青春白書
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「ゆうびか?お早う」
「え、円堂監督!?お、お早うございます」
「なんだ、お前もサッカー塔に行くのか?」
「は、ハイ。天馬と西園君に誘われたんです」
「本当に仲良いんだな!」
「……はいっ」
「よかったな」と頭を撫でてくれる円堂監督。あまりの心地良さに、目を細める。円堂監督の掌は、GKだったからなのか、大きくて優しくて安心した。気持ち良すぎて欠伸が出そうになる
撫でられながら、二人で並びながら廊下を歩く
過ごした時間は少しだが、それでも円堂監督の存在感はとても頼りになると思っていた。雰囲気も柔らかいし、絶対モテる。そう確信した
「……監督奥さんいそうです」
「な、なんで分った?」
「あ、やっぱり……」
これが女の勘ってやつか……と顔を青くした円堂監督に、きっと円堂監督の奥さんは美人さんなんだろうなぁと勝手に想像した
「気合入ってるな、お早う」
「「!!」」
部室に到着すると、そこにはもう天馬と西園君と葵ちゃんと、春奈先生がいた。手にはDVDのリモコンが握られている──もしかして、また置いてかれてた?
私を見るなり、天馬がまた「あ、」と声を漏らす。……天馬なんてもう知らない
「ご、ごめん……。待ちきれずに見ちゃった、」
「いいですよ、気にしてませんから」
「わー!!本当にごめんってぇぇ!!」
「もう天馬と約束しません。信じません」
「どうしよう信助!!」
「ごめんゆうび、次からはちゃんと待ってるからさ……」
「……約束ですよ?」
「「──!!」」
ありがとうと笑顔で抱きつこうとしてくる二人をさっと避ければ「なんで避けるの?」とじりじり迫ってきた。なに、怖いよ
一連を見ていた春奈先生と円堂監督が、まるで保護者のように微笑んでいたなんて私たちには知らない事だった
「あっ、おはようございます」
「……おはよう」
しばらくすると皆も集まってきた。その中には神童さんと、倉間君の姿はない
皆が部室に入ったところで、円堂監督はさっき貼っていたポスターをバンッとたたいた
「皆!ホーリーロード地区大会はもうすぐだぞ。朝練開始だ!!」
そうして時間は過ぎて行った
11.キャプテンとは
──神童さんが、やめる?
昼休みに、天馬と円堂監督が話しているのを聞いてしまい、神童さんが退部届を出したのを知った。それを知って無視できるわけがなく、家に行こうとしたのだが、私は家を知らない。
誰かに教えてもらおうと、霧野さんを探して、三国さんも探しても見つからず。結局誰も見つからなかった
なんとか自力で探し回って、もう夕方になってしまった。ああもう、私はバカですか。キャプテンの家ぐらい覚えておかなきゃダメでしょう。自分の要領の悪さにため息をつきながら、トボトボと道を歩いていた
「ゆうびか……?」
聞きなれた声に、足が止まる
「お前家逆方面じゃなかったか?」
「──神童、さん?」
なんということでしょう
お目当てだった人物が自分の目の前に現れた。驚かないわけがない。目を見開いて、ぱくぱくと口を開閉させる私。……神童さんにはどう映っていただろうか?
神童さんはフッと笑うと、近寄ってくる。彼はなぜかユニホームで、サッカーボールを持っていた。そしてちゃんと左腕にはキャプテンマークを付けている
神童さんを視界に入れた瞬間、じわりと視界がゆがんだ
「お前も来たのか。まったく、本当お前たちには──」
「止めちゃうんですか」
「、え」
「神童さんが、サッカー止める必要ないと思います」
「ゆうび……」
「止めないで、下さい」
ぼろぼろと涙が出た。最近涙腺が弱いな、と自分でも思う。それでも涙は止まらなかった。目の前の神童さんは驚いたように目を見開いている。その後に、困ったように眉を下げた
「──少し話せるか?」
「ッは、い」
そうして神童さんに連れられて、神童さんの家にお邪魔した
神童さんの家は超広かった
********
「まず……。ゆうび、俺は止めないことにした」
「へっ?」
「だからお前が泣く必要はない」
家に着くなり、開口一番はこれだった。私の思考回路がビシリと音を立てて停止する。神童さんはなんだか振り切ったような顔つきで、こう続けた
"さっき天馬が来たんだ。いろいろあったが、俺の"フォルテシモ"を見たいと頼んできた。余りにもしつこいから、仕方なく天馬に見せることにしたんだ。……そうして河川敷でやっているうちに、彼らの頑張っている姿を見て、自分も彼らのようにサッカーをしたいんだという気持ちが溢れたんだ"。と
「円堂監督は、その時溢れた気持ちがキャプテンの資格だと言ってくれた」
は、恥かしい……!
