若木刑事と美奈子SSログ


誕生日であるこの日、美奈子は警視庁の桜田夏菜に呼び出された。
こんな大切な日に警察に行くなんてついてないと肩を落としながらも、もしも敵なら一大事だと思い渋々ながらも向かった。

トントントン

「美奈子でーす」

呼び出されるのはこれで何度目だろうか?
広い警視庁の建物の中でも、誰にも聞かずに夏菜がいる場所へと一目散に辿り着く。
ドアをノックして元気に、来たことをアピールする。

「開いてるわよ~」

こちらも元気な声で返ってきた。声の主は当然、夏菜である。

「お邪魔します」

夏菜の合図で美奈子が入室すると。

パンッパンッとクラッカーがなる音が部屋中に響き渡る。
美奈子に向けて鳴ったそれの中身の紐が身体中にまとわりつく。

「ハッピバースデー、美奈子ちゃん♡」
「お誕生日おめでとう、美奈子ちゃん」
「わぁ、ビックリしたぁ~。夏菜お姉様、それに若木様。ありがとう」

何と、呼び出された理由は美奈子の誕生日を祝う為だった様で、敵が現れて出動しなければならないと覚悟して来た美奈子は拍子抜けすると共に驚いた。

しかし、それにしても警視庁の一室でクラッカーを鳴らしても良いのだろうか?
聞く人が聞いたら銃声に聞こえなくもないが。

「ビックリしたでしょ?」
「敵が現れたのかと思ってましたよ~」
「ごめんなさいね。こんな所にわざわざ呼び出しちゃって」
「先輩はいつも強引なんですよ!僕は慣れましたけどね」
「ああ、若木。そんな事言っちゃって良いの?あの事バラすわよ?」

夏菜と若木の痴話喧嘩を見て美奈子は、やっぱりこの二人はお似合いだなと心の中で思っていた。
きっと二人が付き合うのは時間の問題だと感じた。

「あの事って?」
「美奈子ちゃんの誕生日を祝う企画を考えたのは若木、あんたでしょ?」
「ちょっ、内緒って言ったじゃないですか!」
「知らないわよ」
「わぁ、若木様が?美奈子、感激~♪」

そう、今回の美奈子誕生日企画を考えたのは夏菜では無く若木自身だった。
しかし、硬派である刑事の若木は行動に移すことが出来ず、夏菜の力を借りたのだ。

「ったくぅ、総監である私を使った罪は重いわよ。って私も美奈子ちゃんを祝いたかったから無罪放免にしといてあげるわよ」

夏菜自身も美奈子を祝いたいのは同じだった為、若木の提案に快く乗る形になった。

「そうそう、ここに呼んだのはねこれを美奈子ちゃんにあげるためなのよ」

夏菜の手に持っていたのは、小さな包だった。

「美奈子ちゃんにプレゼント」
「わぁ、ありがとう夏菜お姉様。開けていい?」
「ええ、勿論よ」

夏菜から了承を得て、美奈子は包みを開ける。中身を見た美奈子は一瞬目を疑ったが、欲しかった物だった為喜んだ。

「推しのブロマイド集だ♡手に入らなくて凹んでいたのよ。嬉しい。大切にするね」
「気に入って貰えて私も嬉しいわ」

夏菜の誕生日プレゼントとは、今をときめく人気男性アイドルグループのうちの一人のブロマイド。美奈子の言う通り、人気過ぎて手に入らずプレミアが付いていて、学生の美奈子には手に入らない金額が付けられていた。

「それともう一つ」

夏菜は、ゴホンッと一つ咳払いして改めて言葉を続けようとしたので、美奈子はブロマイドを見る手を止めて夏菜に視線を向けた。

「若木とこれからデートしてらっしゃい」
「はあ?何言ってんですか、先輩?」
「そ、そうだよ。若木様にも選ぶ権利が……」

夏菜からのもう一つのプレゼント。それは若木とのデートだった。
この提案には美奈子以上に若木が驚いた。

「警視総監からの命令は絶対よ!」

職権乱用だと思いながらも若木は、動揺しつつ夏菜の提案を嬉しく思った。
仕事一筋でやっていた若木は、若いのに浮いた話の一つもないまま今に至っている。美奈子の事も、どこか気になる存在でそれが恋なのかただ警察として守りたいだけなのか分からず、確かめたいと思っていた。

「美奈子ちゃんさえ良ければ……」
「若木様さえ良ければ、よろしくお願いいたします」
「よし、決まりね!行ってらっしゃい!」

夏菜は美奈子と若木、それぞれの背中を押してその場を追い出した。
二人が出て行くと夏菜は、やれやれ世話が焼けるんだからと一人ごちた。
一方、追い出された二人は顔を見合せて照れていた。

「先輩は強引なんだから……じゃあ行こうか、美奈子ちゃん」
「はい!」

夏菜によって齎されたデートだったが、満更でもない二人は勢いに任せてデートを開始した。

この後どうなったかは、聞くのは野暮というもの。二人のみぞ知る。

END

2022.10.22

愛野美奈子生誕祭2022

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