こころウラハラ



うさぎの願いはただ一つ。衛と恋人としての時間をずっと過ごしていくこと。それだけだ。
前世、互いに違う星の王子と姫でありながら出逢い、恋に落ち、誰にも知られること無く愛を育んだ。
それ故に人一倍うさぎは普通の恋人として過ごすことに憧れ、夢見ていた。
それだけでは無い。小さい頃から読んでいた絵本や少女漫画は、素敵な恋をして結ばれている。そりゃあ苦楽や喧嘩などもあっただろう。それも含めて恋愛であり、そんな恋に憧れていた。
それなのに現実は何と残酷なのだろう。
未来から自分達の子供が来て、一緒に過ごすなど、うさぎがこれまで読んできた物語の何処にも書かれていない。知らない。聞いていない。
ちびうさが悪い訳では無いと分かっているけれど、思い描いた理想とはかけ離れすぎた現実に、受け入れる事が出来ずにいた。

「ちびうさは、キングとクイーンからお預かりしている大切な子だ。俺たちは面倒を見る義務があると思う」
「そうだね。信頼してちびうさを預けてくれたのは分かってる。だけど、期待に応えられそうに、ないよ」

未来の自分たちであるキングとクイーンは、過去の自分たちである衛とうさぎがいるからこそ安心してちびうさを過去に送ってくれた。衛とうさぎはそれに応えなければいけない。
過去に来たちびうさがどんな行動をとるかまではクイーンやキングだけではなく、うさぎや衛は考えには及ばない。
その行動のせいで、うさぎがどれ程傷つき、追い込まれるのか。勿論、ちびうさだけではなくクイーンもキングも知る由もないだろう。
まさか自身の下した判断で、過去の自分が悩み苦しみ傷つき追い詰められるとは考えが及ばなかっただろう。

「あたしたち二人が、面倒見なきゃ、いけないの、かな?」
「二人の子供だし、俺たちに懐いているし」
「ちびうさはね、まもちゃんの事、好きなんだよ!」
「まだ小さい子供だ。それに、未来の俺たちの子供でもある」

まだちびうさが何者か分からない頃もうさぎは同じ事を衛に言って困らせたことがあった。嫉妬から、感情任せに衛にうさぎが感じたままを伝えた。
しかし、今回ちびうさが未来の自分たちの子供であると判明したのに、うさぎはまだそれを繰り返す。

「そんなの関係ないよ。まもちゃんはずっと、ちびうさを守って来た。未来の父親って分かっていながら恋心を持ってもおかしくないわ」

ちびうさが現れてからというもの、衛が守るのはちびうさばかりになっていた。うさぎには仲間がいるから。まだ小さい体ながら敵に狙われ、命からがら逃げて来たちびうさはずっと一人。
天秤にかけることも無く、衛でなくともちびうさを助けるだろう。当たり前の事をしていただけだった。
だが、未来からたった一人で銀水晶を手に入れるためだけに敵に追われながら過去に来たちびうさにとっては、守ってくれる衛は姫を守る騎士の様に見え、過去の父親と分かりながらも恋心を抱いてもおかしなことでは無い。
何も分からず戦っていた頃のうさぎも同じだったからこそよく分かる。
ここ最近の二人を、特にちびうさを見ると衛といると本当に嬉しそうないい笑顔をする。それを見ると、二人の中に入り込めない何かがあると感じてしまう。恋人はうさぎであるのにーー。

「それに、ちびうさは子供じゃないよ!」
「どう見ても子供じゃないか?小学校にも通っている」
「うん、見た目はね?でも、ちびうさはもう900歳の立派過ぎる大人だった。見た目に騙されちゃ、ダメ!」

衛はうさぎの言葉に絶句した。忘れていた訳では無いが、そうだ。ちびうさの実年齢は900歳だと未来の自分であるキングからそう教えられた。ある時から成長が止まったままだと。

「あたし達より歳上だし、長く生きているんだよ」

見た目は子供。成長出来ずにいるが、うさぎ達より立派な大人だとうさぎは主張する。
今まで見てきたちびうさは確かにその見た目と同じ精神年齢だった。900年、見た目も中身も変わらず、成長出来なかったのか?何故だ?
しかし、それでも恋をする事だけは立派に成熟した大人だ。男を見る目だけは持っている。だからこそ余計にうさぎは危機感を示した。
対して衛は、見た目と未来の子供と言うフィルターがかかっていてまるで他人事。全く気にしていない。楽観的だ。そこがうさぎには歯がゆかった。

「言われてみれば……」

衛はうさぎに言われて初めてちびうさの見た目と年齢に気づき、向き合った。
ちびうさは900歳。うさぎは14歳。そして衛は17歳。うさぎよりも衛よりも全然歳上。
一人前に恋をする成熟さは持ち合わせているのに、それでもなおまだ成長出来ないちびうさ。
うさぎの言う通り、守る必要はあるのだろうか?
可愛い子には旅をさせよと言うが、遠くから見守る事も必要なのでは無いのか?

「まもちゃんは、覚えてないけれど……」

考え逡巡していると、うさぎは更に話を続けた。

「ブラックムーンの手に堕ちたまもちゃんは、成長したちびうさに操られてあたしの目の前で二人はキス、したの」

うさぎにとってとても辛く、堪える出来事だった。
囚われた自分を取り返しに来ることも、待つことも無く、消息を絶ったちびうさを探す事を選んだ衛。それだけでも充分にショックだったが、その後ちびうさがブラックムーンの手に堕ち、成長した姿はうさぎよりも美しく、妖艶で色気があった。
そんなちびうさによって敵の手に落ちてしまった衛は、うさぎの目の前でちびうさにキスをした。洗脳されている。それは分かっていてもうさぎにとって傷つくには充分過ぎるくらい心をえぐり、折っていった。
奇しくもこの出来事が、うさぎの女としての勘を確信づけるものとなった。

ーーーやはりちびうさは、衛の事を異性としてちゃんと恋をしているのだ、と。

そこに衛の意思はなかったとしても、うさぎは深く傷ついた。

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