トリップ/友情より/アニメ沿い/オリジナル/落ち未定
1期連載
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今朝方、目が覚めてから響木さんから事の顛末を聞かされる。どうやら昨日の試合の結果は「勝ち」。点差はどう見ても帝国学園側の勝利だが、帝国学園側が試合を放棄したため雷門中勝利となった。
「それよりも、何をどうしたらこんな怪我ができるんだ」
「ふふ、初心者なめないでくださいよ響木さん」
「何も誇るところないだろうが」
「アイタッ」
べちっと額にちょっとした打撃を食いながら、昨日起こったことを思い出していた。
ーーー強豪と戦ったことで、自分たちの課題が見えて来た。この経験値はそう簡単に得られるものではない。レベルの差だけじゃない、次につながる成長のチャンスだ。あみだせ、自分だけの必殺技を。
さて、目が覚めるとそこは見知らぬ天井。鼻を掠めるのは薬品?かなにかの独特な臭いだった。ちらりと顔だけを動かして机に置いてある時計を見る。今は何時だ?
「調子はどうだ?」
「、響木さん」
ガラリと扉が開き、顔を覗かせたのは響木さんだった。体を起こそうとすると、響木さんは低い声で「そのままでいい」と言ってきた。
でもと反論する前に、響木さんはどこからか椅子を引っ張り出してきて、腰をかける。
「あの、お店は大丈夫なんですか」
「お店は夕方から開ければ問題ない。今はこちらが大事だ」
「っ!!」
「無理に動くな。まだ完全に治ったわけじゃない」
「ご、ごめんなさい」
上半身と腹筋を使って起こそうと試みる。が、それを見た響木さんは腕を組み、呆れたようにため息をついた。自分がなぜ病院にいるのかというと、例の帝国との練習試合での結果だった。
帝国学園との練習試合の途中、私の意識が飛んだ。つまり失神したわけで、怪我のショックの可能性や腹部に出血もあったため、経過観察も含めて検査入院することになったそうだ。
病院に連れてきたのは円堂率いる雷門イレブンのみんならしい。冬海先生筆頭に迷惑をかけてしまったな、とか申し訳ない気持ちになり、布団の中に潜る。
「………」
「………」
「………」
布団に埋まってみたのはいいけれど、沈黙が病室を支配する。響木さんの新聞紙をめくる音がたまに聞こえるぐらいで、話し声はなかった。なんだかそれが少し気まずく感じて、話題を探す。
(ここまでしてくれた響木さんに全部言うべきなのかな)
沈黙を破るため、導き出した答えは、自分の素性を明かすことだった。詳しいことは分からないけど、この入院費だって保険適用外とかで高かったのではないかと思う。だって私はこの世界での保険証を持っていない。戸籍だって、どうなっているのかいまいちわかってないのだ。どうして雷門中に通えているのかも、何もかも不明。だからこそ、ここまで世話を見てくれた響木さんには自分が異世界から来た、イレギュラーだということを打ち明けるべきだろう。
「あの、響木さん」
「なんだ?」
きゅっと一度開いた口を閉じて、顔を上げる。そこには新聞から目を離し、こちらを見ている響木さんがいた。声を発するまで待ってくれている。響木さんがこの話を信じるか否か、そんなの関係なしにここまで面倒見てくれている響木さんに、全部話す義務がある。
「お話、したいことが…あるんです」
気味悪がられてもいい。ただ本当のことを言いたいんだ。
ピクリと眉を上げた響木さんに、びくりと怯える。響木さんが怖いんじゃない。私は響木さんに否定されるのが怖いんだ。それでも、伝えると決めた。今日、この日で居場所を失うことなるかもしれない、そんなことも、もう覚悟はできた。震える手を握って、言葉を選びながら。ゆっくり、一字一句言葉を吐き出す。病院の個室に自分の声がやけにこだましているような気がした。
「私は──」
"この世界とは別の世界にいました"ーーー最初は声が震え、否定されたらどうしようと不安だったが、全てを話終える頃には、震えは止まっていた。
自分がここが異世界だと思う根拠は、地名、学校名、そして必殺技の概念が存在していることを伝えた。私の世界には、プロの選手達がたまに人並外れた技を出すことはあっても、炎や氷、分身を出すことはなかった。だけどこの世界は、物質として、概念が形を持って現れる。だからこそ、私は怪我をしたし、雷門イレブンのみんなも負傷したのだ。だから、この世界がその現実離れした超次元なことも伝えた。
「──と言うわけで、し……て」
