現世ジェダレイSSログ


珍しく放課後にデートをする事になった和永とレイは、喫茶店でお茶をしていた。

「はぁー」

和永の目の前で、深いため息をついたレイ。鞄から取り出した学校で配られたであろうA4サイズのプリントを両手で持ち上げ、難しい顔をしている。
その顔はまるで自分たちのリーダーである公斗を見ているようで、和永は既視感に懐かしくなる。

「レイがため息をついて難しい顔をするなんて、珍しいな。何か悩み事?」
「ええ……」

和永の質問にレイは手短に答えると、手に持っていたプリント用紙を和永に渡す。
そこに書かれていたのは、受験生らしい言葉だった。

「進路希望調査書か」

そりゃあため息もつきたくなるわなと和永は察した。
選ぶ大学により、大きく将来は変わってくる。大切な調査書だ。
とは言え、レイの将来は決まっていて、祖父の跡を継いで神社の宮司になる事と言う明白な夢を持っている。
それなのに、何故こんなに難しい顔をして考え込んでいるのか。和永にはさっぱり分からないでいた。

「レイは神社経営だろ?大学進学するのか?」
「ええ、一応専門知識を学びたくて」
「そっか、なら自ずと決まって来るよな」
「そうなんだけど……」

神社に関する知識を一から学び直したいとハッキリとした目標があるにも関わらず、レイの顔は曇り、言葉も歯切れが悪い。

「どの大学に行けばいいか悩んでる、とか?」
「それもあるけれど……」

そう切り出したレイは、ゆっくりと和永に悩みを打ち明けた。

「大学って共学でしょ?今までずっと女子校に通っていたから、気が重くって」

レイが通っているのは小中高一貫教育のお嬢様学校。蝶よ花よと守られて来た箱入り娘で、極度の男嫌いのレイに共学の大学はハードルが高い様で、気持ちにストッパーがかかっている様だ。

「それに、今までエスカレーター式に進学出来ていたから、こう言うのに慣れていなくって」

中学三年生の時は、美奈子達がどこの高校へ行くか悩んでいるのを横目で見て、どこか他人事の様に大変そうだと見物していた。
それが、高校三年生になり、今度は自分自身がこうして悩む事になって初めて美奈子達の当時の大変さを身を持って体験する事になった。
高校もそうだっただろうが、大学も色々あって悩み過ぎて頭が痛くなる思いだった。
最も、美奈子やうさぎ、まことのオツムを考えると選択肢は豆粒程しか無かっただろうが、レイは一貫校でも頑張って勉強をしていたから、亜美程では無いが頭はいい方で、大学は選びたい放題。
だからこそ、色々な悩みが波のように押し寄せて来る。

「共学は確かに由々しき問題だな……」

男嫌いであり、女子校に通っていたから和永も安心していた部分は大きい。
しかし、美人で頭も良くて、お嬢様学校出身と言う肩書きがある彼女が、夜に放たれたらどうなるか。目に見えて明らかだけに、和永は頭が痛くなる思いがした。
何か、何か打開策は無いだろうか?
一休さんの様に頓知を効かせようと、和永は必死に頭を捻る。

「うーん、うーん……何か、何か無いか?」
「何故、貴方が悩むのよ?これは私の問題でしょう?」
「レイだけの問題なんかじゃない!共学に彼女が通うなんて今まで考えてもなかったから、想像しただけで嫉妬で狂いそうになる」
「……バカね」

自分以上に悩む和永を見て、レイは段々と冷静になって来た。
まさか自分の事のように悩んでくれているとは知らず、その事を知り嬉しくなっていた。

「レイが、他の男と講義の内容で楽しそうにしてるのとか想像したら、その男殺したくなる」
「本当に、馬鹿な人ね」

大学にはメンズと親しくなりに行くわけではなく、神社について学びに行くのだ。そんな事、考えてもなければ、レイは和永以外の男にはまるで興味が無かった。

「わたくしのこと、信じてらっしゃらないのかしら?」
「レイの事は勿論、信じているさ。ただ、レイは美人だから男が湧いて出てくる。悪い虫、成敗したい!」
「はぁ……」

レイはまたまた深いため息をついた。和永が一途に愛してくれるのは有難いが、愛が重い。別の悩みが増えた気がした。
和永に相談しなきゃ良かったとレイは後悔し始めた。その時だった。

「そうだ!レイ、俺んとこ来ないか?」
「何ですって?野蛮ですわ!」

何を言い出すのかと思えば、まさかの和永の家へのお誘いに、美人の顔が崩壊寸前になる。

「あ、いや、そういう意味じゃなくって……俺の大学に来ないかってことさ」

大きな声で勢いよく怒るレイに驚きながらも和永は、自分が通う大学に一緒に通おうと提案して来た。
和永が知恵を絞り出して、やっとの思いで考え出した名案だった。一緒の大学に行けば双方の心配は相殺される。

「貴方のいる大学に、通う?」
「いや?」
「いいえ、ただそう言った学部があるのか心配しているのよ」
「確か、神学部ってのがうちの大学にあったはず。今度、大学のオープンキャンパスがあるから見に来たらいいよ。俺が案内するから」
「考えておきますわ」
「是非、前向きに検討下さいますと嬉しいです」
「まぁ和永ったら、うふふっ」

レイと同じ大学に通えるかも知れない。自分の閃きに和永は自分で自分を褒めたくなった。
彼女と同じ学校に通いたいと言う夢が叶うかもしれないと和永は嬉しくなった。




おわり

20230131

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