こころウラハラ
そしてそれから数日後、ちびうさは元いた未来へと帰るため、有栖川宮記念公園へと来ていた。
そこには衛とうさぎを始め、美奈子たち他の戦士たちも見送りに来ていた。
「ちびうさちゃん、未来に帰っても勉強頑張ってね」
「亜美ちゃん、お勉強教えてくれてありがとね!」
「ちびうさ、未来のみんなによろしくね」
「レイちゃん、御守りありがとね!」
「ちびうさ、素敵な男の子見つけろよ!」
「まこちゃんもね!」
「ちびうさ、修行頑張ってね」
「美奈ちゃん、また遊んでね!」
見送りに来てくれた美奈子たちに最後の挨拶をした。もう来ることはないだろう。けれど、それでも少しの可能性にかけてみたかった。
「ちびうさ、クイーンとキングによろしくな」
「ちゃんと手紙、渡すから安心して」
「ああ、そうしてくれ。謝っていたと伝えて欲しい」
「分かったよ。責めないでって伝えとく」
笑顔で見送ろうとしている衛に、ちびうさも精一杯の笑顔を見せて会話をした。
大好きな衛に、笑顔で可愛い自分を覚えておいて欲しい。最後の悪あがきだった。
「うさぎ!」
先程から黙って何も言わないうさぎの方向を見てちびうさは大きな声で話しかけた。もう、これが最期の会話になる。分かっていたからうさぎも黙ってしまっていたし、ちびうさは何か話したかった。
でも、何を最後の会話にすればいいのか二人とも分からず、互いに見つめ合うだけだ。
長く感じられた沈黙を破ったのは、ちびうさだった。
「うさぎ、未来で待ってるね!」
「ちびうさ……絶対、だよ?」
「じゃあね、みんな!ありがとね!バイバイ!」
短い会話だった。でも、それで二人の間には充分だった。ごめんとかありがとうとか色々あったが、どれも違う気がしたし、どれも合っている気もする。
しかし、どれも止めた。やはりこれが一番だと思った。しっくり来た。うさぎと衛が恋人としての時間を過ごしていく中で一緒になるなら自ずと会える。そう信じていた。信じているからこそ身を引き、修行を断念して未来に帰ることにしたのだから。
笑顔で駆け出して言ったちびうさは、時空の鍵を天高くかざし、呪文を唱えると姿を消した。
30世紀、クリスタル・トーキョーへと戻ってきたちびうさはパレスのクイーンとキングの元へと来ていた。
「パパ、ママ、ただ今戻りました」
「まぁ、スモールレディ。随分と早かったのですね」
「まだ修行中のはずだ。一体、何があった」
思っていた以上に早い娘の帰還に、キングもクイーンも驚きを隠せない。
修行と言う名目で過去に行かせたのだ。長丁場になる事を覚悟で見送った。それがまさか一ヶ月程で帰ってくるとは思いもしなかったのだ。
「まもちゃんに邪魔だって追い返されちゃった」
何でもない風に至って元気におどけてみせた。
ここで嘘を言っても仕方ないし、暗い顔を見せてもしょうがない。衛に見習って事実をストレートに話すことにした。
「どう言う事だ?」
過去の自分が未来の娘を追い返すとは何事か?どう言う了見だと、スモールレディの言葉にキングは顔を強ばらせた。
「そうそう、ちゃんとまもちゃんから二人にって手紙を預かってきたの。詳しくはこれに書いてあるから、読んで」
よろしくって言っていたし、謝っていた事もスモールレディは加えて伝えながら衛からの手紙をクイーンに手渡した。
慌てて封を切ったクイーンは、便箋に目をやった。
「間違いないわ!高校時代のキングの字だわ。懐かしい」
笑顔で懐かしがるクイーンだったが、内容を読み進めて行くと見る見る顔が曇って行った。
良い内容では無いとは想像していたが、それ以上だった。
まさか過去の自分がこんなに苦しむ事になるとは思っていない事態に、チクリと胸が傷んだ。
「ママもまだまだよね?過去の自分の気持ちが読めなかったんだから」
過去と未来の両親に振り回される形になってしまったちびうさは、これくらい言っても許されるだろうとクイーンにチクリと嫌味を口にした。
「うさぎに悪いことしちゃったみたいね。反省だわ」
手紙の内容を見たクイーンは、納得した。
確かに過去の自分ならこういう事に悩みそうだ。自分自身の事なのにクイーンとなって多少大人になったと自負して慢心してしまい、すっかり弱く脆い一面を持ち合わせていた事を忘れていた。
全知全能とはこれ如何に?過去の自分の性格すら忘れ、寄り添えないとは、灯台もと暗し。女王として、母としても失格だ。
「パパも、女心ぜんっぜん!分かってないよね〜。うさぎの事すら分からないようじゃ、ダメじゃん!」
まさか娘にここまで指摘される日が来ようとは思いもしなかった二人は、深く反省した。
ただ、やはり修行に出した事は間違いではなかったと二人は共通認識する事になった。
過去の二人の事を想い、修行を中途半端に離脱して未来に戻る決意をする事は並大抵のことでは無いはず。早くに切り上げて帰ってきたら失望され、怒られることは想像出来たはずだ。それを承知で帰ってきた。
最も、衛がスモールレディが怒られないように計らったからこそすんなり帰る決断が出来たのだろう。
「スモールレディ、立派に成長しましたね」
「スモールレディ、強くなったな」
「え?あたし、成長も強くもなってないよ?」
クイーンとキングに言われ、スモールレディは言葉の意味が理解できずにキョトンとする。
自分では何も変わっていないと感じていた。それどころか修行を投げ出す形になったのだ。酷い結果だと悔やんでいた。
「まぁ、スモールレディったら」
「これだからこの子は、ははは」
成長と言うのは何も目に見えるものだけでは無い。精神的な部分のことを指すこともある。スモールレディの場合はその精神的なところが、目に見えないところが強くなっていた。
短い修行で、思っていた様にいかなかったが、結果的にはスモールレディは成長した。この修行は一先ず成功と言えた。
しかし、スモールレディにとってはこれからが本番なのだ。
ところ変わって20世紀の東京は港区麻布十番付近。
ちびうさが帰って数日が経とうとしていた。
そこにはすっかり元通り誰がどう見てもラブラブでアッツアツの衛とうさぎが愛を育むため、身体をピッタリと密着させてデートをしている姿があった。
おわり
20240513 メイストームデー