トリップ/友情より/アニメ沿い/オリジナル/落ち未定
1期連載
名前変換
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今日はいよいよ帝国との練習試合である。40年間無敗を誇る強豪校、帝国学園が相手なだけに、皆が緊張の面持ちをしていた。ぶっちゃけてしまえば、不安、緊張はこの上ないと思う。
「それで名前ちゃんには一応FWをお願いしたいんだけど……」
「攻撃の人!」
「ふふ、そう。名前ちゃんは読み込み早いから助かっちゃったよ」
「じゃあ苗字はとりあえず10番で……」
「僕らのポジションもこれからだよね」
ミーティング、というわけで各々のポジションを確認していく。確定しているのは円堂のGKと染岡のFW、半田と宍戸とそれから少林寺のMF、壁山と栗松のDFである。あと4名として、挙げられているのは風丸、松野、影野。それから控えとしての──私である。
ミーティング兼顔合わせとして、円堂がメンバーをみんなに紹介した。
「今日の試合、助っ人に入ってくれる松野空助だ!!」
さてはて、なんとかここに11人がそろいましたとさ。──戦う相手との差は歴然。それでも彼らは立ち向かう。
「あ、」
カタカタカタ、とゴールが揺れる。グランドの砂はふわりと風に乗って、どこかへ飛んで行った。ああ、ついにくるのか、と心の中で思う。よくよく耳を澄ませていると、ゴゴゴゴと唸るような地響きまで聞こえてきた。
「な、なんだっ!?」
心なしか雲行きも怪しくなって、グランドで帝国学園を待っていた雷門イレブンは異様な雰囲気に驚きながら、校門を見つめる。
「来たぞ!!」
円堂の声と同時に見えてきたのは、黒く、そして大きなバスだった。そのバスの上には、帝国学園の校章が描かれた旗がバタバタと靡いている。確かな存在感を放つバスは、暫くしてからパシュンと音を立てた。
「ッ……」
たったそれだけのことに、雷門イレブンはすでに圧倒されていた。
「あ、あれが帝国学園でヤンスか」
「さすが40年無敗なだけあるね……。もう選手の姿を見る前から雰囲気が違うよ」
「弱気になってんじゃねぇよ。栗松、少林寺」
「染岡さん……」
「うわぁあ」
「で、だ。微妙な反応してんじゃねぇぞ苗字。引いてんのか?驚いてんのか?」
「八割引いてる」
「引いてんのかよ。じゃあ二割は」
「びびってる」
「おい」
ギリギリと染岡の拳が私のこめかみを攻撃してくる。「痛い!」と訴えれば、染岡はふんっと鼻を鳴らした。
バスの入口が開くと同時に出てきたのは、帝国の生徒たちだった。カッコいい制服を身に纏い、誰一人として遅れる者はなく、綺麗に分かれて道をつくった。配置に着くとレッドカーペットを敷き、ガッと軍人のように敬礼をする。
そんなこんなで、敷かれたレッドカーペットの上を堂々と歩いてくるのは帝国イレブンの面々だった。その徹底ぶりに、思わず脳裏に浮かぶあの言葉。
「殿方のおなぁりぃい──い"!?」
「おまっ、聞こえたらどうすんだよ!?」
「痛い!や、でも、皆少しでも思ったでしょ!?」
「確かに少し思ったけど……。じゃなくてな!!」
「おお、ナイスノリノッコミ」
「ッ苗字~!!」
ぱちぱちと小さく拍手すると半田は手を真っ直ぐに揃えると、それを私の頭に叩き込んできた。そう、チョップだ。
ここで余談をしよう。私も半田や染岡たちと出会って2日。たった2日だけだが、この数日ででだいぶ仲よくなった。どうやら私と半田と染岡との相性が良かったらしい。ふざけあうのも、パス練に付き合うのも、どちらからともなく、自然と組んでいた。
円堂はグランドに入ってきた帝国サッカー部員の元まで走って行き、挨拶を交わした。手を差し伸べたはいいが、タイミングが合わず帝国のゴーグルマントはふいっと顔を反らしウォーミングアップをしていいかと尋ねてきた。もちろん円堂の手は行き先を失う。普通に円堂は「どうぞ」と返事をする。帝国のゴーグルマントさんはきょろ、きょろとグランドを見渡していた。
何探してるんだっけ。と、記憶を探しながらぼーっとしていると微かに笑い声が聞こえた。それは決して楽しい声ではなく、小ばかにしたものだった。クスクスと、嫌な笑いだ。
「女子部員だと?聞いてないぞ」
「……だが総帥からの許可は下りている」
「へぇ。流石弱小、と言ったところですね。鬼道さん」
ハハハ、とオールバックの選手が笑う。何を言っているのかは聞こえなかったが、いやな視線が自分に向けられていたのだから、恐らく私の存在だろう。
思わずむっとした。ちょっと腹が立ってきたので、回れ右をして自分たち側のベンチへ向かう。突然振り返った私に、染岡は驚いていた。そんな染岡を見て鼻を鳴らす。
「やんになっちゃうね!染岡!!」
「何の話だ」
「いでっ」
そうしている内に、ウォーミングアップを始めた帝国学園。その光景を、染岡をはじめとする雷門イレブンの皆が口を開けたまま茫然と見ていた。
「ッす、げぇ……」
「オイオイ、なんだよあの動き……!」
レベルが違すぎるというものじゃない。力強いドリブル、パス、トラップ。個々が絶対に強力な選手であると一目瞭然だった。こんな強い相手に、俺たちは勝てるだろうか……。と不安にさせるには十分な効果だった。
ふと、例のゴーグルマントさんがにやりと笑ってボールを円堂に向けて蹴った。不意をつかれて、遅れて円堂が反応する。ただのノーマルシュートのはずなのに、円堂のグローブが若干焦げ目を見せた。それが示す意味は、相手のシュートの威力の強さだ。
ごくり、と誰もが生唾を飲み込んだ。
「燃えてきたぁあーッ!皆っ一週間の成果を、こいつらに見せてやろうぜ!!」
「きゃ、キャプテン!」
「なんだ?」
「おっ俺、トイレ行ってくるッスー!!」
「あっおい壁山!!」
壁山が股間を押さえて方向転換し、慌ただしく校舎の中へ入って行った。突然のことに円堂は、反論する暇もなく、壁山は行ってしまった。
「トイレならすぐ戻ってくるだろ」
「半田……、」
「そうですよ先輩……。それよりも、俺たちあんなすごいのに勝てるのかな……」
「か、勝てる予感がしないでヤンス……」
「はぁ、もうダメかもな」
「………」
少林寺と栗松、それから宍戸たち、一年生と、半田がその場にしゃがみこんだ。だからそれに便乗してわたしも一緒に座りこむ。
負のオーラを出し続ける彼等にかけれる言葉はなく、ただ黙って聞いていた。
「勝てる気がしないってこういうことだよな……」
「宍戸、やめるでヤンス」
「仕方ないよ、結果は見え見えだし……」
「少林寺の言うとおりだよなぁ。はぁ……、で、なんでお前は普通の顔してんだよ?苗字」
「や、ちょっとでこ助にギャフンと言わせたくて」
「でこ助ぇ?」
「ギャフンって……」
「ちょっと古──」
「うるさい!ゴホンッ、そういえば壁山遅いね」
半田たちと一緒に壁山の帰りを待っていたわけだが。いまだ壁山は戻ってこない。トイレにしては少し遅すぎやしないだろうか?試合はまだ始まらない。男の子ってそういうものなの?と聞こうと思ったが、足音にさえぎられた。
「円堂くーん!!彼、サッカー部に入ってくれるって!!」
「何!?本当か!!」
「ふむ、どうやら本当に僕が最後の11人目のようですねぇ……!」
円堂の言葉をスルーして、メガネをいじりふんっと鼻息を荒くする。なにを隠そう、この直前入部の彼は目金欠だ。廃部寸前のサッカー部を救う、なんてオイシイ……という下心が丸見えだった。だからか、半田たちも対してリアクションを見せない。
「はぁ、11人目って……すでに揃ってるでヤンスよねぇ?」
「壁山が今いないから10人だと思ったんじゃ?あと……影野先輩を数え忘れてるか」
「あっ、さっきの半田先輩みたいに……」
「ああ。なるほど……」
「お、お前らな。でも確か目金ってすっげぇ運動オンチじゃなかったっけ」
「ゴホン!!ぼ、僕さあ、10番ユニホームしか来たくないんだよねぇ」
「こんなこと言ってるけど、どうする?円堂」
「……よしわかった!」
「「「!?」」」
ずーっと悩んでいた円堂だったがようやく返事をした。"よし、わかった"。つまり円堂は目金の言う「10番ユニホーム」を着ることにオッケーサインを出したのだ。
「キャプテンッ、ま、まじでヤンスか~!?」
「マ・ジ・だっ」
マジだという言葉に半田をふくめた4人がこけた。栗松に続き、まさかの肯定の返事に不安を持った宍戸、少林寺が円堂を見つめる。そんな1年生たちに対し、真顔で答えた円堂であった。そんなナイスなリアクションを完全にスルーして、円堂は満面の笑みを浮かべた。
「と、いうわけだ。苗字!」
そんなナイスなリアクションを完全にスルーして、円堂は満面の笑みを浮かべた。そして流れるように、ポンッと名前の肩に手を置き、口を動かす。
「脱いでくれ!」
「「円堂ッ!!」」
顔を真っ赤にして、風丸と染岡が反論をした。そんな二人の苦労も知らないで苗字は全てを受け入れたような顔を浮かべて微笑んだ。
「分かったよ円堂……。苗字 名前、円堂のために一肌脱ぐね」
