蚊取り線香TシャツSSログ


『その男、夏男につき』


朝方、ふと目が覚めると耳元で嫌な音が聞こえて来た。チラッと時計を見ると5時半を指し示していて。外を見ると、既に明るい。そして部屋の中は既に蒸し暑い。
どうやらもうそういう時期に差し掛かったらしい。

ーーーそう、耳元で嫌な音を出す正体。そいつの名はとてもシンプルで、目的もシンプルなものだった。
名を“蚊”と言い、兎に角飛んでいる時にこれでもか!と存在感をアピールして来る。

別に飛んでいるだけならまだ可愛らしいと思う。しかし、こいつの目的に皆、嫌悪感を示すのだ。俺自身もその1人だ。
ーーーこいつの目的とは、人の血を吸うこと。別に血を吸うなとも言わない。何なら、どうぞ貰ってくれ。くれてやるから。という感じだ。血の量だって少しだけで、我々の身体には害はない。

ああ、害はないのだ。だが、変化はある。
痒い!兎に角、痒い!気にし出したら止まらないほどに痒い。
一箇所だけでも痒いのに、数箇所刺してくる。これには流石に参る。じっと耐えるか、ムヒなどで抑えるかの二者択一。

幸い俺は、まだ噛まれてはいないらしい。
しかし、いると存在が分かった以上はもう寝てはいられない。

「もうそんな時期か……」

俺はそう一人、ごちりながらベッドから身体を起こし、クローゼットへと向かう。
夏服が入っているスペースへと手を伸ばし、Tシャツを探し出す。

「あった!また今年もコイツのお世話になるのか」

そう言いながら着たTシャツは“蚊取り線香柄”のものだ。夏を待たずに出番が来たそいつは、どこか誇らしげに見えた。

「今年もよろしくな!」

袖に手を通し、お世話になる相棒に挨拶をする。
コイツを着ると、不思議と蚊に刺されない。効果はあるらしい。
やはり日本の夏は“蚊取り線香”が最強なんだと思い知らされる。
これでこの夏も蚊除けが出来る。

「うん、良いな」

8月3日に生まれた夏男で、前世はこの地球の王子という華麗なる経歴を持つ。
そんな俺に、ア○ス製薬の蚊取り線香柄のTシャツがピッタリだと自分でも思う。
更にうさこに言わせると、「夏に俺と一緒にいると蚊に刺されなくて最高」なんだとか。

「頼りになるまもちゃん、大好き」

笑顔で喜んでくれるうさこの為にも、このTシャツはとても重宝している。
その内、タキシード仮面の技に“タキシード・蚊・スモーキング・アタック”なんてものもぶっぱなす力が備わりそうだ。




おわり

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