月に願いを


生まれ変わって同じ地球で何の隔たりも無く自由にうさぎと愛し合え、永遠が誓えるようになる。しかし、それでもいつも不安と表裏一体で。
結婚したからと言っても油断出来ない。そんな想いが未来のエンディミオンにもあるのだろう。その想いが月と地球の接近として反映された形になった。そう考えると腑に落ちると衛は、結論付けた。

「そっか、月が地球の近くにある方が安心だって思ったのかもね」

うさぎの方は楽観的な結論に達していた。
確かにそれも一理あるだろうと衛は納得した。

「つまり、2人はいつまでも想いあってるって事だね」
「えへへー、私とまもちゃんはいつも一緒よ」
「そうだな。うさ以外は考えられない」
「はいはい、お熱いですねぇ~」

2人のラブラブっぷりにジト目で呆れるちびうさは、物思いにふけ始める。

「2人はいつでも会えて良いなぁ……」
「ちびうさ……」

部分月食が始まった月を見ながら、ちびうさは遠く離れた想い人に思いを馳せる。

「エリオスに会いたい?」
「会いたい。けど、素敵なレディになるまで会わないって決めたから」

そう話すちびうさはすっかり大人の顔をしていた。
本当の恋を知り、ちびうさは大人の階段を一歩ずつ登っていた。

思えば、こうして皆既日食を見ていた時にペガサスの姿で助けを求めてきたエリオスと初めて出会った。
“乙女よ”そう呼ばれ、自分の事かもと舞い上がったし、助けになれると思っていた。
エリオスの言ってた“乙女”は自分の事では無くて悩んで苦しんで。
それが、こんなに成長するきっかけになった。

「そっか、大人だねちびうさは」

少しでも会えないとダメな自分達とは違って、長く会えなくても耐えて頑張るちびうさの方がよっぽど大人だと2人は恥ずかしくなる。
未来から両親と離れ、文句も言わず頑張っていたのをずっと見てきただけに、エリオスと逢えないのも我慢出来るのだろう。
尊敬に値する精神力だと衛は感心した。

「ちびうさ、それって……」

ちびうさが徐ろに取り出したものを見て衛は驚く。

「そう、エリオスから貰ったクリスタルカリヨン。今でも時々鳴らすんだ。勿論、来てはくれないんだけどね」

そう憂いを帯びた顔でそれを動かし、鈴を鳴らして見せる。

「……やっぱり、今日も来てはくれないね。部分月食だから来てくれるかなって思ったんだけど、考えが甘かったか」

そんな簡単なもんじゃないとちびうさは現実を受け入れることにした。

「ちびうさ……」

そんなちびうさを見たうさぎは、強がってるだけで、やっぱり逢いたいんだと悟る。大人びて聞き分けのいい子だけど、本当はまだまだ子供で。

“エリオス、どうかちびうさに逢いに来てあげて”とうさぎはちびうさの代わりに部分月食に願いを込めた。

逢いたくても逢えない。その切なさやもどかしさを知っていたから。
未来の自分達の娘もまた、前世の自分達の様な恋愛の境遇にいる事に胸を締め付けられた。

結局、この日は部分月食は無事に終わったが、とうとうエリオスは来なかった。

「部分月食、素敵だった♪またこういうのあればまもちゃんとうさぎと見たいな」
「うん、一緒に見ようね、ちびうさ」
「そうだな」

努めて明るくするちびうさの心にそっと寄り添う衛とうさぎ。
本当はエリオスと逢えない事が寂しいはずなのに。その心を思うと前世の自分達と重ね合わせ、切なさが募る。

今の自分達と同じ様に堂々といつでも会える日が来ることを、部分月食が終わった月にいつまでもいつまでもちびうさの代わりにうさぎは祈っていた。

END

2021.11.19

部分月食の日に寄せて♪

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