するりと両手をクロスさてせ、自分のユニホームを捲り上げる姿勢に入る。その瞬間に半田が苗字の腕をつかんで阻止し、風丸が捲り上げられたユニフォームを元に戻す。流れるような連携プレーだ。脱げなくなった苗字は文句ありげに2人を見る。その視線を感じた半田が顔を真っ赤にして声を上げた。そして、風丸もしかり。
「ここで脱ぐ奴がいるか!!」
「一肌脱ぐってそういう意味じゃないぞ!いくらなんでも物理的すぎる!!」
そんな言葉があるなら法律はいらないとか言い出す始末だ。
「えー、」
「えーじゃない!!ったく、円堂も円堂だ」
「だ、だって風丸ぅ……。もしものために目金が必要なんだ、ならこうするしかないだろ?」
「ほら、円堂がこう言ってるんだから。半田放してよ。風丸も」
とか言って、もぞもぞと脱ぎだそうとする名前と、脱ぐように催促する円堂。そんな二人に耐え切れなくなった染岡がゴツンと一発、名前の頭に拳を入れた。
「誰かこいつらを止めろ!!」
「お、おう」
「染岡さんが止めたでヤンスね……」
一気に騒がしくなっては、一気に静まりかえる。そんな騒がしい状況を、同じフィールドにいるのに聞こえていないわけがなかった。そう、相手の帝国イレブンには雷門イレブンの一連の騒動がまる聞こえだったのだ。
「鬼道さん……本当に面白いものが?」
「……………嗚呼、きっとな」
「騒がしい奴ら、」
「まったくだ」
そんなこんなで、ずーっとそっちのけだった帝国はそんな会話をしてたとか。まぁ、そんなことを知るすべは雷門イレブンにはない。
染岡の鉄槌を受け、話を耳にした秋によって私は部室へと連行され、秋から別の番号のユニフォームをもらった。脱いだユニフォームを目金に渡し、数分後には10番を来た目金が戻ってきた。
「わざわざ脱がせたんだから、ちゃんとがんばってよ目金君」
「分かってますよ!後悔はさせません」
キラーン、とメガネを輝かせて答えた目金。その反応に、期待していいのかな?と不安そうな皆だった。あれ確か目金って、途中で逃げ出すんじゃあなかったっけ?と考えながら、いつまでも始まらない試合を待っていた時だ。
「円堂君、円堂君!!」
「冬海先生?」
「い、いつまで相手様を待たせるんですか?は、早く試合の準備を──」
「す、すみません!あの、まだ一人トイレから戻らなくて……」
「なんですって!?あ、あぁ!!急いでくださいよ!!」
「は、はい!!」
壁山がいつになっても現れず、試合は一向に始まりそうにない。さすがに焦りを感じた冬海先生は、慌てて試合を促した。痺れを切らして、なのかそれとも──ちらっと帝国バスの上にいる人物を見て、ふと思った。彼が、怖いだけなのか。と。
促されたことで、雷門イレブンはトイレに行ったきりの壁山の捜索に出るといい、男子を連れて校舎へ向かった。残された私と秋は、すとんとベンチに座る。さぁさぁと風に吹かれながら秋と会話を交わす。穏やかな時間だ。
「名前ちゃん、この試合どうなると思う?」
「どう……、自信は、ないかも」
「だよね。……みんな遅いなぁ、円堂君たち大丈夫かな」
「円堂なら大丈夫だよ。きっと壁山を連れてきてくれるし、もし負けちゃったとしても次に繋がる負けをしてくれる気がするもん」
「名前ちゃん……ふふっそう、そうよね。円堂君だもの」
くすりと笑った秋。そんな秋につられて私も笑った。冬海先生の「時間が、時間が」と慌てる声を耳にしながら、遠くの方から複数の足音がきこえた
「おーいっ!し、試合始めようぜ!!」
「円堂君!」
「冬海先生!全員そろったみたいです」
「はぁ、よ、よかった……!」
安堵の息を漏らした冬海先生は、脱力したようにベンチに座り込むと、はっとしたように少々急ぎ気味で帝国イレブンのところへ走って行った。その間に、こちら側も準備を整える。その様子を私は目金という男の計らい(せい)でベンチ見学となったわけだが。
「あのーっここで一緒に見ててもいいですか?」
「へっ?」
突如した訪問者に、私と秋は思わず剽軽な声が出た。声のした方を見ると、そこにはふわりとしたショートヘアの女の子が立っていた。
「あ、あなたは……?」
「申し遅れました!私、新聞部の音無春奈です!!」
「新聞部の取材ね。どうぞ」
「ん、ここ空いてるよ」
秋のがちらりとこちらをみたため、頷いて私もスペースを開ける。そしてぽんぽんと空いたところを叩きながら春奈ちゃんを招いた。すると彼女は「ありがとうございます、しつれいしまーすっ」と座った。
うん、可愛い
「それで、」
「それで?」
「勝つ自信は……」
「あるかないかって言われたら……ない、」
「あぁっ……やっぱり!」
流れるように春奈ちゃんと秋が会話を交わしていくのを聞きながら、にまにまと顔を緩ませる。──ベンチにいてよかった。心でガッツポーズを決めた。
「でも、あの円堂君と皆をみてると、勝つかも……。なーんて思えてきちゃうんだよね。まだまだ始まったばかりのサッカー部だけど」
「秋かっこいい!!」
「かっこいい~ッ、今のコメント!使わせてもらいますねー!!」
「えっ、え!!」
秋と春奈ちゃんに囲まれて幸せものやーと思ってしまった。可愛いは正義という言葉があるが、全くその通りだ。その間に円堂が私を抜いた11人を連れてグランドに整列した。それに続けて帝国の選手たちも一列に並ぶ。それぞれが顔と顔を合わせている状況を見て、ごくりと喉をならした。
「いよいよ始まりますね!」
「うん……!」
皆がそれぞれの陣につき、ホイッスルが高らかに鳴り響く。──そしてその音と同時に、記憶は呼びさまされる。でもその存在する物語の記憶と、今、目の前で起こっていることでは、あまりにも悲惨だった。
「っ、円堂君!!」
容赦なく突き刺さった帝国のシュート。だらりと力なく地面に倒れていく体。威力を失ったボールが、倒れた円堂の横をころころと転がっていく。
「始めようか。帝国のサッカーを」
ピーッ、と響く先取点はあっという間で。ただ、ボールをストレートに蹴っただけだった。なのに、そのボールは円堂ごとゴールに突き刺さっている。
「なに、この、威力、」
話が違う、こんなのがサッカーなわけがないとまで思うほどの光景だった。そのあとに続く試合運びを見ていたら、もう笑顔なんて取り繕うなんて無理だ。ただでさえ強いのに、その矛先が"ゴール"ではなくて、"彼ら"なのだから。
『雷門イレブン打つ手なし!成す術無しーッ!!』
実況の声だけがグランドに響いた。
皆が帝国の攻撃に耐えられず、地面へと倒れていく。いつの間にか春奈ちゃんも絶句して、言葉を失っていた。宍戸、栗松、マックス…次々ボールにあたりぼろぼろになっていく。円堂が何度も立ち上がるが、対するチームメイトはだんだんと"諦め"の色が見え始めていた。
こんな強い相手に、勝てるわけがない──と。ついに点差は10:0までになり、前半は終りを告げた。
********
はぁはぁ、と短い間隔での呼吸音が響く。みんな肩で呼吸をしている状態だ。対して帝国側は誰一人として息を切らしてはいなかった。その様子に、思わずぼろりと弱音が漏れる。
だめだ。勝てない。無理だ。勝負するまでもないだとか……。
そんな皆に対して円堂が拳を作り、どんっと胸を叩きながら言った。
「勝利の女神がどちらにほほえむかなんで最後までやってみなくちゃわかんないだろ!?」
「円堂………、」
それでも、誰一人として立ちあがるものはいなっかた。──はずだった。
「円堂」
「なんだよまだやるに決まって──って、苗字、?」
さくり、と立ち上がった人物を見て、しんっと静まりかえった。あまりにも意外な人物が、立ち上がっていたからだった。まだ初心者なのに。経験者が心折れるぐらいのレベルの差であったのを見ていたのに。
「一度だけでいい、ので、えっと、私を、出してほしい……な。……お願いします」
そう言って頭を下げれば、ざわりとざわついた。自分が何を言っているか分かっている。でしゃばっているのも分かっている。でも、このままで良いはずがないんだ。このままだと円堂が集中攻撃される結果が見えてしまっている。そんなの絶対に嫌だ。
しんっと沈黙が流れ、否定も肯定の言葉もヤジもない。
「戦力に、は、ならないと思う。だけど、!」
「本気、なんだな?」
「……ッもちろん」
「よし、分かった!頼むぞ苗字!!」
円堂はしっかりと、私の目を見て答えてくれ、また、受け入れてくれた。そうして、最も浪費が激しかった宍戸君と私を交代で円堂は試合に参加することを許してくれた。相手側に承諾を得ようと、キャプテンらしきゴーグルマントを見れば彼らは驚く様子もなく、平然としていた。
「誰が来ようが変わらない。なぁ鬼道さん」
「ふ……」
「くっそ、舐めやがって……」
「まぁ実際舐められてるんだけどね…、否定できないけど」
「おいやめろ」
誰が入っても同じこと。たしかにその通りだったかもしれない。誰もがモチベーションが下がっていくなかで、後半が始まった。
だけど、ホイッスルが鳴れば彼らは走る。体は、勝てない、勝てそうにないというそんな相手に立ち向かっていくではないか。それは弱小と言われ続けた彼等の姿ではなかった。それはそれは勇敢な、そう、勇者のようで。
