青春白書
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夢だったらいいのに。
そう願ったけど、普通に朝はやってきた。──気怠い体を起こす気力はなく、昼休みも机に突っ伏す。ご飯を食べる気力すらもなかった
「ゆうびいるか」
そんな最悪のモチベーションの中で、キャーッ!!と、女子の黄色い声が、クラス中に響く。机に突っ伏していた私にとって、その悲鳴は頭痛の引き起こすものだった
「ちょ、ちょっとゆうび!南沢さんきてるよ!」
「ん、」
バシバシッと背中をたたいてくる友人に、痛いと訴えながら、教室の入り口を見ると──扉に寄りかかって、よっと片手を上げる南沢さんがいた
──絵になるな、この人
「……珍しいですね、南沢さんがこっちくるなんて」
純粋に思ったことを言えば、南沢さんはぴらりと紙を一枚私の目の前に差し出した
「委員会のお知らせ」
「ああ、ありがとうございます」
わざわざ持ってきてくれたことに感謝を述べる。すると南沢さんはいつもの冷めた顔で教室の中を見渡した
「確かあいつらと同じクラスだったな」
「!!」
「様子見ようと思ってたが、無駄足だったみたいだな」
「……二人に何の用ですか」
「様子見だって言っただろ」
「何もしねぇよ」と笑う南沢さん。じろり、と少し背の高い南沢さんを睨めば、南沢さんは「ふはっ」と吹き出した。ビクッと反応した私を見て、南沢さんは薄く笑う。そしてなぜか私のアホ毛たちをワシ掴みして遊び始めた
「今日も立派だな、お前のアホ毛」
「っ~~南沢さん」
「なんだよ?」
「クラスの視線が痛いのでやめてください…!」
パシッと手を払おうとしたら、その手を余裕の笑みで掴まれてしまった。人の反応を楽しんでる顔をしていらっしゃる南沢さんに、少しイラァッとくる
「ああ、そうだ」
ぴたりと動きを止めた南沢さんに疑問を抱きながら、なんだと耳を傾ける
「神童からの伝言」
「、!」
「──"お前もこの際昇格テストを行う。受けるかどうかは自分で決めてくれ"だとよ」
「しょ、かく?」
「セカンド、全員やめただろ」
「……そ、ですね」
「今日の放課後、入部テストの後だってさ」
お前昨日途中で出て行っただろ?と言われて言葉に詰まった
あの後沢山泣いた。第二グランドでずっとみんなを待っていたが、結局誰一人訪れることはなかった。──でも昨日泣いたおかげで割り切れた。今日だって、一乃君と青山君に普通に挨拶できた(一方的に、私がだけど)
見つけた答えは、私はこれからもサッカーをしたい。だった
「南沢さん」
「なんだよ」
「ありがとうございます、」
「……おー」
ふにゃりと笑ったゆうびに、一瞬戸惑った。あいつ一乃の前以外で、こんな顔できんのか。なんか腹が立ったので髪の毛をぐしゃぐしゃにしてやる
「みなっ、みなみ、さわさん。やめてください、」
髪の毛ぐしゃぐしゃになります。と睨んできた彼女に、笑いがこみあげる
「じゃーな」
しばらく私の髪の毛をぐしゃぐしゃにしていた南沢さんは、ぱったりと止めて去っていった。……嵐みたいな人だ、と心の中で毒付く
はぁ、と受け取ったプリントを持って自分の席につく。すると後ろに座ってる友人がまたバシバシと背中を叩いてきた
「いいなぁ!!あたしも南沢さんに頭ぐしゃぐしゃにされたいぃぃ~」
「……それ、私の髪型見ても同じこと言えますか」
「……や、やっぱ遠慮しとこっかな、」
あちこちにハネてしまった髪の毛を手櫛で何とか直す。全く、自分がサラサラストレートだからって、と思っていたら──昼休みは終わった
「……あいつ熱あるんじゃね?」
廊下を歩いていた南沢は、手に残ったかすかな熱に違和感を感じていた
05.昇格テスト
時間は瞬く間に過ぎてゆき、あっという間に放課後。入部テストが始まった。一応その場に整列して、入部希望者と顔合わせをする。茶色い少年と、小さい少年と……なんだかよくわからない3人組が今年の入部希望者のようだ。──正直言うと、少ないなという感想を持つ
なんて考えていたら、神童さんがやってきた
「……来てくれたのか」
「サッカーやりたいです、から」
「ッ、」
そういえば神童さんは眉をぐっと寄せて、何かを耐えるような顔になった。神童さんが1軍のキャプテンになってから、よくこの顔をするようになったのを、私は覚えている
──ぎゅっと靴の紐を結びながら、ストレッチをする
「──これより入部テストを行う」
「あ、君、えと、先輩だったんですね、なんかごめん、いろいろと」
パチクリ、と瞬きをする。一瞬何のことか分からなかったが、今朝の少年が余りにも申し訳なさそうに眉を下げるものだからこちらも罪悪感が……
「いえ、気にしないでください」
「よ、よかった~」
「天馬、知り合い?」
あの茶色い少年は松風天馬というらしい。またその隣には小さな可愛い少年がいた。彼の名前は西園信介だと久遠監督が言っていた。西園君がキラキラと目を輝かせて見上げてくるから、しゃがんで西園君と目線を合わせて、頭を撫でる
「私は……、セカンドの色羽 ゆうび。よろしくお願いします。天馬君に、西園君」
「セカンド!?」
「ってことはサッカー部!?」