響木さんは否定もせず、最後まで黙って聞いてくれた。嫌われてもいいんだこれで。頭が可笑しい人だと思われても、別にいい、いいんだ。これでよかったんだと、間違っていない、と自分に言い聞かせるようにギュッと布団を握る。
「やはりそうか……」
混乱の最中で息をすることを忘れる。意図しなかった肯定の言葉に、なにも言葉が出なかった。布団を見ていた私は、響木さんの言葉の意味がわからずに、思わず顔を上げて響木さんを見てしまう。受け入れてほしいのが本音なのに、響木さんの言葉に本当にどうしようもないくらい混乱していた。
はぁ、と一息ついた響木さんに対して、私は余裕なんてなくて疑問しか浮かばない。そんな様子を見計らったのか、響木さんはこちらに一歩近づくと、ぽん、と頭に大きな手を乗っけてきた。その行為にさらに頭は真っ白になって、何も考えられなくなる。
その置かれた響木さんの手が、とても、とても優しい手だと感じた。なんでこんなに暖かい手を、私に向けてくれるのだろうか。
ーーーもちろん当の響木も、何の考えなしにこの少女の身元引き受け人に待ったわけではない。戸籍上、養子として受け入れて、ここまで世話をしてきた。身内も居場所も、"ここ"には何もないと言う。最初こそは不審に思っていた存在だった。でも自分の生徒手帳も、自分がいた場所の住所もすべてを俺に託した。その行動に本当に一人身なんだな、と察する。
だが一応念には念を、ということで鬼瓦の奴に世話になった。渡された証拠を基に、身辺調査を請け負ってもらった。その結果、思いがけない推測を運んできてしまった。調査をした鬼瓦からの口からは信じ難いことばかり述べられた。
「響木よ、例の件調べさせてもらった。こんなこと、お前さんに任せるが……異世界からきた、以外、考えられん」
"存在しない、架空の人物だ"
住所や学校は確かに存在するが、漢字が違っていたり、少女自体の名前が何一つ一致しないというのはあまりにも可笑しすぎるという話になった。だが彼女は今、目の前で生きているし、偽名を使っているようにも見えなかった。
それが、異世界からきた。それだけで全てのカタがつくなんて。まさに超次元的展開である。
こいつを信じてやりたいと、心の何処かで思っている自分がいたのだ。手を乗せた頭は重みで下を向いたままだが、肩がかすかに揺れている。時折ズズッと鼻をすすっては、ポタポタと布団にシミを作っている少女に、目元がゆるんだ。
「……よく話してくれたな。我慢するな」
小さな体で、とても大きいことを抱えていた。それでも決して弱音を吐かず、きっといろいろな葛藤があっただろうに。信じてくれるわけがない話をするには、勇気とそれなりの覚悟が必要である。それを、泣きそうな顔で全てを話してくれた。それが彼女なりの覚悟だったのだろう。その覚悟を受け取って見捨てるほど、自分は薄情ではない。ーー泣きたいときは、泣くといい。響木さんのあまりにも優しく、私にとって重い言葉に、涙が止まらなかった。
「ありがとう、響木、さん」
ガラッ
「あ、苗字!起きてたのか!!」
誰かきた。と思った瞬間に頭の重みが一気に重くなって、耐え切れず布団に顔面を打ち付けられる。ぼふっと柔らかい布団が顔を包んでくれる。鼻水が布団についてしまわないか危ういけど。
「らっ、雷雷軒のお、おじさん!?」
焦ったような円堂の声を聞いて、ほっと安心する。響木さんはきっと涙を隠してくれたんだろうな、とポジティブに考えることにした。
「よ、よふほほえんひょー(ようこそ円堂)」
布団に顔を埋めている(…られている?)まま、片手をあげて"Hello"と挨拶をする苗字。そんな様子を見て、数回瞬きを繰り返したあと、にかっと笑った。
「元気そうで俺、安心した!」
そう。それは、よかった。と見えない顔からそう聞こえた。その日、円堂は私に、その日あったことを全部教えてくれた。
「あのなあのな!今日は早くからみんな集まって練習しようと思ってたんだ!そしたらビックリ!部室を開けるとそこには…えーっと……アイツがいて…。そうだ!次の対戦校が決まったんだ!それからな、マネージャーが一人増えたんだぜ!!俺らもサッカー部らしくなってきたと思わないか?っ──ああ、わくわくしてきた!」
「そ、そうなんだ」
「それからな!あの…染岡いるだろ?染岡がさ、はりきってるんだ。俺的には嬉しいんだけどラフプレーが目立って……、壁山たちも豪炎寺を期待してな…。そうだ、豪炎寺!さっき豪炎寺にあったんだ!!」
