月に願いを


「月に願いを」

「部分月食楽しみ~」

そう話すのは衛の家へやって来たうさぎとちびうさだ。ベランダへ出てスタンバイしている。
家主の衛はそんな2人を微笑ましくも複雑な表情で見つめていた。

「皆既日食以来の天体ショーだもんね」
「そう、でもあの時は色々あって楽しめ無かったし……。実質、初めての天体ショーなんだよね」

そう話すちびうさはどこか寂しそうで、少し大人に見えた。

「ちびうさは天体ショー、初めてなのか?」
「うん、未来ではそんなの無いよ」
「どうして?こんなに星がいっぱいなのに……」

未来で天体ショーがないと言う事実に、うさぎは絶句する。こんな素敵なイベントが無いなんて一体どうしてなんだろうと色々不安を覚える。
まさか、また星々を巡る戦いがあるのだろうか?
ブラックムーンは完全に未来での話だから、有り得なくはないと衛とうさぎは深読みし始めた。
しかし、そんな不安な2人を他所にちびうさは意外な言葉を投げかける。

「未来では月が地球に近い所にあるから、そんなの無いのよ」
「え?」
「そう言えば、30世紀へ行った時月が近くにあったな。何故近づいたんだ?」
「言われてみればとても近かったな……何で?」
「さぁ?それは2人がよく知ってるんじゃない?」

そう言って意味深にニヤリと微笑む。

「私たちが疑問に思って聞いてるのに!」
「俺たち自身がさっぱり見当もつかない。教えてくれ、ちびうさ」

自分達に原因がある様に言われてもさっぱり見当もつかない。未来の話だから余計だ。

「私はここに来るまで月と地球が近い事が当たり前の事として生まれた時から思ってたんだ。だけど、こっちに来てそれは間違いだって気づいたんだよね」

ちびうさは未来での事全てがずっと常識であると思い込んでいた。しかし、過去へと来た事で価値観全てをひっくり返されたと語り始めた。

「未来で月と地球が近いのは、パパとママが望んだ事なのかな?って、まもちゃんとうさぎを見て何となくそう思ったの」
「私たちの一存で月と地球が近づいたって事?」
「まぁあくまで私の考えだけどね?」
「そんな事が出来るのか?」
「まもちゃんのゴールデンクリスタルとうさぎのシルバークリスタルがあれば出来ないことじゃないと思うんだ」
「確かに、銀水晶は私の心次第だし、みんなが持つクリスタルもそれぞれの心次第でコントロール出来るんだわ!」

今更の事だったからうさぎ自身が目からウロコだった。
衛自身もうさぎからクリスタルについて色々教えて貰っていたが、その事について考えもしなかった。

「戴冠式みたいだったあの時みたいに、2人協力したら出来ない事じゃ無いなって見てて思ったよね」

ちびうさはあの戴冠式を間近で見て、地球と月が近づけることが可能だと漠然と考えた。

「でも、月と地球が近づかなくてもいいと思うけどな」

そんな事望んでないと主張するうさぎ。

「あくまでも私の考えだけど……」

更にちびうさは淡々と自分の意見を述べる。

「本当の戴冠式の時、意図せず2人のクリスタルが共鳴して近づいたのかなって。いつでも一緒って想いが接近するに至ったのかなって。2人のクリスタルってとっても強大だから」

ちびうさの考えを2人は静かに聞いて、考え込んだ。
前世では、会う事も愛し合う事も禁忌とされている中、限りある時の中で深く愛し合った。地球国の第一王子である衛の前世、エンディミオンは月に行く事は許されなかった。
それ故に、月に憧れが強かった。行けないことや、距離が、神の掟が。全てがもどかしく、歯がゆかった。

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