あなたに会いたくて


「もうすぐですね」

クイーンの側近のリーダーであるヴィーナスが、ふっくらしているお腹を見てそう呟いた。
ヴィーナスを筆頭にこの日、セーラー戦士一同はクイーンの玉座に呼ばれていた。もうすぐ産まれる王位継承者である娘の誕生を前に、人事の発表をすると呼び出されていた。

「そうね。楽しみだわ」

うふふっと笑いながらクイーンは自身のお腹を擦りながら微笑んだ。
クイーンとして即位して、最初の大仕事。後継者の誕生が、間近に迫っていた。
クイーンと呼ばれたその人は、つい最近までは普通の女性としてこの地球で暮らしていた。彼女もそれを望んでいたのだが、銀水晶がそれを許してはくれなかった。

普通の女性として暮らしたい。
そう願えば願う程、銀水晶の力が強大になって行き、止むを得ず覚悟を決めた。
そして、かつてセーラームーンとして未来を見て聞いた通り、22歳にしてクイーンとして覚醒。恋人である衛、仲間の四守護神に外部四人。嫌がること無く着いてきた。そして、衛の側近で四守護神の恋人である四天王も。

「もうすぐで会えるわね。ちびうさ」

お腹を擦りながら、クイーンはお腹の中の子のことを思い返していた。かつて30世紀から来た未来の娘、スモールレディの事を。

「楽しみだな」

キングもまた、クイーンのお腹に耳を当てながら昔の出来事を懐かしむように思い出していた。

「この日の為に、色々準備してきましたもんね」

未来から来たちびうさと呼ばれたお騒がせガール。彼女のお陰で色々焦ること無く産まれるまでの準備や心構えが出来ていた。
ちびうさの存在は、クイーンにとってかなり有難かった。と同時に、分かっている未来を作り上げる事に、不安と目新しさが無いことに不満を覚えてもいて。

「スモールレディの誕生、とっても楽しみですわん」
「この日を心待ちにしておりました、クイーン」
「側近として、子守り頑張るぜ!」
「待ち遠しい」

スモールレディ誕生の前に、セーラーカルテットが一足先にクリスタルパレスへと呼ばれていた。
30世紀では、1人だったスモールレディ。
しかし、それを見ていたうさぎ時代のクイーンはそれを良しとしておらず、自分と同じ様に初めから側近がいれば。そう配慮して、未来より早く彼女達を任命した。

それは、かつて前世での事。産まれてからずっと傍には四守護神がいて。どんな時も共にすごしてきた。
それは、禁断の恋の相手である現夫の前世エンディミオンも同じで。四天王という心強い存在がいた。
生まれ変わっても、変わらず傍にいて支えてくれた。誰だって一人は寂しい。頼れる仲間がいて、強くなれる。それを誰よりも知っているクイーンは、産まれる前にかの達を任命し、召喚した。
自分たちがかつて見てきた未来とは、少し違う未来。不満を持っていたクイーンが未来に抗った結果、少し変わった未来。

「セーラーカルテットのみんな、この子をよろしくね」
「はい!」

クイーンの呼び掛けに、四重奏でハモって返事をして気を引きしめるカルテット。乙女を守る四人の戦士の誕生である。
皆、若くてフレッシュなだけあり、返事がとても元気だ。

「確か誕生はクイーンと同じ6月30日でしたわね?」
「ええ、そうよ。大変な一日になりそうよね」
「俺が着いているから大丈夫だ」

セレスの問いに、ヴィーナスが答えるとキングがそれを受け取った。クイーンにベッタリで、医師免許も持っているキングは、俺が全てやる!と妊娠が分かってからずっと婦人科系の勉強をしていた。

「他の奴には任せておけない!」

それがここ数ヶ月のキングの口癖。それを聞く度、ヴィーナスは深い溜息をつき、老けていく勢いだったとか、そうでは無いとか。

「私もお手伝い致しますわ」
「勿論、私だってサポートします」
「私も、僭越ながら全力でお手伝い致しますわ」

同じく医師を目指していたマーキュリー、看護師志望のサターン。かつてちびうさとほたるが通っていた小学校で養護教諭の経験があるプルートがサポートを買ってでていた。しかし。

「大丈夫だ。うさの事は俺が一番熟知している」

何故か自信満々に皆の申し出を断る始末。その行動に、全員が頭を抱える事になった。
側近戦士すら信用しないクイーン一筋のキングに呆れを通り越し、引いていた。

「一人では無理です!」

ちびうさを熟知していて、ヒーリング能力を持ち合わすサターンが何とか説得する形になり、渋々2人でスモールレディを取り上げることとなった。
これで、何があっても二人の命は失われずに済む。キングはクイーンを、サターンはスモールレディにヒーリング能力を使用する予定である。

「名前はスモールレディでOKですよね?」
「ええ、その予定よ。そう決まってるもの」
「やはりこの名に愛着があるしな。他に良い名も思いつかなかったし」
「カルテット達、相談に乗ってあげてね?」
「勿論ですわ」

クイーンに頼りにされ、俄然張り切るカルテット達。身が引き締まる思いだった。

「早く会いたいわね、ちびうさちゃんに」

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