Precious Time


毎日平日は学校へ行き授業を受ける。
そして学校が終わればどこにも寄らず全く家に帰る。
帰って寝るまで期末テストの勉強。
合間に夕飯と衛との通信。
これがうさぎのルーティーンとなっていた。
しかし、いくら毎日衛と通信機で顔を見て話しているからと言ってもそれだけでは足りない。
会いたい気持ちが募っていく。
だが、学校が終わる時間になるとルナが毎日迎えに来て衛と会うことが叶わない。
目を離した隙にうさぎはきっと寄り道したり、衛と会うだろうと読んでいたルナが散歩がてら学校まで迎えに来るのである。
つまり、放課後から寝るまではルナの厳しい監視下にある。わかってた結果とは言え息が詰まる。

毎週土曜日は亜美主催の受験勉強をまことの家で5人で朝から夕方までする事になっている。
そして日曜日は海野主催で海野宅でなる達5人で勉強会。
そんな鬼スケジュールで衛と会う時間が無い。
衛は頭がいいからちびうさと同じ様に教えてもらいたいとルナに申し出たものの結局健全な勉強など出来ずろくな方向にしか行かないと却下されたのだ。なんて世知辛い世の中だとうさぎは呪った。

衛と会えないストレスレベルがピークを達したうさぎはいつもの正門とは違い、裏門から出てルナの包囲網をかいくぐり、寄り道をしようと試みた。
違う裏門から出ていつもと違う道を通って帰るという作戦は甲を制し、ルナに会うことなくうさぎは一ノ橋公園へと向かう。
きっとルナは正門で待っているだろうと良心が傷んだが、衛と少しでも会いたい一心だった。
とは言え会う約束はしてはいない為、会えないかもしれない事は承知の上だった。
ただ、遊びを禁じられる前は学校の行き帰りは毎日必ず衛と一ノ橋公園で会うと言う暗黙の了解をしていた。
ここが良くも悪くも2人には思い出深い場所だった。会えなくとも思い出に浸りノスタルジックな気分になりたかった。

いるわけが無いと思いつつ公園に到着したうさぎは周りを見渡すが、やはり衛はいなかった。

「ガッカリするな、うさぎ!分かってた事じゃない!」

自分自身に喝を入れつつ、お互いの物をトレードしようと約束したベンチに腰かける。
今日はトレード品の懐中時計は残念ながら持ってきてはいない。
勢いでここに来たから仕方が無いが、手持ち無沙汰に寂しくなる。
ルナに怒られるのが目に見えてわかるので、後10分程勉強して待ってみようと思い、教科書を鞄から取り出す。
梅雨の合間の快晴でとても気持ちがいい日だった為、気分転換にもなった。
青空の下での勉強も悪くないと思いながらもやはりこんな日は思いっきり遊びたいとも思っていた。成績が悪いゆえ、不自由な生活になった事をまた激しく呪う。

「うさ?」

教科書と睨めっこしていたら会いたくて仕方ない愛しい人の声で愛称を呼ばれ、うさぎはハッとした。
(嘘?でもまさか?そんな……)と遠藤として戻って来た時と同じ様に同様する。
呼ばれた方向に顔を上げて確認する。

「……まもちゃん!どう、して?」
「うさの方こそ、何でここにいるんだ?」

2人とも訳が分からないと言った様子で驚いている。
確かにここはいつも放課後に待ち合わせている場所ではあるが、遊び禁止令が出てからはそれも無しにしていた。

「じゃあ、俺はここで」
「あ、ああ、浅沼、ありがとな!」
「久しぶりのうさぎ先輩、堪能して下さい!」
「浅沼くん、ごめんね?ありがとう!」
「全然!邪魔者は帰るので遠慮なくラブラブして下さい」

衛と一緒にいた浅沼は気を利かせて慌てて帰って行った。
うさぎと会えなくなってから衛は可愛がってる後輩の浅沼と一緒に帰ることが多くなっていた。勿論、衛先輩大好き芸人の浅沼は喜んで引き受けてくれていた。

「まもちゃん!」

浅沼がその場から離れた途端うさぎは、泣きながら衛の胸にダイブして来た。それを衛はキツく抱きとめる。

「会いたかった!会いたかったよぉ……」
「俺も会いたかった」

何週間か振りの再会と抱擁だった。

衛もまた会いたくて、来ないと分かりきってはいたものの日課で公園に毎日寄り道しては少しうさぎを待っていた。
だけど、やはり毎日うさぎは現れない為、そろそろ来るのをよそうかと思っていた矢先の事だった。
一人で待つのは寂しくて事情を話して浅沼に付き合って貰っていた。うさぎと同じで長くは待たず帰っていた。早く帰らないとちびうさがやってくるからだ。

