青春白書
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朝起きると携帯のランプが点滅していた。嫌な予感がして携帯を開くと、案の定幼馴染からだった。画面には恐ろしいほどの着信の回数が。……うむ、これは……
「……なんて言い訳を」
昨日あのままじゃどうにも帰れない、となってしまったので、春奈先生に家まで送ってもらい、そのまま寝てしまったのだ。で、気が付いたら朝だった
はぁとため息付く。するとタイミングを計ったように携帯に着信がかかる
「も、もしも──」
『お前熱は!?』
キィンという機械音が耳に響く
朝一番の大きな声は私の右耳から左耳へ突き抜けました
携帯の向こう側で「煩い」と怒られてる雪村君がいた。……ところでなんで雪村君は私が熱だと知ってたんでしょうか
06.憧れですよ?
晴れて1軍。今日から1軍の練習に参加できるんだと、緊張した。鞄を肩にかけて席を立とうとしたのだが──
「部活行くぞ!!」
一ついいですか
ど う し て こ う な っ た
ざわざわと煩くなってくる教室。その原因となっているのが、教室の前にいる雷門イレブン1軍様だ
……本当に。どうしてこうなった?
目の前にずらりと並んだ1軍の皆様に私は眩暈がした
放課後の鐘が鳴ると同時に、教室を出ようとしたら……目の前に三国さんがいたのだ。え、なんで?と思いきや1軍全員がいた
本当に、心臓が飛び出るかと思った
「あの……。皆さんなぜここに?」
「折角だし一緒に行こうと思ってな!」
「は、はぁ」
にっこり笑顔で言う三国さんには悪いが、目立ちすぎている。実に目立ち過ぎている
入学式の日に、あんな大騒ぎがあってから雷門サッカー部への風当たりは生ぬるいものとなっていた。故に、好奇の視線が集められる
「泣くほど嬉しいのか!色羽!」
「何をどーしたらそうなるんすか」
「機嫌悪いな倉間!」
「アンタのせいでなっ!!」
陽気に笑って私の背中をバシバシた叩く三国さんに、倉間君が私の気持ちを代弁してくれた。全くその通りである
(……ゆうび、1軍になったのか)
(一乃、あっち行こうぜ)
視界に映った一乃君や青山君が席を立ったのが見えた。ちくり、と口に痛みが走る。どうやら無意識にきゅっと唇を噛んでいたみたいだった
ああ、グッバイ私の平凡生活
そんな私の気持ちをくみ取れるはずもなく、三国さんは嬉しそうに前を歩いて行った。後で聞いたことだが、クラスに突撃されたのは他の2年生も全員だったらしく、倉間もげんなりしていた。ぼそっと浜野君が「ちゅーか、ありがた迷惑?」と言っていて、吹き出しそうになった
ちなみに私がラストだったみたいです
「お!気合入ってるな!!」
「お、お疲れ様です先輩!!」
先頭を切って歩いていた三国さん。なんだか今日はテンション高いな、なんて思いながらサッカー塔の扉をくぐった
視界に入ったのは、元気そうな天馬君と、西園君に──…ショートカットの可愛い女の子だった
「あっゆうび!!──先輩、」
やっちゃったと笑う天馬君に、私もつられて笑った
「天馬君、慣れないなら呼び捨てでもいいですよ?」
「え!いいの!!」
「ぼ、僕もそうしてもいい!?」
「い、いいですよ?」
ぴょんぴょんと飛び跳ねる西園君可愛いなぁと思いながら、肯定の返事をする
呼び捨てブームなのかな、とか考えつつ、自分も部室の中に入っていつも座っていた指定席に荷物を置いた
「じゃあ、新入部員……。自己紹介してもらおうか」
「「はいっ」」
練習の前に、新入部員の自己紹介を聞いて、自分たちも自己紹介をして。そうそう、わらび君は剣城君だって──。え、彼も入部するの?昨日の入部テストにはいなかったはず…と考えたが、フィフスセクターの手の者なら、そういう権利があるんだろうな、と自己完結した
「着替えてすぐに練習だ」
手渡しでもらったユニホームを広げる。2軍のと色が違う、雷門イレブンの証だ
「ふぁ、ファーストのユニホーム、ゆ、夢みたいです……」
「なんかめっちゃ喜んでね?」
「喜びすぎだろ」
聞こえた浜野君の笑い声と、倉間君のどうでもよさそうな声を無視して、じーんっと喜びに浸る。すると2軍の皆を思い出した。みんなもこのユニホームを着たくて、必死扱いて頑張ってたなぁと思い出に耽る
「まだ引き摺ってんのか?」
にゅっと真横から出てきた顔に、びくりと心臓が跳ねた
「……南沢さん、驚かせないでください」
「いい加減割り切れよ?」
「……っ、わかってます」
