現世ジェダレイSSログ


「いやぁ~花嫁さん、綺麗だったなぁ~」

火川神社へバイトに来てから、うわ言のようにそう言うのは和永。空を見上げ、心ここに在らずと言った様子。
何でも、ここに来るまでにチャペルがあり、そこで結婚式が行われていたと言う。
チャペルなので、当然花嫁はウェディングドレスを纏っていて、とても幸せそうな笑顔で輝いているのが印象に残った様だ。

「やっぱ、結婚式ウェディングドレスかなぁ。なぁ、レイ?」

神社で仕事をしていて、空気も読まず何を言っているのだろうとレイは呆れてものも言えない。
更に、まだ結婚なんて考えてもいない。それどころか、付き合ってまだそれ程の月日は経っておらず、結婚の約束などしてもいない。

「何言ってるのですか?ここは和装でしょ?」

一緒に神社の仕事を手伝ってくれている双子のディモスこと、耀が物申している。

「レイ様でしたら、ドレスも着物もお似合いだと思いますわ」

どちらでも素敵ね、と双子の姉、燈が楽観的に話に加わる。

「私は和装一択よ!だってここは神社でしょ?」
「別に型に捕われる必要ないでしょ?今は多様性の時代ですもの」
「そっか、言われてみればここは神社だから和装か……」

和永には他意は無く、寧ろ結婚式と言えばウェディングドレスが当たり前と固定観念でガチガチに固まっていた。
しかし耀の言う通り、ここは神社なのだからここでやるなら和装という事になる。と今更気づく。

「確かに現世では和装姿が板についてるわね。でも、前世ではプリンセスとしてドレス姿も美しかったですわ」
「俺も見た事あるよ!とっても美しかったなぁ~。あ、今も変わらずどんな格好でも美しいけど」

前世では月のプリンセスを守護する役目を持っていたマーズだが、自身の誕生日やイベント関係ではドレスを着用していた。
決して日常的に着ていたわけでは無い。
しかし、中々見られないがたまに纏うドレス姿には誰の目も惹き付ける。その為、定評があった。

「和装も洋装も、どっちも綺麗だろうなぁ~」
「いやだから!和装一択だってば!」
「ウェディングドレス姿が見たいわ。久しぶりにドレス姿を拝みたい」
「俺はどっちも見たくなったな。よし、この神社で和装の結婚式と、チャペルで洋装の結婚式。2回やるぞ~!」

そうと決まれば、バイト益々頑張るぞ!と言いながら先程とは打って変わって和永は生き生きと仕事を始めた。

「ちょ、ちょっとお待ちになって!」

当の本人のレイが会話に入れず、置いてきぼりを食らってしまい戸惑う。慌てて止めに入る。

「わたくし、まだ何も言ってませんわ」
「ごめん、つい楽しくなって盛り上がってた。2つもやるのは負担かな?」
「そうじゃありませんわ!まだ、結婚なんて考えてませんし、お互い学生ですし……」

まるでもう結婚する事が前提として進んでいて、レイは気持ちがついて行かなかった。

「歳なんて関係ないよ。こういうのはお互いの気持ちが大切だと俺は思ってる」
「あなたか良くても、わたくしが……」

結婚は愚か、男性と御付き合いする事もレイにとっては本の数ヶ月前まで考えられない事だった。
それが、いきなりトントン拍子に色々決まって行くこの状況に気持ちが追いつかない。

「俺は、レイしか考えられないけど、レイは違うの?」

少し寂しそうな顔で和永は質問する。

「先の事はまだ分かりませんわ」

そんな和永の顔を見れず、視線を下の方へと向けながらレイはそう答えるに留めた。
レイとて、結婚に興味が無いわけではなかった。しかし、今すぐどうのこうのと言う訳では無い。

「レイ、将来俺のお嫁さんになって、俺の生活に美しい花を咲かせて下さい」
「……考えておきますわ」
「あらら」

和永は将来の予約のプロポーズをするが、お堅いレイはそう答えるのが精一杯だった。
しかし、突然のプロポーズにレイは心に暖かい灯火が灯ったようにポカポカとした気持ちになった。




おわり

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