うさぎが泣き止むまで衛はずっと抱きしめていた。久しぶりのうさぎの感触に、浅沼の言う通り堪能していた。
そしてまた期末テストが終わるまで会えない事が確定している為、今のうちにうさチャージをしておきたかった。

「どうしてまもちゃんここに来たの?」

泣き止んだうさぎは顔を上げて先程の問いを聞いてきた。

「会えないって分かっててももしかしたらって足がここに向かうんだよな。通り道でもあるし、来ないのも違うかと思ってな。うさは?ルナの監視が厳しいんじゃなかったのか?」
「私もまもちゃんに会いたくていつもと違う道を通ってここに来たの。……ルナには後で怒られると思うけど、限界でした」
「そっか……じゃあ今日は通信機での連絡は止めた方がいいか?それとも俺も一緒に怒られるべきか?」
「ありがとう、まもちゃん。優しいね!だけど、私が勝手に来たんだもん!1人で怒られるよ……」

怒られるのは慣れているから、とうさぎはバツが悪そうに言いながら笑顔で断ってきた。その笑顔がとても眩しかった。
久しぶりのうさぎの笑顔に癒されてホッとする。
このままずっと一緒にいたい。時が止まればいいのに。2人とも同じ気持ちだった。
まるで出会ってお互いの正体を明かしたあの時のような、ドキドキとしてときめいていた。

「何か変な気持ちだね?通信機で毎日顔みてるのに、久しぶりに会うからドキドキしちゃう」
「俺もヤバい!帰したくない……」

そうは言っても今のうさぎは期末テストを突破する為、少しの時間も惜しんで勉強しなければ行けない。
そして衛の家にはそろそろちびうさがやってくる。
2人に残された時間は決して多くはない。

「あたしも……帰りたくない!ずっと一緒にいたいよぉ……」

久しぶりの再会にもかかわらず少しの時間しか過ごせないことにやるせなさを感じ、またうさぎは泣き出してしまった。
とめどなく流れる涙を衛は指で優しく拭う。

「途中まで送って行くよ」

少しでも長く過ごしたかった。
そして元気になって笑顔で帰って欲しかった。
衛の申し出にたちまち泣きやみ、笑顔に戻るうさぎ。

「うん!ありがとう、まもちゃん♪」

お互いの手を絡め、公園を後にする2人。
うさぎの家に近づく事はまた当分会えなくなる事を安易に示している為、2人とも足取りはかなり重い。
しかし、それでもうさぎの家に近づく為、名残惜しいがそこでさよならをする事にした。

「送ってくれてありがとう♪じゃあね、まもちゃん!」
「ああ、今日は連絡はしないけど、勉強、頑張れよ!夏休みも会いたいからさ」

惜しみつつもうさぎは家へと向かう事にして踵を返す。
それを学校の正門で待てど暮らせど出てこないうさぎに逃げられたのでは?と探していたルナに見られていた。

「ちょっと!あんた達、なぁにやってんの?」

最初からマジ切れでまくし立ててくるルナに2人はたじろぐ。

「これは一体どういうこと?何で2人が一緒にいるの?」
「ごめんなさい、ルナ!」
「すまない、ルナ」

素直に頭を低く下げて謝る2人を見てルナは怒る気力を少し奪われる。

「ま、まぁ少し厳しくしすぎたかしらね?うさぎちゃんも頑張ってたし……」
「ルナ、ありがとう!大好き♪期末テストまで頑張るわ!」
「ルナ、ありがとな!期末テスト終わるまで会うの我慢するよ」
「私だって鬼じゃないわよ?これでうさぎちゃんが頑張って勉強してくれるなら文句はないわ」
「するわ!あと10日、頑張るぞ~!」
「じゃあ勉強する為に帰りましょう」

そう言ってルナは衛にペコりと少し頭を垂れて会釈するとうさぎの肩に乗り、家へと帰るよう促した。

「じゃあまもちゃん、期末テスト終了した日にね」

左手を上げ、大きく手を振り笑顔で家へと帰って行った。それを少し寂しい気持ちで見送り、衛も家へと帰って行った。

いつもより少し遅く帰宅すると育子ママが腕を組んで待っていた。少しばかり怒っているようだ。

「おかえり、うさぎ。ここ最近では遅い帰宅ね?」
「えへへぇ~ごめんなさい!梅雨の合間の快晴が気持ち良くて少し気分転換してきちゃった。公園で少しだけ勉強してきたから許して!お願いママ」
「仕方ないわねぇ……また頑張って勉強しなさいよ?」
「はーい♪」

ここ最近頑張っている所を見ていたからだろうか?ルナも育子ママも多目に見てくれてホッとしたうさぎは部屋へと向かい、部屋着に着替えるとまた勉強を始めた。
衛と会ったことによりうさぎの士気は上がり、それから毎日寄り道もせず勉強に励んだ。

4/7ページ
スキ