凡人の遥かなる夢
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トスッと心臓に感じた重み。あぁ、自分は心臓を、やられたのだなと思った。
ふわふわと揺れる、生ぬるい感覚。ずっぽりとどこかに沈んでいる自分の意識は、いつまでたってもふわふわしていれ、ただただ気持ちがよい。
そんな時だった。何かがぺちぺちとその感覚を壊そうとしてきた。だんだんと自分の意識がそのふわふわのまどろみから浮上していく。パッと目を開けるとそこには、顔面蒼白のピエロが。
「そろそろ起きなよ♣ 死んでないんだろう?」
「ッ⁉」
「おっと♦ いきなり暴れたら落ちるじゃないか♡」
と言いつつ、パッと支えがなくなり、体が地面に落ちていった。
あまりの至近距離に、声も出ず。体を大きく逸らすと、ドテッと音を立てて落下した。あれ、痛い、あれ、っていうか死んでない…?不思議そうにピエロを見つめると、彼はにっこりと笑った。
少し警戒しながら、ピエロを見る。
ピエロは、顔がひどく腫れている半裸の男を抱えている。この人はあの階段で頑張っていた人で、確か、あの奇妙な帽子の男の合図で逃げたはずでは…?なぜここに。
それに、私はなぜ、生きて?
ぐるぐると色々考えていると、目の前にいるピエロは、片手でおもむろに何かを取り出した。トランプか!?と思い、思わず反射的に腕で構えると、その衝撃はいつまでも来ず、恐る恐る前を見る。
「安心しなよ、殺しはしない♠ 君も合格だからね♣」
にっこりと纏わりつくような笑顔は崩さないまま、彼は切れ込みの入ったナンバープレートをぱらぱらと落とす。私が遺品として持ち出した、受験者のナンバープレートだ。
二枚とも、トランプの跡が残っている。
ああ、そっか、あのナンバープレートに、私は生かされたのか。ピエロに殺された受験者が、ピエロに殺されかけた私を助けてくれたかと思うと、怖さが少しだけ薄まった。気が付けば、もう震えていないことに気が付く。
「まさかこの僕が、こんな手で騙されるなんてね♡ゾクッとしたよ♦君、弱そうなのになかなか……♠」
君、詐欺師の素質あるかもねなどと言われ、息を大きく吸って、鼻を「んふ」と鳴らすと、ピエロはどこか遠い方向を見てと、ぺろりと舌を出した。どこか妖艶さを感じさせるピエロに、思わず視線を逸らす。
なんだ、こいつ。私を、受験者を殺そうとしてたのでは…?一体なにがしたいんだと不信感が募るも、「君も合格だから」殺さないと言った言葉を思いだす。
君もってことは、あの半裸の彼も。
「……、彼も合格なの?」
ちらりと、ピエロが抱えている半裸の男を見るとピエロはこくりと頷く。その返事が、死んでない、と裏付けをとれたことから、少しだけほっとした。
「そう、よかった」
「♦」
この半裸の男と面識はないが、なんだか親近感が湧いている。ほっと息をつくと、またにんまりと笑顔を見せたピエロは、方向を変えた。
「さて、先に進むよ♣ここからは自力でついてきなよ♠」
「えっ」
ついてこられなかったら死んじゃうねぇと、縁起でもないことを言い、笑うピエロに血の気が引ける。このピエロ絶対ここに置いていくつもりだ……‼
「あ、君のナンバープレートは返しておくよ♡」
んふふ、唇を薄く引いて喉の奥で笑うピエロにゾクリと寒気を覚えながら、受け取り、ピエロが走ると同時に自分も走った。
数秒走っていて、このピエロの強さを目の当たりにする。次々と襲ってくる獣たちを一網打尽にしていく彼は、それはそれは強かった。
なぜか安心している自分がいた。
(なんか、胸元すーすーするの気のせい…?)
(♦)
ピエロの背後は、とても安全でした。なんて言いたくないけど本当に安全だった。詐欺師の塒と言われている湿原だったが、その生態系のトラップに引っかかることはなく、襲ってくる獣たちも、ピエロが直々に手を下していた。
「ウン、着いたみたいだね♠」
「はぁ、ほ、ほんとだ…はぁ、」
息を整える暇もなく、ただただピエロさんの背後を必死についていっていたら、見事にサトツさんや、先頭集団にいたであろうハンゾーやキルアの姿があった。それに先ほど見つけた、奇妙な帽子の男も。
謎の建物の中からはぐぅぅぅううと何か獣のようなうめき声が響く…。
しかしいくら探してもその集団の中に、ゴンの姿は見えない。キルアと一緒じゃなかったのだろうか…?
