月に代わってお仕事よ!



「マーズ、怖い顔してどうしたの?」

ヴィーナスが問う。

「全く、男って……」
「まぁまぁ、マーズ。君はあの場で良くやったよ」

事情を知るジェダイトがご立腹なマーズを宥める。

「何があったんだい?」

ジュピターが心配して優しく問いかける。

「実は、マーズが笑顔になったんだ」
「え、うそ?」
「本当に?」
「何で?あれだけ嫌がってたのに」

マーズが笑顔になった。このジェダイトの告白にマーズを知る四守護神はどよめきだった。クールで通っていて、決して笑顔を見せないマーズが笑顔を見せた。
その事実に、衝撃を受けた。自分たちにさえほとんど笑顔を見せることがないクールなマーズが何故?
結婚して変わったのはクンツァイトだけではなかったということなのだろうか?ジェダイトが隣にいるという安心感と気の緩みからか。

「したくてしたんじゃないですわ!失礼しちゃいますわ」

腹が立ち過ぎてマーズの言葉は火野レイであった時のお嬢様言葉に戻るほど。これは相当な怒りだとその場にいた四天王さえも感じた。

「最初は笑顔にならない予定でいたんだ。俺がいるから無理しなくていいって。だけど……」

ジェダイトとマーズは、政治家や名だたる著名人との会食。マーズの父親が政治家をしている関係で適任だと考えられたのだ。
ジェダイトも政治には興味がある。適任だろうとキング直々に頼まれた。
そう言う場が苦手なマーズは、引き受ける代わりに笑顔も話もしないとジェダイトにハッキリと意思を表明した。ジェダイトもそんなマーズの性格を熟知していたので了承し、社交的な事の一切を引き受けた。

「ある政治家が言いましたの……」

“せっかく綺麗なのに勿体ない”
“笑顔の一つも出来んとは、四守護神も大したことないんだな”
“綺麗なのは顔だけか……”

一人が不満を言えば、その場にいた数人も同調。
それだけならまだしも、その場にマーズの父親も通りかかり一言こう言い放った。

「相変わらず笑顔がないな。ママは笑顔を絶やさない素敵な人だったのに」

母親に似ず、全く笑顔を見せない。そう指摘されたマーズは、売り言葉に買い言葉で無理矢理笑顔を作り始めた。
父親に言われて笑顔になるのは癪だったが、母親を出されると弱い。母親の顔に泥を塗りたくない一心だった。

「父親に言われて無理矢理笑顔を作ってしまったマーズは、それからその笑顔のまま凝り固まってしまったんだ」
「そう言う事だったの」
「同情する」
「それで前にあった時変な顔だったんだな」

ジェダイトからそう説明を受けたマーキュリーは納得し、クンツァイトは自身と重ねて同情。ゾイサイトは見たことの無い顔をしていたマーズに会ったことを思い出した。

「一週間、笑顔が取れませんでしたわ!」

マーズの怒りは相当で、ヴィーナス以上に腹を立てていた。その場に出て、ジェダイトの横に付いている。それだけで良いはずだった。
それなのに事態は思わぬ方向に行ってしまった。
何故こうなったのか?無視する事も出来た。以前のマーズなら確実に無視を決め込んでいた。やはりジェダイトの影響が大きいのだろうか?それとも父親への対抗心か?兎に角負けず嫌いに火がついてしまったのだ。

「普段使わない表情筋を動かしたから無理が生じたのね。私に相談してくれれば良かったのに」

医者としての知識のあるマーキュリーが気づけなかったことに嘆いた。

「マーキュリーも仕事、忙しそうだったから」
「私はあなた達の健康管理の為にいるの。心配いらないわ」
「ありがとう、マーキュリー。今度はそうさせて貰うわ」
「いつでも頼って」
「ええ、ところでマーキュリー達はクイーンとキングの仕事、大丈夫?」

マーズは自分の事よりマーキュリーの仕事量を想いやった。自身以上にクイーンとキングの仕事を引き受けている。
その事を知っているマーズは、気を使った。

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