過去への想いと未来への誓い
「お母様、私、知らなかった。私の誕生祝いの席で、呪いにかけられたこと……前世が私のせいで滅びる事になるって分かっていたのですね?」
「ネヘレニアも蘇ってしまっていたのですね。貴女に押し付けた形になって、本当にごめんなさいね」
「いいえ、元はと言えば私のせいだから。どんな結果になるかなんて考えずに恋に溺れてしまったから……浅はかだった」
「それは俺の責任でもある!セレニティ1人の問題じゃない」
「知っていて容認していたのはこの私。王国が滅んだのも全ては私の責任です。あなた方は関係ないわ」
“この王国はやがて滅びる。美しい王女は王国を継ぐことなく死ぬ”
それがネヘレニアが最期に残した言葉だった。
確かにその呪いのせいで王国が滅びた様に思える。
だけどあれは色んな偶然が重なった結果で。
ネヘレニアの呪いで滅んだ証明なんて出来ない。
「私自身もあの日の出来事はネヘレニアの封印と共に忘れたくて、いつしか記憶を封印してました。けれどあの日あの後、もし本当にセレニティが王国を継ぐことなく死ぬのならば……その最悪の事態には備えなければとセーラーサターンを任命しました。然るべき時に全て終わらせ、再生出来るように一任したの。もし王国が滅びてもいつかどこかでまた再興できるように。こんな事態になる事までは流石に想定していなかったけれど」
全てを見通していた訳では無いけど、どんな結果になってもいい様にと最悪に備えて措置を取っていた。
クイーンは凄い人だと改めて感じた。
「私はセレニティ、貴女の幸せを願って生きてきたの。だから貴女が地球に憧れ、恋をして大人になってくれたらとそう思っていたの」
「何も知らず、ごめんなさい、クイーン」
「いつしか私自身もあの日の記憶も封印してた。向き合ってこなかった私の責任。貴方は気に病むことは無いのですよ、セレニティ」
「でも……」
「貴女のせいではないわ、分かっています。もう何も言わないで、セレニティ。……辛い想いをしたのね。それが貴女をこんなに立派にしたのね」
ママは懺悔しようとしてたけど、クイーンは首を振りそれを制止した。
前世の事はクイーンである自分の責任。
かつて私が国を滅ぼしかけたこと、プルートを死なせてしまったことを懺悔したあの時のママのセリフを今度はクイーンがママにかけていた。
それ以上は聞き入れない。そんな凛とした佇まいで。
「四守護神たちも、呪いの言葉は関係なく貴女の心配をしてましたし、幸せを誰よりも願ってましたよ」
「禁断の恋だったから反対されたのだとネヘレニアの話を聞くまでずっと思っていました。ずっと、誤解してた……」
「セレニティ……」
「ママ……」
「貴女が恋をした事、その相手が地球国の王子であった事、私は悪いことでは無いと思っていましたよ。禁断の恋ではあったけど、運命を乗り越えてくれたらと思ってましたから」
「お母様……」
「クイーン……」
「クイーンは転生しなくて良かったのですか?」
図々しいとは思いつつ、心残りがなかったのか聞きたくなって口を挟んでしまった。
「そうね、考えてもなかったわ」
「そうだったんですね。でも、どうして?」
「月の王国を終わらせてしまったのと、私の役目は終わった。後は転生したセレニティ達にと未来を託したの。私は十分生きて役割も果たしたから。私の役目も終わって世代交代しないとと思っていたし、王国を終わらせてしまった女王として報いを受けないと。当然の結果ね。お陰でスモールレディにもこうして会えて、それだけで十分。幸せよ」
スッキリとしているのか、眩しい笑顔でそう優しく答えてくれた。
「ありがとう、セレニティ。愛する人と幸せになって女王となり、王国を再建してくれて。シルバーミレニアムを継いでくれて。きっと並大抵の覚悟ではなかったことだと思います。本当に私のわがままを聞いてくれて感謝します」
「お母様、私の方こそ色々と本当にありがとう」
「クイーン、私の方からもとても感謝してます。あの時、セレニティの、うさこのわがままを聞いて下さって」
「私は何もしていないわ。地球人として生まれ変わったんですもの当然よ。でも、セレニティがセーラームーンとして戦う事は想像していなかったから、最初に月に来た時は驚いてしまったけれど」
ママがセーラームーンになる事まではクイーンは願って無いみたいだった。
ならどうして戦士になったんだろうという疑問が残る。
だけど、こうしてクイーンの意志をちゃんと継いでくれている事がとても嬉しいみたいだった。
「それと毎年、こうしてここであの日の事を弔ってくれていることも。前世の事を、あの日の出来事から目を背けず向き合い続けてくれて、本当に感謝します」
「そんな、当然の事をしているだけです!あの日の事は私の浅はかさから起こした悲劇ですから」
「いえ、地球人を諭すことが出来ず攻めて滅ぼす引き金を引いたのは私の責任ですから。当然です」
「力及ばずだった私の責任だから、気に病まないで。向き合ってくれてるだけで感謝しているのだから」
「ありがとう、お母様」
「こちこそ、ありがとうございますクイーン」
私は何も言えないけれど、ただただ感謝のお辞儀をした。
「スモールレディ、王国を、そしてお父様やお母様をよろしくお願い致します」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」
私に王国やパパとママを託すと、クイーンは笑顔で消えていった。
きっと全てを話せて満足したんだと思う。
孫娘の私に会えた事も嬉しそうだった。
直接は血が繋がってないけれど、本当の家族だと思っていたクイーンに会えて私も嬉しかった。
ネヘレニアの記憶の中だけの人だったけれど、現実に会えてとても嬉しかった。
色んな事が聞けて、凄く充実した初めての月への訪問とお墓参りだった。
隣を見るとママは今までクイーンがいた場所を見つめながら静かに大粒の涙を声も出さずに泣いていた。
私の前では強く凛とした姿を決して崩さない強いママだけど、今はただただ昔の私がよく知る泣き虫な月野うさぎに戻っていた。
きっと今までクイーンとして緊張の糸を張り巡らせていたんだろう。
かつての母親を見て、色んな事を話して、きっとあの頃の少女に戻ったんだね。
お疲れ様、ママ。
「さて、そろそろ帰りましょうか?」
泣き止んだママに誘導され、私たちは地球へと帰路に着いた。
月に行って改めて思った事。
今この瞬間は決して当たり前じゃないって事。
あの日、多くの人が犠牲になり、色んな人の想いが形となり今がある。
当たり前じゃ無くて色んな偶然の積み重ねで成り立つ奇跡。
私がここに存在するるのも奇跡の積み重ねで。
パパとママが何度も出会って恋に落ちて愛を育んでくれたおかげで私はいるという事。
私はそんな過去や人達の分も幸せにならなければいけない。
ママからバトンを受け取り女王となったその時は王国が繁栄出来るよう精一杯務めたい。
もう絶やす事の無いように私もいつかエリオスとの子供が欲しいな、なんて。まだまだ先の話だけど。
今はまだ小さな私だけど、そんな壮大な未来を思い描いてもいいよね?
今の私は色んな人が紡いできた上に成り立つ未来へ繋がる希望の光。この軌跡を胸にこれからの未来を大切に生きていこうと決意した。そんな一日だった。
おわり