現世ジェダレイSSログ


『大人の日の災難(ジェダレイ)』

「よし、完璧ね」
「サンキュー、レイ」

俺は今日、成人を迎えた。
成人式は紋付袴を切ると決めていた。
そして、絶対、レイに着せてもらおうと思っていた。

「サンキューじゃないわ。自分でも着られるはずでしょ?」
「そうだけど、レイに着付けてもらった方が綺麗だから。信用して頼んだんだ」
「上手いこと言って……」

レイの言う通り俺は、着物を自分で着られる。
火川神社の着物をほぼ毎日着ているうちに、勝手に覚えて気慣れていた。
けど、神社の着物の着付けと、紋付袴では少し勝手が違う。
それに、ちゃんとした晴れ着なのだから、信用してる人にきっちり着付けて貰いたい。そう思うのは当然の事だ。

「やっぱり、レイの着付けは世界一だ」

姿見を見ながら満足する俺。

「なぁにが、世界一じゃ!着せられてる感満載じゃないか?」

俺の有頂天を速攻でへし折って来たのはジジイ。もとい、レイの祖父で火川神社の火野宮司。
レイを溺愛していて、俺を目の敵にしている。最も厄介な人である。

「着せてもらいはしましたけどね。どうです?俺の紋付袴姿は」
「馬子にも衣装じゃな」

一筋縄では行かないようだ。

「あれぇ?和永さん、いつもと違う格好ですね?」
「火川神社の着物じゃないですね?」

ジジイだけでも邪魔なのに、そこにフォボス・ディモスの人間版、燈と耀の双子まで乱入してきやがった。
レイと二人っきりのランデブーが……。

「和永、今日は成人式なのよ」
「せいじんしき……?」
「星人式……?星になりますの?」

燈は兎も角、耀の星人式は絶対ワザと間違っただろう。

「うふふっ違うわ。大人になる大事な式よ」
「大人……ですか?」
「へぇーふぅーん」

分かったのか、分かってないのか……。
曖昧な返事に何か腹立つ。

「おめでとうございます」
「おめでとうございまーーす」

感情がまるで籠っていない2人の棒読みの言葉にため息が出る。

「ありがとうございまーーす」

こっちも負けずと棒読みで感謝の言葉を返す。
すると2人とも“気に入らない!”と言う顔をする。こっちもだから、お互い様だ。

「さて、そろそろ会場へ行くよ」
「行ってらっしゃい」

レイに見送られ、火川神社を出る。
階段を降りた所に見覚えのある男が三人、立って待っていた。公斗、彩都、勇人だ。

「はあ?何でお前らがいるんだよ?」

そして、何で衛がいない?

「せっかく来てやったのに、何て口の利き方?可愛くないわねぇ」
「成人式だって聞いたから来てやったんじゃねぇか。感謝しろよ」
「馬子にも衣装だな」

リーダー、本当に口下手だな。一言で人を殺しにかける天才か。

「俺たちは成人式出てねぇからな」
「俺たちの分まで、出席してくれ」
「私も着物、着たかったなぁ……」

彩都の場合、どっちを着るんだ?袴か?それとも、振袖か?といらん事を考えてしまったが。
三人が成人式に出られなかったことに、胸が締め付けられた。
三人が成人するタイミングは、まだ俺たちは翡翠のままで。人間の身体を持たなかった。
もっと早く人間に、などと衛を責めたりはしないし、そんな事思っても無い。
仕方の無かったことだし、後悔も無い。自業自得だ。

4人の中で一番若くて、成人式のタイミングに間に合ったのが俺だけ。
だから、という訳ではないと思うけど、三人から自分達の分もと託されたのだろう。

「四天王代表して、出て来てやるよ!」
「一番若いくせに、なぁに威張ってんのよ!」
「末っ子の癖に生意気だぞ!」
「……ああ、頼んだぞ。ジェダイト」

リーダーに昔の名で呼ばれ、ドキリッとなる。まるで、代表で公務に出るのを任されているみたいで。身が引き締まる想いだ。

「ああ、任しとけ!クンツァイト、ネフライト、ゾイサイト」

そこから、会場までクンツァイト、もとい公斗の車で野郎4人で向かう事になった。

「行ってこい!」

会場に着くといきなりバンッとネフライト、もとい勇人に背中を思っきり叩かれ見送られた。
すげぇ、痛てぇ。あんの、馬鹿力め!

「しっかりね!」

ゾイサイト、もとい彩都には何故かケツを叩かれる。

「頑張れよ」

クンツァイト、もとい公斗には頭を撫でられる始末。キモいって。美奈子に見られたら怒られるわ!

「ちょっ!子供扱いすんなって!」
「現に子供だろ?」
「今から成人式に代表で出るんだけど……」

……ったく、この男は。ガタイが良いからって、華奢な俺をいつまでも子供扱いしてくれるぜ。

「大人になったな、和永」
「……んだよ、急に」

と思ったら急に大人扱い。ヤバい。何か嬉しくて泣きそうになって来た。

「じゃあ、行ってくる!」

振り返らず、後ろで見てるであろう三人にヒラヒラと手を振り会場の中へと入った。

式は滞りなく過ぎて行った。
ただ、こういう式は兎に角偉い人の硬い話が長い。眠い。眠くて寝そうになる。
周りを見ると、うんざりした顔ばかり。
女性陣に至っては慣れない着物で着心地が悪いのも相まってか、みんな目が死んでいた。

やっと全てが終わった頃には、全員がぐったりしていた。俺も例に漏れず、疲れ果てた。

「レイ!」

会場の外に出ると、彼女が待っていてくれた。抜け出た魂とエナジーがチャージされて行くのが分かる。生き返った!

「お疲れ様」
「マジで疲れたよ。でも、レイの顔見て元気出た」
「成人、おめでとう」

そう言えば、言ってなかったわね?と言いながら祝ってくれた。
火野宮司や双子が邪魔して、あの時ほとんど会話出来ず神社を後にしたことを思い出した。

「ありがとう、レイ」
「今日は成人の祝いに、付き合ってあげても良くってよ?」

久々のお嬢様言葉で照れ隠しするレイに嬉しくなる。

「じゃあ、このままゆっくりデートでもして頂けますか、お嬢様?」
「あなたが望むままに」

俺の成人式の日はまだまだ始まったばかりの様だ。




おわり

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