「舐めてると痛い目みるよ?」
せめての強気だったけど、口角を上げれば、なんだかやれる気がしてきた。
後半早々、ボールが自分たちの足元に来ることはなかった。むしろボールに遊ばれている感じで、ヒラリヒラリと交わされては、体に当てられて、跳ね返っては蹴りを入れられていた。
「いくぞ、デスゾーン……開始!」
デスゾーンってなんだよ!と見ているだけだった私は笑っていたはずだったのに。
鬼道の合図で、3人の選手が飛び出てくる。3人の動きは完全に一致し、同じタイミングで、同じスピードで走りこんできていた。そして高くボールを蹴り上げ、その周りをぐるぐると回転をし始める。するとどうだろう。禍々しい紫色の閃光を放つほどの何かが、ボールに集まった。
これは、と嫌な予感が全身を走る。
「円堂構えて!それか逃げ──」
「そして奴を、引きずり出せ!!」
運悪く、私の声と鬼道の声が重なり、忠告は円堂に届かなかった。もちろん円堂は突然の大技に呆然としている。
「「「"デスゾーン"!!」」」
紫の毒々しい色を纏ったボールが、円堂にむかって放たれた。こんなボールが、円堂にあったったら?なんて考えている場合ではない。
走れ、蹴るんだ。
「っ、うわぁ!」
だけど、なにも知らない、一週間少しサッカーを教えてもらっただけの自分じゃどうにもできなくて、その突風に巻き込まれる。強烈な威力の"デスゾーン"は普通にキャッチできるものではない。
円堂が腕を出すまでもなく、ボールはゴールに突き刺さる。
「続けろ。奴を炙り出すまで」
鬼道は再び指令を繰り返す。円堂や皆はその餌食となって、地面に倒れていくのだった。
14点、18点と差はどんどん大きくなっていく。もう取り返しなどつかないし、一発逆転の時間もない。それでも。せめてボールをこの足に。ボールを持ち込む半田が、一瞬迷いながらも私を見た。こくり、と頷くと彼も戸惑いながらもボールを蹴る体制に入る。パスを受ける準備はできた。
「っ、苗字!!」
「(くる……!)」
「"サイクロン"」
「「!?」」
「半田、苗字!!」
ズキズキと刺すような痛みに、吹き飛ばされる体。これが、必殺技なのか。と体で痛感しながら足に力を入れて立ち上がった。
「ほう、まだ立つか」
「な、にいってんの。あたりまえじゃん、みんなだって──」
「ハ!お前、周り見てみろよ」
「……?──ッ」
例のデコにつられて。周りを見渡した。そして絶句する。立っていたのは、私と円堂と目金だけだったのだ。皆はもう、立ち上がる力すら残っていないようだった。しかも、グランドの方では嘲笑うかのようにボールさえ蹴ることをせず、足で止めている。余裕の構えだ。あまりの悔しさに、ぎりっと唇を噛んだ。
「出てこい。さもなければ最後のアイツ等を」
その標的は、私たちではないのかと思わせるようなセリフを、帝国イレブンはこぼした。
"叩きのめす"と、そう言ったのが聞こえたと同時に、くらりと体がゆれた。とんっと尻もちついたかと思えば、次の瞬間ドガッと鈍い音が自分から聞こえ、土の匂いに包まれる。鈍い痛みが体中を走る中、横を通り過ぎて行った人数にぞっとした。
「えん、ど!!」
ビシビシと円堂を叩く音が絶え間なく聞こえる。そこで明らかになったのは、彼らのシュートが、点を入れることを目的としていないということだった。確信したと同時に、最悪の展開に吐き気をおぼえる。
点を入れるためならば、円堂を避けて、ゴールに入れるだけでいい。だけど彼らはあえてそうせず、むしろ円堂を当てることを目標としているプレーであった。
「こいつらぁ……!」
悔しいなちくしょう。結局何もできないじゃん。グッと力を込めて、膝をつく。
「こんなの…、こんなのサッカーじゃない!!」
「かぜまる!!」
ぐしゃあ、と音がして。ネットがゆれる。そして、響くホイッスルに思わず体が震えた。恐怖ではなく、怒りの方で。すでに前半から体力は絶え絶えのはずの風丸が、円堂の前に飛び出たのだ。彼を、守るために。
「おいおい、ノーマルシュートだぜ?やわな奴だな」
「もっと骨太な奴はいないのかぁ?たとえば、強いストライカーさん、とかな」
ふ、と鼻で笑いさらにはけなしてきた。デコ男の言葉に、ふつふつとなにかの感情が湧きでる。強いストライカーなんて、そんなの、染岡に決まってる。骨太な奴?目の前にいるじゃないか、皆、皆、骨太だよ。
怒りを力に変えて、円堂の前に立つ。その様子を見た帝国イレブンはふっと口角を上げた。
「女のくせにタフだな。まぁいい、次で終わりだ。寺門!!」
「"百烈ショット"!!」
「──」
ぐるぐるぐる、とお腹が熱くなる。痛いけど、ここでこらえたらきっと、円堂へのダメージは少しだけましになるのではないだろうか。ぐっと力をこめて、足で立つ。威力に押されてズルズルと砂埃が立ち込めた。それでも堪えてやるんだと、両足に力を入れた。
だけど、威力に耐えられなかった。
「!!」
バチィッと弾かれてボールは私の脇腹を通りぬけて円堂へ向かって行った。回転技術が兼ね備えられているなんて、聞いていない。ピーッと響くホイッスルを聞いて、悔しさのあまりに泣きそうになった。
ついに、19点目が決まってしまった──。
『これで、雷門のキックオフだが!?目金以外は立ち上がれない──ああっと!?い、いや、立ち上がったー!!苗字 名前が、立ち上がっているぞー!?』
かろうじて立ち上がる。もう痛いなんてレベルじゃない。酸素が欲しいし、体は重いし。だけどこれ以上、皆をバカになんてしてほしくないんだ。
「ふん、少しは潰し甲斐があるな」
「つぶす、?」
コロコロと転がってきたボールを足元に、目金をちらりと見れば彼は怯えきったような顔をして、目に涙を浮かべた。そしてちらりとデコ助がグランドの外を見た。そこには白髪の……、
ここで、ようやく思い出す。私の記憶の中の、この物語を。ああそうか。この試合は、あくまでも彼を。彼を引きずり出すためだけの試合。痛めつけられるのは必要な過程にしかすぎないというのだ。
そんな勝手な。あれやこれやと考えているうちに、相手が痺れを切らし、仕掛けてきた。佐久間と寺門のダブルスライティングが目の前に迫る。さすがに一人で交わせる技術はない。
「めがね、」
「ヒィッ、もうこんなのやだぁああ!!」
「!?」
「あらら~?お仲間はもういないみたいだなァ!!」
「ッ、!!」
目金が逃げ出したにもかかわらず帝国は容赦なく攻めてきた。とくにデコは煽りに煽ってきやがる。くそ、むかつく。
「お前ごときが抜けられるかよ」
前、横からスライティングに挟まれた。逃げ場は、上しかないだろう。帝国からの第一印象はどうやら『トロイやつ』のようだ。……、否定はしないけど今は好都合だ。
「窮鼠猫をかむって知ってる?」
「なんだと?」
むかついたのでおもいっきり余裕の笑みを浮かべて行ってみた。それはもちろん、口先だけのつもりで。帝国を煽るつもりなんてこれっぽっちもない。
つまるところの嫌味だ、嫌味。
自分の身を滅ぼしてでもサッカーに立ち向かった皆を笑われるのがむかついたから。ふんぞり返って、自分たちには見向きもしない彼らに対しての、嫌味。
『ボールを高らかに上げ、自ら攻めに入りディフェンス陣をかわすー!!今までは体力を温存していたか苗字 名前!?』
「姑息なマネを!!」
おかしいなぁ、自分サッカーなんてやったことないから、できなかったはずなんだけれども。ドリブルをする足は速いし、体は軽く感じる。完全にノーマークだった選手が自分の陣地に入っていくのを見て少しの焦りの色を見せた帝国に、いい気味だと笑った。
「名前ちゃん、笑ってる…?」
「っく、コイツ……!」
「ぎゃっ、あ、あっぶな!」
相手がラフプレーしてくる分、それを交わすときになんともアホっぽい声が響く。フェイントで交わしたり、ヒールリフトをフル活用で交わしたり。なるべく自分の足にボールがないようにしているようにも見えた。
「ほっ、!」
謎の声をあげながら、フィールドをちょこまかと駆け巡る。歩幅が男子よりも少し小さい分、ちょこちょこと細かい動きをしてくる選手に、相手はたじたじだった。
ちょこまかちょこまか、パターンが読めず…あっちいってこっちいってあっち行って。ぶちまけた話をすると、すごいのかすごくないのかよく分からないプレーである。シュートすればいいものを、変にキープをし、打たない。帝国側としては腹ただしい存在だった。
「てめえ…ナメんのも大概にしろよ」
「デスゾーンで蹴散らしてやる…!」
「っ、なぁーにがデスゾーンだ!ダサいよ!!死亡領域のほうがかっこういい!喰らいやがれ!!」
「な、!?」
前に走りこんでいくとボールにまとわりつく冷気、ボールが軽い軽い。今なら、いけるかもしれない。と謎の自信に満ちる。
「おりゃぁぁあ!!」
「!?」
「なっ……」
『ナッ、なんだぁぁああ!?これは一体!!』
例えるなら、某有名な、最後のファンタジー的な名前のゲームに登場する氷属性の魔法である「ブリザガ」のような大きい氷の塊が、結晶を散らしながら帝国ゴールに向かって飛んで行った。
(あれ?)