円堂、マシンガントークありがとう。混乱している私をよそに、円堂は表情豊かに説明してくれる。一度に大量の情報が入ってきて、あいつとかそいつとか、えーっととか。どれが何を指すのか理解する前にまた別の話をされる。それでも、全部に共通してるのは円堂の笑顔だった。
「苗字とまたサッカーしたくてうずうずしてんだ!」
その言葉に、私の涙腺がまた崩壊しそうになったのは、私と響木さんだけの秘密だ。円堂が病室を去って、響木さんもそろそろ店に戻ると準備を始めた。響木さんを見つめながら、私はこのまま行くあてもなく世界に存在し続けるのだろうか、とセンシティブになる。それを察したのか、帰り際に響木さんが、ポツリと声を発した。
「何で今このタイミングで話したくなったのかはわからんが、このままここにいていい。何も変わらん。そのために色々根回ししたんだからな」
「、あはは、だから鬼瓦刑事がいたんですか。普通あんな身近に刑事なんていませんよ、」
「ふん。あいつは俺の店の常連だからな」
「響木さんかっこよ」
「は!意味がわからん。俺は店に戻るが、今日は安静にしてろよ」
「はぁい」
病室の扉が閉じて、いよいよ1人になった時、涙が止まらなかった。ここにいていいよ、と響木さんは言ってくれた。温かい、ぬるい涙。喉が熱い。胸が苦しい。うまく、息ができない。それでも、自分の存在を肯定してくれる、身元を引き受けてくれた大人がいる、という安心感に、身体中を熱が走る。
「あ、ありがとう、ありがとう響木さん、」
泣きじゃくる声を拾い上げる人はいなかったが、心がスッと軽くなるのを感じた。
──次の日。
「お邪魔しまーす」
昨日は聞こえなかった声が、今日の部室に響く。部室で着替えている面々が、一気に声のした方を見た。そしてそれぞれがリアクションを見せる。
「なっおまッ!」
「え、え、え!?」
「ッ──!!」
上から染岡、半田、風丸の順で焦りを見せた。もう着替え終わっていたマックスは、その人物に小走りで近づき、話をふる。
「もう平気なの?苗字」
「そんなとこ。まぁこの後また──皆こそどうしたの」
そう、みんなが驚くのも無理は無い。だってそこには、帝国戦で重症を負い、病院に行ったはずの名前の姿があったのだ。マックス以外のみんなはというと、金魚のようにパクパクと口を開閉した。誰も受け入れの言葉はないのかと、少しむっとした名前は、いいこと思いついたと口角を上げる。なんとも悪い顔だ。
想像を絶するみんなのリアクションに、疼くのは出来心。
「私実は…もう死んで」
「るんだ」とお化け発言をしようと思ったのだが、風丸がふるふると震えているのが視界に入り、あれっと首をかしげる。
「あ、あのぅ、?」
ま、まさかと思った時はすでに遅くて、くわっと形容しがたい表情で、ズンズンと風丸が言い寄ってきたのだった。
「お前今すぐ病院戻れ!!!なんで抜け出してるんだこのバカ!!」
「──え、いやっ、ちゃ、ちゃんと許可もらったって」
「嘘つけ!」
「えぇ!?ほんとだよ!!」
風丸に始まり、それが合図だと言わんばかりに染岡や半田たちが一斉に説教をし始めた。しかもその内容は、私が病院を抜け出してきたとか…、
「(信じてもらえてない、ぷぷ)」
そんな様子を見てマックスは一人笑みを浮かべる。
「まって!ほんとに!!許可はもらってる!」
「嘘だ!お前の怪我すごかったんだぞ!?」
「そ、それは重々承知、」
「お前が着てたユニフォームなんてぐろかったんだからな!!」
「う、」
「あの出血の量、たった2日で治るわけが、」
みんなの言わんとしてることが大体伝わってきた。すごく、すごく心配をかけたのだ。私が、彼らに。こうして怒ってくれているのも、私の身を心配してのことだろう。
「ん、でもこれは本当に、」
「馬鹿野郎が」
「いった!?」
でもでも、許可が出ているという事実も信じてもらえず、私は病院を勝手に抜け出しているというレッテルを貼られ、誤解もとけなかった。本当に解せない。
今日はもともと見学のつもりでここを訪ねていたのだが、願ったり叶ったりで、みんなにはいるならせめてベンチな。と言われて、マネージャに任された私です。秋は心配しつつも、普通に受け入れてくれて、やっぱり秋は天使だと思いました。
「あれ苗字?なんでこんなとこにいんだ?」
「あ、円堂」
河川敷のベンチに腰掛けていると、着替え終えた円堂がやってきた。不思議そうにこちらを伺っている。「聞いてよー」と口を開いた瞬間に、いつの間にかこちらに来ていた染岡に頭をグリグリされて遮られた。
