青春白書
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私の背後に現れた黒い"ナニカ"は、似合わないくらい丸い目をしていて、口は嬉しそうに開かれていた。全身は黒くて、怖いはずなのに、それは不思議と怖くなかった
化身は消えることなく、ゆらゆらとそこにいる。視界に入った、とくに驚いていない佐久間さんの顔に、この無茶苦茶な特訓の意味を察する
「最初から、化身を出すことが目的だったんですね」
「っ、色羽、」
「これでみんなの力になれます。ありがとうございます。喜多君、みなさん」
「……。ああ、」
「ねぇ。まずさぁ……その化身しまってからにしない?」
──あの後、化身が出たと自覚すると同時に化身は実体化した。しっかりとした存在感を出しながら背後にそびえる。ためしにシュートを打ってみろと言われたが、イマイチで。本業がDFだと話すと、化身の力を使って守備をしてみろとのことで……とにかくいろんなことを試したが、化身使いのような技は出てこなかった。
だが、化身が途中で消えてしまうなどということは起きず、「そこまで」という佐久間コーチの一言により特訓は何事もなく終わった。特訓というより、実験じゃないのかと思ったのは秘密にしておこう。ただ、必要以上に煽ってきたのはなんのためだったのか……、
「煽り文句すごかったですけどゆうびサン平気ですか?」
「へ、いきです」
「……。」
「……。」
「色羽すまない」
「あは、化身出すきっかけは喜多一番さんの言葉でしたもんね」
「ちょっとちょっとぉ~うちのキャプテン苛めないでくれる?」
雅野の言葉に、色羽がひきつった笑顔で大丈夫こたえる。どう考えても大丈夫じゃないだろうと、とっさに喜多が謝るが、追い打ちをかけるように雅野が畳み掛けた。
そこに西野空が薄ら笑いで雅野君を睨む。すると二人の間にバチバチと火花が走る。それを見た星降さん?が、はぁとため息をついた
「色羽ならまだしも、2人が言い合う必要はないだろ」
「やめないかお前たち」
「はぁいキャプテン」
結局、喜多君の一言でその場は収まりましたとさ
27.作戦通り
「今日はよくやった。十分な成果だったぞ色羽君」
「……いえ、今日この場、この特訓を設けていただいてなければできなかったことです。ありがとうございました」
「……本当に君は、」
「え、?」
佐久間コーチがそう言うと、くしゃくしゃと前髪を撫で…られる。突然のことに思わず顔が真っ赤になった。撫で、撫でと徐々に手つきが優しくなってくる。
「強がる必要はないさ。正直言って、今回の特訓は君への負担が大きかっただろう」
「……そ、なこと。は」
「今まで我慢してきたんだろう。なら尚更だ」
「……、」
「色羽君が弱いなんて、誰も思っていない。むしろその逆だ。皆が注目しているんだ、君の力を」
「でもっ──」
「今回の特訓も、久遠さんからの指令でな」
「!?」
「君の化身の可能性を久遠さんは誰よりも早く気が付いていたんだ。そして同時に、フィフスセクターが動いた。このままだと君がフィフスセクターに引き込まれないかという不安が出てきてな。急遽今日を借りたんだ」
そうだったんですか。という言葉、かすかすで言葉に出なかった。前髪が長いおかげで、目が髪の毛で覆われてうまく隠れた。ぼたぼた、と涙が落ちてくる。そんな、優しい手つきで、そんな優しい言葉を、言わないで。私が、弱いから、弱いから、試合に出れなかった、んじゃ、なかったの……?
