新たなスタートのその前に


ここに来るのはこれで何度目なんだっけ?
最初はパパとママに連れられて、そこから毎年“あの日”の命日には何度となく足を運んだこの地ーーーシルバーミレニアム

あれ以来、親子三人でここに来る事は恒例行事となっていた。
その内、私は成長を重ねて立派ーーーになったかは正直自分では分からないけれど、身体は大人の体型になった。
エリオスとも愛を育み、無事伴侶となった。
勿論、エリオスともここに何度も一緒に来た。

だけど今の私は違う。この地に一人で訪れていた。
初めて来たあの日とは変わらぬ繁栄したシルバーミレニアム。それと比例するかのように静寂を保っている月の王国。
誰もいない事は分かっていたけど、やっぱり一人で来ると寂しい場所だと感じた。

じゃあどうして誰かと来る事を選ばず一人で来たのかってのにはちゃんとした理由がある。
長い間、クリスタル・パレスの第一王女としてママの下で学ぶ日々だった私、スモールレディこと、プリンセス・レディ・・セレニティ。
エリオスと結婚して、落ち着いて来たある日。女王であるママから呼び出され、まさかの発言が。

「レディ、私はそろそろ女王として退いてエンディミオンと余生を楽しみたいと思っています」
「ママ、それって……」

そう、女王引退。それの意味する所は……

「そうよ。レディ、貴女にこのクリスタル・トーキョーの女王として継いで貰いたいの」
「私が女王に……」
「レディはしっかりしているし、仲間も素敵な旦那様もいるし、何にも心配してないわ。きっと立派なクイーンとなれると信じています」
「ママ……いいえ、お母様。任せて下さい!」
「ふふっ頼もしいわ。頑張ってね、クイーン・レディ・セレニティ」
「クイーン・レディ・セレニティ……」
「それに、レディ。貴女のクリスタル、熱く輝いているのでは無いですか?」
「クイーン……」

ママは全てお見通しだった。
ここの所、私のピンクムーンクリスタルは力が増して来ていてとても熱く、力が漲っていた。今までと全く違う。別格。
それは、私が女王としてこの地に君臨するというシグナル。全ての準備が整った証。
それを見通したママは、余生と言っていたけどきっと私に譲るタイミングだと退く事を決意してくれたのではないかと思う。
ママ自身の、シルバームーンクリスタルが弱まっているのかもしれないけれど……

うさぎ・スモールレディ・レディとしての時代がとても長かった私。プリンセス・レディセレニティとしての時間はジェットコースターの様に早くて一瞬に感じた。
成長するのが遅かったから仕方ないとは言え、女王になる日がこんなに早く来るなんて。私は感慨深かった。

この話の日から、即位の日まで色々やらなきゃいけないことが多くて。本当にジェットコースターに乗ってるみたいにあっという間に日々が過ぎ去って行った。
そして、即位の日まであと三日と迫ったこの日、やっとホッとできる時間を設けられ、立ち止まるとフッと不安に襲われた。
そして、気が付くと私はシルバーミレニアムへと来ていた。

ここに来たからと言ってどうなる訳では無いことくらい分かっていた。
クイーンだってあの日だけ出て来てくれたけれど、それ以降はどれだけ願っても出て来てくれなかった。
もしかして幽霊としてずっとここにいるのかもしれないけれど、私はマーズの様に霊感なんて無いし……。
でも、見守っていてくれている。何故かそんな気がしていた。
それに、やっぱりここは月の王国の原点。
ここに来て、色々報告しなきゃいけない。そう感じた。

「クイーン……」

祈りの間で私は、手を合わせる。

(3日後、私は女王となりシルバーミレニアムであるクリスタル・トーキョーを継ぎます。まだまだ半人前ですが、見守っていて下さい。正直、不安ではあるけど頑張りますので見ていて下さい)


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