Precious Time
そしてあっという間に日は過ぎて、運命の日の一つである6月30日になる。ーーそう、うさぎの誕生日だ。
来る日も来る日もテスト勉強で案外と充実していたのか、思いの外早くこの日を迎える事になった。
記念すべき衛と初めて過ごすはずだった1回の15歳の誕生日。
しかし、受験生にも関わらず酷い成績をたたき出した中間テストのせいで会うことが許されないまま当日を迎え、うさぎは意気消沈していた。
誕生日だけれど、こんなに全然嬉しくもない誕生日を迎えるなんて……と言う感じである。
一方のちびうさはうさぎと違い、朝からウキウキしていた。
「今日は放課後まもちゃんとデート♪」
あからさまなアピールに大人気なくイライラするうさぎ。
ただ、平日なのが幸いして夕方までは学校の為、会えない事を考える時間が減るのはありがたい事だった。
「あんた、まもちゃんに迷惑かけちゃダメよ?わがままとか言わないようにね!」
「うさぎじゃあるまいし、大丈夫よ♪」
余裕のないうさぎとは違い、ちびうさは余裕綽々だ。
「2人とも、喧嘩してないでサッサと朝食食べて学校行きなさい!」
起きて制服と私服に着替えてダイニングで言い争っていると育子ママに怒られる。
その鶴の一声で2人は大人しく朝食を食べて学校へと向かっていった。
学校へ行くと親友のなるを筆頭に次々祝いの言葉を言いに来てくれる。勿論、亜美とまことの2人も。
亜美からは受験に役立つ問題集を特上の笑顔でプレゼントされた。
レイの時にもあげていたから嫌な予感はしていたが、やはりだった。
この調子で美奈子とまこともプレゼントは問題集なんだろうと同情した。
学校があったから色んな人が祝ってくれ、プレゼントもみんなから貰い、帰る頃には両手いっぱいに抱える程の量になっていた。
有難いと思いながらもふと寂しくなる。
これだけプレゼントを貰いながらもやはり衛から当日に直接貰えないことに悲しくなる。
やはりちゃんと当日に会って直接祝って欲しかったし、プレゼントも衛から欲しかったと思ってしまう。
でも中間テストの成績が尽く赤点オンパレードの酷い成績で、勉強せざるを得ない。
誕生日と期末テストが近いのも問題だ。
この分だと高校に行けても誕生日は期末テストの何日か前って結果になって勉強に追われる羽目になるのだろうと絶望した。
そんなどうする事も出来ない事を思いながら家へと帰宅すして大人しく机に向かい、大人しく勉強する事にした。
いつものちびうさの騒がしい声が聞こえてこないことに気づき、衛の家にもう行ったことが伺え、うさぎはまた凹む。
今頃は衛とデートか……本来ならばそれは私がするはずだったのに、と悔しさが滲み違うと思いながらもちびうさを恨みたくなる。
「うさぎ~ご飯よ~」
悔しい思いを抱えつつも、その思いを振り払う様に一心不乱に勉強していると夕飯が出来たようで育子ママに呼ばれる。
リビングへと降りていくとちびうさはいないが、父親と弟が既に座って待っていた。
「うさぎ、誕生日おめでとう!」
「バカ姉貴も15歳か~もっと年相応に落ち着いて欲しいよ」
「進悟、アンタって子はもっと可愛げのあることが言えないの?お姉ちゃんを敬いなさい!」
「敬いたいのは山々だけど、頭と言動が伴って無いんだよなぁ……彼氏に愛想つかされないようにしろよ?」
「余計なお世話ですよーだ!」
「2人とも、それくらいにして食べましょう。うさぎ誕生日バージョンで腕によりをかけたから豪華よ!」
15歳なんて別に特別ではないけれど、母親にしてみれば多分これが家族最後でうさぎの誕生日を祝える最後だと言う思いがあり、ついつい作りすぎてしまった。
今年の誕生日ももしかすると祝えなかったかもしれない。
綺麗な水晶をペンダントにして貰ったあの日、今にもいなくなるのではないか?と不安に思っていた。
だからこそ母親にとってはうさぎとの時間は貴重だった。
心を鬼にして期末テストまで娯楽禁止で勉強させたのだ。成績が悪いうさぎのおツムのお陰でもある。
ピザやサラダ、ハンバーグにグラタン、そして極めつけは得意のレモンパイがある。
勿論、ケーキも用意してある。
ここ最近頑張って勉強しているうさぎの為、昼からずっと準備していた。
「いただきます♪」
「召し上がれ。うさぎ、お誕生日おめでとう」
「ありがとう、ママ♪」
作りすぎたかと思ったが、流石育ち盛りの大食い娘、勉強でエネルギーを使ってる事も相まってか、取り分けられてる分全て完食する。
「ぷはぁ~美味しかった♪満腹満足!ご馳走様でした」
完食して満足したうさぎは思い足取りで部屋に向かい、勉強を再開する。
「ただいま~」
暫くするとちびうさが帰って来る。
勢い良く階段を駆け上がり、一目散に2階へと上がるとうさぎのドアをノックもせずに勢い良く入って来る。
「うっさぎぃ~お誕生日おめでとう♪これ、まもちゃんと私からのプレゼントよ♪」
注意する暇もなく、間髪入れずにちびうさが言葉を発する。
祝いの言葉とプレゼントに怒る気力もなくなるうさぎ。
「あ、りがと……」
「どういたしまして♪選んだのは私、買ったのはまもちゃんよ!送って貰ってまだ家の前にいるから、直接お礼言ってきたら?」
「で、でも……」
衛に会いたいが、勉強する様言われている為迷いながら部屋にいるルナをチラッと見る。
「仕方ないわね!今日まで頑張って来たからご褒美に少しだけ許してあげるわよ!」
「ありがとう、ルナ!大好き」
「但し、ママの許しがあればね?」
「ママの許し、貰ってくるわ!」
ちびうさから渡されたプレゼントを持って慌ててリビングへと降りていくと育子ママはいなかった。
「パパ、ママは?」
「衛君と喋ってるみたいだぞ」
「そっか、ありがとう、パパ!」
慌てて外に出ると育子ママと衛が喋っている姿が映る。どうやらちびうさを送ってくれたお礼とうさぎと会えなくしてしまったことを謝っているようだった。
「ママ!まもちゃん!」
2人を呼びながら近づく。
「うさ!」
「あら、うさぎ、出てきたの?」
「一言お礼、言いたくて……」
そう言いながらうさぎは育子ママの方をチラッと見ると育子ママはうさぎに近づいてきた。
「夜ももう遅いから少しだけなら良いわよ。余り遅くなっちゃダメよ?」
「ママ、ありがとう!」
「ママだって鬼じゃないわよ?誕生日に彼氏と一緒に過ごしたいって乙女心、分かるわよ♪うふふ」
そう言って育子ママは家の中へと入っていった。
許しを得たうさぎは勢い良く衛の胸の中へとダイブし、ギュッと抱きしめた。
衛も負けじとうさぎを抱きしめ返す。
公園で会った以来の久々の抱擁に2人は人目もはばからず熱く抱きしめ合った。
「まもちゃん……会いたかったよぉ」
そう言って我慢していた分、涙がこぼれた。
「俺も会いたかった」
きつく抱きしめあっていた身体を離し、月野家を離れる為、恋人繋ぎをして公園へと移動した。