「……あり、がとうございます」
「頑張ったな、色羽君」
「…っはい!」
佐久間コーチは相変わらず優しい手つきで撫で続ける。私が泣いてることは、きっと声で察してるだろう。
「佐久間コーチ。お取込み中すみません」
「雅野か。どうした?」
「……、」
「あの、俺らが口出すことじゃないのは分かってるんですが……」
「天河原まで……、なんだ。はっきりしないか」
「……それセクハラじゃないですかぁ?」
「「!?!?」」
「ちょ、西野空宵一!!佐久間コーチになんてことを!!」
「だってぇ……、ねぇ?」
「ねぇじゃないですよ!謝ってください!今すぐ!」
「えぇ~、ちょっとめんどくさいね君ぃ」
「めんどくさいってなんですか。あとのそ語尾止めて下さい」
いつの間にか涙が引いて、ぽかんと口が開いていた。ぎゃーぎゃーと言い合いをする雅野君と西野空君においてけぼりになった私と佐久間コーチ。思わず二人で顔を見合わせた。
佐久間コーチも私と同じように、ぽかんとした顔をしていた。なんだかそれがおかしくておかしくて……
「ふふっ」
「!」
「セクハラ…ですか?佐久間コーチさん」
「な、!」
「冗談です。ありがとうございました」
まさか私がそんなことを言うと思ってもいなかったのか、佐久間さんと雅野君が同じような顔をして呆然としていた。それが面白かったので、笑っていると佐久間さんもくすりと笑った。
「まったく……。君には一本取られたな」
もう一度、ぽんぽんと頭を撫でられた。だけど、嫌な気持ちはどこにもなかった。
するとぱしゅんと音を立てて、誰かがフィールド内へやってきた。その姿を確認すると、雅野君がぺこりと一礼をする
「特訓ご苦労だった。雅野、それに天河原中の君たちも協力感謝する」
「勿体ないお言葉です、総帥」
「そして……。色羽 ゆうびくん、だったな。化身の獲得は色羽君自身の努力の成果だ。自信を持つといい。俺たちはその手助けをしたに過ぎない」
腕を組みながら、こちらへ歩いてくる総帥。その言葉の一つ一つが重く感じたと同時に、少し照れ臭かった。「ありがとうございます」と一言言えば、彼は口元を上げた。
「特訓で疲れただろう。これから一緒に食事でもどうかな」
「!」
「本当ですか総帥!行きましょうゆうびサン」
「え、」
「ふ、たまには息抜きも必要だからな」
「え、」
「そうか。では行くとしよう」
ええええええ。私の意志は?と思いつつ、天河原中の皆と別れて、私と雅野君と、佐久間さんと総帥さんとで、黒い車に乗り込んだ。
謎のメンバーで向かった先は、まさかの鬼道財閥のお屋敷で。佐久間さんの手料理だそうだ。な、なんて豪華なんだ……!緊張でカチンコチンになる
「このあとに一人合流するんだがいいか?」
「佐久間コーチもしかして…!」
「ああ、」
「ゆうびサン緊張しすぎですよ。少しリラックスしてください。肩の力抜いて、」
「あ、は、はい」
「あはは、そんなに硬くならないで下さい」
「色羽君」
「は、はい!」
「ふ……」
今は車で鬼道財閥のお屋敷に向かっている。佐久間コーチが運転し、総帥が助手席。そして後ろに私と雅野君が座っているのだが。突然佐久間コーチに声をかけられて上ずった声が出てしまった。その声を聴いて、総帥さんが鼻で笑う。うう、恥ずかしい……!佐久間コーチも、「いきなり悪いな」と言って笑った。
「源田幸次郎、という人物を知っているか?」
「げんだ、こうじろう──、あ、土門さんのチームのGKだった人ですか?」
「なぜその名前を、ああ…、土門の必殺技を研究していたんだったな」
「は、はい」
「なら十分だ。後から合流する人物だ」
「う」
「源田サンはすごいGKなんですよゆうびサン!」
「たしか……」
「KOG、だったな」
「そうです!総帥と佐久間コーチの時代にそう呼ばれてた人なんですよ、すごいですよね」
──意外にも車内は盛り上がり、たまに総帥が鼻で笑っては、佐久間さんが話しかけてくれたり、雅野君が盛り上げてくれたり。話し声は絶えなかった
ご飯は、すごくすごくおいしかったです。
fin
(君が色羽 ゆうびか。よろしく、源田幸次郎だ)
(よ、よよ、よろしくお願いします!)
(ふ、緊張しすぎだ。色羽君)
(て、手……おっきいですね……)
(んー?)
大きな手でなでなでされた。すごい気持ちよくて。目を細めていたら佐久間コーチが「それセクハラだぞ、源田」といった