青春白書
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今日は、2試合目。
万能坂中との試合が行われる日だ。バスの中で会話はされず、南沢さんの姿も見えなかった
ちなみに、剣城君は雷門サッカー部のユニホームを着ている。……なんだか新鮮だ
そう思ってたら睨まれた。……ごめん
「なんだい、この雰囲気はよ」
「……これで試合できるの、?」
「……っ」
今日もまた、ベンチで。
不安げに見つめるマネージャー達に混ざって、私は今日も彼らを見ているだけだ
「監督。俺達はフィフスセクターの指示に従います。……サッカーする機会まで、奪われたくありません」
「……天馬。お前はどうだ」
「俺、考えました。考えて、考えて……」
「それでも!本当のサッカーをやりたいです!!……でも、俺だけじゃなくて、皆と。雷門サッカー部の皆と本当のサッカーをしたいです。だから、フィフスセクターと戦います」
「僕もやります!」
天馬の声は良く響いた。
神童さんと三国さんも、天馬の声を聴いて顔を上げた
「ったく、仕方ないな。神童、付き合ってやるよ」
「霧野……」
「霧野、さん」
「……お前らな。そんな顔するなよ」
神童さんと私の顔を交互に見ると、呆れたように笑った
「忘れるな。フィフスセクターからの指示は0-1、雷門の負けだ」
「……サッカーに嘘はつかない。そう決めたんだ」
「ッ」
天馬の言葉に、剣城君は舌打ちをした。
皆はフィールドに向かって行く中で、天馬が一人こちらに歩いてくる
「て、天馬?」
「ゆうび。俺知ってるよ。ゆうびが河川敷で特訓してるの」
「え、」
「だからそんな顔しないで!俺、ゆうびがサッカーしてる姿好きなんだ」
「天馬……」
「この試合、絶対勝って見せるから」
勝てたとき、笑って「おめでとう」って言ってよ
天馬の言葉に、驚いた。目を見開いて、固まってしまった。そんな私を見ても、天馬はまっすぐに見つめてきた。その気持ちが嬉しかった。だから……せめて、背中を押せれば、
「……約束ですよ、天馬」
「うん!」
そう思ったら、自然と表情筋が緩んだ
17.VS万能坂中・前半戦
『な、なんと先制点はオウンゴール!!雷門、痛恨のミスだァァーッ!!』
開いた口が塞がらない。
試合が始まって、数秒の出来事だった。相手からのキックオフだったのに、剣城君がボールを奪ったところまではよかった
でも、次の瞬間剣城君はバックパス……と見せかけたシュートを打ったのだ
「ッ」
剣城君が試合に出れば、邪魔してくることは分かっていたが、まさかここまでしてくるとは思わなかった
試合が再開されて、パスを受けた天馬が前へと攻めていく。しかしそこで万能坂中のキャプテンマークを付けている人が天馬からボールを奪った。
そして、浜野さんを挟んで向こう側にいる人にパス──いや違う。あれは、
「浜野さん避けてください!!」
「──へ?」
浜野さんが、吹っ飛ぶ。
そして倒れた。
なかなか起き上がらない浜野さんに、ゾクッと背筋が凍った。車田先輩の手を借りて、浜野さんが起き上がる。ベンチでは、一気に安堵の息が出た
しかし──今のパスは、狙いが浜野さんだった。間違いなく、狙っていた。ただのパスが、あんなに強力になるわけがない
嫌な予感がする
「ッ、ま、さか」
雷門を本気で潰す気だろうか
「でも、そんなことしたら、」
誰かが怪我をして。最悪の場合サッカーできなくなる。普通ここまでするだろうか?
