ピンクムーンに思いを馳せて
ちびうさはもう来ない。
分かってはいても寂しく思ううさぎ。
ああは言ってはいたが、その内またひょっこりとちょくちょく息抜きに来るのでは無いかと思っていただけに、あれ以来全く姿を現さなくなったちびうさにまた会いたいと思ってしまう。
「会いたいか?」
「会いたい。けど“三十世紀で待ってるね”って約束したから…。それに、素敵なレディになるのがちびうさの夢だもん。応援してあげなきゃ」
「大人になったな、うさ」
「うふふっ照れるなぁ。まもちゃんとちびうさのお陰かな?」
そう、うさぎにとってちびうさは未来の娘、過去の若かりし頃の母親とは違う絆を築き上げてきた。
ちびうさの存在がうさぎ自身を大きく成長させてくれたと感じていた。
ちびうさがいなければ、きっと数々襲い来る敵に強く立ち向かっていけなかったかもしれない。心が折れていたかもしれない。
うさぎの弱い気持ちにちびうさの存在はとても大きかった。
最初こそ最終手段として切羽詰まって過去(こっち)へと1人やって来て、生意気で、でも寂しがり屋だったちびうさ。
でも本当は誰より頭が良くて思いやりがあって、責任感の強い子だった。
そんなちびうさの性格を誰より理解している未来のうさぎであるネオクイーンセレニティだからこそ、過去(こちら)の世界で修行させようと考えたのだろう。
過去の自分たちになら任せても大丈夫と思って預けてくれたに違いない。
それにすぐに弱音を吐き、逃げ出したくなる弱い性格のうさぎを十分に分かりきっているからこそちびうさを送り込むことで鼓舞し、心を折れず強く戦えるようにちびうさを送り込んだのかもしれない。
衛がいつも傍にいてくれる事も勿論とても支えになり、強くなれた。
だけどうさぎにとってはちびうさの存在もかなり大きかった。
戦いの時はヴィーナス達と同じくらい頼りになった。
普段は生意気で衛とのデートの邪魔をしたり、成績が悪いとバカにして憎たらしい所もいっぱいあったけど、うさぎにとってはどれもかけがえのない楽しい想い出だった。
自分のエゴで未来に帰り、素敵なレディになる為に日々頑張っているちびうさの意志に背き、簡単に会いたいなんて言えるわけがなかった。
ブラックムーンでの戦いの時に未来のプルートから預かり、ここに転生してきたせつなに返そうとしたけど、持っておいてとそのまま持っている時空の鍵でこちらから会いに行けなくはないけど、敢えてそれはずっとせずにいた。
信頼してくれたプルートにも悪いし、何より未来の女王である自分自身がまたタブーを犯す訳にはいかなかった。
前世とは違い、うさぎは色んな強敵と戦っていく中で大きく成長し大分大人になっていた。
☆☆☆☆☆
「でも、妬けるなぁ……」
「え?どうして?」
「うさが俺じゃない奴のこと、考えてるから!」
「わぁ、ごめんなさい。まもちゃんのこともちゃんと考えてるよ?ありがとね、まもちゃん!」
「サンキュー、何か言わせたみたいですまないな」
ちびうさの事ばかり考えているうさぎについつい意地悪したくなり、ちびうさに嫉妬する衛。
例え想い人がちびうさでも傍にいる自分の事を考えてくれていないと不安になる。
うさぎの事となると途端に余裕が無くなり、衛の方が子供に返ってしまう。うさぎの方が大人だ。
「ちびうさにまた会えるかな?」
「必ず会えるさ、俺たちの娘だもん」
「本当に色んなことがあったなぁ……。ジェットコースターに乗ってるみたいに早かったなぁ~。まだ夢見心地だよ」
「夢じゃないよ。あっという間にやってくる未来の話さ」
「そうだね。その時までもっと成長してないとちびうさに怒られちゃうね」
「ちびうさに恥じないように強くならないとな!」
未来の娘、ちびうさに会えるその日に想いを巡らせ約束を誓い合った2人はお互いに顔を向かい合う。
良い雰囲気になり、どちらからともなく顔を近づけ口付けを交わそうとしたその時、うさぎはふと思い出す。
「前もこんなやり取りしてたらまた空からちびうさが降ってきたんだよね……まさか?」
「いや、まさか、そんな…2度も3度もないだろ?第一、ここは公園じゃなくてマンションだし」
「……だよね?そんな何回もあるわけないよね!もう首痛めるのは真っ平御免だよ…うぅぅぅ」
痛かった時の記憶がフラッシュバックしたうさぎは首を撫でながら上から落ちてこないかと見上げたり、周りをキョロキョロと見回して何度も注意深く確認していた。
「あはは、うさ、流石に大丈夫みたいだぞ」
「はぁー、良かった♪本当、軽くトラウマなんだよね…。会いたかったけど、変な登場の仕方されるとね…」
流石に懲り懲りだと思ううさぎだが、来ない事が確認できた為、また衛と顔を見合わせ、キスをする。
幸せな一時が2人をつつみ、流れていく。
ちびうさに会える未来はそう遠くは無さそうだ。
END
2021.04.29
ピンクムーン(遅刻気味www)