凡人の遥かなる夢
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ハァ、ハァという荒い息遣いと、ドドドドという地響き。ついに始まったハンター試験。その一次試験の課題は、試験官のサトツさんについていくこと。
「っぅ、きつ…」
もう何時間走ったのだろう。自分の足がドンドン重くなっていくのを感じ、イカン、と太ももをあげるようにして走り直す。汗はびっしょりだし、酸素は薄いし、人は多いし、汗臭いし、前の人の汗飛び散ってるし。汗で足滑りそうになるし。汗、汗、汗。結論、汗。
ああもう、最悪だと心の中で文句をたらす。
ゴシッと袖でこめかみを流れてきた汗を拭い、スピードを早める。ぐんっとスピードをあげ、ちょうど一塊を抜けた所だろうか、ハゲ頭を追い越す、時だった。
「ぅお⁉︎なんだ、あんたオレと張り合おうってのか」
「…は?」
「いきなりスピードあげてくっから何だと思ったら、なんだ、そういうことかよー」
だれもが疲れ切ったような顔をして、だらだらと走る者もいれば、もはや勢いで走っているだけの者もいる。はたまた、こんなの余裕だとでも言うかのように爽やかに走っている者も、また然り。そんなハゲ頭は、後者に入るのだろう。「ちょうど退屈してたしいいぜ、負けねぇ」と言い、ニッと笑顔を見せる。
ちょっと待って、話しが見えない…。
「オレはハンゾー!単調な試験だったもんで、飽きて腹減ってきたとこだ。いやーよかったよ、あんたが話しかけてくれて」
「え、話しかけてな」
「!その訛り、もしかしてジャポン出身かあんた!」
タッタッタッと決して遅くないテンポで走りながら、爽快に会話を広げるハンゾーと名乗ったハゲ頭。こちとら余裕なんてないのに!ジャポン出身、と出身地を見事に当てられ、驚きながらも、肯定の意を込めてこくりと頷く。
「まじかよ!いやー こんなところで同じ祖国の奴に会えるとはな‼︎ お、じゃあここだけの話、オレ 忍者なんだよ」
”忍者”
そう言ったハンゾーに、全てを察する。そうか、忍者ならばこの体力、余裕、警戒心、周りの音を察知する力が長けているわけだと納得する。
「オレはな 幻の巻物「隠者の書」を探すためにハンターになりてーんだ。あんたはどうなんだよ?ってかあんた、そのナリから察するに、クノイチってわけじゃなさそーだな、名前は?」
「、シオで」
「シオか…、ただのってわけじゃねーな。ナニモンだ?」
ゾッとした。
さっきまで軽快に話をしてくれていたハンゾーとは打って変わり、ピリッと殺気を込められた視線を向けられる。同じ出身だ、ということは、忍者がどんな職業なのかも知ってるからこその、この警戒心だろう。
つまりはこうだ。
忍者の体力についてこれるような人間が、しかも女が、ただの一般人のはずがないと言いたいのだろう。
まったく、舐めていたもんだ。ハンター試験を。
キルアといい、男の両腕を見事に切り捨てたあの男といい、この男、ハンゾーといい。
ニッ笑みを浮かべるとハンゾーは一瞬間を開けて、顔を逸らした。
「ま、深入りはせんさ あー腹減ったなー 」
「……そうですね」
さらりと、誘導尋問されそうになってた自分に気づき、ゴクリと唾を飲み込む。
恐ろしいな。
つぅっと流れた冷や汗が、汗と混じって地面に落ちた。
「‼︎ 見ろよ」
「おいおい マジか」
ハンゾーの声にハッとして顔をあげると、ヒョォオオオと風の抜ける音が聞こえてきた。まさか、と嫌な予感がよぎる。
ここに、きて。
「階段……、」
嫌な予感は的中し、目の前には、先頭集団がいるにも関わらず、その存在がハッキリと分かるまでの、高い、長い階段。
まったく、足への拷問だなと笑った。
→
(かーまいったなぁ階段じゃねぇか。よし、どっちが早く登れるかって、あれ?)
(……離れよう)
ハンゾーから逃げるように距離をとり、1人で階段を上がっていく。なるべく足への負担が少ないように、足をあげて、息を止めながら、短く息を吐いて、地道に。
「フルチンになっても走るのさーーー‼︎クラピカ!他人のフリするなら今のうちだぜ」
うぉおおおおと唸り声をあげて、すごい勢いで駆け上がっていく男に、追い越される。上半身裸の男に驚いたが、それよりも、この階段を目前にしての、あの勢いの良さに、思わず笑みがこぼれた。
そしてその後を、1人の受験者が追いかけていく。
そうして、その受験者は前にいる半裸の男の隣へ行き、共に階段を駆け上がっていった。
「仲間、かぁ」
その背後を、いいなと感じながらも、自分も負けじと前へ、前へと進む。徐々に、階段で疲れ果ててリタイヤしていく受験者を横目に。
カッと光がさし、風が顔を吹き付ける。
「見ろ 出口だ‼︎」
出口、出口、出口だ。
あと一段、あと一段登れば、あそこにーーーー
「あ」
つん、と足が縺れたのを感じたが、それよりも体が勝手に前へ進もうとした。体は勢いよく前へと飛び出し、ズザァァァッと音を立てて、転倒。
しばらく沈黙するが、その後にざわざわと騒めく。
「ダイナミックだ…」
「ヘッドスライティング…?」
ザワザワと騒ぎ立てられる。自分のことだとわかると、顔に熱が集中した。
「ぶっふあ、誰かと思ったら、お、オネーサン、シオじゃん、」
「、その声、キルア…?」
ククク、と笑う声に、恥ずかしさのあまり顔をあげられなくなる。声の主に確認をとると、「そーだよ」と肯定の返事をいただく。くそ、なんか死にたい。
起き上がろうと、ボロボロになった体を起こす。すると、すっと手が差し伸べられた。
「大丈夫お姉さん?」
「わ、ありがとう…」
「どういたしまして!オレはゴン!お姉さんキルアの知り合い?」
伸ばされた手を掴み立ち上がる。そこにいたのは、キルアと、髪の毛が逆立っている、キルアと同じぐらいの少年。汗だくで、転んだおかげでボロボロな私に比べて、彼らは汗をあまりかいていなくて、身なりも整っていた。
「はぁ?知り合いじゃねーよ」
「ゴンくん、ありがとう。私はシオ。キルアとはさっき下でね」
「そうなんだ!よろしくねシオ」
よろしくと握手すると、ゴンくんはえへへと笑顔を見せてくれた。ああ、可愛い。
服に付着した砂埃をパンパンと叩いて落とし、改めて身なりを整えて、2人に向き合うと、キルアがジッとこちらを見ていた。キルアが何かを言いかけた時だった。
「では、話を戻します。 ヌメーレ湿原 通称”詐欺師の塒”二次試験会場へはここを通っていかねばなりません」
騙されると、死にますよ。
サトツさんは、ようやく出口だと安堵していた受験生のモチベーションを地の底まで下げるような一言を吐き出したのだった。
fin
(へぇ、意外とやるじゃん。シオ)