青春白書
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後半が始まった
ボールは雷門からで、浜野さんが天馬にボールをくれた。天馬が西園君にパスをする
「天馬って、あんなにパスが上手かったか?」
「信助も、あんなにドリブル早かったですかね?」
顔を見合わせてる水鳥さんと葵ちゃん。ベンチからでもわかるほど、二人は、栄都学園の時よりも上手くなっていた
「いいぞー!!天馬!」
水鳥さんの声援を耳に、試合経過を見つめる。あの二人を見ていると、こっちまで気持ちが昂る。とても新鮮な気持ちになるのだ。サッカーを始めたときのような、新鮮な気持ちがこみあげてくるのを感じた
でもやはり出るのは実力の差で、天河原にボールを奪われてしまう
ゴール付近で、天河原が大きくセンタリングをする。そのボールはそのまま例の隼総とかいう人に渡ってしまうように思われた
「!!」
それを三国さんが止めた
円堂監督の言葉に、思うことがあったのだろう。また天馬たちのプレーに感化されたんだろう。三国さんの目にもう迷いはなかった
「この試合、勝つぞ!!」
「「「はいっ!!」」」
三国さんの、さっきの円堂監督の問いの答えは──"勝ちたい"だ
三国さんの後ろ盾をもらった3人は、神童さんの神のタクトで敵陣内へ切り込んでいく。天馬のドリブルのスピード、信助の高いシャンプ力を活かしたパスなど、計算しつくされたゲームメイクが展開した。もちろんそのプレーに天馬や西園君は追いつけていた
しかしそこで終わるシードではなかった
「ッお前らには負けてもらわなきゃ困るんだよ!!」
"困る"
隼総君の言葉に、動けなくなる。彼は今困ると言った。困る、その言葉は剣城君も言っていた。……シードってなんなんだ。一体何に縛られているんだろう
なんて考えているうちにも試合は進む
ズゥンと空気が重くなった。また化身とやらを出したのだ
化身のシュートを放つ。しかしそれを遮ったのは天馬と神童さんだった。しかも、天馬も彼らと同様に背中に何かが浮かび上がった
「あれ、は化身……?」
天馬も化身を使えるの?
二人のおかげでシュートの威力は弱まっていた。そのシュートを、三国さんは"バーニングキャッチ"で阻止した
そこから天馬へ、天馬から神童さんへ渡った。神童さんは立ち止まり、手をクロスさせた
「神童さん──!」
彼なら、化身を出してくれる。そんな予感がした
「"奏者マエストロ"!!」
あやふやだった神童さんの化身。今度は立派な圧と、存在感を溢れさせそこに現れた。なんて、神々しいんだろうか。化身を操り、敵陣に向かってシュートをした神童さんは。
そうして放たれたシュートは、強力なもので。天河原に止めるすべはなかった
高らかなホイッスルが鳴り響き、試合終了を告げた
スコアには2-1
そこには勝敗指示通りのスコアなどなかった。そうして、勝利を収めたのは雷門中だった
『地区予選初戦、勝ち進んだのは……雷門イレブンだぁぁぁあ!!』
ワァァと盛り上がる会場に、喜び合う神童さんと三国さん。そして天馬と西園君。彼らは、勝敗指示を無視し、勝利を収めたのだ
彼ら以外の他の皆は──呆然と突っ立っていた
******
試合を終えて、うずうずする体を抑えきれず河川敷へと向かう
こんなにうずうずするのは初めてで、自分でもどうしたらいいか分からなかった。でも、とりあえずサッカーがしたい。その気持ちで一杯だった
「……よし、」
誰もいない河川敷
ジャージの足もとを少しばかり捲り、七分丈ほどにする。そうしてスポーツバックを置いてボールを取り出した
「もっと、強く……」
目標を定め、イメージする。今の自分に足りないのは、攻める力だ。いつかの日、円堂さんとここで特訓したシュートを思い出しながらドリブルをした──時だった
「……帰らないのか?」
「ッ!?わ、」
いきなり声を掛けられ、勢い付いた私は空振りをし倒れそうになる。ああもう、私の馬鹿。と脳裏で思いながら、来るであろう衝撃に備えて、両手を前にだした
「す、すまない。邪魔をするつもりはなかったんだ」
ふわりと柔らかいものに包まれる。一瞬何が何だか分からなかったが、上から声が降ってきて、誰がに受け止めてもらったのだと分かった
「あ、すみません、あの。ありがとうございます」
「いや、悪いのはこっちだ。すまなかったな」
「い、いえ……」
眉を下げて、笑う彼の顔を見て、思考が止まる。だって彼は──
「……神童君たちと帰らなくて良かったのか?」
「……ハイ。どうしても体を動かしたくて」
「君はマネージャーじゃなかったのか」
「い、一応選手です」
「なるほどな、隼総が睨んでいた意味が分かった」
「は、はぁ……」
にこりと笑みを浮かべる彼に、答えている自分に驚く。なんで私この人と普通に会話しているんだろうか。というか、え、はやぶさ……?隼総君!?睨まれてたの!?
反応に困っていると、彼はぶっと吹き出した
「す、すまない。気を悪くしたなら謝る」
「……あの、そんなに面白いですか?」
「き、君の顔が……クッ、!」
「か、顔!?」
肩を震わせながら言葉を粒いでいく。「考えていることが手に取るように分りすぎて、」とまだ笑っている彼を、少しジト目で見てやる
端正な顔立ちで切れ長の目で下まつ毛が長い彼は、オレンジ色の髪を一本で結んでいるため、表情を隠すものは何もない。彼の表情は、それはそれは笑っていた。
いきなり笑われて、気分がいいとは言えない。そんな私を察したのか、目の前の彼はまた謝ってきた。……なんかこの数分で謝られてばっかだと思う
「、謝らないでください」
「いや、本当すまん」
「……、ふふっ」
「!」
謝るなと言ったそばから謝った彼に、思わず笑いがこみあげた。それにつられて、彼もまた笑う
こうしている間にも時間は過ぎていく。電車が一本通り過ぎた音を聞いて、我に返った。そうだ、私はサッカーをやりにここに来たんだ
「あの、」
ここは、引いてもらおう。そう思って声をかけると目の前の彼は、顔をきりっと変えた。そうして私の言葉を遮って、彼はサッカーボールを手に取った
「君の練習に付き合わせてくれないか」
「……へ、?」
また電車が一本、河川敷を通過した
fin.