青春白書
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「神童。まだ続けるのか」
「……ハイ」
「やるなら勝手にしろ。俺たちは、試合には一切かかわらない」
「ッ、車田さん…!」
「今日の試合で、ハッキリ分っただド。フィフスセクターに逆らったらどうなるか……」
「やっぱ無理だったんだよね。サッカー取り戻すとか、そういうの」
「だからそれは勝ち続けていけば──」
「お前は黙ってろ」
倉間の強い口調に、天馬は押し黙った
「分りました。……先輩達を巻き込んでしまったことは、謝ります。でも、俺たちは戦います」
神童さんの言葉に車田先輩たちは、何も言わなくなった
そんな会話を耳にしながら、足を負傷した霧野さんの手当をする
「霧野さん、足の具合は……」
「ああ。大丈夫だ。すまないな、」
「……謝らないでください。むしろ謝らなきゃいけないのは、私です。力不足で、皆の力にもなれない、」
「そんなことはない。天馬も言っていたが、俺もお前が努力してるのを知ってる」
霧野さんがそう言ってくれたが、現に、私が交代で出ることはない。きゅっと口を閉じてから、ゆっくり息を吸った
「ありがとう、ございます」
だからそっけない返事しか返すことができなかった
そんな雰囲気の中、後半戦が始まろうとしていた
18.VS万能坂中・後半戦
後半が始まり、車田先輩、天城先輩、倉間君、浜野君、速水君の5人がラインに沿ってポジションから外れた位置に立つ
それが意味することは、本気で試合に関わるつもりはないということだ
試合早々、剣城君が前へ走った。
巧みなテクニックで一人で前に走っていく姿は、とても上手いサッカー選手そのものだった
ゴール前に行き、"デスソード"を打った剣城君。シュートを前に、万能坂中のGKはにやりと笑みを浮かべた
──何か来る
そう思った瞬間に、ずぅんっと圧力がかかった。……化身だ
GKは化身使いだったのだ。
剣城君も知らないシードらしく、剣城君も驚いていた。もちろん予想していなかった故、必殺技のシュートは化身に止められてしまう
しかし、驚くのはまだ早かった
「光良!」
「今度は俺の番──ヒャハハハハ!!」
キャッチしたGKはボールを投げた。そのまま万能坂中のFWに渡り、狂ったように笑う選手の背中から、また同じように化身が姿を見せた。
現れた化身は、その人にとても似合っているという感想を持つ。……不気味な感じ、とか
化身が放ったシュートは、三国さんが太刀打ちできるわけもなく、"バーニングキャッチ"を貫き、ゴールに突き刺さった
ピーッとホイッスルが鳴り、万能坂中に2と浮かび上がる。
「そ、そんな……」
「3人もシードがいたのか……」
驚いたように霧野さんが口に出す。
シードが3人もいるなんて……。本格的にフィフスセクターの片鱗に触れてしまったように思える。現に、フィフスセクターの指示に逆らった雷門を本格的に潰そうとしているのだ
シードの数=化身の数、と考えていいようだ
「アイツ…!また一人で攻める気か!」
「剣城君……」
そうして剣城君は、一人で攻めていき、囲まれた。
シード2人が剣城君のディフェンスに入る。シード同士の戦いとなった。でも、剣城君には彼ら以外の、万能坂中の選手たちも加わった。これでは、不利だ
その気持ちは、神童さんも同じだったようで。DFを振り切り、剣城君に声をかけた
「剣城!お前も俺達と同じ気持ちなら、──連携しろ!!」
「剣城……」
神童さんの呼びかけに、霧野さんがつぶやく。……その時だ。後ろから、不気味な化身使いの人がスライティングを入れてきたのだ。あの角度から決まれば……想像もしたくない
「──剣城君!」
「!」
ここから声が聞こえたのかは分からない。だけど、ありったけの声を振り絞った
