現世ジェダレイSSログ



『ボディーガード』



桜の花が満開を迎える頃、レイは大学の門をくぐった。和永に提案された通り、同じ大学へと入学。晴れて大学生活が始まった。
今までと違い、全く違う環境に身を置いての学業。誰もが抱く不安を、レイも抱えながらの通学。
ただ一つ違っていると言えば、共学で男性も通う学び舎と言うこと。今までは中高一貫校のお嬢様学校で、蝶よ花よと大切にされ、守られていた環境。そこに加えレイは極度の男嫌い。今までは学校内では何も無く穏やかに過ごしていた。
しかし、ここに来て初めての共学。レイは気が重かった。
外を歩けば途端に知らない男性に声をかけられ、好きですと何も知らないのに外見だけで告白する輩が多くいた。チャラついた大学生だと尚更ナンパが多いのでは無いかと考えていた。
しかし、この大学に来たからにはそれを回避出来るのでは無いかとレイは考え、期待して選んだ。それは、恋人である和永の存在だ。

「レイ、入学おめでとう」
「ありがとう」

入学式の日から迎えに来てくれ、ずっと付き添ってくれていた。

「レイがここに通うからには、ずっと俺がきみを守るよ」

ボディーガードだ、と白い歯をチラリと出してニカッと笑う。得意げだ。当然だろう。和永がこの大学に来る様勧めたのだから。

「ずっとって、そう言うわけには……」
「大丈夫、へーきへーき!」

ずっと一緒にいると言う和永だが、それは流石に難しいと思いやんわり断るが、なんて事ないと張り切っている。
和永とて学部も学年も違うため、難しい事は百も承知だ。レイが入学する前、合格した事を聞いた後、神道学部と経営学部のあるキャンパスを下見してシミュレーションをしていた。運動していて鍛えているとは言え、休み時間毎に迎えに行って、自身の講義に向かうと言うのはどう考えても無理があった。
しかし行かない間にチャラい男子に囲まれるレイを想像しただけで気が狂いそうだった。

「俺に任せろって!」
「でも……」

レイの心配とは他所に和永は次の日からなるべくレイの隣を歩き、付き添った。
最初は戸惑いもあったが、高校までの狭い世界とは違い流石は大きな大学。男女二人で歩いていても怪しまれない。噂にもならない。それどころか周りを見ると割とカップルらしいペアがいた。
それに和永が常に一緒にいてくれるので変な男は寄ってこない。レイにとってストレスの無い環境が出来てきた。

とは言え、やはり学部が違うため講義のある時間帯までは関与出来ない。同じ学部の数人のメンズとは自然と関わることになる。
ただ元々クールなレイは笑顔を見せない。あくまでクールな仮面を外さず喋る。極めつけは和永と毎日一緒にいるのが周りに知られている。同じ学部では恋人がいる事は周知の事実となっていて、口説かれる事も無い。所詮は高嶺の花の様だ。
レイも美人だが、和永も美男子。レイの学部ではお似合いのカップルとして羨ましがられていた。

「もう、大丈夫よ」

大学が始まって一ヶ月程経ったある日、レイは和永にボディーガードを断ろうと話を切り出した。

「幸い、落ち着いて来ているし、男性から声がかかる事もないから」
「俺が良い虫除けになってるみたいで、役に立てていて良かった。だけど、止めた途端チャンス到来って変な奴らが寄ってこないとも限らない」

だからボディーガードはこれからも続けるとレイからの断りをキッパリ否定した。警戒を緩めると隙が出来てしまう。別れたのかと思われ、又レイに悪い虫が着きかねない。和永はそう危惧した。

「それに、これは俺の夢だから気にしないで欲しい」
「ゆめ?」
「ああ、彼女とキャンパスライフを楽しむって夢♪」

和永は兼ねてより夢見ていた。恋人と同じ学校に通い、一緒に学校生活を送りたいと。
しかし、中々機会に恵まれず大人になってしまった。そんな中、進路で悩むレイを見て、同じ大学に来る様提案。
レイが乗ってくれ、晴れて同じ大学に入学。和永は嬉しかったのだ。
一緒に通い、キャンパス内を一緒にいる。例え学部や進路は違っても、同じ空間に恋人がいて、何かあってもすぐに駆けつけられる。いつも目が届く。安心感があった。

「一緒に通って、同じ大学にレイがいる。それだけで俺は幸せなんだ」

だからボディーガードと言っても名ばかりで、ただレイとキャンパスライフを楽しんでいるだけ。だから気にしないでと和永は笑顔で話す。

「レイは?楽しくない?」
「宮司になる為の勉強をしに来ているだけよ」
「……ですよねぇ」
「でも、まあ、そうね。お陰で集中出来ているわ」

レイらしい答えに、和永は安堵した。
レイを守る事によって和永はキャンパスライフが充実。レイは神道に邁進。ウィンウィンだった。

ゴールデンウィークを過ぎた頃のこと、レイは一大決心をした。

「今日、お弁当作って持ってきたのだけど」
「え?」
「勿論、あなたの分もあるわ。どこか外で食べない?」
「わー、やったぁ!レイの手作り弁当!マジ嬉しい」

いつもは二人、食堂で食べていたのだが、和永を見ると学食を毎日食べていた。そこに関して何も思わなかったが、ジャンクフードや麺類が多め。流石に栄養の偏りが心配になって来た。
それに幾ら安いとはいえ、こうも毎日学食だと塵も積もれば何とやらで、バイトをしていても結構な出費だ。これではいけないと思い、レイは立ち上がった。
元々早く起きている。お弁当を作る時間は充分ある。

「はい、あなたの分」

キャンパス内の空いている適当なベンチに二人で腰掛ける。

「ありがとう。わあ、俺の好きな物ばっか!」

レイから受け取り、弁当を開けるとそこには所狭しと和永の好物ばかりが敷き詰められていて感動した。
日頃一人で勝手に好きな物を色々語っていた和永。聞いて覚えていてくれたのだと嬉しくなった。

「喜んでくれて良かった。日頃のお礼ですわ」
「俺は、なにも。当然の事をしてるだけさ」

和永にとってレイを変な輩から守ると言う行動は当たり前のことだった。まさか感謝され、弁当まで作ってもらえる事になるとは思ってもみなかった。

「これから週一回、作ってこようと思っているのだけれど」
「わあ、本当に?楽しみだなぁ~」

レイの手作り弁当が毎週一回食べられると聞き、和永は喜んだ。

「あくまで節約とあなたの栄養が偏らないためよ。毎日学食で麺類ばかりで」
「俺の心配してくれてるの?優しい」
「私も学食ばかりじゃ飽きるから」

頑張ってくれている和永の為にお礼としてお弁当を作る。レイなりの優しさだった。
和永が大学を卒業されるまで続いた。




おわり

20240420 ジェダイト生誕祭2024(ジェダイト石の誕生石に基づく)


19/19ページ
スキ