青春白書
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入学式の日のあの事件があってから、もう遅刻はしないと心で決めたし、誓った。ちゃんと睡眠もとって、時間に余裕をもって家を出た
──今日は栄都学園との練習試合の日
勝敗指示の出た試合を1軍の皆がどう戦うのかを、間近で見るのは今日が初めてだ。今日は試合に出ない。だからこそなんだか歯がゆかった
"試合に出てないから、分からないよな"
いつか、またそう言われて拒絶されてしまうのではないかと、不安になった
「……今日は早いな、ゆうび」
「神童さんこそ、こんな時間に……」
「俺は、……」
また今日も、神童さんはそんな顔をして試合に出るのでしょうか
08.vs栄都学園
「ど、どうしたのその傷!?」
「「「!?」」」
珍しく天馬が後からやってきた。そして驚いた。彼の顔は傷だらけだったのだ。湿布やらカットバンやらが顔に貼られていた
その理由を新マネージャーの葵ちゃんが問いただせば、──今日の試合で皆の足を引っ張っちゃいけないと思ったら体が勝手に──……その一言で、その場にいた誰もが息をのんだ。もちろん、私もだ
「頑張り屋ですね、天馬君」
「だって……うひゃ!?」
「でも試合前にバカですか」
「えっ!?ご、ごめんなさい」
天馬の頬は、水鳥先輩に剥ぎ取られた湿布の跡で真っ赤になっていた。そこに冷水で冷やした自分の手を添えると、天馬は面白いほどに狼狽えた
「でも、嬉しかったです」
「へ、」
「応援してます。天馬君。──ありがとう」
昨日学んだ"薄ら笑い"でお礼を告げたら天馬君は「うん、俺ゆうびの分まで頑張るよ」と笑顔で言ってくれた。うん、やっぱり"薄ら笑い"って元気でるんだ
そうして私たちは、バスの中に乗り込み、栄都学園へ向かうのでした
********
ついに、栄都学園との試合が始まった。私はベンチで、マネージャー3人と、久遠監督、春奈先生。──そしてわらび、いや剣城君でベンチで見守っている
勝敗指示を知っているのはどうやら、私とわら──剣城君と監督たちだけのようだ
試合展開を見ていて、まず一言。みんなはこんなに弱くない。こんなのが2軍の目標だったわけがない
「これ、が管理サッカー……」
練習で見せる俊敏な動きは見当たらず、誰もがボールを奪われる。傍から見たら、互角の試合に見えてるのだけど、身内から見ればこんなのただの……
「八百長じゃ、ないですか」
「フン、なかなかの演技だな」
「ッ!」
剣城君が試合での皆をみて一言。なんでそんなこと言うんだと睨むも、彼は試合に夢中でこちらには気が付いていなかった
その視線に自分も試合に意識を戻した。フィールドでは、栄都学園の選手がシュートを打つ所だった。あの程度のシュートなら三国さんなら片手でも余裕なはずだ
ピーッとホイッスルがなり、栄都学園のスコアに1が浮かび上がる
「こんなのって……」
そのまま、天馬君や西園君が動ける場面は来ずに、再び栄都学園の選手にシュートが回った。──そこでも、同じように三国さんは……
「そ、な」
勝敗指示があって、それを守るために。自分の誇りをずたずたにされた三国さんの顔は、ベンチからでも痛い程分かった。今フィールドにいる1軍の皆はサッカーが大好きなのに。──こんな仕打ちである。なんという屈辱なのだろうか
「っ……!」
じれったい。どうして、どうして。こんなのサッカーじゃない。サッカーが好きな皆にとってはこんなの拷問じゃないかと思ったら、──……涙が止まらなかった
ピーッと前半を終える合図が鳴った
前半を終えた皆が、暗い顔でベンチに戻ってくる。それぞれが無言でタオルとドリンクを手に、休憩を取っている。──その雰囲気はお葬式のようだった
「──なんでですかッ!キャプテン!!なんで本気で戦わないんですか!!」
そんな中、天馬の怒号が響く
「先輩たちが本気を出せば、栄都学園の守りなんか簡単に崩せるじゃないですか!なのになんで……なんで本気を出さないんですか!!」