「円堂からも言ってやれよ。こいつ、病院抜け出してきたんだぜ?」
「…苗字」
「だぁぁぁあ!だからちゃんと病院から許可はもらって」
「な?こうやって嘘つくんだ」
染岡や半田、風丸が断固として信じようとしてくれない。その上、やってきた円堂にも広める始末だ。もう一度言おう、これは誤解だ。大いなる誤解である。
「そうか、」
染岡から事情を聴いた円堂は、肩に手を乗っけてきた。説教はいやだぞ、と視線で訴えてみる。
「よく来たな苗字!サッカーやろうぜ!!」
「「「円堂ぉぉおお!!!!」」」
(キャプテンってそういう人だったでヤンスねぇ)
(うんうん)
(苗字先輩元気そうで安心したッス)
((うんうん))
結局、なんだかんだでみんなは「病院に帰れ」とは言ったものの、強制はしなかった。そのことに嬉しさが沸く。見てるだけなら、という半田の意見に同意してくれたみんなに感謝しながらみんなを見つめた。
「行くぜ円堂!」
「よしこいっ染岡!!」
そして、それは偶然の出来事だった。丁度染岡にパスが渡り、シュート体勢に入る。そんな染岡の足に、物凄い気が溜まったような気がして、蹴り出した時には、青いドラゴンが咆哮しながらうねり円堂に向かって放たれたのだ。
「!!!!」
「えっ、今の…!」
ざわりと騒がしくなる。それもそうだ、今染岡が放ったシュートはまさしく必殺技と呼ぶのに相応しいもので。周りも感嘆の声をあげた。
「今龍がぐわッ~って!」
「す、すごいっす染岡さん!!」
呆然としている染岡に会いたくて。こんな遠い距離から見ているだけなんてできなかった。体が勝手に、と言ってもおかしくはないくらい、足は染岡のところへ向かっていた。
「あっ名前ちゃん!」
「だいじょーぶだいじょーぶ!」
秋の気遣いに、返事をしながら、目的地である染岡の元まで一直線に向かう。途中で私の存在に気がついた染岡はぎょっとしたように慌てた。
「なっ、お、おい!?な、なんでこっち走ってくんだ──」
「っおめでとう染岡!!」
そうして名前は染岡を押し倒さんばかりに飛び込んだ。しかし、さすがは染岡。このくらいの衝撃で倒れるような男ではなかった。海老反りになって衝撃に耐えぬいたのだ。すごいすごいと、心の中で拍手喝采がおこる。
「「苗字!!」」
「おまっ!」
はなれろと顔を真っ赤にして暴れる染岡と、「何やってるんだ!」と言っている風丸の声を聞きながら、振り落とされないように手で染岡にしがみつくように抱きしめる。
「よかったね、染岡の、染岡だけの必殺技だよ。おめでとう」
「なんかお前俺より喜んでねーか!?」
「染岡の努力の結果だよ?嬉しいに決まってるさ!!」
「!、まっまぁな。……というか早く離・れ・ろ!!」
「いーやー!!」
ちょっと嬉しそうに言った染岡だったが、すぐに私を引きはがそうと風丸や半田を呼び寄せていた。
「いくぞ半田、せーのだぞ?」
「わ、わかった。せっ」
「「せーの!」」
「ひぃぃいいい!」
ぐーんと引っ張られ、足だけが宙ぶらりんになる。ー小学校の時によく遊んだ大根抜きのような感覚に陥り、私は抜かれないように必死に染岡にしがみつく。抱きつかれている染岡の方は苦しそうにしている。…こうずっと引っ張られているのもあれだから、ぱっと手を放してみたらどうなるんだろうかとふとよぎったが、わたしはそこまで勇気がないから考えるだけにしておいた。
「あれ?…豪炎寺!」
円堂の声に、周りが一気に静まる。伸ばされていた足も、動きが止まってしまったために、つらい姿勢のまま動かなくなった。
と、思いきや、抱きついていた染岡に、顔をひゅむっと押されて引きはがされた。
「うわっ、ちょ、二人とも手ぇ放して……!──ッ」
捕まっていた唯一の支えがなくなった今、宙ぶらりんの足だけが持たれ、上半身は重力に従って地面に落ちるのみだ。
瞬間の出来事に、半田や風丸が動けるわけがない。なぜなら、豪炎寺という人物の登場に気が向いているからだ。
(これは、痛い!!)
瞬時に悟った私は、ぎゅっと目を瞑った。こうして青春は、幕を閉じたのでした。ちゃんちゃん
fin
(……すまん)
(いやいやいや、大丈夫よ、気にしないで)
(でも、)
(そうだねぇ、散々疑われたあげくちゃんと病院の許可と帰りに病院寄っていくっていうのもきかずにバカ呼ばわりされたけどさ。染岡の頼みだもんね、仕方なかったよね、うん)
((ほんとすみませんでした))
(名前の奴、随分と元気そうだな……)
(ヘヘヘッやっとサッカーできるな!豪炎寺!!)
