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あの練習試合から一夜開けた今日。雷門イレブンの雰囲気は不穏なものだった。
それもそのはず。あの久遠監督が、昨日の試合の責任ということで止めさせられたのだ
それに加えて昨日の今日で、キャプテンは学校を休んでいる
それら打撃は多かった。そのせいで、今日の練習には覇気が全くなく、とても腑抜けたものになっていた
「皆どうした!集中しろ!少しはゆうびを見習え!!」
「──そうは言われてもな」
「ちゅーか、ゆうびが一番ここにあらずって感じじゃね?」
「なんだと!おいゆうび!?」
「仕方ないですよ」
「なっ」
「だって……監督は止めてしまうし、キャプテンは出てきませんし、」
「速水……」
速水の言葉を耳に、車田はちらりと話題に出たゆうびを見る
ゆうびはというと、サッカーボールでリフティングをしていた。傍から見れば真摯に取り組んでいるように見えるが、表情は死んでいる。つまり、心ここにあらず状態なのだ。
その彼女は、昨日のことを思い出して、もんもんと頭を抱えていた
『お前には当分我慢させるが……耐えるんだな』
『が、まん?』
『お前には可能性がある。それを奴らにばれてはいけない』
『え?、あの話が見えないです、!』
『……いずれ分かる』
『監督!?』
監督が立ち去る時に言われた言葉が妙に引っ掛かる。最後に見た久遠監督の背中はは、何故か凛々しかった
一体全体何のことだろう。"耐えろ?"何に?"可能性?"一体何の?"バレてはいけない?"誰にですか
「(考えれば考えるほど意味が分かりません……)」
「なんか焦げ臭くね?」
「ゆうびが焦げてるド!」
「つーかなんでリフティングやってんだ!!こっち出ろよな!!」
09.新しい監督
「サッカー部はこれからどうなっちゃうんですかね、」
「……久遠監督は、こんな雁字搦めの状態でも俺達の自由を認めてくれていたよな」
「でも、それもできなくなりますね……」
「まっ、どうせフィフスセクターから来るんだろ?適当に言うこと聞いて内申書で合格点貰えばいいさ」
「ッ、南沢!それでいいのかよ」
「それが部活でサッカーやる意味だろ?」
速水君の言葉に、車田先輩が。車田先輩の言葉に霧野さんが。霧野さんの言葉に南沢さんが──
皆の口から出てくる言葉に、横槍を入れる暇さえなかった。言いたかったことが喉まで出かかって、唾となり戻ってくる。最悪な雰囲気の中、やはり久遠監督がいかに雷門イレブンに不可欠な存在だったのかが分かる
「久遠監督……、」
「結局、誰が来たって同じってことかよ」
「そんなことはないぞ!」
倉間君の言葉に、聞いたことない声が返事を返した。誰だろう、と声のした方に顔を向けると、逆光でよく見えなかった。だけど、その妙に元気の出るような明るい声は聞き覚えがあった
その人物がフィールドまで下りてきてニカッと眩しいほどの笑顔を見せた。春奈先生が、それはそれは嬉しそうに駆け寄り挨拶をする。その人物風貌からは確かに見覚えがあって──
「(土門さんの、出てた試合で)えん、どう、まもるさん?」
無意識に出た言葉に、慌てて口を塞ぐ。皆が「え?」という顔をしてこちらを見る。どうやら皆にははっきりと聞こえなかったようで、「なんだって?」と聞きなおされた。ほっと息を付くも、その例の人物ともばちりと視線がぶつかってしまい、どうしようと困った。
──するとどうだろう。彼は、まるで肯定するように、満面の笑みを見せてくれた。あまりにも優しい笑顔に、顔に熱が集中した
「これで全員か?」
「いえ、キャプテンがいません」
「そうか。……今日から雷門イレブンの監督になった──円堂守だ!」
「「ええ!?」」
「円堂守って……あの伝説のGKの!?」
「よろしくな!」
フィフスセクターの手のものが来ると思いきや、サッカー界で名を知らぬものはいないほどの大物が来るとは、誰が考えるか。いや誰も考えないだろう。皆は口をあんぐりと開けて、立ち上がる
「まじかよ……」
「こりゃ大物が来たな……」
あの倉間君もぽかんと口を開けていた
「──放課後の予定を伝える。練習場所は河川敷のグランドだ」
「河川敷?」
「なんでそんなところで……」
「学校のグランドじゃ見えないものが見えるかもしれないだろ?」
"勝つために"河川敷で特訓すると言った。大物からの伝言に、皆は騒然とする。河川敷で、なんて。自分たちには立派なフィールドがあるというのに。それに勝敗指示があるのに"勝つ"だって?そんなことしたら終わりじゃないか。と皆はまさに解せぬ状態だった
──だから、天馬や西園君の1年以外は聞く耳を持たず…。そのままフィールドを立ち去ってしまったのだ
そしてフィールドに残ったのは、天馬と信助とゆうびの3人だった。あんな様子の先輩たちを見て不安だった信助だったけど、天馬の一言で一緒に特訓を受けることにした。その言葉に肯定の返事に私も加われば、天馬は「うわぁ」と声を上げた
「って、ゆうびの行くの!?」
「ハイ。私も円堂さんにサッカーを教わりたいんです。……ダメでしたか?」
「ううん、そんなことないよ!!よしっ、俺達3人で一緒に河川敷行こう!」
「おーっ!」
「……はい、!」
──と、約束したのに。
「お、置いていかれました……!!」
