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試合で勝ったというのに、祝杯を挙げる声はなかった。
昨日の今日なのに、朝練の雰囲気は最悪だった。部室に集まるなり、他の部員たちが不満を一気にぶつけてきたのだ
「お前らのサッカーを俺たちに押し付けるな」
南沢さんが、怒りを含ませた口調で言う
「指示に逆らって、フィフスセクターが黙ってるはずないだろ。お前たちは廃部になってもいいのか」
「は、廃部!?」
「……逆らって、廃部になった学校はいくつもあるんだ」
「え、?」
南沢さんの容赦ない言葉に、返す言葉もない。何も知らなかった天馬は、"廃部"という言葉に過剰反応した。そんな天馬に霧野さんは、付け加えて言う
「ハッ、そんなのもしらねぇのかよ」
「……怖いんですよ」
悪態を付く倉間君に続けて、速水君がネガティブ発言をした
……皆がサッカーを好きなのは承知だ。だからこそ、サッカー部を続けるためにやりたくもない管理サッカーをやってきたのだということも、わかってるつもりだった
「……神童。俺もお前の気持ちと一緒だ。だけど、南沢さんたちの言いたいこともわかる」
「霧野……」
「……今まで通りやるしかねぇんだよ」
「倉間君、」
「お前らに付き合って、将来を無駄にはできない」
南沢さんお言葉を最後に、皆はそれぞれ個人の練習をし始めた
皆は、ただ自分のサッカーを守りたいだけなんだ、と。改めて思い知った
ぐ、と拳を握って、立ち上がろうと思って足に力を込めた。瞬間に痛みが体中を走る
スタスタとフィールドへと歩いていく彼らに追いつこうと、何とか立つが、一々痛い。これは、まさか……筋肉痛?
「ゆうび?」
「ッし、神童さん、」
「ど、どうしたんだ?」
ふらふらしていたところを神童さんに見られ、思わず顔を逸らす。すると何を誤解したのか、また悲しそうに眉を下げた。い、いかん。これはいかんぞ
「あ、あの……き、筋肉痛で、」
「……は?」
そう言うと神童さんは呆れたようにため息をつくと、さりげなく手を背中に添えてくれ、背中を押してくれた
優しさが嬉しくなった
「あ、ありがとう、し、神童。」
「!!」
「さん……」
「……いや、」
はぁ、とため息をついた神童さんと一緒に、遅れてグランドに歩く。ついでにシードと化身の確認もしておいた。どうやら大体自分の推測通りであった
15.繰り返す
今日の放課後の練習は二つに分かれていた。それは勿論、今日の朝のことで、だ。最悪な雰囲気の中、珍しい存在が姿を現す
「……剣城君」
「「!」」
ザワリ、と煩くなるフィールド。それはそうだ、彼はシード。フィフスセクターの息のかかった者なのだから
「──俺を次の試合に出せ」
「ああ、いいだろう」
「!?」
ついに、シードが動いた。皆が不安を募らせる中、円堂監督は肯定の返事を返す。そのことにさらに不安が積み重なった
2軍のように、潰されてしまうのだろうか
ぞわり、と背筋が凍った
シードである剣城が出る。それはつまり、指示通りのサッカーをさせるためのストッパーということだ
それが指し示す意味も、ただ一つ。
「もう雷門サッカー部は終わりだな」
「ッそんなぁ、」
倉間君の言葉と速水君の言葉に、鳥肌が立った。お、わり……?