不意に感じた違和感。だが、ボールは威力を増して、ゴールに向かっていった。
──ピッっピピーー!!
ホイッスルが高らかに響いた。しんっと、グランドもギャラリーも静まり返る。誰一人と言葉を発しなかった。それは、撃った本人が一番驚いていて、ぽかん、とアホのように口をあげながら"あり得ない"という顔をして相手ゴールを見ていた。
「今の、なに……」
「ッ――苗字‼︎」
ポジションに戻っても、未だに呆然としていて。染岡や円堂たちの声を聞いて、我に返ったときはもうおそかった。デスゾーンがお腹に直撃し、痛みが現実を連れて来る。
「ぅ、げほっ‼︎」
咳き込みながら、体が吹き飛んでいるのが分かった。あまりの苦しさに言葉を失う。
「苗字‼︎」
くだらない冗談は置いておこう。
まずいぞ、このままじゃ自分自身がゴールインじゃないか?そんなのいやだ。みんなの足はひっぱりたくないだめ、絶対。
「っぐ!」
お腹でぐるぐると回転しながらねじ込んでくるデスゾーンの痛みに耐えながら体の態勢を変える。時々捻って避けたくなるのを我慢しながらなるべくボールが斜めへ移動するように。
瞬間に来るであろう衝撃に耐えるがため、手を前に突き出して背中を丸めた。
「(何をする気だ?……っまさか!)」
私がしようとしていることを悟ったのか、ベンチの方からはキャアと悲鳴が聞こえたが、もう変えることはできない。
ゴインッ‼︎
痛々しい音がやけに響いた。自分に至っては、まるで頭のてっぺんまでびりっと電撃が走ったような感覚に陥る。ボールの軌道を変えてデスゾーンはゴールポストに当たってくれた。
お腹と、背中と。それからいろんなとこ。じわじわと熱くなってきた。自分の体はフラフラで、膝をついてしまった。
「名前ちゃん‼︎」
「大丈夫か苗字⁉︎苗字‼︎お前っ、なんて無茶を‼︎」
彼女がしたのは、ボールをお腹で受け止め、ギリギリまで耐え抜き、ゴール近くまで来たら、体をよじりボールの軌道をずらしてゴールポストに当てるという行為だった。そんなことをしてはお腹への負担、また軌道を変えた際に反動で彼女の体もゴールポストに。
ズキンズキンと痛む脇腹や肩背中に耐えつつ、円堂がかけよってきて、ゆさゆさと体を揺さぶる。ちくりと痛んだ腹部。痛みで顔が少しだけ歪んだ。意外に傷は深そうだ。
「だいじょうぶ、まだいける」
「っ……!無理は、」
円堂に笑いかけて、平気だと伝える。これで下げられてたまるか。私はまだ。まだ怒っているんだ。試合続行させてくれた円堂、そして冬海先生に感謝しながら、お腹を押さえて立ち上がる。
(あと一回でも食らったら、意識飛ぶかも…)
なんて思いながら、ははっと笑った。円堂からボールを受けると同時にボールは奪われた。
「"百烈ショット"!!」
目の前がくらくらしてきた上に、シュートが円堂に向かって放たれる。最悪だ。
「っ、だああああ!させるかああああ‼︎」
百列ショットの前に立ちふさがる。痛みなんて気にしてられない。これ以上痛めつけられてたまるか。蹴ってやると、意気込みを入れて、回し蹴りで打ち返す。
「う゛ぁ!」
まさか打ち返してくると思ってなかったのだろう。驚いたように目を丸くする帝国イレブンだったが、威力は弱く、ころころとゴーグルマントさんの足元へ。
にやり、と帝国に笑みが浮かぶ。
はっとした瞬間にそのまま蹴りを入れられ名前は吹っ飛び、円堂もゴールを許してしまった。ここで全員が地面に倒れてしまった。立ち上がりたくても力がうまく入らず立てない。悔しい。悔しい、
「無様だな」
上から降ってきた言葉に、返す言葉もない。誰も立ち上がらないのを見て、帝国イレブンは笑う。もう、無理なのかな、なんて思った瞬間だった。
「っ、まだだ!まだ、終わってねーぞ‼︎」
円堂は馬鹿だった。
その言葉だけで、円堂が立ち上がったのが分かる。前半からずっと帝国のシュートを受け続けた円堂が、だ。円堂が諦めてないのに、自分が諦めてどうする、と足腰に力を込めた。
「おい、誰だあれ…!」
ザワザワと騒がしくなったギャラリー。そして帝国イレブンの視線を追ってみた。そこにいたのは、白髪のーーー。
「ごう、えんじ……?」
まるで絶対絶命のタイミングで現れるヒーローのように。円堂の言葉に答えるように、豪炎寺がフィールドに現れたのだ。10番ユニフォームを身に纏って。
フィールドに入ってきた豪炎寺を審判が駆け寄って何かを言っていたが、帝国側が受け入れたため選手として認められたようだ。カクンと膝から力が抜けそうになったのを、誰かが受け止めてくれた。顔を上げると、それは豪炎寺で。
「豪炎寺だ、っ……遅すぎるぜ、お前‼︎」
円堂はふらふらの足でこちらに走ってこようとしたが、円堂も倒れそうになる。が、しかしそれを豪炎寺が支えてくれたのだ。2人を支えながら豪炎寺は心配そうに円堂を見る。
「俺、信じてた!」
「ふ…」
円堂の言葉に頬笑みを浮かべる豪炎寺。まるで円堂を心配したところで、大丈夫だと行動で示した彼に笑ったようにも思えた。
「お前、体は大丈夫か」
「全然だいじょ」
「嘘をつくな」
「ッ」
豪炎寺の顔を見れば、少し怒っているようにも見えて言葉に詰まった。
「そのままプレーを続けていればどうなるかわからないのか」
「でも」
「……もういいんだ。あとは俺が引き受ける」
「……、」
ちらりと円堂を見れば、円堂も頷く。そうか、私にもうできることは…。豪炎寺、円堂を信じることだけ。
「ごうえんじ、えんどう、応援してる…!」
豪炎寺はふっと笑う一言だけ、「ああ」と言うと、私をマネージャーに受け渡した。豪炎寺の登場に、帝国側は待ってましたという悪役に似合いそうな笑みを浮かべた。そして中断されていた試合は再開された。
「あの、いいんですか?その、病院行ったほうが、」
「ありがとう、でも試合だけはみたくて」
「もう名前ちゃんは…!」
秋は今にも泣きだしそうな顔をしていた。それが申し訳なくて。秋の視線の奥には腹部が。少し滲んてきてるのがバレないように手で隠す。
「自分の体を大事にして……」
「ありがとう、ごめんね秋、そんな顔しないで」
笑ってみせると秋は、もうっと言ったあと、悲しそうに視線を下げた。すると、誰かが座っている私の前に立つ。誰だろうと顔を上げるとそれは宍戸君だった。
「宍戸君…?」
「す、み、ませんっでした!」
頭を下げる宍戸君に驚く。宍戸君の目は髪の毛で見えないが、唇はキツく閉じられていて、頬には擦ったような赤みがあった。泣いていたのだろうか。
「先輩、お、俺、俺がもっと頑張ってたら、せんぱいがっ、」
「そんなことないよ、宍戸君あの帝国からボールを奪おうって、ぼろぼろでも走ってたじゃん」
「だけどっ、俺、すぐ、無理だって諦めてっ」
「そーかな?諦めたら、足が痛くなるまで頑張らないと思うな、私は」
「‼︎」
「すごいよ!宍戸君!」
「せ、せんぱい~‼︎」
泣きじゃくる宍戸君に冬海先生が驚き、秋や春奈ちゃんは、試合経過を見つめながらも、笑顔をみせた。
試合開始早々に、帝国がデスゾーンを放つ。てっきり、豪炎寺が円堂のフォローをするのかと思っていたが、そんなことはなく。豪炎寺はフォローしないでまっすぐに帝国陣内に入って行った。
どういうことだろうと騒がしくなるが、円堂の表情を見てなんとなく察した。これが信頼なのか、と。
「──"ゴットハンド"!!」
円堂の腕にたまった気が外に放たれて、黄色い、大きな手が、毒々しいあのボールを受け止める。そう、あのボールを。止めたのだ。
円堂は止めたボールをすぐさま、ずっと前線を走っていた豪炎寺にパスをする。流れるようなプレーに豪炎寺が走っていたのは、円堂が止めると信じていたからなのだと悟る。
ボールを受けた豪炎寺は、ふわりとボールを浮かせるとーーー
「"ファイアトルネード"!!」
綺麗な残照を描きながら炎を纏ったボールは帝国のゴールに突き刺さった。飛び散る炎がとても綺麗で、目が放せなかった。ピー‼︎と響くホイッスルに、ドッと安心が溢れてきた。くらくらりと視界が段々と狭くなってくる。
「やった、……」
「名前ちゃん!?」
二点目が決まるのを見て、私の視界がぶつりと消えた。あ、畜生。豪炎寺の上半身見逃した。
fin
(思わぬ収穫があったな…円堂守、そして苗字 名前)
(この二点が俺たちの始まりだあ!)
