新たなスタートのその前に



祈り終えると、ゆっくりと目を開ける。
結構長い間祈っていたから、視界がぼやけて見える。
ぼやけ見えたその先の台座に、微かに人の形が見える。細く、ロングドレスに羽のような形、髪型はママと同じお団子のツインテール。このフォルムは、まさか……?

「スモールレディ」

深く落ち着いた女性の声。一度しか聴いていないけれど、ハッキリと耳に焼き付いて離れなかった声。
間違いない!この声は……

「クイーン!?」
「スモールレディ、お久しぶりです」
「お久しぶりです、クイーン」
「あら?あの頃とは随分と成長したのですね」
「はい、お陰様で」

紛れもなく紛うことなきクイーンその人がそこに現れた。
笑顔のクイーンに対して、私は驚いて絶対変な顔になっているだろうな。ママ譲りの泣き虫も出て来て、感動でちょっと泣きそうなのを堪えてたりもするから。

「またお会いしたかったから、会えてとっても嬉しいです」
「私も、成長したスモールレディに会えて嬉しいわ。あ!今はスモールじゃないわね?立派なレディね」
「えへへ」

クイーンにそう言われると照れちゃう。成長出来て、またクイーンに会えて嬉しい。

「何かあったのですか、レディ?私がこうして姿形を現したと言う事は、悩みでもあるのかしら?それとも、貴女のクリスタルの力によるのかしら?」

クイーンは全てを見透かしたかのように質問して来た。

「実は……」

隠しきれない。それに、その為にここに来たんだから。
クイーンの心配そうに覗き込む顔を見た私は、3日後にクイーンとなり即位すること。ママやクイーンの様に務まるか不安に思っていること。
全てを洗いざらい話した。

「そう。誰だって、新しい環境や上に立つと言うことに不安にならない人はいないわ。貴方は貴女らしく、やれば良いのですよ」
「クイーンも不安でしたか?」
「ええ、勿論よ。先代のクイーンはそれはそれは立派な人でね?こんな風になんて出来ない!って思ってたわ」

クイーンも、先代の影に怯えていたなんて。
どんな立派な人でも、やっぱり先代を見ると不安になるのね。
何だか少し、肩の荷が降りた気がする。

「それに、貴女には支えてくれる沢山の素晴らしい人達がいるでしょ?どんどん頼りなさい。きっと、喜んで力を貸してくれるわ」

そうだわ!ママも言ってたっけ。仲間も旦那もいるって。
私にはエリオスと言う素敵な夫、セーラーカルテットと言う頼れる守護戦士達がいる。そうだ、頼っていいんだ!
ママだって戦士の頃はみんなに頼ってたし、パパには支えられまくってた。頼りなかったな、昔のママーーー月野うさぎは。

「パパやママ、セーラーサターン達も頼っても良いんでしょうか?」
「勿論!みんなすっごく嬉しいと思うわ。喜んで手を貸してくれると思いますよ」
「そうですよね。ありがとうございます、クイーン」
「いいえ。不安は拭えた様ね」
「はい!」

クイーンに不安な胸の内を聞いてもらい、アドバイスを貰った私は、来た直後とは比べ物にならない程スッキリと前向きになっていた。

「クイーンにも、戴冠式に来てもらいたかったな……」
「私はもう、とっくの昔に亡くなった存在。過去の人。それは叶いません」
「そう……ですよね。クイーンにも地球に転生して欲しかったです」
「前にも言いましたが、シルバーミレニアムを終わらせてしまった責任は取らねばなりませんでした」
「それでも、銀水晶があれば……」
「あの時はセレニティの手前、言えませんでしたが……」

食い下がらない私に観念したクイーンは、重い口で転生を拒んだ理由を語り始めた。

「怖かったのです」
「……怖かった?」
「はい。もしも同じ場所に同じタイミングで生まれ変わっても、また歴史は繰り返されるのではないかと」
「……歴史?」
「ええ、また目の前で私より先にあの子が逝ってしまうのでは無いかと感じて、怖くて逃げたの」

前世、自分の目の前でパパが殺されて耐えられなかったママは、自害したという。
それを黙って目の当たりにしたクイーン。その悲しみは計り知れないものだと思う。
まだ私には子供はいないから気持ちは分からないけれど、お腹を痛めて産み、大事に育て、いずれはこの国を治める人になる。
そんなたった一人の大切な娘が目の前で逝ってしまった。
生まれ変わって、親子では無い新しい関係であったとしても、それは辛く悲しく、立ち直れないかも知れない。

「クイーン……」
「いつまでもかんしょう(干渉、感傷)するのは……ね?」

そう言ってクイーンは寂しそうな顔で笑って見せた。
きっと今でも、あの時の事は大きなトラウマになっているのだろう。
クイーンだけじゃない。あの時滅んで、転生したママやパパ、全ての太陽系の人達全員。表立って出してはいないけど、辛い出来事なのだと改めて感じた。

「もうそろそろ、時間のようですね……」

話し終わったタイミングで、またクイーンは透けて行って、お別れが近い事を現していた。

「クイーン、ありがとうございました!また、会いに来ても良いですか?」

またクイーンにも会いたい。今度は世継ぎを産んだ後に。

「ええ、勿論ですよ。いつでも遊びにいらっしゃい」
「毎日会いに来ますよ」
「まぁ、レディったら」
「クイーン。私は、3日後にはクイーン・レディ・セレニティになります」
「気張らず焦らず貴女らしくね、クイーン・レディ・セレニティ。貴女の世界に、好きな様に統治なさい」
「はい!」
「私はここで、ずっと見守っていますからね」
「いつも月を見上げてクイーンを思います」
「セレニティによろしくね」
「伝えておきます、クイーン」

セレニティによろしく。そう言い残してクイーンは消えてしまった。

クイーンと会い、不安が見事に解消された私は、肩の荷が降りていた。
とは言え、やっぱり女王となるのは怖いし不安だ。
けれど、私には支えて力になってくれる仲間が沢山いる。その事を忘れず、周りに頼ろうと軽く考えられる様になった。
クイーンは本当に凄い人だ。

「さて、地球に帰ろう」

私は地球生まれの月の王国の血を引くプリンセス・レディ・セレニティ。
3日後にはクイーン・レディ・セレニティになる。
だけどいつでもそこに月がある限り、クイーンもそこにいる。そして、心の中にもしっかりとクイーンは生きている。
クイーンの、お祖母様の分まで私は、女王としてエリオスの、愛する彼がいるこの地球で太陽系を守って行こうと改めて決意した。




おわり



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