すると……剣城君は、神童さんにパスをだし、連携を取ったのだ
──その瞬間だけ、よかった
そのあとの展開はもう、ひどいものだった。ただでさえ5人が動かない、という点で不利だというのに、相手は10人全員動いているのだ
押されないわけがない
3人しか動かない雷門に、一人当たり2人ほど守備に入ってしまえば、動きは止められてしまう。もちろん、そうしても万能坂中には動けるFWがいるのだ
一方的な試合展開に、ベンチにいる私や霧野さんはもどかしくて仕方なかった。
ふと水鳥さんが立ち上がり、前に出てて、息を吸った
「──お前ら!!アイツらのプレー見ててなんとも思わないのかよ!……フィフスセクターがどーのって、色々あんのは分かるけど!それでも、あいつらは、
……同じサッカー部の仲間じゃなかったのかよ!!」
その言葉に、ぴくりと5人が反応した。もちろん、ベンチにいた霧野さんも、……私も
「……なのに手前ら、何も感じねぇのかよ!!」
水鳥さんの言葉は、まるで往復ビンタされたように、じんわりと。そして確実に、心を動揺させた
「"奇術師ピューリム!!"」
「ッ、いけない!!」
どんなに悩もうが、試合は待ってくれない。
不利な状況は変わっていないのだ。点差は2-1。ここで入れられてしまえば、もう逆転の余地がないのだ
「ダメだっ、今の三国さんに、あの化身シュートは止められない!!」
霧野さんの言葉に、絶望が膨らむ。お願い、ねぇ。お願い。
私が出ていれば、せめて、今だけでも。私なら、動けるのに、今だって、もし私がいたら少しは変わっていたかも……
「──……ッうご、いて、!」
悔しくて。悔しくて、ただそれだけが自分の中にあった
拳を作って、自分の服を握りしめる。しわになろうが構わなかった
「動いて」と、願うしかなかった
「"ダッシュトレイン"!!」
「!?」
フィールドから聞こえた声に、顔を上げれば、シュポーっと音を立てて、ボールをカットしている車田先輩の姿があった。
突然のことに、力が抜ける。ぎゅっと握っていた拳も、力が抜けて開いた。
……関わらない、と言っていた車田先輩が。自ら、動いて、いるのだ
「これ以上お前たちの好きにはさせない。どんな相手だろうと構わない!……俺たちは、俺達のサッカーを守ってみせる!!」
「くる、まだ、せ……」
「浜野!俺達も行くド!」
「やっぱいかなきゃまずいっすよねー、この展開!」
「はま、の君、天城先輩……!」
速水君も、流れに押されてディフェンスに入る。目の前の光景に、感動した。バラバラだった彼らが、徐々に一つのチームとして動いたのだ
「──雷門のサッカーを、見せてやるド!!」
天馬から始まって、西園君、神童さん、三国さん……そして、皆へ思いが伝わっていったのだ。
試合の中で初めて見た浜野君の"波乗りピエロ"。天城先輩の"ビバ!万里の長城"
自分の中にあった悔しさが、一瞬にして喜びに変わる
そこで、ボールが倉間君の足もとへ転がっていく。倉間君は……動かない
「ッ、倉間!」
「倉間!」
シードの一人が倉間君に向かって走っていく。それでも倉間君は動かない
「──……倉間君!」
その瞬間のことだった。倉間君が、足元にあったボールを蹴ったのは。
もちろん、おふざけなどではない。剣城君へのパスだ
皆が、自分の意志で。サッカーをしている姿に感動する。気が付けば自然と顔が緩んでいて。はっと気が付いた時には霧野さんがこちらを見ていて…、恥ずかしくなった
「随分嬉しそうだな、ゆうび」
「ッー、うれ、しいです」
「だって、皆が連携してるんですよ。」と答える。霧野さんがなんだか悲しそうな顔をしていた。……なぜかは、分からなかったけど
「(その輪の中に、俺達はいないんだぞ……)」
「"機械兵ガレウス"」
「"剣聖ランスロット"!」
