斎藤先輩SSログ


あーあ、また中間テストの点数散々だったな……
もうとっくに慣れている酷い答案用紙を眺め、ママや塾の先生に何て言い訳してやろうか考えながら帰っていた。
いや、寧ろ帰りたくない!
うちのママの事だ。鬼の形相でキレ散らかしてくるのが目に見えて分かる。
攻めてあの変身ペンが使えたなら、もっといい点取れたのに……。私が考えてる事見透かしてアルテミスに没収されたのよね。トホホ……。
その間に敵が現れたらどうするの?って抵抗したけど、全く聞く耳持ってくれなかった。

現実逃避したい……。
誰か私をさらってくれないかな?
そんな相手いないけど。虚しい妄想ね!

「ひっでぇ点数だな?ハハハ」

話しかけられてハッとなり、顔を上げると斎藤先輩だった。
いつの間にか逃避したいという願望からかいちょう並木道に来ていた。
しかも約束してもないのに会えるなんて、運命かしら?なんて♪

「斎藤先輩!いや、あの、これは……」

弁解のしようも無いレベルの点数を見られて我ながら恥ずかしくなる。

「美奈子は勉強苦手か?」

バレちゃった!恥ずかしい!穴があったら落ちたい!

「アハハハハハハハハ~~」

笑って誤魔化す!笑って乗り切る!

「斎藤先輩、こんな所で何してるんですか?また喧嘩、とか?」
「ちげーよ!そんなしょっちゅう喧嘩しないって」
「あ、そーですよね?アハハ」

斎藤先輩を見る日はいつも喧嘩してるから、先入観でついそうなのかと思ってしまった。美奈子、反省。

「じゃあどうしてここに?」

こんな所に用なんて無さそうなのに何でいるのか素朴な疑問だ。

「美奈子、お前を待ってたんだ」
「え、わ、わたし?」

意外な答えに驚きを隠せず動揺する。
え?何で私なの?告られる的な?

「これ、プレゼントだ」
「え?どうして?」
「美奈子、今日誕生日なんだろ?だからあげたくて待ってた」

クスッと笑って笑顔を見せる斎藤先輩にドキッとする。
待ち伏せされてプレゼント貰うなんて私の人生に一度もない出来事が一気に来て、単純に嬉しい。
だけど知ってる。斎藤先輩には想い人がいるってこと。だからこのプレゼントに意味なんて含まれてないんだ。期待は禁物!
でも、何で?

「美奈子、誕生日おめでとう♪開けてみろよ」
「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて」

開けてみると赤と黄色で編んだミサンガだった。
嘘?手作り?ますます勘違いと期待が膨らむじゃん!

「着けてやるよ!」

持っていたミサンガを取り上げ、左手首に着けてくれた。
やだ、何かこれって……。

「何か左手首に巻くと薬指に婚約指輪はめてるみたいになるな」

私が思ってた事、斎藤先輩も思ったみたいで楽しそうに言ってきた。
美奈子は斎藤先輩の女って感じ?
ますます勘違いして自惚れちゃうよ……。

「変な事言っちまったな。嫌なら外して別の場所に付けるけど?」
「ううん、ここがいい!ありがとう、斎藤先輩」

今外してしまうと一生斎藤先輩の心が私に向かない気がして……。
好きな人がいるって分かってるのに。それでも願わずにはいられない。

“斎藤先輩が私を好きになります様に”

届きそうで届かないこの想いがもどかしい。
この切ない想い、前にもどこかで……。
でも、思い出せない。何だっけ?

「でも、どうして私の誕生日知ってたんですか?」
「ああ、いつも一緒にいる髪の短い女の子に教えて貰ったんだ。偶然会ったから」
「へぇーひかるちゃんが……」

ひかるちゃん、何にも言わなかった。言ってくれなかったな。
でも、グッジョブよ、ひかるちゃん!
プレゼント貰えたし、何か気持ちが近づいた気がした。
例え、私の片想いで思い上がりでも、今が幸せだから、それでいい。

風に吹かれて舞い散るいちょうの葉がとても優しく、私を応援してくれてるみたいだった。

END

2021.10.22

愛野美奈子生誕祭

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