「それよりも、何をどうしたらこんな怪我ができるんだ」
「ふふ、初心者なめないでくださいよ響木さん」
「何も誇るところないだろうが」
「アイタッ」
べちっと額にちょっとした打撃を食いながら、昨日起こったことを思い出していた。
ーーー強豪と戦ったことで、自分たちの課題が見えて来た。この経験値はそう簡単に得られるものではない。レベルの差だけじゃない、次につながる成長のチャンスだ。あみだせ、自分だけの必殺技を。
さて、目が覚めるとそこは見知らぬ天井。鼻を掠めるのは薬品?かなにかの独特な臭いだった。ちらりと顔だけを動かして机に置いてある時計を見る。今は何時だ?
「調子はどうだ?」
「、響木さん」
ガラリと扉が開き、顔を覗かせたのは響木さんだった。体を起こそうとすると、響木さんは低い声で「そのままでいい」と言ってきた。
でもと反論する前に、響木さんはどこからか椅子を引っ張り出してきて、腰をかける。
「あの、お店は大丈夫なんですか」
「お店は夕方から開ければ問題ない。今はこちらが大事だ」
「っ!!」
「無理に動くな。まだ完全に治ったわけじゃない」
「ご、ごめんなさい」
上半身と腹筋を使って起こそうと試みる。が、それを見た響木さんは腕を組み、呆れたようにため息をついた。自分がなぜ病院にいるのかというと、例の帝国との練習試合での結果だった。
帝国学園との練習試合の途中、私の意識が飛んだ。つまり失神したわけで、怪我のショックの可能性や腹部に出血もあったため、経過観察も含めて検査入院することになったそうだ。
病院に連れてきたのは円堂率いる雷門イレブンのみんならしい。冬海先生筆頭に迷惑をかけてしまったな、とか申し訳ない気持ちになり、布団の中に潜る。
「………」
「………」
「………」
布団に埋まってみたのはいいけれど、沈黙が病室を支配する。響木さんの新聞紙をめくる音がたまに聞こえるぐらいで、話し声はなかった。なんだかそれが少し気まずく感じて、話題を探す。
(ここまでしてくれた響木さんに全部言うべきなのかな)
沈黙を破るため、導き出した答えは、自分の素性を明かすことだった。詳しいことは分からないけど、この入院費だって保険適用外とかで高かったのではないかと思う。だって私はこの世界での保険証を持っていない。戸籍だって、どうなっているのかいまいちわかってないのだ。どうして雷門中に通えているのかも、何もかも不明。だからこそ、ここまで世話を見てくれた響木さんには自分が異世界から来た、イレギュラーだということを打ち明けるべきだろう。
「あの、響木さん」
「なんだ?」
きゅっと一度開いた口を閉じて、顔を上げる。そこには新聞から目を離し、こちらを見ている響木さんがいた。声を発するまで待ってくれている。響木さんがこの話を信じるか否か、そんなの関係なしにここまで面倒見てくれている響木さんに、全部話す義務がある。
「お話、したいことが…あるんです」
気味悪がられてもいい。ただ本当のことを言いたいんだ。
ピクリと眉を上げた響木さんに、びくりと怯える。響木さんが怖いんじゃない。私は響木さんに否定されるのが怖いんだ。それでも、伝えると決めた。今日、この日で居場所を失うことなるかもしれない、そんなことも、もう覚悟はできた。震える手を握って、言葉を選びながら。ゆっくり、一字一句言葉を吐き出す。病院の個室に自分の声がやけにこだましているような気がした。
「私は──」
"この世界とは別の世界にいました"ーーー最初は声が震え、否定されたらどうしようと不安だったが、全てを話終える頃には、震えは止まっていた。
自分がここが異世界だと思う根拠は、地名、学校名、そして必殺技の概念が存在していることを伝えた。私の世界には、プロの選手達がたまに人並外れた技を出すことはあっても、炎や氷、分身を出すことはなかった。だけどこの世界は、物質として、概念が形を持って現れる。だからこそ、私は怪我をしたし、雷門イレブンのみんなも負傷したのだ。だから、この世界がその現実離れした超次元なことも伝えた。
「──と言うわけで、し……て」
響木さんは否定もせず、最後まで黙って聞いてくれた。嫌われてもいいんだこれで。頭が可笑しい人だと思われても、別にいい、いいんだ。これでよかったんだと、間違っていない、と自分に言い聞かせるようにギュッと布団を握る。
「やはりそうか……」