((円堂…))
(ん?どうした?)
((苗字が起きない…))
(………)
「それで名前ちゃんには一応FWをお願いしたいんだけど……」
「攻撃の人!」
「ふふ、そう。名前ちゃんは読み込み早いから助かっちゃったよ」
「じゃあ苗字はとりあえず10番で……」
「僕らのポジションもこれからだよね」
ミーティング、というわけで各々のポジションを確認していく。確定しているのは円堂のGKと染岡のFW、半田と宍戸とそれから少林寺のMF、壁山と栗松のDFである。あと4名として、挙げられているのは風丸、松野、影野。それから控えとしての──私である。
ミーティング兼顔合わせとして、円堂がメンバーをみんなに紹介した。
「今日の試合、助っ人に入ってくれる松野空助だ!!」
さてはて、なんとかここに11人がそろいましたとさ。──戦う相手との差は歴然。それでも彼らは立ち向かう。
「あ、」
カタカタカタ、とゴールが揺れる。グランドの砂はふわりと風に乗って、どこかへ飛んで行った。ああ、ついにくるのか、と心の中で思う。よくよく耳を澄ませていると、ゴゴゴゴと唸るような地響きまで聞こえてきた。
「な、なんだっ!?」
心なしか雲行きも怪しくなって、グランドで帝国学園を待っていた雷門イレブンは異様な雰囲気に驚きながら、校門を見つめる。
「来たぞ!!」
円堂の声と同時に見えてきたのは、黒く、そして大きなバスだった。そのバスの上には、帝国学園の校章が描かれた旗がバタバタと靡いている。確かな存在感を放つバスは、暫くしてからパシュンと音を立てた。
「ッ……」
たったそれだけのことに、雷門イレブンはすでに圧倒されていた。
「あ、あれが帝国学園でヤンスか」
「さすが40年無敗なだけあるね……。もう選手の姿を見る前から雰囲気が違うよ」
「弱気になってんじゃねぇよ。栗松、少林寺」
「染岡さん……」
「うわぁあ」
「で、だ。微妙な反応してんじゃねぇぞ苗字。引いてんのか?驚いてんのか?」
「八割引いてる」
「引いてんのかよ。じゃあ二割は」
「びびってる」
「おい」
ギリギリと染岡の拳が私のこめかみを攻撃してくる。「痛い!」と訴えれば、染岡はふんっと鼻を鳴らした。
バスの入口が開くと同時に出てきたのは、帝国の生徒たちだった。カッコいい制服を身に纏い、誰一人として遅れる者はなく、綺麗に分かれて道をつくった。配置に着くとレッドカーペットを敷き、ガッと軍人のように敬礼をする。
そんなこんなで、敷かれたレッドカーペットの上を堂々と歩いてくるのは帝国イレブンの面々だった。その徹底ぶりに、思わず脳裏に浮かぶあの言葉。
「殿方のおなぁりぃい──い"!?」
「おまっ、聞こえたらどうすんだよ!?」
「痛い!や、でも、皆少しでも思ったでしょ!?」
「確かに少し思ったけど……。じゃなくてな!!」
「おお、ナイスノリノッコミ」
「ッ苗字~!!」
ぱちぱちと小さく拍手すると半田は手を真っ直ぐに揃えると、それを私の頭に叩き込んできた。そう、チョップだ。
ここで余談をしよう。私も半田や染岡たちと出会って2日。たった2日だけだが、この数日ででだいぶ仲よくなった。どうやら私と半田と染岡との相性が良かったらしい。ふざけあうのも、パス練に付き合うのも、どちらからともなく、自然と組んでいた。
円堂はグランドに入ってきた帝国サッカー部員の元まで走って行き、挨拶を交わした。手を差し伸べたはいいが、タイミングが合わず帝国のゴーグルマントはふいっと顔を反らしウォーミングアップをしていいかと尋ねてきた。もちろん円堂の手は行き先を失う。普通に円堂は「どうぞ」と返事をする。帝国のゴーグルマントさんはきょろ、きょろとグランドを見渡していた。
何探してるんだっけ。と、記憶を探しながらぼーっとしていると微かに笑い声が聞こえた。それは決して楽しい声ではなく、小ばかにしたものだった。クスクスと、嫌な笑いだ。
「女子部員だと?聞いてないぞ」
「……だが総帥からの許可は下りている」
「へぇ。流石弱小、と言ったところですね。鬼道さん」
ハハハ、とオールバックの選手が笑う。何を言っているのかは聞こえなかったが、いやな視線が自分に向けられていたのだから、恐らく私の存在だろう。
思わずむっとした。ちょっと腹が立ってきたので、回れ右をして自分たち側のベンチへ向かう。突然振り返った私に、染岡は驚いていた。そんな染岡を見て鼻を鳴らす。
「やんになっちゃうね!染岡!!」
「何の話だ」
「いでっ」
そうしている内に、ウォーミングアップを始めた帝国学園。その光景を、染岡をはじめとする雷門イレブンの皆が口を開けたまま茫然と見ていた。
「ッす、げぇ……」
「オイオイ、なんだよあの動き……!」
レベルが違すぎるというものじゃない。力強いドリブル、パス、トラップ。個々が絶対に強力な選手であると一目瞭然だった。こんな強い相手に、俺たちは勝てるだろうか……。と不安にさせるには十分な効果だった。
ふと、例のゴーグルマントさんがにやりと笑ってボールを円堂に向けて蹴った。不意をつかれて、遅れて円堂が反応する。ただのノーマルシュートのはずなのに、円堂のグローブが若干焦げ目を見せた。それが示す意味は、相手のシュートの威力の強さだ。
ごくり、と誰もが生唾を飲み込んだ。
「燃えてきたぁあーッ!皆っ一週間の成果を、こいつらに見せてやろうぜ!!」
「きゃ、キャプテン!」
「なんだ?」
「おっ俺、トイレ行ってくるッスー!!」
「あっおい壁山!!」
壁山が股間を押さえて方向転換し、慌ただしく校舎の中へ入って行った。突然のことに円堂は、反論する暇もなく、壁山は行ってしまった。
「トイレならすぐ戻ってくるだろ」
「半田……、」
「そうですよ先輩……。それよりも、俺たちあんなすごいのに勝てるのかな……」
「か、勝てる予感がしないでヤンス……」
「はぁ、もうダメかもな」
「………」
少林寺と栗松、それから宍戸たち、一年生と、半田がその場にしゃがみこんだ。だからそれに便乗してわたしも一緒に座りこむ。
負のオーラを出し続ける彼等にかけれる言葉はなく、ただ黙って聞いていた。
「勝てる気がしないってこういうことだよな……」
「宍戸、やめるでヤンス」
「仕方ないよ、結果は見え見えだし……」
「少林寺の言うとおりだよなぁ。はぁ……、で、なんでお前は普通の顔してんだよ?苗字」
「や、ちょっとでこ助にギャフンと言わせたくて」
「でこ助ぇ?」
「ギャフンって……」
「ちょっと古──」
「うるさい!ゴホンッ、そういえば壁山遅いね」
半田たちと一緒に壁山の帰りを待っていたわけだが。いまだ壁山は戻ってこない。トイレにしては少し遅すぎやしないだろうか?試合はまだ始まらない。男の子ってそういうものなの?と聞こうと思ったが、足音にさえぎられた。
「円堂くーん!!彼、サッカー部に入ってくれるって!!」
「何!?本当か!!」
「ふむ、どうやら本当に僕が最後の11人目のようですねぇ……!」
円堂の言葉をスルーして、メガネをいじりふんっと鼻息を荒くする。なにを隠そう、この直前入部の彼は目金欠だ。廃部寸前のサッカー部を救う、なんてオイシイ……という下心が丸見えだった。だからか、半田たちも対してリアクションを見せない。
「はぁ、11人目って……すでに揃ってるでヤンスよねぇ?」
「壁山が今いないから10人だと思ったんじゃ?あと……影野先輩を数え忘れてるか」
「あっ、さっきの半田先輩みたいに……」
「ああ。なるほど……」
「お、お前らな。でも確か目金ってすっげぇ運動オンチじゃなかったっけ」
「ゴホン!!ぼ、僕さあ、10番ユニホームしか来たくないんだよねぇ」
「こんなこと言ってるけど、どうする?円堂」
「……よしわかった!」
「「「!?」」」
ずーっと悩んでいた円堂だったがようやく返事をした。"よし、わかった"。つまり円堂は目金の言う「10番ユニホーム」を着ることにオッケーサインを出したのだ。
「キャプテンッ、ま、まじでヤンスか~!?」
「マ・ジ・だっ」
マジだという言葉に半田をふくめた4人がこけた。栗松に続き、まさかの肯定の返事に不安を持った宍戸、少林寺が円堂を見つめる。そんな1年生たちに対し、真顔で答えた円堂であった。そんなナイスなリアクションを完全にスルーして、円堂は満面の笑みを浮かべた。
「と、いうわけだ。苗字!」
そんなナイスなリアクションを完全にスルーして、円堂は満面の笑みを浮かべた。そして流れるように、ポンッと名前の肩に手を置き、口を動かす。
「脱いでくれ!」
「「円堂ッ!!」」
顔を真っ赤にして、風丸と染岡が反論をした。そんな二人の苦労も知らないで苗字は全てを受け入れたような顔を浮かべて微笑んだ。
「分かったよ円堂……。苗字 名前、円堂のために一肌脱ぐね」
するりと両手をクロスさてせ、自分のユニホームを捲り上げる姿勢に入る。その瞬間に半田が苗字の腕をつかんで阻止し、風丸が捲り上げられたユニフォームを元に戻す。流れるような連携プレーだ。脱げなくなった苗字は文句ありげに2人を見る。その視線を感じた半田が顔を真っ赤にして声を上げた。そして、風丸もしかり。