ぽん、と頭を叩かれ、少しむっとする。しかし南沢さんの顔があまりにも綺麗で、言葉に詰まった。そんな南沢さんは、照れる私をじっと見つめ返してくる。いや、本当に目のやり場に困るのでやめていただきたい
「……お前本当に一乃好きだよな」
「?好き……、いえ、大好きですよ」
「ぶふぉ!!」
「すみません、……倉間君汚いですよ」
「お前のせいだろ……!」
つーか謝られると腹立つ!と唸る倉間君。訳が分からない。首を傾げてると、南沢さんはいつものクールな顔で「で?」と続ける
「"大好き"なんだ?」
「……?ハイ。だって一乃君素敵じゃないですか」
「「……」」
「カッコいいですし、すごくまっすぐで、」
「ああ、そう……」
「……俺もう行くわ」
南沢さんの質問に答えていくにつれて、だんだんと一乃君の背中が脳裏に浮かんだ。するとどうだろう、勝手に口がぺらぺらと言葉を発していった
「一乃君は、私にとって大事な人なんです」
へらり、と笑った彼女に無性に腹が立ったのは仕方ないと思う。その大事な人とやらは、お前のことを無視して、退部していったような奴なんだと、力説したくなったのをなんとか堪えた
「(色羽 ゆうびの生態調査、"元セカンドの一乃七助を心より慕ってる"……なんだこのふざけたデータ)」
********
──1軍での初練習を終えて、部室に戻る。やっぱり1軍の練習は2軍と違ってハードだったという感想を持つ
ふと、隣の倉間君が眉間にしわを寄せた、しかめ面で聞いてきた
「ゆうびは一乃のどこがいいんだって?」
唐突な質問に、部室の会話がなくなった
その雰囲気は「何聞いてるんだお前」を醸し出していた。が、しかし。それに当の本人たちが気が付くわけもなく、ゆうびは普通に応える
「どこがって……全部ですかね」
「「「……」」」
さも当たり前のように、きょとんとした顔で言いのけたゆうびに皆はハラハラした。話を切り出した本人も、イラッと来たらしく、トゲトゲしく言い放つ
「具体的には」
「全部です、文句なしです」
「あんな奴の何処がいいんだよ」
「よせ倉間!」
チッと舌打ちをした倉間が言わんとしていることに、気が付いた霧野が止めるも、倉間は勢いに乗って口走ってしまった
「あいつ今お前のこと無視してるじゃねぇか!!」
「──止めてください」
倉間は言い終えたその直後に、我に返った。──誰もが言いたかったことであるのは事実だが、それは彼女にとって地雷だと誰もが思っていて、言いたくても言えなかったのだ。しかし、それを止めたのは意外にも、ゆうび本人だった
「それ以上は言わないでください。分かってます、それくらい。──でも一乃君は私にとって"憧れ"なんです、誰であろうとバカにされるとむかつきます」
「だからッ!!お前がどんなに好意を寄せたって、本人はお前を拒否して──ってえ?」
一瞬間ができる
「え、憧れ?」
「?はい憧れです。私の、目標です」
「……いや、お前、それ」
はぁぁ、とため息を深くついた倉間君。私何か変なこと言ったかな?と首をかしげてると、視界に入った南沢さんや車田先輩もため息をついていた
「一乃に同情だな」
「そのまま一生誤解してればいいのに」
「倉間、」
帰る、と言って荒々しく鞄を持ってサッカー塔を出て行った倉間。最後まで訳が分からない男である
「……お前"憧れ"なのか」
「霧野さんまで…。そうですよ、皆さん何だと思ってたんですか?」
てっきりみなさんそう思ってくれてるのだとばかり、と言えばそこに残っていた人たち全員が私から視線を外した
「な…!本当になんだと思ってたんですか!」
霧野さん!?と霧野さんを見れば、彼もわざとらしく視線を外した
「いや、その…。悪いな」
「俺も帰ろーっと」
「ちょ、あの!」
「お先ー!!」
「浜野さぁぁん!」
「……ねぇ天馬。このチーム仲良いんだね」
「俺、てっきりゆうびはセカンドのあの人が好きなんだと思ってた」
「──いや、あれは誰が見たってそう思うだろ」
「水鳥さんもですか?」
「あの……みなさん本当に何を勘違いしてたんですか」
まさか私をストーカーとかの類だとは思ってませんよね?と心配そうにつぶやいた彼女に、神童は「それはないから安心して今日は帰れ」と言われた
そして結局、誰もその質問に答えてくれなかったのでした
ちゃんちゃん
「(……あんなふざけた奴になんで監視なんかしなきゃならないんだ)」
fin.
(──ていうことがあったんです。ひどいと思いませんか?雪村君)
(それはひどいな。……お前が)
(ゆ、雪村君までそんなこと言うんですか)
──俺もそいつのことが好きなんだと思ってた。とつぶやいた幼馴染の声は聞こえなかった