混乱の最中で息をすることを忘れる。意図しなかった肯定の言葉に、なにも言葉が出なかった。布団を見ていた私は、響木さんの言葉の意味がわからずに、思わず顔を上げて響木さんを見てしまう。受け入れてほしいのが本音なのに、響木さんの言葉に本当にどうしようもないくらい混乱していた。
はぁ、と一息ついた響木さんに対して、私は余裕なんてなくて疑問しか浮かばない。そんな様子を見計らったのか、響木さんはこちらに一歩近づくと、ぽん、と頭に大きな手を乗っけてきた。その行為にさらに頭は真っ白になって、何も考えられなくなる。
その置かれた響木さんの手が、とても、とても優しい手だと感じた。なんでこんなに暖かい手を、私に向けてくれるのだろうか。
ーーーもちろん当の響木も、何の考えなしにこの少女の身元引き受け人に待ったわけではない。戸籍上、養子として受け入れて、ここまで世話をしてきた。身内も居場所も、"ここ"には何もないと言う。最初こそは不審に思っていた存在だった。でも自分の生徒手帳も、自分がいた場所の住所もすべてを俺に託した。その行動に本当に一人身なんだな、と察する。
だが一応念には念を、ということで鬼瓦の奴に世話になった。渡された証拠を基に、身辺調査を請け負ってもらった。その結果、思いがけない推測を運んできてしまった。調査をした鬼瓦からの口からは信じ難いことばかり述べられた。
「響木よ、例の件調べさせてもらった。こんなこと、お前さんに任せるが……異世界からきた、以外、考えられん」
"存在しない、架空の人物だ"
住所や学校は確かに存在するが、漢字が違っていたり、少女自体の名前が何一つ一致しないというのはあまりにも可笑しすぎるという話になった。だが彼女は今、目の前で生きているし、偽名を使っているようにも見えなかった。
それが、異世界からきた。それだけで全てのカタがつくなんて。まさに超次元的展開である。
こいつを信じてやりたいと、心の何処かで思っている自分がいたのだ。手を乗せた頭は重みで下を向いたままだが、肩がかすかに揺れている。時折ズズッと鼻をすすっては、ポタポタと布団にシミを作っている少女に、目元がゆるんだ。
「……よく話してくれたな。我慢するな」
小さな体で、とても大きいことを抱えていた。それでも決して弱音を吐かず、きっといろいろな葛藤があっただろうに。信じてくれるわけがない話をするには、勇気とそれなりの覚悟が必要である。それを、泣きそうな顔で全てを話してくれた。それが彼女なりの覚悟だったのだろう。その覚悟を受け取って見捨てるほど、自分は薄情ではない。ーー泣きたいときは、泣くといい。響木さんのあまりにも優しく、私にとって重い言葉に、涙が止まらなかった。
「ありがとう、響木、さん」
ガラッ
「あ、苗字!起きてたのか!!」
誰かきた。と思った瞬間に頭の重みが一気に重くなって、耐え切れず布団に顔面を打ち付けられる。ぼふっと柔らかい布団が顔を包んでくれる。鼻水が布団についてしまわないか危ういけど。
「らっ、雷雷軒のお、おじさん!?」
焦ったような円堂の声を聞いて、ほっと安心する。響木さんはきっと涙を隠してくれたんだろうな、とポジティブに考えることにした。
「よ、よふほほえんひょー(ようこそ円堂)」
布団に顔を埋めている(…られている?)まま、片手をあげて"Hello"と挨拶をする苗字。そんな様子を見て、数回瞬きを繰り返したあと、にかっと笑った。
「元気そうで俺、安心した!」
そう。それは、よかった。と見えない顔からそう聞こえた。その日、円堂は私に、その日あったことを全部教えてくれた。
「あのなあのな!今日は早くからみんな集まって練習しようと思ってたんだ!そしたらビックリ!部室を開けるとそこには…えーっと……アイツがいて…。そうだ!次の対戦校が決まったんだ!それからな、マネージャーが一人増えたんだぜ!!俺らもサッカー部らしくなってきたと思わないか?っ──ああ、わくわくしてきた!」
「そ、そうなんだ」
「それからな!あの…染岡いるだろ?染岡がさ、はりきってるんだ。俺的には嬉しいんだけどラフプレーが目立って……、壁山たちも豪炎寺を期待してな…。そうだ、豪炎寺!さっき豪炎寺にあったんだ!!」
円堂、マシンガントークありがとう。混乱している私をよそに、円堂は表情豊かに説明してくれる。一度に大量の情報が入ってきて、あいつとかそいつとか、えーっととか。どれが何を指すのか理解する前にまた別の話をされる。それでも、全部に共通してるのは円堂の笑顔だった。