「ここで脱ぐ奴がいるか!!」
「一肌脱ぐってそういう意味じゃないぞ!いくらなんでも物理的すぎる!!」
そんな言葉があるなら法律はいらないとか言い出す始末だ。
「えー、」
「えーじゃない!!ったく、円堂も円堂だ」
「だ、だって風丸ぅ……。もしものために目金が必要なんだ、ならこうするしかないだろ?」
「ほら、円堂がこう言ってるんだから。半田放してよ。風丸も」
とか言って、もぞもぞと脱ぎだそうとする名前と、脱ぐように催促する円堂。そんな二人に耐え切れなくなった染岡がゴツンと一発、名前の頭に拳を入れた。
「誰かこいつらを止めろ!!」
「お、おう」
「染岡さんが止めたでヤンスね……」
一気に騒がしくなっては、一気に静まりかえる。そんな騒がしい状況を、同じフィールドにいるのに聞こえていないわけがなかった。そう、相手の帝国イレブンには雷門イレブンの一連の騒動がまる聞こえだったのだ。
「鬼道さん……本当に面白いものが?」
「……………嗚呼、きっとな」
「騒がしい奴ら、」
「まったくだ」
そんなこんなで、ずーっとそっちのけだった帝国はそんな会話をしてたとか。まぁ、そんなことを知るすべは雷門イレブンにはない。
染岡の鉄槌を受け、話を耳にした秋によって私は部室へと連行され、秋から別の番号のユニフォームをもらった。脱いだユニフォームを目金に渡し、数分後には10番を来た目金が戻ってきた。
「わざわざ脱がせたんだから、ちゃんとがんばってよ目金君」
「分かってますよ!後悔はさせません」
キラーン、とメガネを輝かせて答えた目金。その反応に、期待していいのかな?と不安そうな皆だった。あれ確か目金って、途中で逃げ出すんじゃあなかったっけ?と考えながら、いつまでも始まらない試合を待っていた時だ。
「円堂君、円堂君!!」
「冬海先生?」
「い、いつまで相手様を待たせるんですか?は、早く試合の準備を──」
「す、すみません!あの、まだ一人トイレから戻らなくて……」
「なんですって!?あ、あぁ!!急いでくださいよ!!」
「は、はい!!」
壁山がいつになっても現れず、試合は一向に始まりそうにない。さすがに焦りを感じた冬海先生は、慌てて試合を促した。痺れを切らして、なのかそれとも──ちらっと帝国バスの上にいる人物を見て、ふと思った。彼が、怖いだけなのか。と。
促されたことで、雷門イレブンはトイレに行ったきりの壁山の捜索に出るといい、男子を連れて校舎へ向かった。残された私と秋は、すとんとベンチに座る。さぁさぁと風に吹かれながら秋と会話を交わす。穏やかな時間だ。
「名前ちゃん、この試合どうなると思う?」
「どう……、自信は、ないかも」
「だよね。……みんな遅いなぁ、円堂君たち大丈夫かな」
「円堂なら大丈夫だよ。きっと壁山を連れてきてくれるし、もし負けちゃったとしても次に繋がる負けをしてくれる気がするもん」
「名前ちゃん……ふふっそう、そうよね。円堂君だもの」
くすりと笑った秋。そんな秋につられて私も笑った。冬海先生の「時間が、時間が」と慌てる声を耳にしながら、遠くの方から複数の足音がきこえた
「おーいっ!し、試合始めようぜ!!」
「円堂君!」
「冬海先生!全員そろったみたいです」
「はぁ、よ、よかった……!」
安堵の息を漏らした冬海先生は、脱力したようにベンチに座り込むと、はっとしたように少々急ぎ気味で帝国イレブンのところへ走って行った。その間に、こちら側も準備を整える。その様子を私は目金という男の計らい(せい)でベンチ見学となったわけだが。
「あのーっここで一緒に見ててもいいですか?」
「へっ?」
突如した訪問者に、私と秋は思わず剽軽な声が出た。声のした方を見ると、そこにはふわりとしたショートヘアの女の子が立っていた。
「あ、あなたは……?」
「申し遅れました!私、新聞部の音無春奈です!!」
「新聞部の取材ね。どうぞ」
「ん、ここ空いてるよ」
秋のがちらりとこちらをみたため、頷いて私もスペースを開ける。そしてぽんぽんと空いたところを叩きながら春奈ちゃんを招いた。すると彼女は「ありがとうございます、しつれいしまーすっ」と座った。
うん、可愛い
「それで、」
「それで?」
「勝つ自信は……」
「あるかないかって言われたら……ない、」
「あぁっ……やっぱり!」
流れるように春奈ちゃんと秋が会話を交わしていくのを聞きながら、にまにまと顔を緩ませる。──ベンチにいてよかった。心でガッツポーズを決めた。
「でも、あの円堂君と皆をみてると、勝つかも……。なーんて思えてきちゃうんだよね。まだまだ始まったばかりのサッカー部だけど」
「秋かっこいい!!」
「かっこいい~ッ、今のコメント!使わせてもらいますねー!!」
「えっ、え!!」
秋と春奈ちゃんに囲まれて幸せものやーと思ってしまった。可愛いは正義という言葉があるが、全くその通りだ。その間に円堂が私を抜いた11人を連れてグランドに整列した。それに続けて帝国の選手たちも一列に並ぶ。それぞれが顔と顔を合わせている状況を見て、ごくりと喉をならした。
「いよいよ始まりますね!」
「うん……!」
皆がそれぞれの陣につき、ホイッスルが高らかに鳴り響く。──そしてその音と同時に、記憶は呼びさまされる。でもその存在する物語の記憶と、今、目の前で起こっていることでは、あまりにも悲惨だった。
「っ、円堂君!!」
容赦なく突き刺さった帝国のシュート。だらりと力なく地面に倒れていく体。威力を失ったボールが、倒れた円堂の横をころころと転がっていく。
「始めようか。帝国のサッカーを」
ピーッ、と響く先取点はあっという間で。ただ、ボールをストレートに蹴っただけだった。なのに、そのボールは円堂ごとゴールに突き刺さっている。
「なに、この、威力、」
話が違う、こんなのがサッカーなわけがないとまで思うほどの光景だった。そのあとに続く試合運びを見ていたら、もう笑顔なんて取り繕うなんて無理だ。ただでさえ強いのに、その矛先が"ゴール"ではなくて、"彼ら"なのだから。
『雷門イレブン打つ手なし!成す術無しーッ!!』
実況の声だけがグランドに響いた。
皆が帝国の攻撃に耐えられず、地面へと倒れていく。いつの間にか春奈ちゃんも絶句して、言葉を失っていた。宍戸、栗松、マックス…次々ボールにあたりぼろぼろになっていく。円堂が何度も立ち上がるが、対するチームメイトはだんだんと"諦め"の色が見え始めていた。
こんな強い相手に、勝てるわけがない──と。ついに点差は10:0までになり、前半は終りを告げた。
********
はぁはぁ、と短い間隔での呼吸音が響く。みんな肩で呼吸をしている状態だ。対して帝国側は誰一人として息を切らしてはいなかった。その様子に、思わずぼろりと弱音が漏れる。
だめだ。勝てない。無理だ。勝負するまでもないだとか……。
そんな皆に対して円堂が拳を作り、どんっと胸を叩きながら言った。
「勝利の女神がどちらにほほえむかなんで最後までやってみなくちゃわかんないだろ!?」
「円堂………、」
それでも、誰一人として立ちあがるものはいなっかた。──はずだった。
「円堂」
「なんだよまだやるに決まって──って、苗字、?」
さくり、と立ち上がった人物を見て、しんっと静まりかえった。あまりにも意外な人物が、立ち上がっていたからだった。まだ初心者なのに。経験者が心折れるぐらいのレベルの差であったのを見ていたのに。
「一度だけでいい、ので、えっと、私を、出してほしい……な。……お願いします」
そう言って頭を下げれば、ざわりとざわついた。自分が何を言っているか分かっている。でしゃばっているのも分かっている。でも、このままで良いはずがないんだ。このままだと円堂が集中攻撃される結果が見えてしまっている。そんなの絶対に嫌だ。
しんっと沈黙が流れ、否定も肯定の言葉もヤジもない。
「戦力に、は、ならないと思う。だけど、!」
「本気、なんだな?」
「……ッもちろん」
「よし、分かった!頼むぞ苗字!!」
円堂はしっかりと、私の目を見て答えてくれ、また、受け入れてくれた。そうして、最も浪費が激しかった宍戸君と私を交代で円堂は試合に参加することを許してくれた。相手側に承諾を得ようと、キャプテンらしきゴーグルマントを見れば彼らは驚く様子もなく、平然としていた。
「誰が来ようが変わらない。なぁ鬼道さん」
「ふ……」
「くっそ、舐めやがって……」
「まぁ実際舐められてるんだけどね…、否定できないけど」
「おいやめろ」
誰が入っても同じこと。たしかにその通りだったかもしれない。誰もがモチベーションが下がっていくなかで、後半が始まった。
だけど、ホイッスルが鳴れば彼らは走る。体は、勝てない、勝てそうにないというそんな相手に立ち向かっていくではないか。それは弱小と言われ続けた彼等の姿ではなかった。それはそれは勇敢な、そう、勇者のようで。
「舐めてると痛い目みるよ?」
せめての強気だったけど、口角を上げれば、なんだかやれる気がしてきた。
