ピンクムーンに思いを馳せて


いつものように衛のマンションへと遊びに来ていたうさぎは、部屋の中から満月が見えるのに気づき、ベランダへと移動した。

「うわぁ~綺麗な満月だよ、まもちゃん♪」
「本当だな。4月の満月の事を“ピンクムーン”って呼ぶらしいぞ」

うさぎに呼ばれた衛もベランダへと移動し、うさぎの横で月を見上げ、月についての雑学を披露する。

「流石まもちゃん詳しいね!」
「ああ、まぁな」
「でもどうしてピンクムーンって呼ぶの?」
「ピンク色の花が咲き誇る時期に昇るからだと言われているらしい。4月だけじゃなくて12ヶ月全ての満月にその時期に因んだ由来の名称がつけられてるんだぜ!」
「そーなんだ!まもちゃん月に詳しい。何か妬けちゃう!」
「なぁに言ってんだよ!俺はうさしか見えてねぇよ!」

月に詳しいのは衛にとっては当たり前の話だった。
前世でエンディミオンだったあの頃、小さい頃から空を見上げては綺麗に光り輝く月を見て元気をもらっていた。
地球国の王子として息の詰まる毎日。
別にそれが当たり前で普通の日常だったから嫌と言うわけではなかったが、つまらない日々を送っていた中での癒しだった。
そしてこの地球で月の王女セレニティと出会い、恋に落ち、心を通わせる事になった。
結局神の掟に背いた天罰が下ってしまったのか、お互い王国を継ぐことなく、そして恋も成就出来ないままその生涯を終えることになってしまった。

そして奇跡的にも月の王女と地球国の王子として月野うさぎと地場衛として生まれ変わり、同じ地球(ほし)の同じ場所、同じタイミングで産まれ、出会い、またこうして普通の恋人として愛し合える。
そんな普通の幸せが衛にとってはとても有難く、かけがえのないものだった。

ただ一つ、うさぎはセーラームーン、衛はタキシード仮面として敵と戦う使命を背負っていた。
そしてセーラームーンは月を守護に持つ戦士。
エリオス曰く“月の光に守られたプリンセスにして戦士”だ。

前世でも現世(いま)もずっと衛は月も、勿論うさぎ自身も魅了されて止まない。
うさぎの事は勿論、自ずと月に詳しくなるのは当然の成り行きで当たり前の事だった。
衛の中では月を調べて詳しくなる事はイコールうさぎの事をもっと知る事に等しい。
月の雑学を披露して嫉妬されるとは思いもよらなかった。

「ピンクムーンかぁ…」

再び月を見て物憂げになるうさぎを見て衛は急に不安に駆られる。
竹取物語の様にうさぎもこの満月の月から迎えが来て本来の彼女のいるべき所へと帰ってしまうのではないかと、ふとそんな風に考えてしまった。
ダークキングダムとの戦いが終息した時、月でルナにキッパリと月で生きるのではなく地球で暮らす事を宣言していたのだからそれは無いのに、うさぎの事となると衛はどうしてもマイナス思考になってしまう。
月を見て物憂げになるうさぎがブラックムーンの時のように今にも消えそうに見えてしまい、月に吸い込まれないように慌てて後ろから思いっきり抱きしめる。

「月に、帰りたいか?」
「え?」

そして意を決してうさぎに聞いてみるととても不思議な顔をされ、衛の方が驚いでしまった。

「いや、今にも月に帰ってしまいそうに見えたから…」
「あっ!そっか?私、月の王国のプリンセスなんだった(笑)」

すっかり自分の前世が何者だったかを忘れていてうさぎらしいと思ったと同時に衛はホッとする。
取り越し苦労と言う事だろう。
では何故、月を見て物憂げに浸っていたのだろうと新たな疑問が湧いてきた。

「だったら何でそんなに悲しそうな顔してるんだ?」
「ん?ちびうさの事を考えてたんだ」
「ちびうさ?」
「そう、ピンクムーンって事は桜色のちびうさでしょ?」
「ああ、確かにそうだな」
「でしょ?ちびうさ、元気してるかな?」
「今頃は未来の俺たちに扱かれて忙しくしてるだろうな」
「そだね。エリオスともよろしくやってるかもしれないしね」
「ううーん、ん、まぁ、そうかもな」
「あれれぇ?まもちゃん焼きもち?」
「な、バカ!そんなんじゃねぇよ!」

うさぎは月を見て、ちびうさを思い出し、物思いにふけっていたのだった。
“うさぎ、三十世紀で待ってるね”
そう言ってコルドロンから蘇った時、未来に帰って行ったちびうさ。
文字通りそれ以来、本当にただの一度も過去(こっち)には来ていなかった。
衛が言ったようにうさぎと同じで近い将来、クイーンとなる身。
過去に来ている間に出来ていなかった公務や勉強の遅れを取り戻す為、必死に頑張っているのだろう。
頑張り屋で責任感が強い事をうさぎは誰より理解していた。

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