Precious Time


翌日、いつもの様に学校に登校したうさぎ。
亜美やまことに昨日の出来事を話しながらため息混じりに嘆いた。

「私達は受験生なんだから、勉強するのは当然よ!期末までと言わず、受験が終わるまでやるべきね!」

勉強の鬼である亜美はうさぎの状況に同情など全くしなかった。それどころか育子ママより恐ろしい事を言ってくる。

「両親がいると色々言われて大変そうだな。受験勉強しなきゃいけないのは分かるけど、新たな敵や新戦士とか現れて、正直それどころじゃないよな?」

勉強嫌いなまことはうさぎの置かれた状況に同情してくれる。成績が悪いのも戦士として頑張っているから仕方ない事もフォローしてくれる優しさでうさぎはホッとした。

「そーだよね!私達、勉強どころじゃなかったよね?成績悪いのは私達が悪いわけじゃないわ!次から次に襲ってくる敵のせいよ!」

強い味方を得たうさぎは浮上して意気揚々と戦士として頑張っている事を主張する。
しかし、そうは問屋が卸さなかった。

「それはね、現実逃避と言う名の甘えよ?敵は私達の私生活なんて知らないし、先生や家族だって私達が置かれてる状況なんか分からない。時間を見つけてやればいいだけなんだから」

ド正論で畳み掛けてくる亜美にうさぎもまことも何も言えなくなる。

「いい機会だわ!週一回勉強会しましょう♪分からない所は私がみっちり教えてあげるわ!」

何も言えなくなっている2人を他所にボルテージが上がった亜美は週一回の勉強会を提案してくる始末。
追い討ちをかけるその言葉に更にうさぎは落ち込む。衛と会える日が益々減る事が暗に示された形だからだ。当然と言えば当然だが、寂しい。
しかし、勉強の鬼の亜美に泣き言を言っても通用しない事が分かっているため、受け入れる事にした。

そしてトドメはなると海野、ゆみとくりだ。
昨日の出来事を話すと4人に大爆笑される始末。それだけならまだしも海野からとんでもない提案がなされた。

「受験勉強兼ねてテスト勉強みんなでしましょう♪期末テストのヤマ、かけてあげますよ?」

有難い申し出だが、海野より衛に教えてもらいたいと思っていたうさぎは断ろうとした。

「いいわねぇ~♪すっごい助かる!」
「めっちゃありがたい!」
「ラッキー」

うさぎの思いとは裏腹に3人はノリノリで提案に乗ったのだ。

「私、亜美ちゃん達とも勉強会するんだけど……」
「じゃあその日とかぶらなきゃいいって事よね?」

それはそうなのだが、そういう事でも無くてなるべく回避したい方向だった。

「そうよ、うさぎの為の勉強会よ!」
「うさぎがいなくてどうするの!!」

なるを筆頭にゆみもくりも捲し立てて勉強会参加要請を出してくる。
みんなうさぎを心配している事が伝わるが、余計なお世話である。
しかし、申し出を無碍に断る訳にも行かず、押し切られた形で週一回の勉強会を渋々承知することにした。


全ては自分の成績が悪い事、そして何より自分の為であることは頭では充分すぎるくらい理解していた。しかし、心は別だった。
衛と付き合って初めての誕生日を過ごす予定だった。
とても楽しみにしていたのに、いきなり潰えてしまい悲しかった。
“仕方ない”の一言ではとても済ませられないくらい気持ちが落ち込む。
それでも何とか期末テストを目標に放課後は真っ直ぐ家へ帰り、寝る時間まで集中力が続く限り勉強した。
毎日通信機で衛から激励の連絡が来る事がうさぎが頑張れる最大の理由だった。

「うさ、頑張ってるか?」

通信機はラブラブするためでは無いとルナからお叱りを貰ったが、“衛から連絡を入れる事、うさぎからは絶対連絡を入れない事、最長10分まで”この3つを約束する事で承諾を勝ち取った。
そして専ら連絡が入るのは決まって夜遅く、22時を回ってからだった。
邪魔では無い時間帯にと衛が気を使った結果だった。

「まもちゃんと会えなくて心が折れそうだよぅ……」
「俺もうさに会えなくて寂しいよ」
「ちびうさが毎日押しかけてるんだよね?ごめんね、邪魔して」
「いや、お陰で楽しいよ!ちびうさなりに俺たちに気を使ってくれてるんじゃないかな?」
「私には嫌味にしか映らないけど……」

ちびうさ的には滅多にないチャンスに衛との仲を深めたい一心だった。
けれど衛にうさぎ以外の悪い虫が寄ってこないようにと言う目的も実はあった。
衛は顔も良く、頭もいい。そしてそこに加えて色気も半端ではない。挙句に優しいときたもんだ。女性に兎に角モテまくる。美女が放っておかない。
当の衛はうさぎしか見えていないのが現状で、他の女の人には丸で興味はない。
うさぎと会えない間に付け込まれ、ほかの女になびかないようにとちびうさなりの牽制方法だった。
衛の事は大好きだが未来の父親である為、不本意ではあるが未来の母親であるうさぎ以外の女性とくっつかれるのはやはり面白いものでは無い。何より2人が結婚してくれないと産まれない。それがちびうさにとって何より怖かった。
そしてうさぎの方にも邪魔して気が散らないようにと配慮していた。遠回しで不器用だが、ちびうさなりにうさぎの受験勉強を応援していた。
勘のいい衛には伝わっている部分もあったが、鈍いうさぎにはさっぱり伝わっておらずただただ衛を独占するお邪魔ちびでしかなかった。

「まぁそう言ってやるなよ。アイツも両親と離れて暮らしてるんだ、こうやって通信機ですぐに連絡取れる俺らとは違って中々難しいんだし」
「……まもちゃんがそーゆーなら仕方ないわね。だけど、邪魔だったら遠慮なく追い返していいからね!まもちゃんちびうさに甘いからさ……」
「そんな事ないぜ?ちびうさ、うちで大人しく宿題して分からない所俺に聞いてくるんだ」
「へぇー私と違ってちびうさは勉強熱心で偉いわね!」

うさぎは進んで勉強しない自分に対しての皮肉だと思った。衛の血を引いてるだけあり、勉強は苦ではないらしい。伊達に満点はとってない。
差を見せつけられてまたうさぎは凹んでため息をついてしまう。

「うさはうさのペースで頑張れ!俺はうさは出来る子だって信じてる」
「うん、頑張る!」

衛に励まされ、単純なうさぎはすぐに浮上し、いい点を取れるよう頑張って勉強しようと改めて誓いを立て、そこでこの日の通信を終えた。

「じゃあ、うさ、おやすみ」
「おやすみなさい、まもちゃん」

名残惜しいが時間が限られているため仕方が無い。
育子ママから怒られた日からルナはサボったり寝たりするのを厳しい目で監視する役目を独自で担っている。その為、息抜きも出来ない。そして衛との通信時間も誤魔化せない。

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