弟子のように見えたからだ。
それは近くで見ていたゴンやレオリオ達も感じており、試験官と、シオを交互に見ていた。
そんな雰囲気のなか、一人の受験者が、かき分けて入ってくる。
「つ、次はオレだ!どうだ!これがスシだろ‼」
ハンゾーだった。
試験官も、その出されたお皿を見て、スシの形状をしているものだと判断すると、その差し出されたスシを口に運ぶ。
「ダメね。おいしくないわ!」
「なっなんだとー⁉メシを一口サイズの長方形に握って、その上にわさびと魚の切り身を乗せるだけのお手軽料理だろうが!
こんなもん、誰が作ったって味に大差ねーーーべ!」
ハンゾーの大声が、調理場に反響する。形が全員に知れ渡ってしまった。その言葉を聞いて、集まっていた受験生が再度、自分の台所に戻り、各々作業を再開した。
「ふざけんなてめー 鮨をまともに握れるようになるには十年の修行が必要だって言われてんだ!キサマら素人がいくらカタチだけ真似たって天と地ほど味は違うんだ ボケ!」
試験官の言葉に、ゴンたちはハッとした。確かに、シオのスシを試食した時に、素直においしいと言えなかったと。食材にはずれはなかったが、温度や、全体的な感想として、とても、調整が難しいものだと感じていた。
とにかく量をやって、おいしいといわれるまでトライするしかないと各自が取り組む。だが、試験官の、彼女のダメ出しは止まらなかった。
「次、お願いします」
「おっ……きたわね。期待の新人ちゃん!どれどれ……」
もぐ、もぐ、と咀嚼し、飲み込む。そのあとに追い込むかのようにお茶を飲んで一言。
「肉が固くなってる。鮮度が落ちてきているわ。肉を取り扱うときは火の通り加減だけじゃなくて、保存環境にも気を遣うのよ」
「ちょっとメンチさすがに求めすぎじゃ」
「あんたは黙ってて」
彼女の具体的なアドバイスは、次に生かせることが多かった。油が多いのであれば、少ない所を持っていくしかない。
彼女とのやり取りは時間はとても短く感じて、再度豚を捕まえに行くときもさして嫌だなという気持ちは一切なかった。お礼を伝え、新鮮な食材を再度捕まえに森にでた。
「あの子、いい腕してるわ。美食ハンターに向いてるかも」
「視点が可笑しいよメンチ……」
「さぁ!次よ次!どんどんもってきなさぁぁあい!!!」
次はどんな部位にしようかな、さっきからずっと、大きい豚のみだけど、子豚だったらどうなんだろといろいろと思考を巡らせているときだった。
「悪ぃ!お腹いっぱいになっちゃった!」
二次試験の不合格を告げる声があがった。
二次試験、後半の料理審査
合格者……0名!
fin