「「「(まじかよ!!)」」」
「全員整列!!」
「「やばっ」」
入部テストと昇格テストは別でやるとのことだったので、私はベンチに下がった。神童さんの声に、天馬君と西園君は慌ただしく配置についた。──ちょっと助かったかもと息を吐く
きっとあのままだったらいろいろ言われるに違いなかった。あの二人じゃなくて、残りの3人に。私がセカンドだと言った瞬間にこちらを向いた。きっと心の中でいろいろ言われてるんだろうなと考えながら、私もユニホームになり、ベンチで待機する
そうして、天馬君たちの入部テストが始まった
*******
入部テストを始めて何時間経っただろう。もう日が沈み、当たりは真っ赤に染まっていた
監督が終わりを告げるまで続けたこのテスト。その結果ははやり天馬くんと西園君の二人だった。後半は、神童さんと天馬君に西園君の勝負になっていたが。合格だ、と言われた直後、天馬君と西園君がお互いの頬を引っ張り合ってる姿に、笑みがこぼれた。笑っていたら、ばちりと視線がかち合ってしまったので、こちらから声をかける
「おめでとう二人とも」
「「ありがとうっゆうび!!」」
二人そろって、笑顔で返してくれた。「あ、呼び捨てにしちゃった」「僕も天馬につられて呼んじゃったじゃん!」なんて今度は言い合う二人に、さらに笑いそうになる
「これより昇格テストを行う。──セカンドチーム色羽 ゆうび」
久遠監督の声にしんっと静まり返るフィールド。……そろそろ気を引き締めないと。ペチッと両頬を叩いて気持ちを切り替えた
「……はい!」
形式は入部テストとは異なり、1軍メンバーの3人vs私だった。キーパーの三国さん、FWの倉間君、DFの速水君。この手強い3人が相手だった
ちなみに久遠監督が「そこまで」の合図があるまで続けろ、というルール以外何もなかった。一点取ったら勝ち、とかボールを奪ったら勝ちとか、そういうのは一切
「手加減はしないからな」
「ま。そういうこと」
「い、行きますよ、?」
「……本気で行きます」
「──始め」
久遠監督の声とともに、ボールが蹴られた
FWの倉間君は容赦なく切り込んできた。がつがつがつと伸びてくる足。本当にサッカーには正直で、容赦ないなこの男
自分でボールをコントロールしながら、なんだかやりにくいと思っていた。──そこでふと思い出す。私のポジションはDF。つまり、相手からボールを奪うのが本職である
「、!」
そこまで考えて、ボールをわざと倉間に渡した
「(今こいつ……!)速水!」
「は、はいいい」
倉間が速水にパスを出す。その瞬間を狙って──片足に全身の力を込めた
「このフォーム……!まさか、」
「"ボルケイドカット"!!」
「「なっ!?」」
「あいつ必殺技なんて使えたのか!?」
ザワッとギャラリーが一瞬にして騒がしくなった
「おい!聞いてねーぞゆうび!!」
「だ、だって、言ってないです」
「ッ、むかつく……!お前敬語キャラならもっと大人しくしてろ!!」
「!?な、なんですか敬語キャラって!!」
そこで倉間とゆうびの間で喧嘩が勃発した。とはいっても、倉間が一方的にかみついているだけなのだが
「っ、こいつ…!」
「"キラースライド"!!」
「色羽さん~、あ、危ないですよぉぉおお!!」
フィールドから聞こえてくる間伸びた声とは裏腹に、三国さん以外の3人は汗を飛び散らせながらボールを追いかけていた
「ゆうびちゃん、完成させてたの…?」
一連を見ていた春奈先生が思わず口走る。神童や霧野が、それを聞き逃すはずがなかった
「先生、どういうことですか?」
「え、あ……いえ。ゆうびちゃんにあるチームのDVDを貸してたのよ。その中で使われてた必殺技なんだけど……」
「つまり、」
「え、ええ…。ゆうびちゃんは、見ただけでこの必殺技を身に着けたってことになるわ」
──寝る間を惜しんでまで、必殺技の研究をしていたのね。と続けた先生に、霧野にはゆうびの目の下にできた隈の原因が分かった。本当に無茶するやつだな、と思うが、今フィールドにいる彼女の顔からは疲れが一切見えず、むしろ興奮しているようにも見えた
「アイツのプレー、久しぶりに見たな。神童」
「……」
「神童?」
神童の視線を追えば、そこには倉間と速水が楽しそうに玉蹴りをしている姿があった。フィールドを走り回る3人の姿は、まるでテスト中なのを忘れているようにも見えた。それが神童の目にはキラキラと輝いて見えて──
「そこまで!」
久遠監督の声に、倉間と速水は面白いほど肩を揺らしていた
「……セカンド色羽 ゆうび」
「ハッ、ハァッ……はい」
「合格だ。明日から1軍の練習に参加しろ。──……熱でそこまでやれるなら文句はない」
「「「!?」」」
「なッ!?」
「ありがと、ございます……」
興奮しているように見えたって……、熱で息が上がってただけだったのか、とこめかみを押さえる霧野だった
──霧野さん。そんな呆れた顔しないでくださいよ
驚いた顔をした皆を最後に、私の体からは力が抜けていった
ふわり、と柔らかいものに包まれた。ふわっと香った匂いは汗臭かった
「倉、間君。すみません……」
「……うっぜ」
「ひどいです」
fin.