GKの化身と、剣城君の化身がぶつかり合う。その光景を、私たちは祈るように見届けていた。
……その勝負の結果は、剣城君のランスロットが、ガレウスを打ち破った
剣城君の化身シュートが決まり、2-2の同点となる。
勢い付いた雷門が一気に攻め込み、神童さんが"フォルテシモ"を打ち込んだ
GKさんの汗は尋常じゃなく、息も荒かった。……彼に、もう化身を出せるほどの体力は残っていのだろうと推測できる
彼は案の定、化身を出せず、神童さんのシュートを止めることはできなかった
それが指し示すものは一つだけ……
「はい、った……?」
ピーッとホイッスルがなり、スコアに3が浮かび上がってくる
ピッピッピーッ!!と、それ以上に甲高いホイッスルが鳴り響いた。このホイッスルは、試合終了を告げるものだ
「か、た、」
「そうだな」
「ッやった……!」
「うおっ、!」
こみあげてくる喜びに堪え切れず、隣にいた霧野さんに手を回した。
された瞬間に霧野さんは驚いたが、すぐに呆れたように笑うと、そのまま頭をぽんぽん叩いてくれた
そこで霧野さんが足を怪我している。ということを思い出し、サッと血の気が引けた
「すすす、すみません!!あ、足……」
「ハハッ、大丈夫さ。大袈裟だな、ゆうびは」
「……大袈裟じゃないです。」
そういうと、また霧野さんからため息をいただいた
何度目のため息になるのだろう
ってか霧野さん。そんなにため息ついてると幸せ逃げますよ?……雅野君からの受け売りですけど
「ゆうびー!」
「あ、浜野君」
「霧野ちょっと借りるね。ちゅーか、あん時はどーもね」
「あ、あの時……?」
「そ、あの時」
バタバタと手を振って、お礼を言ってくれたのは浜野君だった。あの時、と唸るが……何の時か分からない
見かねた浜野君が人差し指をくるくる動かしながら教えてくれた
「ほら、結局避けきれなかったけど、忠告してくれたじゃん?最初のパスん時!」
「……ああ!」
「あの時呼ばれてなかったらきっと打ち所悪かったからさ~」
「いえ、そんな……」
「ちゅーか、ゆうびのおかげってやつ?」
「だからありがと。」ってケラケラ笑う浜野君。浜野君の笑顔に、つられて私も笑顔になる。
いつも思うけど、浜野君は笑顔が素敵だと思います
「いえ、浜野君こそ。おめでとうございます」
「んー……どーいたしまして!」
「……ってかお前泣きすぎなんだよ」
「っ、倉間君!?」
「うわっぉ、倉間どっから……」
「毎度毎度試合の度に泣かれても困る」
「うわ、辛辣!」
「……なんか言えよ」
「ちゅーか俺のことは無視なのね」とまた笑う浜野君に一目も暮れず、倉間君は、ジロリと私を睨んでくる
「……な、泣いてません」
「嘘つけ」
「……倉間く」
「わ、悪かったな」
「……へ?」
ぽかーん。
今の私の顔を表すならこの一言だろう。彼は一体何のことに対して謝罪しているのだろうと頭をひねる
「あの、」
「……ッもういい!」
「えっ、あ、あの、倉間君?」
「あ~……そんなんじゃダメだよ倉間ぁ」
「うるせーよ!浜野!!」
顔を真っ赤にして怒った倉間君は、「ちょっとこい!」と浜野君をどこかへ連行していった。置いていかれた私を、霧野さんが笑う
「ったく、倉間は素直じゃないな」
「何だったんでしょうか……」
「あー……それは本人の口から聞いた方がいいな」
「え、霧野さん分ったんですか」
「なんとなく、な」
「えぇえ……」
教えてくださいよと口を尖らせれば、霧野さんは笑うだけだった
3-2で、雷門の勝ち。
この試合は、初めての、皆の力で勝てた試合だ。たとえその中に自分がいなくとも、この勝利を、素直に嬉しいと思うことができた
ザッと誰かが私の前に来る。顔を上げる前に、なんとなくだが、誰だか分かった
「──おめでとう、天馬」
ねぇ天馬。この時、私本当にうれしかったんだよ。
私、どんな顔をして笑ってた?
fin.