青春白書
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私は冷や汗がダラダラだった。何もしていないのだが、何か悪いことをしてしまったような気分である
「帝国学園……?」
「そんなの可笑しいド!準決勝の相手は青葉学園のはずだド!!」
部室で聞かされた言葉は、耳を疑うものだった。話題の中心となっているのは、準決勝の相手である。
それが、帝国学園。
昨日といい今日と言い……、気まずさが拭えない
春奈先生曰く、今朝になってブロック変更が行われただとか。理由は分からないが……おそらくフィフスセクターが動いたのだろう
「(西野空君が、……。フィフスセクターに一番近い学校だと)」
雅野君、シードなのだろうか。
いや。たとえシードでも構わない。私は彼を大切な友達だと思い続ける
それに私は雅野君にサッカー部だとは言っていないから、まぁ、危険性はないと思う
20.聖帝といふ人
監督は、ワケあって10人で戦うと言った。……と、言うことは私を試合に出さないということだ
また、出してもらえないのか。理由も分からないまま……。ぐっと手を握った
「とは言っても、帝国相手に一筋縄ではいかないな……。何か策を考えないと、」
「監督、考えがあるのですが……」
「なんだ?神童」
「"アルティメットサンダー"を使ってみたらどうかと思うんです」
「アルティメット、サンダー……」
どこかで聞いたことある名前に、ふと脳裏に浮かんだのは、一乃達と試合観戦に行った時のことだった。……成功はしなかったが、決まりさえすれば、強力なタクティクスだと思う
「以前久遠監督と考えてたんです。あれを使えば、帝国学園の鉄壁の壁を突破できるはずです」
確かに、あのタクティクスなら。……しかし、できればの話だ。
というわけで、神童さんの提案で、アルティメットサンダーを試すことになった
「ゆうびは一度下がって、皆の動きをよく見ていろ」
「え、」
「いいな?」
「……は、い」
練習に加わることも、できなくなってしまったのか。とネガティブ思考に支配される。
……いや、いつか試合に出るためにも。あの中の誰かが出れなくなったときに代用として使えるようになるためにも。……しっかりの彼らの動きを頭に入れようと思った
「ゆうびちゃん、これ帝国の選手データ何だけど……。目を通してもらえる?」
「え、あ、ハイ──あ、」
「?どうかしたの?」
「い、いえ……」
春奈先生に手渡された紙に目を走らせた時だ。一番上に、見知った漢字が飛び込んできた
「雅野、麗一……」
"新しいGK"と言った西野空君を思い出す。恐る恐るポジションを探すと、そこには──GKの文字が
「やっぱり、サッカー部……だったんだ」
ぽつりと呟いた言葉を、春奈先生と円堂監督が聞いていたとは知らずに、ぎゅっと紙を握りしめた
結局その日は"アルティメットサンダー"は完成せずに、終わってしまった
*******
今日は喜多君たちとの特訓は休みの日だ。
だから久しぶりにまっすぐ家へと足を運ぶ
ゆっくりと自分のペースを保ちながら、薄暗い道を歩く。確か、剣城君に引き込まれたのもこのくらいの時間だったなぁとか考えていたら、視界に高級そうな車が目に入った
「……色羽 ゆうびさんですか?」
「ッ!?」
普通に通り過ぎようと思っていたら、車のドアが開き、中から数人出てきた
思わず足が止まる
「な、な──」
「聖帝がお呼びです」
「ん、ぐッ!」
なにこれ、デジャヴ?
今度は路地裏ならぬ、車の中に引きこまれた。しかし、今回は全く知らない人に。
どうやら誘拐ではないらしいが、黒いスーツを身にまとっている人たちからはいい印象は持てなかった
……ちょっとまて、いま、聖帝って言わなかった?
********
本日二度目の冷や汗。しかも、今度は尋常じゃないほど、冷や汗をかいているのがわかる。
ゴグリと唾液を飲み込む。その行為でさえ、今はいっぱいいっぱいだった
「フッ……そんなに固くならなくてもいい」
「い、いい、いえ。そ、いうわけ、には」
「フン、」
鼻で笑われた
緊張のあまり、声が裏返る。周りに控えているお付の人たちも、聖帝につられてかクスクスと笑ってくる。……なんと居心地が悪いのだろう
ここは、おそらく、フィフスセクター本部なのだろう。薄暗く、そしてバカ広い一室に私はいた。そしてそこには、電子系のぼやけた明かりが、部屋の中心で光っているだけである
その奥に──私を呼び出したと思われる人物がいた
高いところに座り、私を見下している人物。彼こそが、フィフスセクターの一番偉い人……聖帝だ
「さて。単刀直入に言おう」
「!」
ドキリと心臓が跳ねた。
一体何を言われるのだろうか。……ちゃんと今日家に帰れるのだろうか。少し不安になってきた
「──シードになる気はないか?」
「……へ」
「君は、試合に出たいのでは?」
「……」
「絶好のチャンスだとは思わないか?シードになれば、試合に出ることも容易い」
「で、すが……」
「……確か君には幼馴染がいたね?」
「!!」
「彼は素晴らしいサッカーセンスを持っていると聞いた」
「ッ、」
「もう一度聞こうか。シードに、なる気はないか?」
名案だろう?と口角を上げ、目を細めた聖帝に、何も考えられなくなった。
頭が真っ白になる。
今、この人なんて言った?シード?それよりも、雪村君のことを、知って、?
考えはまとまらずに、口をぱくぱくと動かす。しかし声にはならなかった。見かねたお付の人たちが、「何か言え」と促してくるが、生憎今言葉を出せばろくでもないことを言ってしまいそうだった
そんな私を見ると、聖帝さんはまた口角を上げると、フッと鼻で笑う
「今すぐにとは言わない。またいずれ、迎えに行こう」
「あ、あの、」
「……いい返事を期待しているよ」
「ッ!」
有無を言わせない言葉に、私は引くしかできなかった。
聖帝が帰っていいよ的なことを言うと、お付の人についてくるよう言われてついていく。するとご丁寧にフィフスセクターの人は私を自宅まで送って下さった。
まだ若い青年だった
「あ、の。ありがとうございました、」
「え?あ、いえ……」
送ってくれた青年にお礼を言えば、驚かれた。
とにかく、もう聖帝には会いたくない。心臓が持たない。死にそう
青年が遠慮気味に会釈を返すと、車に乗り込み去っていく。その瞬間に力が抜けて、その場に座り込んだ
「聖帝、さん……」
怖い。
怖い怖い怖い怖い。
次あった時に、ちゃんと断れるか。不安になった。もし、雪村君に何かあったら……、私にはシードになる道しかない
「雪村君……!」
いやだ。彼に、何かあったら、私は、私は……!
震えが止まらなかった
「ぁ……」
もしかして、シードは。剣城君は……誰か、大切な人を揺すりにかけられたんじゃ……?
「そな、の……理不尽じゃないの……!」
涙が止まらなかった
その夜、雪村君から電話がかかってこなかったことから、もっと不安が募った
明日は試合だというのに、最悪の夜だった
fin.