後半早々、ボールが自分たちの足元に来ることはなかった。むしろボールに遊ばれている感じで、ヒラリヒラリと交わされては、体に当てられて、跳ね返っては蹴りを入れられていた。
「いくぞ、デスゾーン……開始!」
デスゾーンってなんだよ!と見ているだけだった私は笑っていたはずだったのに。
鬼道の合図で、3人の選手が飛び出てくる。3人の動きは完全に一致し、同じタイミングで、同じスピードで走りこんできていた。そして高くボールを蹴り上げ、その周りをぐるぐると回転をし始める。するとどうだろう。禍々しい紫色の閃光を放つほどの何かが、ボールに集まった。
これは、と嫌な予感が全身を走る。
「円堂構えて!それか逃げ──」
「そして奴を、引きずり出せ!!」
運悪く、私の声と鬼道の声が重なり、忠告は円堂に届かなかった。もちろん円堂は突然の大技に呆然としている。
「「「"デスゾーン"!!」」」
紫の毒々しい色を纏ったボールが、円堂にむかって放たれた。こんなボールが、円堂にあったったら?なんて考えている場合ではない。
走れ、蹴るんだ。
「っ、うわぁ!」
だけど、なにも知らない、一週間少しサッカーを教えてもらっただけの自分じゃどうにもできなくて、その突風に巻き込まれる。強烈な威力の"デスゾーン"は普通にキャッチできるものではない。
円堂が腕を出すまでもなく、ボールはゴールに突き刺さる。
「続けろ。奴を炙り出すまで」
鬼道は再び指令を繰り返す。円堂や皆はその餌食となって、地面に倒れていくのだった。
14点、18点と差はどんどん大きくなっていく。もう取り返しなどつかないし、一発逆転の時間もない。それでも。せめてボールをこの足に。ボールを持ち込む半田が、一瞬迷いながらも私を見た。こくり、と頷くと彼も戸惑いながらもボールを蹴る体制に入る。パスを受ける準備はできた。
「っ、苗字!!」
「(くる……!)」
「"サイクロン"」
「「!?」」
「半田、苗字!!」
ズキズキと刺すような痛みに、吹き飛ばされる体。これが、必殺技なのか。と体で痛感しながら足に力を入れて立ち上がった。
「ほう、まだ立つか」
「な、にいってんの。あたりまえじゃん、みんなだって──」
「ハ!お前、周り見てみろよ」
「……?──ッ」
例のデコにつられて。周りを見渡した。そして絶句する。立っていたのは、私と円堂と目金だけだったのだ。皆はもう、立ち上がる力すら残っていないようだった。しかも、グランドの方では嘲笑うかのようにボールさえ蹴ることをせず、足で止めている。余裕の構えだ。あまりの悔しさに、ぎりっと唇を噛んだ。
「出てこい。さもなければ最後のアイツ等を」
その標的は、私たちではないのかと思わせるようなセリフを、帝国イレブンはこぼした。
"叩きのめす"と、そう言ったのが聞こえたと同時に、くらりと体がゆれた。とんっと尻もちついたかと思えば、次の瞬間ドガッと鈍い音が自分から聞こえ、土の匂いに包まれる。鈍い痛みが体中を走る中、横を通り過ぎて行った人数にぞっとした。
「えん、ど!!」
ビシビシと円堂を叩く音が絶え間なく聞こえる。そこで明らかになったのは、彼らのシュートが、点を入れることを目的としていないということだった。確信したと同時に、最悪の展開に吐き気をおぼえる。
点を入れるためならば、円堂を避けて、ゴールに入れるだけでいい。だけど彼らはあえてそうせず、むしろ円堂を当てることを目標としているプレーであった。
「こいつらぁ……!」
悔しいなちくしょう。結局何もできないじゃん。グッと力を込めて、膝をつく。
「こんなの…、こんなのサッカーじゃない!!」
「かぜまる!!」
ぐしゃあ、と音がして。ネットがゆれる。そして、響くホイッスルに思わず体が震えた。恐怖ではなく、怒りの方で。すでに前半から体力は絶え絶えのはずの風丸が、円堂の前に飛び出たのだ。彼を、守るために。
「おいおい、ノーマルシュートだぜ?やわな奴だな」
「もっと骨太な奴はいないのかぁ?たとえば、強いストライカーさん、とかな」
ふ、と鼻で笑いさらにはけなしてきた。デコ男の言葉に、ふつふつとなにかの感情が湧きでる。強いストライカーなんて、そんなの、染岡に決まってる。骨太な奴?目の前にいるじゃないか、皆、皆、骨太だよ。
怒りを力に変えて、円堂の前に立つ。その様子を見た帝国イレブンはふっと口角を上げた。
「女のくせにタフだな。まぁいい、次で終わりだ。寺門!!」
「"百烈ショット"!!」
「──」
ぐるぐるぐる、とお腹が熱くなる。痛いけど、ここでこらえたらきっと、円堂へのダメージは少しだけましになるのではないだろうか。ぐっと力をこめて、足で立つ。威力に押されてズルズルと砂埃が立ち込めた。それでも堪えてやるんだと、両足に力を入れた。
だけど、威力に耐えられなかった。
「!!」
バチィッと弾かれてボールは私の脇腹を通りぬけて円堂へ向かって行った。回転技術が兼ね備えられているなんて、聞いていない。ピーッと響くホイッスルを聞いて、悔しさのあまりに泣きそうになった。
ついに、19点目が決まってしまった──。
『これで、雷門のキックオフだが!?目金以外は立ち上がれない──ああっと!?い、いや、立ち上がったー!!苗字 名前が、立ち上がっているぞー!?』
かろうじて立ち上がる。もう痛いなんてレベルじゃない。酸素が欲しいし、体は重いし。だけどこれ以上、皆をバカになんてしてほしくないんだ。
「ふん、少しは潰し甲斐があるな」
「つぶす、?」
コロコロと転がってきたボールを足元に、目金をちらりと見れば彼は怯えきったような顔をして、目に涙を浮かべた。そしてちらりとデコ助がグランドの外を見た。そこには白髪の……、
ここで、ようやく思い出す。私の記憶の中の、この物語を。ああそうか。この試合は、あくまでも彼を。彼を引きずり出すためだけの試合。痛めつけられるのは必要な過程にしかすぎないというのだ。
そんな勝手な。あれやこれやと考えているうちに、相手が痺れを切らし、仕掛けてきた。佐久間と寺門のダブルスライティングが目の前に迫る。さすがに一人で交わせる技術はない。
「めがね、」
「ヒィッ、もうこんなのやだぁああ!!」
「!?」
「あらら~?お仲間はもういないみたいだなァ!!」
「ッ、!!」
目金が逃げ出したにもかかわらず帝国は容赦なく攻めてきた。とくにデコは煽りに煽ってきやがる。くそ、むかつく。
「お前ごときが抜けられるかよ」
前、横からスライティングに挟まれた。逃げ場は、上しかないだろう。帝国からの第一印象はどうやら『トロイやつ』のようだ。……、否定はしないけど今は好都合だ。
「窮鼠猫をかむって知ってる?」
「なんだと?」
むかついたのでおもいっきり余裕の笑みを浮かべて行ってみた。それはもちろん、口先だけのつもりで。帝国を煽るつもりなんてこれっぽっちもない。
つまるところの嫌味だ、嫌味。
自分の身を滅ぼしてでもサッカーに立ち向かった皆を笑われるのがむかついたから。ふんぞり返って、自分たちには見向きもしない彼らに対しての、嫌味。
『ボールを高らかに上げ、自ら攻めに入りディフェンス陣をかわすー!!今までは体力を温存していたか苗字 名前!?』
「姑息なマネを!!」
おかしいなぁ、自分サッカーなんてやったことないから、できなかったはずなんだけれども。ドリブルをする足は速いし、体は軽く感じる。完全にノーマークだった選手が自分の陣地に入っていくのを見て少しの焦りの色を見せた帝国に、いい気味だと笑った。
「名前ちゃん、笑ってる…?」
「っく、コイツ……!」
「ぎゃっ、あ、あっぶな!」
相手がラフプレーしてくる分、それを交わすときになんともアホっぽい声が響く。フェイントで交わしたり、ヒールリフトをフル活用で交わしたり。なるべく自分の足にボールがないようにしているようにも見えた。
「ほっ、!」
謎の声をあげながら、フィールドをちょこまかと駆け巡る。歩幅が男子よりも少し小さい分、ちょこちょこと細かい動きをしてくる選手に、相手はたじたじだった。
ちょこまかちょこまか、パターンが読めず…あっちいってこっちいってあっち行って。ぶちまけた話をすると、すごいのかすごくないのかよく分からないプレーである。シュートすればいいものを、変にキープをし、打たない。帝国側としては腹ただしい存在だった。
「てめえ…ナメんのも大概にしろよ」
「デスゾーンで蹴散らしてやる…!」
「っ、なぁーにがデスゾーンだ!ダサいよ!!死亡領域のほうがかっこういい!喰らいやがれ!!」
「な、!?」
前に走りこんでいくとボールにまとわりつく冷気、ボールが軽い軽い。今なら、いけるかもしれない。と謎の自信に満ちる。
「おりゃぁぁあ!!」
「!?」
「なっ……」
『ナッ、なんだぁぁああ!?これは一体!!』
例えるなら、某有名な、最後のファンタジー的な名前のゲームに登場する氷属性の魔法である「ブリザガ」のような大きい氷の塊が、結晶を散らしながら帝国ゴールに向かって飛んで行った。
(あれ?)