「そんなの可笑しいですよ……!」
「て、天馬、」
「本当のサッカーをやったらいけないなんて、可笑しいです!こんなこと、あっちゃいけない……!サッカーだって、そう思ってるはずです!!」
ここでも天馬が、正直なことを言う。皆がその言葉を聞いて、拳を作っていた。……天馬は地雷を踏んでしまった。カチッと音を立てて、その爆弾は爆発する
「そもそも、こうなったのはお前のせいじゃないのか。お前が入部しなければ、こんなことにはならなかったはずだ!」
「──っ倉間君!」
堪えきれなくなった倉間君が、辛そうに眉を顰めながら言いのける。あまりの言葉に、口をはさめば、ギッと睨まれた。それだけで、金縛りにあったみたいに、動けなくなった
私は、この目を、知っている
「ゆうびは黙ってろよ!試合に出てないやつには分からないだろ!!」
声が、出なかった
「今のサッカーがおかしいのは初めから分ってた。っ、それでも我慢してきたのは、サッカーを続けたいからだ!!──俺達からサッカーを奪うような真似するなッ!!」
言われてしまった。あの時と同じ、言葉を。同じようなタイミングで
「う、ばう…なんて。俺は、ただ本当のサッカーを……」
「それがこの結果だろ。全員、サッカーを奪われるんだよ。──お前のせいで」
言い返さないと。また、誰かが去って行ってしまう。そんなの、ダメだ
「円堂監督」
「!!」
嫌な予感ほど、よく当たる。なんて誰が考えたんだろう。そんなこと、予感したくなかったのに
追い打ちをかけるように、聞きなれた声がフィールドに響いた
どうして、
「俺、退部します」
「み、なみ、さわさ──」
"止めないでください"
その言葉は出なかった。南沢さんの目には迷いがない。希望もない。……何もかもを捨てたような顔になっていた
「ッ、雷門サッカー部を潰そうとしてるのは、フィフスセクタでも、剣城でもない。本当はお前のほうじゃないのか!!」
倉間は、皆が言いたかったことを言いきった。フィフスセクターに従おうとしている人たちにとって、それは暗黙の了解の域であったのに、それを言ってのけた。そのカギを開けたのは、南沢さんの退部宣言だった
倉間にとって、南沢さんは大事な先輩。車田先輩たちにとっては、大事なチームメイトだったのに
"今日も立派だな、お前のアホ毛"
私にとっても、大事な先輩の一人だった。また同時に、一緒にいて、楽しい、と思える人でもあったのに
「……南沢さん」
また、泣いた
********
ガタンと音を立てて電車が河川敷を通り過ぎていく
練習を終えて、また河川敷を訪れた。そして思い出すのは、倉間君に言われたあの言葉。"試合に出てないやつは分からないだろ"だった
倉間君の顔と、吉良君の顔が重なった。その光景は、私の脳裏に焼き付いている。トラウマって恐ろしい。思わず自分で自分を笑った
「また、言われたなぁ……」
「何をだ?」
「!」
ざっと姿を見せた人に、一瞬警戒するが、彼は笑いながら「やぁ」と片手を上げ、挨拶してきた
「喜多君、でしたか」
河川敷で私の練習に付き合ってくれているのは、喜多君だ。
そう、あの天河原中のキャプテンだ。
彼曰く、「俺も神童君たちの力になりたい」とのことだった。その理由で私の特訓に付き合てくれてるわけだが……
「それで、何を言われたんだ?」
彼も隣のベンチに腰を掛けて、話を聞いてくれる体勢になる。言うべきか言うまいか迷ったが、喜多君は一歩も引かなかった。い、言うしかないらしい
「……チームメイトに、"試合に出てない奴は分からないだろ"と」
「……なるほど、な」
その一言で何かを察した喜多君。流石、つい最近試合をし、雷門中の現状を目の前で味わっただけあると思う。話が早い
つらつらと、今日あったことを言った。そしたら無意識に手に力が入り、自分の腕が赤くなるまで抓っていた
「……私も、試合に出たい、です"」
「ああ」
「み、なが、見てるものを、いしょに、」
「…ああ」
「ふぐっ、」
「……今は泣いてもいいぞ」
「っ~~~」
優しい声色でそう言われて、堪えていた涙がぶわっと溢れた。涙は止まらず、その場で泣いた。喜多君は無言で頭を撫でてくれた
大分落ち着いたところで、喜多君がタオルをくれる。新品だったのか、ふわふわして触り心地最高だった
「強く、なりたいです、」
「お前なら大丈夫だ。十分戦力になる」
「、でも、」
「……、監督に何か言われないのか?」
試合に出せないみたいなことを。と付け足した喜多君に、ふと思い出したのは、久遠監督の言葉
『お前に我慢させる』
もしかして、このことだったのだろうか。それでも辛い。試合に出ていないというこの疎外感が、私をびしびしと刺してくる。いつまでたっても、1軍の皆と分かり合えないのだろうか。そんな不安に襲われる
また泣きそうになった私に、喜多君が立ち上がり、私の前に立った。屈んで、視線を合わせてくる。視界に入った喜多君に、顔を上げると、視線がかち合った
「よし。じゃあ今日はこうしないか」
「……?」
ふっと口元を緩めた喜多君は、今日はミニゲームをしようと言った。一対一でシュートを入れた方の勝ちという、簡単なミニゲームだ
「勝った方が、何かを奢る。どうだ」
ぱちくり、と瞬きをした
名案だろうと言わんばかりに目を細めた喜多君に、思わず笑ってしまった。
「その勝負、乗ります」
「いい返事だ」
ニッと口角を上げた喜多君は、カッコ良かった
結局二人とも同点で。二人して同じものをお互いに買って交換して食べた。アイス、おいしかったです
「俺は雷門を応援している。だからゆうびも諦めるな」
「は、ハイ」
「……頑張れよ」
フッと笑った喜多君。……喜多君モテるだろうなぁと考えながら、手を振った
「……神童君。気になるくらいなら声かければいいのに」
「なぜ、お前が」
「俺は神童君たちを応援してる。だからだ」
「……、そうか」
「あまりゆうびを泣かせるなよ」
「……わかっている、」
fin.