青春白書
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蛇に睨まれたカエル。という言葉を聞いたことがあるだろうか。今、まさにたとえるならその言葉だろう
「……アンタ何者だ」
ジリジリと後退する。その分だけ相手は距離を詰めてくる
嫌な汗が出てきて、足が震える。怖い。目の前にいる男が怖い。震える声を隠しながら、言葉を紡いだ
「わ、私は、ただのサッカー部、です」
「そんなこと聞いてるんじゃねぇ」
「っ、それ以外、の何者でもありません」
「……なら質問を変えよう」
「、っ」
トンッと背中にあたる。しまったと前を見れば、剣城君は目の前に差し迫ってきていて。ぎゅっと足に力を込めて、なんとか逃げ切れないかと試行錯誤する
「逃がすかよ」
「──!」
グイッと一気に距離を縮めてくる剣城君に、思わず声が出そうになった。片手を壁につき、見下してくる剣城君。──その迫力に竦んでしまいそうだ
「フィフスセクターがお前の情報を欲しがってる。それが"ただのサッカー部員"な訳ないだろ」
ぎゅっと眉間にしわを寄せて、見下してくる剣城君。──"フィフスセクターがお前の情報を欲しがってる"だって?
「は、?」
なんなんだフィフスセクター。"情報を欲しがっている"?その一言でさっきまでの恐怖心が飛び去った。訳が分からないし、身に覚えがなさすぎる
「そんなこと言われても、困ります」
「ッ──困るのはこっちだ。早くお前の正体を突き止めないと……!」
「え、?」
「!!」
近いゆえに、剣城君の表情が良くわかる。だから、ぎゅっと何かを耐えるような表情になったのを私は見てしまった
瞬間にいつもの顔に戻ったが、目は少し泳いでいた
「……次の試合に出ろ」
「それは円堂監督に言ってください」
「チッ」
すっと片手を下ろして、一歩後退した剣城君。上から見下される圧迫感から解放されて、力が抜けそうになったが、踏ん張って立つ
「…、剣城君」
「ああ?」
「……何か、あったんですか」
「!」
それでも放っておけなかった。彼の見せたあの表情は、焦りだ。いつも余裕そうに外から見てた彼が、あんな顔をしたのだ
口に出せば剣城君は面倒臭そうに舌打ちをすると制服のポケットに手を突っ込んだ
「……あるわけねぇだろ」
「でも、」
「いい加減にしろ」
「!」
ぎろりと睨まれてしまい、金縛りにあったように動けなくなる
「俺はフィフスセクターのシードだ。お前に話す義理はない」
「で、ですが」
「お前らはフィフスセクターの監視からは逃げられない。……絶対に、な」
きっと剣城君は無意識なんだろうけど、ぎゅっと寄せられた表情はとても切なげで──苦しそうだった
まるで剣城君本人が、フィフスセクターの監視から逃れられないんだと知っているかのように見えた
だから少し挑発すれば、もしかしたら話してくれるかもしれないと、私はバカな判断をした
「そういえば剣城君はサッカー上手ですよね」
「……黙れ」
「好きじゃなきゃ、あんなに上手くなりませんよね」
「黙れ」
「……もしかしてフィフスセクターに」
「黙れ!!!」
勢いよく口を塞がれた。瞬時のことで息が出来ずに混乱する。だが、それ以上に彼は焦っていた。塞がれた手は、しっとりと濡れていた
「んぐっ、」
「それ以上口にしたらダダじゃ済まさない……!」
鼻まで一緒に塞がれ、本格的に息が苦しくなってきた
「お前に、お前に何が分るんだッ!!サッカーサッカー……、なにも知らねぇくせに……!!」
「っ、ふ、」
「!」
お前に何が分るんだと訴えてくる剣城君。──苦しい。生理的な涙がうっすらと膜を作れば、剣城君ははっとしたように手を放した
「は。ハァッ!」
勢いよく入ってきた酸素に、思わず咽る。それでも彼の反応を見たら安心した。感情をむき出しにして怒るほど、彼はフィフスセクターを恐れている。そう思うと、自然に微笑むことができた
「分りません、よ」
──分からず屋。もうそれでいいよ。分からないよ、剣城君の抱えてるものなんて。そういうくらいなら教えてくれてもいいじゃないか
「……お前は松風と同じだな」
「はぁっ、はっ」
「──俺の一番嫌いなタイプだ」
そう吐き捨てた彼は、なんだか泣きそうな顔をしていた
「ッ、サッカー部なんてやめちまいな」
その言葉を最後に、剣城君は路地裏から出て行った。緊張が緩み、へたりとその場に座り込む。震えが止まらない。涙も止まらない
剣城君、剣城くん、つるぎくん
「つるぎ、ぐん……」
どうしてそんな顔をしてるの。一乃君も青山君も向坂君も。みんなそういう顔をしていたんだ。サッカーを、奪われた時の、その表情なんか……
──もう、そんな顔は、見たくないの
「……いけませんねェ。剣城君、彼女は監視対象ですよ」
「ッ黒木さん、」
「そんなに焦る必要はありませんよ。これからしっかりと集めてくれればいいですから」
「ッ」
念を押すように言った黒木さんに何も言えなくなった
目を付けられた彼女は、泣き虫で弱くて。でも純粋で、サッカーを追いかける姿はまるで子供だ
そして辛くたって、笑いやがる
「兄さん……」
脳裏にちらついたものを打ち消すように、首を振った
あの人と同じ笑い方で、俺を見るな。頼むから、笑わないでくれ
"剣城"
「ああああああああ!!」
嫌いだ、サッカーなんて
"分りませんよ"
嫌いだ、あいつなんか。自分の仲間を引き裂いた相手に、そんな顔する必要なんかない
自分のことを下に見るやつなんて、大嫌いだ
「頼むから、俺の前から消えてくれ……!」
fin.