不意に感じた違和感。だが、ボールは威力を増して、ゴールに向かっていった。
──ピッっピピーー!!
ホイッスルが高らかに響いた。しんっと、グランドもギャラリーも静まり返る。誰一人と言葉を発しなかった。それは、撃った本人が一番驚いていて、ぽかん、とアホのように口をあげながら"あり得ない"という顔をして相手ゴールを見ていた。
「今の、なに……」
「ッ――苗字‼︎」
ポジションに戻っても、未だに呆然としていて。染岡や円堂たちの声を聞いて、我に返ったときはもうおそかった。デスゾーンがお腹に直撃し、痛みが現実を連れて来る。
「ぅ、げほっ‼︎」
咳き込みながら、体が吹き飛んでいるのが分かった。あまりの苦しさに言葉を失う。
「苗字‼︎」
くだらない冗談は置いておこう。
まずいぞ、このままじゃ自分自身がゴールインじゃないか?そんなのいやだ。みんなの足はひっぱりたくないだめ、絶対。
「っぐ!」
お腹でぐるぐると回転しながらねじ込んでくるデスゾーンの痛みに耐えながら体の態勢を変える。時々捻って避けたくなるのを我慢しながらなるべくボールが斜めへ移動するように。
瞬間に来るであろう衝撃に耐えるがため、手を前に突き出して背中を丸めた。
「(何をする気だ?……っまさか!)」
私がしようとしていることを悟ったのか、ベンチの方からはキャアと悲鳴が聞こえたが、もう変えることはできない。
ゴインッ‼︎
痛々しい音がやけに響いた。自分に至っては、まるで頭のてっぺんまでびりっと電撃が走ったような感覚に陥る。ボールの軌道を変えてデスゾーンはゴールポストに当たってくれた。
お腹と、背中と。それからいろんなとこ。じわじわと熱くなってきた。自分の体はフラフラで、膝をついてしまった。
「名前ちゃん‼︎」
「大丈夫か苗字⁉︎苗字‼︎お前っ、なんて無茶を‼︎」
彼女がしたのは、ボールをお腹で受け止め、ギリギリまで耐え抜き、ゴール近くまで来たら、体をよじりボールの軌道をずらしてゴールポストに当てるという行為だった。そんなことをしてはお腹への負担、また軌道を変えた際に反動で彼女の体もゴールポストに。
ズキンズキンと痛む脇腹や肩背中に耐えつつ、円堂がかけよってきて、ゆさゆさと体を揺さぶる。ちくりと痛んだ腹部。痛みで顔が少しだけ歪んだ。意外に傷は深そうだ。
「だいじょうぶ、まだいける」
「っ……!無理は、」
円堂に笑いかけて、平気だと伝える。これで下げられてたまるか。私はまだ。まだ怒っているんだ。試合続行させてくれた円堂、そして冬海先生に感謝しながら、お腹を押さえて立ち上がる。
(あと一回でも食らったら、意識飛ぶかも…)
なんて思いながら、ははっと笑った。円堂からボールを受けると同時にボールは奪われた。
「"百烈ショット"!!」
目の前がくらくらしてきた上に、シュートが円堂に向かって放たれる。最悪だ。
「っ、だああああ!させるかああああ‼︎」
百列ショットの前に立ちふさがる。痛みなんて気にしてられない。これ以上痛めつけられてたまるか。蹴ってやると、意気込みを入れて、回し蹴りで打ち返す。
「う゛ぁ!」
まさか打ち返してくると思ってなかったのだろう。驚いたように目を丸くする帝国イレブンだったが、威力は弱く、ころころとゴーグルマントさんの足元へ。
にやり、と帝国に笑みが浮かぶ。
はっとした瞬間にそのまま蹴りを入れられ名前は吹っ飛び、円堂もゴールを許してしまった。ここで全員が地面に倒れてしまった。立ち上がりたくても力がうまく入らず立てない。悔しい。悔しい、
「無様だな」
上から降ってきた言葉に、返す言葉もない。誰も立ち上がらないのを見て、帝国イレブンは笑う。もう、無理なのかな、なんて思った瞬間だった。
「っ、まだだ!まだ、終わってねーぞ‼︎」
円堂は馬鹿だった。
その言葉だけで、円堂が立ち上がったのが分かる。前半からずっと帝国のシュートを受け続けた円堂が、だ。円堂が諦めてないのに、自分が諦めてどうする、と足腰に力を込めた。
「おい、誰だあれ…!」
ザワザワと騒がしくなったギャラリー。そして帝国イレブンの視線を追ってみた。そこにいたのは、白髪のーーー。
「ごう、えんじ……?」
まるで絶対絶命のタイミングで現れるヒーローのように。円堂の言葉に答えるように、豪炎寺がフィールドに現れたのだ。10番ユニフォームを身に纏って。
フィールドに入ってきた豪炎寺を審判が駆け寄って何かを言っていたが、帝国側が受け入れたため選手として認められたようだ。カクンと膝から力が抜けそうになったのを、誰かが受け止めてくれた。顔を上げると、それは豪炎寺で。
「豪炎寺だ、っ……遅すぎるぜ、お前‼︎」
円堂はふらふらの足でこちらに走ってこようとしたが、円堂も倒れそうになる。が、しかしそれを豪炎寺が支えてくれたのだ。2人を支えながら豪炎寺は心配そうに円堂を見る。
「俺、信じてた!」
「ふ…」
円堂の言葉に頬笑みを浮かべる豪炎寺。まるで円堂を心配したところで、大丈夫だと行動で示した彼に笑ったようにも思えた。
「お前、体は大丈夫か」
「全然だいじょ」
「嘘をつくな」
「ッ」
豪炎寺の顔を見れば、少し怒っているようにも見えて言葉に詰まった。
「そのままプレーを続けていればどうなるかわからないのか」
「でも」
「……もういいんだ。あとは俺が引き受ける」
「……、」
ちらりと円堂を見れば、円堂も頷く。そうか、私にもうできることは…。豪炎寺、円堂を信じることだけ。
「ごうえんじ、えんどう、応援してる…!」
豪炎寺はふっと笑う一言だけ、「ああ」と言うと、私をマネージャーに受け渡した。豪炎寺の登場に、帝国側は待ってましたという悪役に似合いそうな笑みを浮かべた。そして中断されていた試合は再開された。
「あの、いいんですか?その、病院行ったほうが、」
「ありがとう、でも試合だけはみたくて」
「もう名前ちゃんは…!」
秋は今にも泣きだしそうな顔をしていた。それが申し訳なくて。秋の視線の奥には腹部が。少し滲んてきてるのがバレないように手で隠す。
「自分の体を大事にして……」
「ありがとう、ごめんね秋、そんな顔しないで」
笑ってみせると秋は、もうっと言ったあと、悲しそうに視線を下げた。すると、誰かが座っている私の前に立つ。誰だろうと顔を上げるとそれは宍戸君だった。
「宍戸君…?」
「す、み、ませんっでした!」
頭を下げる宍戸君に驚く。宍戸君の目は髪の毛で見えないが、唇はキツく閉じられていて、頬には擦ったような赤みがあった。泣いていたのだろうか。
「先輩、お、俺、俺がもっと頑張ってたら、せんぱいがっ、」
「そんなことないよ、宍戸君あの帝国からボールを奪おうって、ぼろぼろでも走ってたじゃん」
「だけどっ、俺、すぐ、無理だって諦めてっ」
「そーかな?諦めたら、足が痛くなるまで頑張らないと思うな、私は」
「‼︎」
「すごいよ!宍戸君!」
「せ、せんぱい~‼︎」
泣きじゃくる宍戸君に冬海先生が驚き、秋や春奈ちゃんは、試合経過を見つめながらも、笑顔をみせた。
試合開始早々に、帝国がデスゾーンを放つ。てっきり、豪炎寺が円堂のフォローをするのかと思っていたが、そんなことはなく。豪炎寺はフォローしないでまっすぐに帝国陣内に入って行った。
どういうことだろうと騒がしくなるが、円堂の表情を見てなんとなく察した。これが信頼なのか、と。
「──"ゴットハンド"!!」
円堂の腕にたまった気が外に放たれて、黄色い、大きな手が、毒々しいあのボールを受け止める。そう、あのボールを。止めたのだ。
円堂は止めたボールをすぐさま、ずっと前線を走っていた豪炎寺にパスをする。流れるようなプレーに豪炎寺が走っていたのは、円堂が止めると信じていたからなのだと悟る。
ボールを受けた豪炎寺は、ふわりとボールを浮かせるとーーー
「"ファイアトルネード"!!」
綺麗な残照を描きながら炎を纏ったボールは帝国のゴールに突き刺さった。飛び散る炎がとても綺麗で、目が放せなかった。ピー‼︎と響くホイッスルに、ドッと安心が溢れてきた。くらくらりと視界が段々と狭くなってくる。
「やった、……」
「名前ちゃん!?」
二点目が決まるのを見て、私の視界がぶつりと消えた。あ、畜生。豪炎寺の上半身見逃した。
fin
(思わぬ収穫があったな…円堂守、そして苗字 名前)
(この二点が俺たちの始まりだあ!)
((円堂…))
(ん?どうした?)
((苗字が起きない…))
(………)