「苗字とまたサッカーしたくてうずうずしてんだ!」
その言葉に、私の涙腺がまた崩壊しそうになったのは、私と響木さんだけの秘密だ。円堂が病室を去って、響木さんもそろそろ店に戻ると準備を始めた。響木さんを見つめながら、私はこのまま行くあてもなく世界に存在し続けるのだろうか、とセンシティブになる。それを察したのか、帰り際に響木さんが、ポツリと声を発した。
「何で今このタイミングで話したくなったのかはわからんが、このままここにいていい。何も変わらん。そのために色々根回ししたんだからな」
「、あはは、だから鬼瓦刑事がいたんですか。普通あんな身近に刑事なんていませんよ、」
「ふん。あいつは俺の店の常連だからな」
「響木さんかっこよ」
「は!意味がわからん。俺は店に戻るが、今日は安静にしてろよ」
「はぁい」
病室の扉が閉じて、いよいよ1人になった時、涙が止まらなかった。ここにいていいよ、と響木さんは言ってくれた。温かい、ぬるい涙。喉が熱い。胸が苦しい。うまく、息ができない。それでも、自分の存在を肯定してくれる、身元を引き受けてくれた大人がいる、という安心感に、身体中を熱が走る。
「あ、ありがとう、ありがとう響木さん、」
泣きじゃくる声を拾い上げる人はいなかったが、心がスッと軽くなるのを感じた。
──次の日。
「お邪魔しまーす」
昨日は聞こえなかった声が、今日の部室に響く。部室で着替えている面々が、一気に声のした方を見た。そしてそれぞれがリアクションを見せる。
「なっおまッ!」
「え、え、え!?」
「ッ──!!」
上から染岡、半田、風丸の順で焦りを見せた。もう着替え終わっていたマックスは、その人物に小走りで近づき、話をふる。
「もう平気なの?苗字」
「そんなとこ。まぁこの後また──皆こそどうしたの」
そう、みんなが驚くのも無理は無い。だってそこには、帝国戦で重症を負い、病院に行ったはずの名前の姿があったのだ。マックス以外のみんなはというと、金魚のようにパクパクと口を開閉した。誰も受け入れの言葉はないのかと、少しむっとした名前は、いいこと思いついたと口角を上げる。なんとも悪い顔だ。
想像を絶するみんなのリアクションに、疼くのは出来心。
「私実は…もう死んで」
「るんだ」とお化け発言をしようと思ったのだが、風丸がふるふると震えているのが視界に入り、あれっと首をかしげる。
「あ、あのぅ、?」
ま、まさかと思った時はすでに遅くて、くわっと形容しがたい表情で、ズンズンと風丸が言い寄ってきたのだった。
「お前今すぐ病院戻れ!!!なんで抜け出してるんだこのバカ!!」
「──え、いやっ、ちゃ、ちゃんと許可もらったって」
「嘘つけ!」
「えぇ!?ほんとだよ!!」
風丸に始まり、それが合図だと言わんばかりに染岡や半田たちが一斉に説教をし始めた。しかもその内容は、私が病院を抜け出してきたとか…、
「(信じてもらえてない、ぷぷ)」
そんな様子を見てマックスは一人笑みを浮かべる。
「まって!ほんとに!!許可はもらってる!」
「嘘だ!お前の怪我すごかったんだぞ!?」
「そ、それは重々承知、」
「お前が着てたユニフォームなんてぐろかったんだからな!!」
「う、」
「あの出血の量、たった2日で治るわけが、」
みんなの言わんとしてることが大体伝わってきた。すごく、すごく心配をかけたのだ。私が、彼らに。こうして怒ってくれているのも、私の身を心配してのことだろう。
「ん、でもこれは本当に、」
「馬鹿野郎が」
「いった!?」
でもでも、許可が出ているという事実も信じてもらえず、私は病院を勝手に抜け出しているというレッテルを貼られ、誤解もとけなかった。本当に解せない。
今日はもともと見学のつもりでここを訪ねていたのだが、願ったり叶ったりで、みんなにはいるならせめてベンチな。と言われて、マネージャに任された私です。秋は心配しつつも、普通に受け入れてくれて、やっぱり秋は天使だと思いました。
「あれ苗字?なんでこんなとこにいんだ?」
「あ、円堂」
河川敷のベンチに腰掛けていると、着替え終えた円堂がやってきた。不思議そうにこちらを伺っている。「聞いてよー」と口を開いた瞬間に、いつの間にかこちらに来ていた染岡に頭をグリグリされて遮られた。
「円堂からも言ってやれよ。こいつ、病院抜け出してきたんだぜ?」
「…苗字」