無知ゆえに、正直な天馬の言葉がグサグサと突き刺さる。容赦ない文句を浴びている神童さんはまたあの顔をしながら、拳を握りしめていた
「先輩たちは負けてもいいんですか!?」
──負けていいはずがない。みんなだって勝ちたいんだ
「いいのよ、負けても」
「……え、?」
誰もが口にしたくなかったとこを、春奈先生が口にする。天馬は信じられないものを見るかのように先生を見た。春奈先生も顔に影を落として、続ける。フィフスセクターの勝敗指示についてを天馬に説明した
学校の価値が、サッカーの勝敗で決まる時代。弱ければだれも見向きもしないという、だからフィフスセクターはすべて公平に勝ち負けを管理しているのだとか──
「そんなの可笑しいですよ!点数まで決まってるなんて、そんなの……サッカーじゃない!!」
「お前に何が分かる!」
天馬が堪えきれずに発した言葉に、神童さんがそれを上回る声量で返した
"お前に何が分かる"と
「フィフスセクターに逆らえば、好きなサッカーが出来なくなってしまう!!だからこそ俺達はッ……」
「神童ッ、」
──嗚呼、あの時の私は2軍の皆から見たら、今の天馬君の立場だったんだろう。試合もしていなくて、剣城君の実力の差も知らないで。どんな思いで自分のプライドをズタズタにされたのかなんて……
そこまで考えて、ふっと自分で嘲笑う。想像以上に、彼らに拒絶されたことが根強く自分にトラウマを植え付けているようだ
「天馬君、」
ベンチで黙りこくってしまった天馬君に、なんとか元気を出してもらいたくて。"薄ら笑い"で声をかけると、天馬はピクリと肩を揺らし、反応を見せた
「ゆうび、俺……」
天馬が何か言おうとした時に、タイミングよく後半の時間になった。結局何を言いたかったのかは分からないが、天馬はそのままフィールドに行ってしまった
「い、今天馬の奴何を言うつもりだったんだ?」
「さ、さぁ……」
後半が始まって早々、三国さんがシュートを決めさせられる。悔しそうに地面に這いつくばる三国さんは見てられなかった
天馬は動かなかった
黙って立っているだけだった
──でもその時は来た
「サッカーが泣いてるよ!!」
急に走り出した天馬は、3点目を取ってあとは時間が経つのを待つだけだという栄都学園の選手から、ボールを奪っていく
奪ったボールは全て──
「キャプテン……!」
──神童さんに繋げようとしていた
何度も何度も、ボールを神童さんに渡す。奪われても、もう一回と立ち上がった
そんな天馬を、2年や3年の皆がフォローするわけがない。だがそれは、1年生を抜けば、の話だ。もう一人。入部した1年がいたではないか。そう、西園君だ
西園君が、高いジャンプ力を見せて天馬にボールをつなげて、フォローしたのだ
天馬が出せるようなパスコースには神童さんしかいなかった。正面にいる神童さんにボールを出す天馬
その時、神童さんは思いがけない行動に出た
天馬から受けたボールを、打ち込んだのだ。敵陣のゴールに
そのノーマルシュートは神童の実力が垣間見えるほどの威力だった。その為に栄都学園のキーパー技に負けるはずがなく、そのままゴールに突き刺さったのだ
「神童さん、」
サッカーをするためにあれだけ我慢してきたのにも関わらず、この一点で神童は何かを壊した。それは、フィフスセクターからの鎖かそれとも、自分の殻か
「"3-1"で栄都学園の勝ちで、──試合終了、?」
この一点はフィフスセクターの勝敗指示に逆らったことになる。それでも、神童さんが一点入れてくれたことが、とっても嬉しかった
この試合の流れを変えてくれたのは、フィフスセクターに怖気もせずに立向った──天馬君だ
「天馬、!」
「あ、ゆうび!!」
精一杯のありがとうを込めて、君にハグを
「あ、ちょ!じゃっあたしからもだ!」
「水鳥さ、重ッ──!!」
「じゃあ僕もー!!」
「うわぁああ!!」
天馬のぬくもりを感じながら、今はただ、溢れてくる感情を止めることはできなかった
fin.
(言ったでしょ?俺、ゆうびの分まで頑張るって!だから泣かないでよ!)
(て、天馬ぁぁあ)