アル美奈SSログ
中国から帰国して一ヶ月を過ぎ、夏が終わり秋の気配がして来たある日のこと。突然美奈がこんな事を言い出した。
「ねえアルテミス、そろそろ新しいアイテム無いの?」
遠回しに言ってきているが、新しいアイテムを是非とも欲しいということだ。
ここのところ何も言わず大人しいと思っていたらこれだから、流石としか言いようが無い。
「俺たちの役目は一先ず終わったろ?」
中国に行き、そこでダンブライトであるエースを倒した事により、美奈はセーラーヴィーナスとして覚醒した。前世の記憶も無事に取り戻し、一先ず美奈を立派な戦士にした事により一旦俺たちの活動はピリオドを迎えた。
今は第二段階の途中で、恐らく近くにいるだろうプリンセスやルナ、マーズ達を探すために情報を集めているところだ。よって戦いはほとんど無い。休戦状態と言っても良い。
そんな休息の日々で新しいアイテムをねだって来るなんて、と俺は呆れる。
「次の戦いに向けてよ。これから本格化するだろうし、何ならプリンセスを守らなきゃでしょ!」
その為には新アイテムを貰い、強化したいんだと尤もらしい事を羅列する。
言わんとしていることは分かる。何の武器も持たずただ身一つで強敵に立ち向かうのは怖いだろう。
でもそれはこちらが事前に手配する事であり、戦士から言い出すものでは無い。
プリンセスやこの先の戦いの事を思い、新しいアイテムを欲しがるのは戦士として向上心があり、立派だと思う。尊重もしてやりたい。
しかし、結局はただものが欲しいだけなんだよな、美奈の場合は。
「言いたいことは分かる」
「じゃあ」
「本当に向上心からならな」
今までの傾向から、美奈はただの欲しがりなだけなんだよなぁ。
「向上心!知ってるでしょ?私がプリンセスにどれだけ忠誠心があったか!今までの軽いノリのアイドル戦士じゃないんだからね!」
真剣な顔で言ってきた。
前世でのヴィーナスは確かにプリンセスに人一倍忠誠心があって、過保護の傾向があった。プリンセスの為に強くなりたいとの想いは、ジュピターよりも群を抜いていて、いつも鍛錬を怠らなかった。
「まぁ、言われてみれば……」
確かに前世の記憶が無かった時と、記憶が戻ってからだと明らかに目の色や心構えが違うような気がする。
基本的に美奈は美奈だから相変わらずではあるけど。
「検討はしてみるよ」
「やったぁ~~~」
万歳をして大喜びをする美奈に、俺は大きなため息をつきながら頭を垂れた。
美奈の言う通り、前世の記憶を取り戻したからご褒美と言う訳では無いけどアイテムは検討していた。ボスと二人で話していたのだ。
秘密裏に開発していて、サプライズでプレゼントをする予定でいた。
しかし、本人から欲しいと言われるとあげたく無くなる。
***
そしてそこから数週間後の10月22日。司令室に美奈を呼び出した。
「こんな所に呼び出してどうしたのよ?」
「ああ、美奈が欲しがっていた新アイテムが出来たんだ」
「ええ、本当に新アイテム用意してくれたの?嬉しい♡」
新アイテムを美奈にそのまま渡す。
「美奈、前世の記憶を取り戻した事、そして誕生日おめでとう」
「ありがとう、アルテミス。これは?」
美奈に渡した新アイテムを見ると、不思議そうな顔で眺めていた。
「これはチェーンだ。きっと色々役に立つはずだ」
「ああ、これ、チェーンだったのね。確かに色々出来そう。人を拘束したり、叩いたり」
「美奈……」
何故変態プレイに使用しようとしてるんだ。先が思いやられる。
「あはは、じょーだんよ!」
「冗談には聞こえないんだよな……」
「色んな用途で使いこなせる様に頑張るわ!」
「是非、そうしてくれると有難い」
初めて手にした時はそんなおちゃらけた事を言っていた美奈だけど、その後は本当にチェーンを仕様して真剣に修行をしていた。
そして、戦士姿になると自分の身体の一部であるかの様に腰に巻き付ける程気に入り、ずっと身につけるほどだった。
おわり
20231022 愛野美奈子生誕祭2023