「だぁぁぁあ!だからちゃんと病院から許可はもらって」
「な?こうやって嘘つくんだ」
染岡や半田、風丸が断固として信じようとしてくれない。その上、やってきた円堂にも広める始末だ。もう一度言おう、これは誤解だ。大いなる誤解である。
「そうか、」
染岡から事情を聴いた円堂は、肩に手を乗っけてきた。説教はいやだぞ、と視線で訴えてみる。
「よく来たな苗字!サッカーやろうぜ!!」
「「「円堂ぉぉおお!!!!」」」
(キャプテンってそういう人だったでヤンスねぇ)
(うんうん)
(苗字先輩元気そうで安心したッス)
((うんうん))
結局、なんだかんだでみんなは「病院に帰れ」とは言ったものの、強制はしなかった。そのことに嬉しさが沸く。見てるだけなら、という半田の意見に同意してくれたみんなに感謝しながらみんなを見つめた。
「行くぜ円堂!」
「よしこいっ染岡!!」
そして、それは偶然の出来事だった。丁度染岡にパスが渡り、シュート体勢に入る。そんな染岡の足に、物凄い気が溜まったような気がして、蹴り出した時には、青いドラゴンが咆哮しながらうねり円堂に向かって放たれたのだ。
「!!!!」
「えっ、今の…!」
ざわりと騒がしくなる。それもそうだ、今染岡が放ったシュートはまさしく必殺技と呼ぶのに相応しいもので。周りも感嘆の声をあげた。
「今龍がぐわッ~って!」
「す、すごいっす染岡さん!!」
呆然としている染岡に会いたくて。こんな遠い距離から見ているだけなんてできなかった。体が勝手に、と言ってもおかしくはないくらい、足は染岡のところへ向かっていた。
「あっ名前ちゃん!」
「だいじょーぶだいじょーぶ!」
秋の気遣いに、返事をしながら、目的地である染岡の元まで一直線に向かう。途中で私の存在に気がついた染岡はぎょっとしたように慌てた。
「なっ、お、おい!?な、なんでこっち走ってくんだ──」
「っおめでとう染岡!!」
そうして名前は染岡を押し倒さんばかりに飛び込んだ。しかし、さすがは染岡。このくらいの衝撃で倒れるような男ではなかった。海老反りになって衝撃に耐えぬいたのだ。すごいすごいと、心の中で拍手喝采がおこる。
「「苗字!!」」
「おまっ!」
はなれろと顔を真っ赤にして暴れる染岡と、「何やってるんだ!」と言っている風丸の声を聞きながら、振り落とされないように手で染岡にしがみつくように抱きしめる。
「よかったね、染岡の、染岡だけの必殺技だよ。おめでとう」
「なんかお前俺より喜んでねーか!?」
「染岡の努力の結果だよ?嬉しいに決まってるさ!!」
「!、まっまぁな。……というか早く離・れ・ろ!!」
「いーやー!!」
ちょっと嬉しそうに言った染岡だったが、すぐに私を引きはがそうと風丸や半田を呼び寄せていた。
「いくぞ半田、せーのだぞ?」
「わ、わかった。せっ」
「「せーの!」」
「ひぃぃいいい!」
ぐーんと引っ張られ、足だけが宙ぶらりんになる。ー小学校の時によく遊んだ大根抜きのような感覚に陥り、私は抜かれないように必死に染岡にしがみつく。抱きつかれている染岡の方は苦しそうにしている。…こうずっと引っ張られているのもあれだから、ぱっと手を放してみたらどうなるんだろうかとふとよぎったが、わたしはそこまで勇気がないから考えるだけにしておいた。
「あれ?…豪炎寺!」
円堂の声に、周りが一気に静まる。伸ばされていた足も、動きが止まってしまったために、つらい姿勢のまま動かなくなった。
と、思いきや、抱きついていた染岡に、顔をひゅむっと押されて引きはがされた。
「うわっ、ちょ、二人とも手ぇ放して……!──ッ」
捕まっていた唯一の支えがなくなった今、宙ぶらりんの足だけが持たれ、上半身は重力に従って地面に落ちるのみだ。
瞬間の出来事に、半田や風丸が動けるわけがない。なぜなら、豪炎寺という人物の登場に気が向いているからだ。
(これは、痛い!!)
瞬時に悟った私は、ぎゅっと目を瞑った。こうして青春は、幕を閉じたのでした。ちゃんちゃん
fin
(……すまん)
(いやいやいや、大丈夫よ、気にしないで)
(でも、)
(そうだねぇ、散々疑われたあげくちゃんと病院の許可と帰りに病院寄っていくっていうのもきかずにバカ呼ばわりされたけどさ。染岡の頼みだもんね、仕方なかったよね、うん)
((ほんとすみませんでした))
(名前の奴、随分と元気そうだな……)
(ヘヘヘッやっとサッカーできるな!豪炎寺!!)