話を聞いていて、私は死ぬほど恥ずかしくなった。つまり、あれだ。私はもうサッカーをやめる気はない神童さんの前で、「止めないでください」と泣いたのだ
時間よ巻き戻れ。過去の自分を忘れたい……
「……、忘れてください」
「でも嬉しかったぞ」
「ッ~~、い、言わないでください!!」
「ははは、」
かぁっと赤くなった私を神童さんは笑う。むっとして神童さんを睨むと、神童さんは「すまん」と謝罪した
赤くなってしまった頬を冷やすために、自分の手で両頬を抑える
「……お前は天馬に似てるな」
「天馬に、ですか?」
「嗚呼」
藪から棒に、神童さんが話を振ってきた。神童さんは天馬を苦手としていた。え、似ているってことは──…私が苦手ってことだろうか
「えっ」と凍りついた私を、神童さんはニコリを笑みを浮かべただけだった
「一乃はセカンドでどんなキャプテンだったんだ?」
「え、あ。ハイ。それはもう頼れるキャプテンでした」
「そうか」
「あと地味に厳しかったです」
「らしいな……」
「たまに2グループに分かれてゲームしたりしたんですけど、」
「ああ」
「何故かいつも一乃君と違うチームにされて、いつもシバかれてました」
「……しば、?」
「集中攻撃されて……、えげつないゲームメイクされました」
「……っく、そ、それで?」
神童はひたすらに、セカンドでの一乃の様子を聞いた。その質問に嬉しそうに答えるゆうびに、神童の顔をつられて緩む。いつのまにか、外はもううっすらと暗くなっていた
「……本当にお前は一乃が好きなんだな」
「はいっ」
「俺も、そんなキャプテンになれるかな」
「……もうなってると思います」
「……そうか?」
「はいっ!」
キャプテンは、サッカーが大好き。
キャプテンはメンバーから信頼を寄せられている。
キャプテンは頼もしく、そして時には厳しい。
キャプテンは誰よりも"勝利"に飢えている
「私も、サッカーしてる神童さんはキラキラしてて──大好きです」
止めなくて、本当に良かったです。そう言葉を続ける。──神童さんからの返事はなく、神童さんは石化してるように動かなくなった
結局10分くらいたっても神童さんが動く気配はなかった
「あ、あのすみません」
「はい?どうなさいましたか?」
「神童さんが、」
「!?」
固まった神童さんを使用人さんに任せて、私は神童さんの家を出る。外はもうくらかった
外灯の明かりがぼんやりと道を照らしている。それなりに雰囲気があり、少し怖いと思った。早く帰ろう。そう考えて、足を速めた
路地裏に差し掛かり、あ、誰かいる──とか呑気に考えていた。まさか手が伸びてくるとは思わずにそのまま走ろうとした
「ぎゃ!」
グンッと身体が引っ張られた
いきなりのことに対応できず、ずしゃっと尻もちをつく
「痛、」
「……よぉ」
「ッ!?」
耳元で聞こえた低温の声。その声にブルリと身体が震えた。ばっと顔を上げれば、そのには見覚えのある顔が浮かび上がってきた
「つ、剣城、君?」
その声は確かに聴き覚えがあって。顔だって、見たことがある。恐る恐る尋ねてみれば、剣城君と思われる人物と目があった瞬間に、ニィッと悪人面で笑った彼に心臓が止まりかけた
でも次の瞬間には、ぶわっと冷や汗が流れた
fin.