そして、この予感は的中した
「「天馬!」」
相手が、パスすると見せかけて、天馬を近づけさせてダメージを最大限に与えたのだ。あの至近距離からのパスを腹で受けた天馬は、地面に倒れる
「皆気を付けろ!アイツらは俺たちを潰すつもりだ!!」
「「!!」」
「潰す…!?」
神童さんも確信したように、声をあげた。こちらまで聞こえた声に、葵ちゃんたちは信じられない、という声を上げる
そうして試合が進んでいくうちに、西園君にエルボーが入る。誰が見ても、ファールだと分った。がしかし、ホイッスルは鳴らなかった
「審判どこ見てんだよ!!反則だろッ、今の!!」
「──審判に見えないよう見方が隠してるんです」
「隠した……って、」
「は、ハイ。どんなに荒いプレーをしてても、審判から見えなければ反則は取られません」
「な、あいつら潰しのプロかよ!?」
風の噂で聞いた"あらゆる方向で万能な選手"って、こういうことだったのかと改めて思う。……もうネット上の情報なんて信じない
天河原中の少々荒いプレーが可愛く見えた。
今ならわかるよ、西野空君。"しつこい"ってこういうこと、ね……
容赦ないラフプレーの嵐に、次々とみんなが地面に倒れていく。声が、出なかった
本当のサッカーを、することはいけないことなのだろうか。どうしてここまでされなきゃいけないんだと、不満が募る
戦慄した──
試合中にも関わらず、フィールドは静かだった。聞こえるのは、ボールが蹴られる音と、衝撃音のみだった
天馬が、一人。奇妙な動きでボールを避け、ダメージを最小限にしていたことから、何度も立ち上がる。
相手にとって、そんな天馬の存在は腹立だしいものであり、天馬は集中攻撃を喰らったのだ
ついに、剣城君が天馬に向かってボールを蹴った。天馬の腹に直撃し、グルグルと回転するボール。あまりの威力にぞっとした
それでも天馬は立ち上がった
そんな天馬に、万能坂中はがらりと潰し方を変えてきた
「え、──?」
ズサッと勢いよく、スライティングを決めようとする万能坂。そうだ。天馬の、足を集中的に狙ってきたのだ
待って、ねぇ。そんなことしたら、天馬の足はへし折れる。それが狙いだというの?……サッカーをしている人にとって、足は……!
天馬の足がつぶれたら、天馬は──
そう考えたら、涙があふれた
もう、見ていられない
「監督!!こ、交代させてください!こ、このままじゃ天馬が──」
「交代はしない」
「な、なぜですか……、」
私が、弱いからですか。と声が出てしまった。その言葉を聞いて、円堂監督がこちらを向く。ああ、やっぱりそうなのか、と地面を見つめる。いつになっても、私は皆と同じにはなれないのだ……私が、弱くて、……女だから
「それは違う。剣城がいるからだ。見てみろ、ゆうび」
ぽんっと頭に手が乗せられる。ちらり、とフィールドに目をやれば、剣城君が万能坂中のスライティングから天馬を守るような行動に出ていたのが見えた
そして渾身の一撃を、放ったのだ
「え、そっちは……」
万能坂中に向かって、シュートが放たれた。
もちろん予測できていた人はいなかったため、GKまでもが動かずにいた
『ご、ゴール!!剣城選手、今度はオウンゴールを打ち消すような同点ゴールだァァアーッ!!』
監督の言葉に重ねるように、実況の声が響き、歓声が大きくなる。
信じられなかった。剣城君が、天馬のために動き、そして万能坂中のプレーに怒りを感じ、シュートを決めたのだ
もしかして、監督はこのことを見据えたうえで剣城君を試合に出したのだろうか。ばっと監督を見上げると、ニッと笑顔を見せた
前半戦を終えた剣城君が戻ってくる。足は、無意識に剣城君のところへと向かった。視界に入れるなり、嫌そうな顔をする剣城君。そのまま素通りされそうになったのを、なんとか引き留めるべく、ユニホームを掴んだ
「天馬、助けてくれた。一点、入れてくれた」
「……」
ぼろぼろ、と涙が出てくる。そんなのお構いなしに、剣城君にお礼を告げた。万能坂中から守ってくれたのは紛れもない事実なのだ
「つるぎ、君。ありがとう」
はっきりとそう告げれば、剣城君は目を見開いていた
その顔はまるで、お礼を言われる意味が分からない、と言っているようだった
fin.