はーぜーと酸素を体に取り込んでいると、その様子を見ていたピエロは、少し考えるポーズをしていた。なんだろうか、と視線を送れば、少し不思議そうな顔をしながら、その薄い唇を開いた。
「君、本当にハンター志願者かい♦」
「え、?いや、そりゃ、」
「ンー体力ないなぁ」
「ピエロさんが異常なだけです。なんでそんなにピンピンしてるんですか」
「くっく、ピンピンだって♣」
「ッどこに、笑ってるんですか……、」
体力ないなと痛い所を指摘され、ぐっと言葉に詰まったが、ピエロさんは、ピンピンというワードににやにやしながら、半裸の男をすぐそこの木に座らせていた。
「それと、僕はピエロじゃなくて奇術師♦奇術師ヒソカ♠」
「……ヒソカ、」
ピエロ……いや奇術師ヒソカというのかと心の中で復唱する。すると、ヒソカは立ち上がり、踵を返した。
「それじゃ、せいぜい死ぬなよ♣」
「ッ……!」
ありがとうと、お礼を言う暇もなく。最後に爆弾を投下していったヒソカに冷や汗が流れた。独特な雰囲気を持ち合わせているヒソカはだんとつでやばいやつになった。と、同時になぜか、ヒソカのように圧倒的に強い存在になりたいと、思ってしまった。
「あ、あの半裸の人…、」
とりあえず、バックの中からハンカチを取り出し、持ち込んだ水の一本をあけて濡らした。その濡れたハンカチをそっと彼の頬にあてるとピクリと反応する。
よかった、瀕死、というわけではなさそう。気絶しているだけのようだ。ほっと息をつく。
我ながら本当に思う。よく、生きてここまでこれたなぁ……。って。
「シオ、リタイアしなかったんだな」
「キルア……、んね。自分でもびっくり」
「だよなー。てっきりもう諦めたかと思ってたぜ」
本当に悪びれもなく、あまりにもキルアがケロリと、そしてニカッと言うものだからなんだか可笑しくて。
「しかも44番と一緒なんて。どうやったの?」
にんまり。猫のように目を細めて、聞き出そうとするキルアに、少し間をあけて、自分のナンバープレートの、トランプの傷跡を見せる。
「ここの、ナンバープレートに救われた。漫画みたいにこう…かきーんって」
「はぁ!?漫画かよ!?」
まさに漫画みたいな展開に、キルアは笑っていた。ほんとだよ、まるで漫画だ。
「どんなラッキーの持ち主だよ…」
「キルア、ゴンは一緒じゃないの?」
「……」
ふと疑問に思ったことをキルアに問いかければ、キルアは無言のまま、開けた広場の入り口の道を見つめる。
追いかけるように、キルアの視線をたどれば、そこは私がさっきヒソカと走ってきた道で。…まさか、と嫌な予感がする。
「ミイラ取りがミイラになっちまったら世話ねぇぜ。仲間助けに行って合格をフイにしちまうなんてよ。お!お前はシオ!シオは間に合ったようだな!大したもんだぜ」
「ハンゾーちょっと待って、仲間助けに行った…って」
そんな時だった。キルアがうれしそうに「ゴン…!」と声を上げたことを。そして同時に、パシュンッと一次試験終了の合図が鳴る。
「終了!皆様、お疲れさまでした。ここ、ビスカ森林公園が二次試験の会場となります」
サトツさんの言葉に安堵し、マラソンが終わったのだと達成感にあふれる。ふぅと息を吹いた。
「レオリオ!!」
遠くのほうからゴンの声がした。「レオリオ」と名前を呼びながらこちらに走ってくる姿が見えた。それにゴンだけじゃない、あのときヒソカと向き合っていた、金髪の美人さんも一緒だ。
「ぅ、イデデデ……、ど、どうなってんだ…?うぉ⁉つ、つめてえ……」
「あ、よかった…。目覚めたみたいね」
「これ…、あの時の嬢ちゃんかよ…、生きてたのか」
「それにシオも!よかった、俺、シオが死んじゃったかと思ったよ」
「ゴン、レオリオ!あまり滅多なことを言うな」
「んなぁ、クラピカ!お前!そういうお前こそ死んだと勘違いしてたじゃねぇか!」
「レオリオ…お前……、………腕の傷以外は無事のようだな」
「!?!?顔を見ろ顔を!!う、イデデ…、クッソ、湿原入ったあたりから記憶があいまいだ」
ワイワイと楽しそうに会話をするゴンやレオリオ…そして金髪のクラピカに自然と笑みがこぼれた。
三人の会話を聞いていると、一体何があったのかがうかがえる。きっと、私が意識を失ったあとに、レオリオが戻ってきて、彼を追ってクラピカが、そしてレオリオの悲鳴を聞いてゴンが先頭から戻ってきたのだろう。おそらく。その間なにがどうなっていたのかは、まったくわからないが。
「ともあれ、お互い無事でよかった。レオリオの介抱感謝する。私はクラピカだ」
「俺はレオリオだ。嬢ちゃんこそ怪我してねぇか。応急処置ぐらいならできるぜ」
「クラピカに、レオリオ…。ありがとう、私はシオ」
ここにきてようやく出会えた、悪意のない相手、敵意のない相手に、とても安心した自分がいた。
なにはともあれ、一次試験突破。
合計149名
二次試験へと進みます。
fin