青春白書
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「ホーリーロード、初戦の組み合わせが決まった。雷門は天河原中と対戦する」
(……ゆうびは、またベンチかぁ)
(僕たちでてる!)
「……はぁ、」
……気が乗らない。今日のモチベーションは最悪だ。監督が話していることが右から入り、左へと流れていく。ただ、頭の中には昨日の剣城君しかいなかった
「天河原中か……」
「あそこは汚い手を使うって有名だド」
「ちゅーかラフプレーが多いんだよなぁ」
「あいつら普通に強いのに無茶苦茶するから怖いんです」
いよいよホーリーロードが始まる。そんな中でも、皆のモチベーションは上がらない。
「2-0で雷門の負けだ」
「「ッ!」」
それは、フィフスセクターの勝敗指示が初戦"敗退"なのだから。去年は準優勝だったのに、この差はなんだと皆は愕然とする。
勝敗指示を、皆に暴露したのは剣城君で、本来ならば監督の役目であるのに、皆は聞いていなかったことに驚いていた
「監督、どうして伝えてくれなかったんですか」
三国さんが皆の気持ちを代弁して尋ねる
「伝える必要がなかったからだ。この試合……勝ちに行く」
え、今なんと?
12.始まります
あれから一悶着あり、他の皆は「フィフスセクターの指示に従う」と言って部室から出て行ってしまった
練習にも、出ないそうだ
結局残ったのは、いつものメンバーである、天馬と西園君と私の3人である
2軍との違いを噛みしめながら、これが試合に出ていた皆の現状なのかと絶望しそうになる。練習する気力すら、奪ってしまうのか。フィフスセクターは、彼らからサッカーを強奪するつもりなのだろうかと思う
よそ見していたからだろうか。サッカーボールがメリッと嫌な音を立てて自分の頬をひっ叩く。チリッと走った痛みに思わず体がぐらついた
「ゆうびごめん!」
「大丈夫で、……あ、あれ?」
「ゆうび!?」
「天馬!何泣かせてんの!?」
「ちが、違います、西園君。違くて、」
ぼろぼろと涙が落ちてきた。別に泣くほど痛かったわけではないが、涙が止まらない。そんな私に天馬は狼狽えて、顔にあたったところを撫でてくれた
「……ごめんね?」
傷を労わるように触れた天馬。必然的に天馬との距離は近くなる
目線をどこにやっていいか分からず、じっと天馬の顔を見つめることにした。そしたら天馬の頬にも、砂が付いて黒ずんでいるのを見つけた
「天馬も怪我して、ます」
「へ?──ああ、これくらい大丈夫!なんとかなるさ!」
指摘すれば「俺よりゆうびだよ」と言って笑って見せる
「ダメです」
「え!?」
天馬がしてくれたように、自分も天馬の頬に手を添える。一瞬肩をぴくりと跳ねさせた天馬だったが、気持ちよさそうに目を細めた。その表情に、私は気分が良くなる
「怪我してばっかですね、天馬は」
「……うん。そうかも」
今日の天馬は大人しかった。「練習に戻る?」と言えば「もう少しだけ」と私の手に、天馬の手が添えられた
「ゆうびの手、冷たくて気持ちい」
「……冷え性なんです」
「お前らぁ!練習中なの忘れてないか!! 」
「「……あっ」」
水鳥さんの怒号で、私と天馬ははっとしてまた練習に戻るのだった
*******
天馬が元気がない。とのことで、葵ちゃんに頼まれて話を聞いてあげることになった。帰り際に「一緒に帰ろう」と言えば、天馬は河川敷に行きたいと言った。──というわけで現在地は河川敷
でもサッカーをしているのではなく、階段で座っているだけだ
あれから天馬は一言もしゃべらない
どうしたものか
「どうしたんだ、こんなところで……」
第三者の声に、顔をあげるとそこには三国さんがいた。自転車に乗っていて、籠の中には買い物袋が入っている
「お使いですか?」
「ああ。今日は俺が晩飯当番なんだ」
「晩飯当番……?って、先輩がご飯作るんですか!?」
「まぁ。母さんが仕事で遅くなる日だけだけどな」
「料理かぁ……すごいなぁ」
「三国さんのそういうところ、本当に尊敬します」
「ゆうびも料理してるのにな」
「えぇっ!?」
三国さんに言えば、三国さんは私と天馬の顔を交互に見た後、やんわりと微笑んだ
「お前ら二人、俺ん家くるか?」
「「えっ」」
まさかのお誘いに、私と天馬は二言の返事を返してしまった。
三国さんは、夕ご飯をごちそうしてくれた。その味は本当においしく、ほっぺたが落ちるかと思った
「ぶっ。ゆうび、そんなリスみたいに食べなくても……」
「お、おいひーです、三国さん」
「……そう言って食べてもらえると作った甲斐があるな」
「うまいっ!秋姉が作るのと同じくらい美味しいです!!」
「秋姉?」
「はい、俺の親戚のお姉さんで、いろいろと面倒見てもらってるんです」
「そうか、松風も親と離れて暮らしてるんだったな……。大変だろ?」
「秋姉がいるから平気です!……でも、面倒かけてばっかじゃ駄目ですね……俺も先輩みたいにしっかりしなくちゃ!」
「三国さん、レストラン出してください」
「おうおう、もっと褒めろ!デザートにプリン出してやる」
「「!!」」
こうして胃をがっぽりと三国さんに掴まれた私と天馬でした。だけど本当に三国さんの料理は美味しかった。今度料理を教えてもらおうと思う
しばらくすると三国さんのお母さんが返ってきた。天馬がいち早く挨拶をする。私も遅れまいと、挨拶しようと席を立った
「松風天馬君ね。で、そちらのお嬢さんは──彼女かしら?」
「違う母さん!!こいつも俺の後輩だ!」
「こ、後輩の色羽 ゆうびです」
「あらっ、じゃああなたもサッカー部なの?」
「は、はい。」
そこから始まった三国さんのお母さんによるマシンガントークに、天馬と私は思わず狼狽えてしまった
でも、お母さんという存在を羨ましく思った。今日家に帰ったら、電話しよう。うん。そうしよう
天馬も、元気を取り戻し、三国さんの家から帰るときにはいつものテンションに戻っていた
──明日から、いよいよホーリーロードが始まる。開会式に備えて、今日は早めに寝た
fin