新たな幸せルーティーン
「ええー、朝は一緒に帰れるって……」
うん、言ったな。覚えてるよ。本当にさっきまでは帰れる予定だったんだ。
「本当に急遽ゼミが入って、もうすぐ始まるんだ」
急すぎたからうさに伝える時間が無かったと言い訳にならない言い訳を添える。
ガッカリ、と言う音があるなら聞こえて来そうな程ガッカリするうさに、一緒に帰れなくなったことに俺自身も落ち込む。
「何とかならないの?」
「無茶言うなよ。お願い、一つ聞いてやるから」
「分かった。ゼミ、終わるまで待ってる」
「お前、これからバイトだろ?」
「うっ」
課題があるからゼミが終わるまでやりながら待ってるとうさが言うが、バイトがあると聞いていたので思い出させてやると、次から次へと現実が襲って来て、うさは益々落ち込んだ。
「じゃあ、パーラークラウンで待ってる」
うさのバイト先はパーラークラウン。宇奈月ちゃんの父親が経営していて、勿論、宇奈月ちゃん自身も今もバイトをしている。
俺が留学でいない間、少しでもバイトをして俺に会いに行こうと考えたらしい。パーラークラウンで悩んでいたうさに、だったらうちでバイトしない?と宇奈月ちゃんにスカウトされ、喜んで快諾したのだとか。
まこちゃんもパーラークラウンでバイトを始めていたから、勝手も気心も知れていて、メニューも把握出来ているから安心してバイトが出来ているとうさが喜んでいた。
因みに宇奈月ちゃんは大学を卒業したら、本格的にこのパーラークラウンを継ぎ、店長として働くらしい。大学では経営学を熱心に学んでいるのだとか。因みに和永の先輩だと。レイちゃんも同じ大学に通い始めたから、ずっとレイちゃんにとっては先輩だ。
宇奈月ちゃんが店長ならこの先もうさを安心して預けられるなと思った。宇奈月ちゃん、うさをよろしく。次いでにまこととレイちゃんも。
ドジは踏んでしまうらしいが、優しい先輩やバイト仲間、何より大好きなスイーツに囲まれて仕事が出来るから続いているようだ。週2日から3日と無理のない程度で入っていると言う。
ウエイトレスが主らしいが、最近はパフェは作らせて貰えるようになったと嬉しそうに話してくれた。
後、最近珈琲に力を入れだしたらしく、バリスタを雇い始めたそうだ。その人の下に付き、珈琲の美味しい淹れ方の勉強も余り客のいない時間にしていると言っていた。
俺が珈琲が好きで拘っていることを知っての行動に、本当にうさは俺のためにこんなに頑張ってくれていることに感謝してもしきれない。
うさに支えられ、生かされていると実感する。
もう、本当にうさがいない日々は考えられなかった。
それなのに俺は、うさに何も出来ていない。返せていない。本当に不甲斐ない。
こんな俺のために頑張ってくれているうさの為にも医者にならないとと気を引き締めた。
で、今日がその少ないバイトの日と言うわけだ。
バイトだわ、俺と一緒に帰れないわでうさにとっては厄日なのだろう。俺も同じ気持ちだ。
「ああ、ドジ踏むなよ?」
「もう、まもちゃんの意地悪!ぷぅっ」
相変わらずドジを踏んでいると聞いていた俺は、からかうと今度は頬っぺを膨らませてうさは怒り始めた。まるで焼けて膨らんだ餅だなと俺は心の中で笑った。
「今日は何時までだ?」
「5時から9時までだよ」
「じゃあ8時頃行って、そこで飯食ってバイト終わりのうさを家まで送るよ」
一緒に帰れなかった埋め合わせな?とウインクしながらうさに伝えると、先程まで膨れていた顔を今度は笑顔に変える。本当、表情豊かだな。
笑顔のうさを取り戻し、俺はホッと一安心だ。
「わぁーい、バイト頑張るね♬.*゚」
うさが大学終わりのバイトの日は、大体こんな感じだ。
パーラークラウンも週一で行っている気がする。高校生の時より通ってるんじゃないか?
「おう、頑張れよ女子大生!」
「女子大生だなんて。そうなんだけど、照れちゃう」
女子大生と言うと慣れないのか、今度は照れ笑いするうさに、可愛いなと改めて思う。
「じゃ、行ってきまーす。まもちゃん、後でね」
歩みを進め、俺へと近づいたかと思うと頬っぺにキスしてやる気チャージ!と可愛い事を口にしながら顔を赤らめたうさはそのまま部屋を出てバイトへと向かった。
恋人の可愛い行動に、俺もやる気チャージをフルにして急遽入ったゼミが頑張れそうだと笑顔になった。
おわり
20231105 いい男の日