********
河川敷までダッシュで来た。あんなに猛ダッシュしたのはいつ以来だろうか…?自分で考えてしまった。息を切らせながら到着すると、天馬が慌ただしく近づいてきて来るなり腰を直角に折ってきた
「ッ本当にごめんゆうび!!わざとじゃなくて、本当に、完全に忘れてて!!」
「う"っ、」
「わぁああ!天馬それ以上正直に言ったらゆうびが穴だらけになっちゃうよ!!」
「西園君もストレートですね、」
「え!?」
2人の素直さを身に染みて学んだ。
そんなこんなでようやく円堂さんの前に立つことができた。先ほどの会話のおかげで、息は十分に整った。ドッキンドッキンと高鳴る心臓。いいいい、今目の前に、あの円堂さんがいる…!それだけで、私の脈拍は高速で動いた
「お前が、色羽 ゆうびだな」
「はははは、はい、!」
「待ってたぞ」
「は、ハイッ」
「アハハッ、3人同じ反応だな。そんな固くなるな。緊張して怪我するぞ?」
「「「はいっ」」」
「円堂監督!今日はどんな特訓するんですか?」
「それは──」
監督の口からは、自分の得意とする技に磨きを掛けろとのことだった。だから天馬だったらドリブル。西園君だったらヘディングだった
「そしてゆうび。お前はシュートだ」
「……へ、」
へ?と疑問を抱く。天馬たちのように得意とするものに磨きを掛けなくていいのか?と思った。
……だって、シュートって私の一番苦手なことなのだ。だから剽軽な声が出てしまったのは、不可抗力だよね
「……なんであいつシュート打ってんの」
「さ、さぁ?」
「浜野。あいつのポジションは?」
「DFっす!」
「意味分かんねぇ」
「ちゅーか倉間顔怖い」
「本当アイツはシュートだけはダメだな」
「いや、でもいい線はいってる……」
「……神童」
「ほら、見てみろ霧野」
「──……ああ、そうだな」
天馬や西園とは少し離れたところで、ひたすらシュートを打ち続ける少女。少し硬い動きから、不慣れな行為だというのは一目瞭然だ
ただ何よりも、視線が外せないのは、その少女が余りにも楽しそうにシュートを打つものだから、魅入ってしまっただけのこと
(((ってか、お前がシュートできたところでどうにもならないだろ)))
そう思うのも同時だった
──そして特訓を続けること数時間。
「おーい、お前らもそんなところにいないでこっち来いよ」
「、?」
一人でひたすらにシュートを打ちまくっていた私は、自分が呼ばれたのかと振り向くとどうやら私じゃなさそうだ。──まさかと思って視線を動かせばそこには南沢さん、神童さん、霧野さん除く皆がいた
「皆さん……」
「な、なんだよ」
「待ってました、」
「「!!!」」
それでも皆が来てくれたのが純粋に嬉しくて。顔がにやついた
「ッ、うっせ!!」
「う、す、すみません…」
「だからいちいち謝るな!!」
「すみま」
「言ったばっかだぞ!」
倉間君がいち早く反応し、ぷいっとそっぽ向く。その反応に地味に傷ついた。というか一体どうしろと
「よく来てくれたな!」
円堂さんは嬉しそうに微笑むと、皆にシュートを一本ずつ打てとだけ言った。疑問を抱きながらも、皆がそれぞれシュートを打つ
「最後は…剣城!お前だ!!」
「え、わらび君いるんですか」
「え、ゆうび今なんて?」
剣城君がいるの?円堂監督が見ている方向を、恐る恐る見てみる。
見なければよかった
この距離でも分るほど、機嫌を悪くしていた。じろりと何かを言いたげに円堂監督を睨んでいる。その視線を受けながら円堂監督は笑いながら「サッカーやろうぜ!」と言った。それが剣城君のスイッチを押したようで、大層苛立った顔で剣城君は階段を下ってきた
皆がゴール前を開けて、円堂監督と剣城を向い合せる。サァッと風が二人の間を抜ける。それと同時に皆の緊張感も半端なく高まった
──そして剣城君が動いた
「"デスソード"」
その必殺技を見て、鳥肌が立った。このシュートは強い。──こんな強敵を前に、一乃君たちは……そこまで考えて、考えるのを止めた。それはもう過去のことだ。一乃君たちはサッカーが好き、それが変わらないならいつかまた、サッカーをやるために戻ってきてくれるかもしれない
そう信じて
剣城君の強烈なシュートが円堂監督に向かって放たれる。そのシュートを前に円堂監督は──するりと華麗に避けた
「(な、なんて無駄のない動き……!)」
なんの障害もなく終わった剣城君のシュート。突然のことに皆はあんぐりと口を開けてその光景を見ていた。剣城君はというと、大人がもつ特有な余裕に舌打ちをし、河川敷から去っていった
円堂監督は、満足げに笑っている
「よし!今日の練習はここまでだ!」
「え、」
「シュート一本だけ?」
「学校のグランドじゃ見えないものって何だったんだ……」
「皆、勝つための特訓に来たんだろ?だったら見えたじゃないか」
円堂監督の言葉に倉間は、訳が分からないようで首をかしげる。倉間だけではなく、他の皆もそうだった
「本気で勝利したいと願ってる……仲間の表情(カオ)さ」
円堂監督の言葉に、ハッと気がつく。──皆がここにいる。それが今日の特訓だったのだ、と
「明日からは、学校のグランドで待ってるぞ」
夕焼けの中を歩くその姿は、久遠監督と重なった。たった数時間だけだったが、私は彼の背中の見て前に進みたいと、そう思った
fin.
(それでさ、先輩が俺にシュートを教えてくれるんだ!)
(ふふ、雪村君嬉しそうで何よりです)
(アンタ以来、俺に付き合ってくれる奴いなくってさ……。とにかく嬉しいんだ!!)