アル美奈SSログ


『アルテミスの危機(アル美奈)』

「どうしたんだよ、美奈。こんな所に呼び出して?」

この日、俺は相棒の美奈に呼び出されていた。場所は司令室。
相棒になったその日から、何となく美奈の家に居候していた。
だから、普通に家で話せば済むことだと思った。

そんな美奈が、ここに呼び出すのには何か意味があるだろうと勘ぐった。
そう、新たな敵が現れたんじゃないか?
美奈の顔を見ると、真剣な面持ち。これはただ事では無い。

「うん、そうなの。アルテミスをここに呼び出したのは他ではないわ!」

よく聞く常套句をアホな美奈の口から聞く事になるとは。世も末か?

「何だよ、美奈。やっぱり敵が現れたのか?」

嫌な予感がする。こちらも心の準備をしつつ、真剣な顔で美奈を見上げる。

「ええ、敵……じゃ無いのよ」
「じゃあ、何だよ?」

言いにくそうに、焦らしてくる。頼む!早く言ってくれ。敵じゃないのに司令室に呼び出すのも司令室の無駄遣いだ。
そんな事を考えていると、美奈の体から何かがはみ出していることに気づく。何だこれは?

「えっと……実はね?」
「何だよ?早く言ってくれよ!」

尚も言い淀む。ハッキリ言って来るタイプの人間が、勿体ぶるとイライラするな。

「ってか美奈、さっきからチラチラ見えるそれ、何だよ?」
「そう、その事なの!」

待ってました!と言わんばかりに、パァーっと明るい表情になる。

「ジャーン!ポムポ○プリン君よ」
「……」

満を持して登場したキャラクターに、絶句する。はぁ?何だ?意味分からん。

「やぁ、アルテミス君、こんにちは。ポムポムプリンと言います。よろしくね♪」
「は、はぁ……よ、よろしく」

よろしくってどういう事だ?もう、ずっと意味分からん。着いていけない。

「今日から私の相棒になるの」
「相棒って、俺は?どうなるんだ?」

俺というものがありながら、新しい相棒だと犬を紹介して来た。

「うん、要らないわ!」

ゴンッ!!!!!

“要らない”の一刀両断に、天井からタライが落ちて頭に重くのしかかった。それくらい、衝撃を受けた。
いや、日頃から冷たい奴だとは思っていた。だから、こうなる事は予想出来たはずだ。
けど、考えなかったのは、最後にはきっと俺を選んでくれると思っていたから。

「な、何でだよ?一番の相棒だろ?」
「口うるさくて、鬱陶しい。それに……」
「それに?」

聞くのは怖いが、聞かなきゃ分からない。
俺は、意を決して、相棒交代の原因を聞いてみた。

「それに、アルテミスはセーラーヴィーナスのコスプレが出来るの?」

ゴンッ!!!!!

再び、タライが落ちてきた様な衝撃。
確かに、言われてみれば俺はセーラーヴィーナスのコスプレをしたことが無い。
しかし、どうだろうか?目の前にいる犬は、見事にセーラーヴィーナスのコスプレをしている。
しかも、着こなしてやがる。ニャウ、じゃ無い。似合っている。

「どうなの、アルテミス?」
「コスプレ……」

美奈は自分のコスプレをして欲しかったのか?
俺が、コスプレをしたら俺が相棒のままでいられるのか?
……って、いやいや、待て待て!意に反する。

「後ね?このふくよかさが堪らないのよねぇ~♪」

俺が考え、言い淀んでいると、犬の良さを熱弁して来た。そうかと思えば、抱き着いている。
悪かったな!俺は痩せてて!誰のせいで痩せてると思ってるんだ!
こっちの身にもなって欲しいよ。
ってか、男なら誰でも良いのか?

「あぁ~、フカフカ。堪んなぁ~~~い♪」

くぅっ悔しくなんか、無いぞ!
美奈に抱き締められた記憶無くて、羨ましいとか思ってないからな!

「プリンくんがヴィーナスのコスプレだから、アルテミスはセーラーVのコスプレでもいいわよ?」

コスプレして貰えたことが、嬉しくて仕方ない様だ。

「仮面くらいはかぶってやらなくも無いけど?」

俺は、タキシード仮面になった衛を思い出していた。
仮面を被る事で、衛みたくカッコ良くなれるんじゃないかと考えた。

「あはははは、仮面が大き過ぎてコントになりそうね」

想像したのか、馬鹿にして笑って来た。
……まぁ、確かにサイズはあってないけど、そこは俺用に作り直せば良いだけの事だろう。

「美奈は、美奈だけはずっと相棒でいてくれると思ってたのに!」

そりゃあ、相棒になった当初も酷い事されたけど。
俺だって猫なのに、猫飼いたいとか言い出すし。挙句、見飽きたと言う理由で猫見たくないとも言われた事もあった。
だけど、今日までこうして一緒にいてくれた。
それが、コスプレをしてくれた。それだけの理由でポイ捨てされるなんて。そんな未来があって良いのか?

「なぁんて、嘘よ!バカねぇ、アルテミスは」
「バッ?」

馬鹿に馬鹿って言われたくない。一体、何の冗談だったんだよ。心臓に悪い。

「アルテミスはちゃんと私の相棒よ。ずっとね」
「驚くじゃないか。何の冗談だよ」
「アルテミスの愛を試したかった。なんてね!プリンくんは一時的なものだから、安心して」

一時的でも奪われそうになって怖かったんだけど。一時的って、何だよ?

「と言う事で、これからもよろしくね」
「……ああ、よろしく」

一体、何の嫌がらせだったんだ?美奈の考えてる事は、長年相棒しててもさっぱりだ。
本当、司令室の無駄遣いだ。
振り回されて、散々な日だった。

END

2022.02.22

スーパー猫の日

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