青春白書
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晴天の中、ホーリーロードの関東地区予選の開会式が行われた。空中ではカラフルな雲を吹き出しながらジェット機がアクロバティック飛行を披露している
天馬や西園君以外は、フィフスセクターに従うと言っていた。正直言うと、勝ってほしいという願いがあるが……私は、ベンチ待機だ
もし私なら、試合に出て天馬と一緒に勝つためのサッカーをするだろう。私も勝ちたい。フィフスセクターは間違っている
ぎゅっと拳を握る
「そんな顔するな。あいつらなら勝てるさ」
ぽんっと頭に置かれた手に顔を上げる。そこには笑顔の円堂監督がいた
13.VS天河原中・前半戦
開会式のあと、すぐに天河原中との試合が始まった
試合早々、天河原中が緩い感じに攻め込んでいく。フィールドで目まぐるしく動いているのは天馬と西園君ぐらいだった
三国さんが、辛そうに目を閉じる
目の前には天河原中のシュートが迫っていた。その辛い顔に、私の心臓も握りつぶされる。また、一点入れられるのか。嫌だ、嫌だ。ねぇ、三国さんの顔を見てよ。試合中に、あんな顔をしてるんだよ。……本当に、これでいいと思ってるの
見たくなくて、ぎゅっと目を閉じる
──でも、いくらたってもホイッスルは聞こえなかった。代わりに聞こえたのは騒々しい声だった
ザワッと騒がしくなるフィールドに、目を開ければ、そこには三国さんの前でボールをカットした神童さんの姿があった
「俺は……フィフスセクターの指示には従わない。本気で勝ちを取りに行く!!」
「し、んど?」
「チッ……神童」
今、なんていったの?
呆然と立ち尽くす私に気づいたのか、神童さんは一度こちらを見た
すると、にこっと柔和な笑みを見せてきた
「──!!」
蘇る、一年前の記憶。皆がセカンドで、いつも全力でサッカーに挑んでいた時に見せた表情と、同じだった
またも、泣きそうになった
神童さんは天馬と西園君に的確な指示をだし、前へ前へと切り込んでいく。天馬も"そよかぜステップ"を使いこなしながら前へと走っていった
流れるように前へ攻めていく
「"フォルテシモ"!」
神童さんの必殺技が、フィールドに響く。そしてそれは、相手にとって予期せぬことだった。完全になめ切っていた天河原中のGKは簡単にシュートを許した。流れるようなプレーを作り出したのは、神童の"神のタクトだ"
ピーッとホイッスルが鳴り、雷門のスコアに1と書かれる。雷門は、またフィフスセクターの指示に逆らったのだ
ふと、脳裏に過る
もしこのまま雷門が勝ったら剣城君はどうなるんだろうか
「キャプテンとしてお前らに言っておく。この試合、俺達雷門中が──勝つ!!」
フィールドだけじゃなく、ベンチも戦慄した
「刃向うつもりか……バカめ」
ぽつりと呟いた剣城君。神童の宣言でも、やはり動くのはあの3人だけだった
「天河原中の動きが、!」
「ッしん様!」
瞬時のことだった。雷門が刃向った、と判断したのか、天河原中は荒いプレーをしていく。でもホイッスルはならない
激しく攻められ、なんとか守ろうと神童がDF陣に指示を出すも、誰一人として動かなかった
それはつまり、神のタクトが使えないということを指している
そして何を思ったか神童は自分で動いた。そんなことをしては、体が持たなくなってしまうのに。と声が出そうになるのを抑える
試合に出て、力になりたい。今度こそ、皆の力に。
ズシンッ
「──!?」
一気に圧が増える。ぶわっと嫌な汗が吹き出して、身体が震えた
「な、にあれ……」
目の前に広がる、神童さんと対当した天河原中のFWさんが背中から何かを出していた
圧倒的な存在感に、目を逸らすことができなくなる。また、その存在に恐怖を覚えた
天河原中のFWが凄まじいシュートを放ち、目の前にいた神童を弾く。そしてそれは……まっすぐ三国さんに向かって行った
「三国さん!」
一瞬の出来事だった
三国さんが技を出す暇もなく、ネットに突き刺さるのは
いてもたってもいられず立ち上がる
「お前に何ができる?」
「ッ!」
剣城の言葉がグサリと自分を突き刺した。そうだ、私に何ができるというんだ。試合にも出してもらえずに、ただ泣くことしかできない私に
グッと拳を作る
悔しい、悔しい。何も、何も言い返せないなんて。
「……強く、なりたい」
「……!」
また、生ぬるい液体頬を伝った
同点になったところで、前半を終えるホイッスルが鳴り響いた
*******
控室へと移動し、みんなにタオルやドリンクを渡す。もちろん、その間に会話は一つもない。なんだかデジャヴのような気がした。いや、違うけど。前も、こんな雰囲気だったのに変わりはない
見かねた天馬が声を出す。天馬の声は、静かな控室によく響いた
「み、みなさんどうしたんですか?まだ同点じゃないですか!もう一点取れば、俺たちのか──」
「俺達の"勝ちか"?……本気で勝てると思ってるのか」
「何っ?」
「天河原中の隼総は俺と同じシードだ」
剣城君の一言で、控室の雰囲気が変わった
シード?聞いたことのない言葉に混乱したが、とりあえずフィフスセクターの息のかかった者なのだろうと自己完結しておく。今度神童さんに確認したいと思う
「奴は化身を自由に操れる。……キャプテン、アンタと違ってな」
シードの次は化身。そうか、あのFWさんが隼総という人で、シードなのか。つまり、あの背中から出ていた、あれは化身……?というものなのだろうか。これも、神童さんに聞こう
「それでも勝てるのか?」
剣城君の問いに、脳裏に浮かんだのは化身だ。化身が怖かったのは、私だけではない
「あんなの出されたら……」
「勝てるわけないじゃないですか、」
「フン、ようやく分かったか。お前たちのような雑魚が、フィフスセクターに逆らっても何も変わらない。何も変えられない。……雷門の敗北は決まってることなんだよ」
剣城君の言葉は一々正論だった。そのせいかストンとすぐに胸の中に入ってきて、本当に勝てる気がしなくなってきた
「そんなこと誰が決めたんだ?言っただろ。誰であろうが試合の前に勝負の結果を決めるなんて許されない」
しかしそんな不安も、円堂監督の言葉に上書きされていく
「勝負の行方を決めていいのは、勝利の女神ただ一人だ」
「勝利の女神……?」
「だが、本気で勝負に挑まない奴に勝利の女神は決して微笑まない」
円堂監督が皆の座っている周りを歩いていく。それぞれのサッカープレイヤーの本能を語っていた
どんなシュートでも止めてみせる。どんな相手でもドリブルで抜いてみせる。誰よりも強いシュートを打ってみせる
「……仲間とともにあり続け、そして勝ってみせる。それがサッカープレイヤー。皆の思いだ」
ぽんっと頭に手を置かれ、びくりと肩が跳ねる。ついでに心臓も飛び跳ねた。"仲間とともにあり続け"……?それは、ベンチでも同じことなの?
円堂監督の言葉も、正論だった。でもそれは剣城君のとは正反対で、私たちに顔を上げさせるほどの説得力だった
──本当に負けてもいいのか
円堂監督の問いかけは、すんなりと自分の胸に落ちてきた
──そんなの、嫌だ
fin.