青春白書
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「いきなり呼び出して悪かったな。歓迎しよう、よくきてくれた。ようこそ帝国へ。雅野もご苦労だったな」
「いいえ、これくらいなんてことないです。佐久間コーチ」
「……ど、どうも」
「あはは、ゆうびサン緊張してます?」
「す、少しだけしてます」
円堂監督に言われた通り、私は一人帝国学園に来ています。それも朝からです。昨日の夜に雅野君から連絡をもらい、学校自体を休んで特訓をすることを教えてもらいました。……のはいいとして、まさか雅野君が迎えに来てくれるなんて思いませんでしたよ……!
しかも校門まで来てみると、帝国の美人さんこと佐久間コーチが出迎えてくれるという……なんという手厚い送迎でしょう
「こんなところで立ち話も何だ。さっそくで悪いが特訓に入らせてもらう」
「ッ、」
「──とは言ってもまずはグランドに行ってからだがな」
「は、はい…」
にこり、と綺麗に笑う佐久間コーチ
あまりの綺麗さに視線をずらした。──少し待てよ?と自分の脳裏がささやいた。特訓に、雅野君はいるのだろうか……?
わざわざ雅野君に迎えを頼んだ理由は?
佐久間コーチが出迎えてくれた理由は?
………グランドまで雅野君が付いてきてくれる理由は……?
ごくり、と唾液を飲み込む
パシュンと機械的な音を響かせて扉が開いた。ふわりと鼻を掠める芝生の香りに、そこがグランドであることを察知する
「集合!」
グランドへ入り、佐久間コーチが大きな声でそう呼びかけた。すると、一斉にグランドにいた選手がこちらを振り向く
「──え」
そして小走りでこちらへ走ってきた。3人の人影──そのうち二人は見知った2人だった
「全員手加減はするな、作戦通りに行く」
「「はい!」」
「よ、4人……?」
「俺も入れてくださいね、ゆうびサン」
「へっ!?」
「久しぶりだな、ゆうび」
「久し振りぃ~」
「………試合以来だが、よろしく」
さてお分かりいただけただろうか。
隣にいたはずの雅野君がいつのまにか対面していて、目の前にはずらりと4人が並ぶ。
そう、予感は的中していたのだ。……特訓は私一人だけではない。そして……
「雅野、喜多、西野空、星降──この4人と今からミニゲームをしてもらう」
26.黒き思い
無駄話をしている暇などなく、特訓は始まった。これが帝国のコーチの教え方なのかと身をもって知ることになる
「はぁっ、は、……あ!?」
「動きが鈍いよゆうび~?そんなんじゃ、まだまだベンチだねぇ~」
「っぐ!」
「おっと、取られちゃった~……」
向こうは三人が動いていて、こちらは一人きり。勝ち目がないことなんてわかっている。体力だって、かなうわけがない
開始30分でもう息は上がっていて、このざまだ。そこからさらに30分は経過している
「はぁっ、は!ッ」
すぐに喜多君と、もう一人の天河原中の人に囲まれた。足止めされているうちに、もう西野空君が後ろまできている
足にももう力がでない。──……もうだめかも
「……き、たくん」
「その程度でいいのか。ゆうび」
「これが、わた、しの、げんかい……です、」
「──神童君はそれでも走る」
「!」
ドクン、と心臓が高鳴った
高揚とか。不安とか、そういうものじゃない。ドロリとした何かが脈だっているのだ。吐き気を伴いそうな何かが、胸をつっかえて息を上がらせる
"まだまだベンチだねぇ"
"神童君はそれでも走る"
──私は彼らより劣っている……?だから、試合ににも出させてもらえないの?女だから?力不足だから?なにも、できないから?
い や だ
私も試合に出たい。戦いたい、力になりたい。私の限界は、こんなものじゃない。まだ、まだ。まだまだいける
ドクン
喜多の一言を聞いてから、少しも動かなくなったゆうびに周りが困惑した。そして喜多が一歩動こうとした瞬間の時だった
「!」
ゆうびが勢いよく顔を上げた。そしてその瞳にはまるで生気はなく、諦めたような顔つきであり、その場にいた誰もが見たことのないゆうびの表情に、硬直した
「ゆうび…?おい、大丈夫か?」
「ッ、キャプテン離れて!!」
「(失敗、か!?)」
それは見ていた佐久間にも言えることだった
******
私と彼らで何が違う?根本的にちがうのは体格、性格、体力、力……。上げていったらきりがない。そうだ筋力だって、足腰の強さだって、所詮は知れている
どうせ無理だったんだ
彼らと同じステージに立つことなんて。私は弱すぎる。何をしたって無駄でしかない。その差は歴然なのだから
"我慢させる"
"すまないな"
"それは違う"
"何も知らないくせに"
"サッカーなんてやめちまえ"
"ベンチがお似合い"
"神童君はそれでも走る"
"試合に出てないやつにわかるわけないだろ"
な ら 試 合 に 出 し て よ
私と、誰かを比べるのはもうやめて。出たい、出たいの。でも出させてもらえないの、見て、ちゃんと私を、見て……!!!
「わたし だって」
凄まじい突風とともに、砂埃でゆうびが見えなくなった。竜巻がゆうびを包み込むと、中から禍々しい何かが姿を現す
ビリビリと肌を出すような雰囲気を纏うソレに、3人は口を開けたまま距離を取った
「……本当にでた」
「ッ、これがゆうびの……」
「っとに、人が悪いよねぇ。この役を僕らにさせるなんてさ、誰が考えたの?」
「ッ、これがジョーカー……、色羽 ゆうびの化身か。……見てるか?鬼道」
怒りに身を任せ、ずっと心の中に押し殺してきた感情は"憤怒"
どうして誰も自分を見てくれないんだと。女だからじゃないなら、どうして試合に出してくれないんだと、彼女は怒っていたのだ
そして同時に、それは嫉妬でもあった
いずれにせよ、彼女を"ジョーカー"に仕立て上げたのは彼女の中に眠る黒い思いだった
「怒りから生まれた化身か……まさに"黒き者カーリー"だな」
どうして今日帝国に連れてこられたのか。この4人と特訓することになったのか。最初から"コレ"が目的だったのだ
久遠監督も、円堂監督も佐久間コーチも
でも、これで試合に出してもらえるならそれでいいと、心から思った
fin