青春白書
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「俺はフィフスセクターを倒すつもりだ。だが強制はしない。それぞれがどんな結論を出そうが構わない」
円堂監督の言葉に、返す人はいなかった
"明日フィールドで待っている"
明日は万能坂中との試合。
風の噂で、この学校はあらゆる方面に万能な選手が集まったチームだというのを耳にした
モチベーションの上がらない雷門。このままでは、フィフスセクターに潰されてしまうと思ったら、じっとしていられなかった。ここまできたのだ。せめて最後まで、最後までもがいてみたい。……わがままかな。でも、中途半端が、一番ダメ。私のポリシーが許さない
河川敷へと、足を急いだ
「あ~らら、付いてきてビックリ。キャプテン。どういうことぉ?」
「……喜多君?」
「……悪い。俺も今驚いている」
おうふ。こんなはずじゃなかった
16.猛特訓。部活よりも動いている気がするのは私だけですか
いつものように河川敷で喜多君と特訓をしようとした。そう、いつものように。二人だけで、広い河川敷を何度も往復し、静かで、無駄な動きがなく、大変為になる喜多君との特訓だった。……が、今日は少し違った。まず、人数。一人増えた
「次の試合は万能坂中か、」
「手強いって、聞いてます」
「喜多ぁ~。暇なんですけどぉ~」
「「…………」」
この男。
黄色い長髪の男。この人も、天河原中の人だというのは分かる。あ、喜多君に眉間のしわが増えた
「……西野空、生憎俺たちは暇じゃないんだ」
「えぇ?そんなの知らないし~」
間延びする語尾に、少々癪に障るものがある。喜多君も口元を引きつらせていた。……結構レアな顔だと思うの私だけですか
「はぁ……。悪いなゆうび」
「い、いえ。喜多君は悪くないです」
「いや。これは俺の責任だ」
どうして喜多君が謝るのだろう。と言いたくなる。「チームメイトが失礼を」と言葉を続けた喜多君。……少し責任感強すぎではないだろうか
喜多君は少し考えるそぶりを見せると、思いついた用に、彼に声をかけた
「西野空」
「何~?」
「暇なのか?」
「そりゃぁもう退屈すぎて欠伸でちゃうよぉ~」
じゃあなんでまだ留まってるの。と言いたくなるような返答に、喜多君はため息をついた
「なら丁度いい。お前も一緒にどうだ」
ピタリ、とその場の空気が凍った
西野空、と呼ばれた彼も、間延びしている語尾からは想像つかないほど、静かになった。その温度差に、緊張が走る
そうだ。彼にとっても雷門は会いたくもない相手であろうに。……特訓に付き合えなどと虫がいい話に決まっている
「……ルールはぁ?」
「特に決まっていない」
「……いいよぉ。付き合ってあげてもぉ」
「いいか?ゆうび」
「え、あ、は、はい」
「よろしく~?ゆうびちゃん」
意外にもあっさりと承諾してくれた。
にっこり、と笑顔を見せた西野空君。意味ありげな笑みに、こちらとしては警戒心が疼いた。……この人、確かラフプレーをしていたような気がする
「じゃ、喜多はこっちもらうからぁ。キミ一人でかかってきなよぉ」
「……な、」
「分りました」
「……西野空、荒いプレーはするなよ」
「さ、始めようかぁ?」
そうして始まったのは、予想していた以上の難しさだった。
ボールに、全く触れることができないのだ。2対1と、有利ではない状態ではあるが、一度もボールに触れられない
この人、強い
ラフプレーなんかしていなくても強い。そう確信した
何度目か分からないほど、また動きが止まった
「は、はぁ!」
「えー、その程度なのぉ。つまんないのー」
「西野空!」
「……ま、だ、です!」
「ゆうび……」
挑発だとは分かっていても、無意識に体が動いてしまった。余裕そうな西野空君たちにかみつくように、ボールに食らいつく
喜多君が心配そうにこちらの様子をうかがっていたが、手加減はしてこない。そこが喜多君のいいところだと思う。いつでも本気で答えてくれるのだ。……雪村君みたいに、
河川敷に響いていたのは、砂が削れる音と荒い息使いだけだった
「もう終わりなのぉ?」
「……は、ぁ、」
「なんかガッカリだわ~。大したことないねぇ、キミ」
「ッ」
「それじゃ、一生ベンチがお似合い~」
「ッ、おい!」
──ふざけるな
「ハァッ、は!!」
「な、!?」
反射的に、身体が動いた。
気が付けば、自分はゴール前まで走っていて。足元にはボールがあって。後ろを振り向けば、ぽかんっと口を開けている西野空君と喜多君が見えたのだ
……一体何が起こったのだろうか
「……そういう、ことだったのか」
「はっ、もぉ、雷門の監督さんえげつな~」
ガシガシと頭を掻いた西野空君の顔は、引きつっていた。「わざとやってたのにさぁ」と文句を言いだす彼に、ますます意味が分からなくなった
「あ、あの……ッ!?」
「気に入ったぁ~。これから僕も来るからよろしくぅ」
「え、」
「なぁに~嫌なのぉ?」
「め、めっそうもございません」
「……悪いゆうび」
「なぁんで謝ってるのさぁ」
「お前のせいだ!」
一応、気に入られた。とっても複雑な気分だった。肩を組まれて、間延びした声が耳に入ってくる。……やはり、しゃべり方苦手だなぁ。西野空君から解放され、ふうっと息を吐いた
「さぁて~次は手加減なしで行くよぉ」
「……西野空」
「分ってるよぉ。喜多しつこいんですけど?」
「……」
「……行きます、」
ざっと二人と向かい合って、深呼吸。さぁ、もう一度。試合に出ても、皆と対当に……いや、それ以上に渡り合えるようになるために。……皆と一緒にプレーをするために
攻守に優れた選手に、なるために
「!」
「早く、なった……?」
西野空君。今日は来てくれてありがとう。喜多君と西野空君と戦って、自分の課題が見えてきた。
私は相手からボールを奪うのはマシだが、自分のボールをキープするのが苦手のようだ
「神童君によろしくな」
「ハイ。神童さんに伝えておきます」
「ま、怪我だけはしないでねぇ?万能坂中は僕らよりしつこいからさぁ」
「……?」
西野空君に言われた一言に疑問を抱きながら、今日の特訓は終わりを迎えた
ふとあの時のことを思い出す。西野空君に"ベンチがお似合い"と言われた時に、心の底からどろりとした何かが競り上がってきた。所謂、闘争心、というものだろうか。とにかく、彼だけには負けたくないという気持ちが大きくなった
「……でも、楽しかった、かも」
闘争心が出てきた時、自分は笑っていたのかもしれない。"負けない"と強く思ったとき、心臓は高鳴ってやまなかった
*******
「我慢が力になる、か」
「あの子、そういうタイプみたいだったしぃ?」
「……そうか」
「イライラとか、不満とかさぁ。我慢してるといつか爆発するじゃん?」
「そうだな」
「怖っわ~。やることぶっとびすぎ」
「……本能、か」
「あの子、いつか爆発するよ」
「……」
「ちょっとの挑発であの動きだもん。もしかしたら化身出しちゃうかもねぇ~」
「……今なんて言った?」
「え?……だから、化身出しちゃうかも…って」
「もしかして、」
監督の狙いって──
帰り際にされていた二人の会話を、知る手立てはなく。ゆうびはただただ、今日の気持ちを忘れないように、ノートに綴るのだった
fin.