青春白書
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この人、不幸体質なのかなと俺は思ったことがある。それは幸薄そうな表情で笑っているからだ。強がり、悲しみ、辛さ。全てが彼女を包み込んでいて。
それが今ではメールや電話のやり取りをする仲にまで至った。
「色羽 ゆうびが化身を?それは確かなのか」
「可能性がある、と」
最近は、彼女の名をよく聞く。
「天河原の人たちの協力を得て、化身を出させるんですか?」
「ああ。円堂…雷門のコーチから、天河原中の選手と特訓してると聞いてな」
「天河原中…、ああ…、なるほど。それなら一度会いましたね」
「……、!そうか。あの時声をかけたんだったな」
天河原中の協力を得て、ときいて合点がいく。なるほどだから彼女はあの時ジャージだったのか、と笑う。
「雅野、この役は少しリスクがあるが…それでもやってくれるのか」
「もちろんです。ゆうびサンのことならなにかと俺の方が動きやすいですし」
「そうか…」
道端で1人泣いていたことが出会いのきっかけだったっけと思い出しながら、通話ボタンを押した。
「あ、ゆうびサン?明日のことで電話しました。今いいですか?」
電話の向こうでは焦ったように声を出す彼女に、自然と口角が上がる。
ーーー話しかけたのは、ただの気まぐれだったのにな。
結果、その特訓で、見事彼女は化身を登場させただけでなく、すぐコントロールをしていた。彼女を見限っていた訳ではないが、あまりにも早すぎで、想定外だった。
ツゥッと流れる冷や汗と、鳥肌は、彼女の底知れぬ「何か」を感じ取ったからだろうか。
「…おいで、?」
彼女がそう呟き、突風が吹いた。そして黒い細い布のようなものに包みこまれ、コォォオと若干の息遣いが聞こえた。ああ、現れた。
「えっと、…出ました」
目を開けて、遠慮気味にこちらを振り返る。
「なるほど、これが"黒きものカーリー"か。納得だな」
「カーリー…あの神話の、」
「ふむ、化身のコントロールは出来ているな」
「だが技があるわけではない、んだったか?」
「ああ。……どうだった雅野。あの時ボールを受けてなにか感じたか?」
「はい、自分はそれと言って強いものは感じなかったです」
「そうか…」
俺たちはまだ鬼道総帥の別荘にいる。リビングではなく、現在は裏庭のような所に来ていた。裏庭があるなんて相当だよ…と感想をこぼした彼女に笑ったのは言うまでもない。
理由をいうならば、サッカーするものが4人も集まれば、それはフィフスセクターの話になるのも当然の流れだった。源田さんが折角いるのだから、どうせなら知ってもらおうと、佐久間コーチからの提案で彼女に化身を出してみることになったわけだが。
「化身の技がない…?」
さて、どうしたものかと佐久間コーチが唸る。続いて源田さんも、化身の強みは必殺技とは桁違いのパワーやテクニックだよなと確認していたし、総帥はただ黙って彼女の化身を見つみている。
そんな大人たちの反応をみて、彼女はあわあわと慌てていた。
そうして少ししょんぼりしたあと、「すみません」と、小さく呟く。そのあとに、ふぅと、幸せが逃げる音がした。ああ、だめですよ。って前言ったのに。
「だいじょぶですよゆうびサン。シュート練なら俺がいくらでも協力しますから」
「「!」」
「でも、雅野くん…、」
「俺のポジション、GKですよ」
手伝いぐらいさせてくださいといえば、少し悩んだあとに小さく「お願いしてもいいですか…?」と聞こえた。弱腰ではあるが、その目は揺らがない。
ゾクリとした。
「もちろんです、ゆうびサン」
ため息ついて幸せが逃げたって、前を向いて歩けばいい。歩かせればいい。新しい、幸せの通り道を作ればいいたけの話だけだ。
彼女が闇に落ちて、力にこだわり続ける姿はみたくはないよ。
fin.
(雅野…お前…、)
(……フッ)
(ははは、青春だな。俺も力になれることがあれば言ってくれ)
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